日本語の歴史概説(一)
|
1.はじめに
一つの言語を概観する上で、横の視点と縦の視点とが存在します。横の視点が文法構造だとすると、縦の視点に相当するのは言語の変遷を歴史的に追う事であるといえます。そこで今回は、日本語がどのような変化を遂げてきたのかについて大雑把に見てみようと思います。
2.日本語の基本構造
言語が時代ごとに変化するといっても、文構造の基本は変わる事はありません(というか、変化するとその時点で別言語ではないかと)。全時代共通である日本語の構造についてまず見ていきます。
①主語が先に来て述語が後になる。
②目的語・補語より動詞が後になる。
③修飾語が先で、被修飾語が後になる。
④助詞は体言の下で、必要に応じて何度でもかかることができる。
⑤助動詞は用言の下で、必要に応じて何度でもかかることができる。
これらの特徴は、アルタイ語族(満洲族・朝鮮・モンゴル・ツングース・トルコ・タタールなど)に近いものであると金田一京助氏は指摘しています。もっとも、金田一氏によれば日本語にはアルタイ語族と比較して以下のような見逃せない相違点も存在するとか。
①母音調和(同じ単語内では母音の組み合わせに制限)がない。
※ただし、後述するように母音の変音が存在した時代には、同単語内では変音を重ねる規則があったようです。同母音を重ねた単語が多く存在することも考慮に入れると、母音調和が太古にはあった可能性が指摘されています。
②代名詞に単数・複数の区別がない。
③和語(固有の単語)に濁音で始まる語がない。
④数詞を含め単語一致がアルタイ語族とは少ない。
⑤動詞の人称区別がなく、代わりに敬語がその役割を果たしている。
以上から、金田一氏は原アルタイ語から直接分岐し、地名や土俗品名を中心に日本列島の先住民による言語(アイヌ語、南方系言語など)の単語を取り入れる事で日本語が形成されたのではないかと推測しています。日本語が征服者の言語に現地人の言葉が混合する事によりできた言語ではないかという説は金田一氏以外にも小松英雄氏などによって主張されているようです。
(二)に続きます。