大学の歴史を元に、大学のレジャーランド化を評価する
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で、それについて、とりわけ学生が勉強しないことについて、批判したい人もいるのでしょうが、大学というものがレジャーランドになって、学生が遊び呆けるのは歴史上の経験より見て、当然の妥当な結果だから、それを批判するのは正しくない、と今日はそんな話をしたいと思います。
今日、歴史的な検討の材料として見てみるのは、少し昔のドイツの大学。
19世紀ドイツにサヴィニー(1779~1861)という偉い法学者がいて、分裂状態にあるドイツにおいて、学問と大学こそが統一への礎であるとの認識の元、学問の道を歩んだのですが、そのサヴィニーの時代のドイツの大学は以下のような状態であったそうです。
しかるにサヴィニーにおけるかかる高い評価・位置づけにもかかわらず、現実の当時の諸大学は、極く限られた例外を除き、その学問水準や物的状態において低劣を極めており、彼の期待に答え得るものではなかった。三十年戦争の荒廃から立ち直る暇もなく、領邦君主が経営上の実利的観点から次々と設置に踏み切った領邦大学──今日までその学問的生命が保たれているものは僅少である──は、当然ながら設立の基本目的を第一義的には、そのオーナーたる領邦君主への卑近な実利的諸技術の開発による寄与においており(Kameralismus)、最悪の場合には、学生が領邦内に落す金銭(遊興費等)以上のものを期待されていなかったのである。
(河上倫逸『法の文化社会史』ミネルヴァ書房 92頁)
19世紀のドイツでは、大学なんかレジャーランドとして集金装置になってくれれば十分という、ステキに開き直った地域すらあったというお話。
元々ヨーロッパの大学は、中世以来、法教育による官僚養成の府として社会的に重きを成しており、ドイツでも中世には大学が重んじられていたのですが、それが後にこのような悲惨な状態に陥った理由は、この法教育という面から見ると、以下のようなものであったそうです。
ただ、近世初頭のドイツでは、こうした法技術を身につけた人々を受け入れる場が必ずしも十分に存在していなかったこと、さらにより決定的なこととして、新しい時代の社会的要請と国民的課題に真に答え得るような新しい法学がドイツには未だ育っていなかったことが、ドイツ法学(法学部)の沈滞を招いたのである。
(同書 96頁)
社会の側に学識を身につけた人材を尊重・活用する準備がなく、大学の側に時代情勢・社会情勢に応じた人材育成をする意志もなく、そのダブルパンチで、大学の低迷が起こったとのこと。
そしてこの歴史的経験からすれば、社会に学識を尊重・受容する体制が整い、大学教員に社会情勢に応じた人材育成をやる気がある、ということが大学が社会機構として十分な機能を発揮する前提条件。そして、それら二条件が今の日本でにどの程度備わっているのか考えると、大学がレジャーランド化したとしても、それは社会が学識に与えている尊重に相応の当然の結果で、学生が勉強しなくても非難するには当たらない、そう言って良いのではないでしょうか。
それどころか、
レジャーランドに入場するために入試という関門を乗り越え、累計で外国人と遜色ない程度に勉強してきてるんなら、むしろ学識に与えられた社会的地位の割には、よく勉強してきていると褒めてやっても良いような気がします。
なお19世紀ドイツの大学ですが、
間接的かつ根本的にはドイツ資本主義の発展と連動した市民文化の興隆を追い風にし、
直接的にはサヴィニーら法学部教授団が教育に膨大な精力を注ぎ、鍛えられた弟子たちが国家の近代化政策の大展開に吸収され、官僚や裁判官として続々就職、学識者の社会的影響力を巨大化させたことによって、
同世紀後半には著しくその社会的地位を向上させていたそうです。
参考資料
河上倫逸著『法の文化社会史』ミネルヴァ書房
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