仏教がHentaiの国・日本に与えた影響の一例~俺の嫁はわが娘、仏の眼からは全女人は母で娘で姉妹なり~
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このように、日本古来の信仰は日本に相応しいとも言える内容を持っています。しかし、日本文化に影響を与えた外来宗教として仏教の存在は見逃すわけにはいきません。そして仏教は性愛に関して厳しい戒律を有していました。という訳で、仏教思想が日本のhentai精神にどのような影響を与えたかについて、今回は少し見てみましょう。
その問題に関して、『拾遺往生伝』に面白い逸話が掲載されています。『拾遺往生伝』は平安後期の文人・三善為康によって十二世紀初頭に書かれた書物で、浄土信仰の高まりを背景に阿弥陀如来を進行し極楽浄土に往生した人々の伝記集です。本書は、平安後期における日本仏教の考え方を伺い知るための良い手がかりであると言えるでしょう。
この『拾遺往生伝』下巻が伝えるところによると、九州の安楽寺に順源という僧侶がいました。そして彼が妻帯した際、物議をかもしたといいます。余談ですが、上述したように仏教は性愛関係に対し厳格な戒律で望んでいました。実際の性行為は勿論、「心の中で姦淫」も対象になったようです。とはいえ、心の中を重んじるが故に、「淫猥な心なしでの性行為」は罪を犯したことにならないと解釈されてたりもします。…えらく大きな抜け穴が存在しているように思えるのですが。
話を戻しますと、戒律は戒律として、実際のところ当時から僧侶の妻帯はありふれていました。ですから、順源の事例で問題になったのは妻帯そのものではありません。彼が迎えた妻が問題だったのです。何と、この時の婚姻相手は娘。そりゃ、周囲から非難を受けるわけです。その際、順源の弟子が師を諌めたのですが、それに対する順源の答えが振るっています。
教喩可然。是無智之甚也。但古之三蔵所行各異。或以姉妹為妻。或以娘女為妻妾。況日域之地。雲外之境也。何科之有乎。
【現代語訳】
教喩はもっともだが、古の三蔵にしても、その所行はそれぞれ違い、あるいは姉妹を妻にした人、娘を妻妾にした人がいるし、ましてわが国は雲外の境であって、行ないをつくろう必要はない。
(現代語訳は石田瑞麿『女犯』ちくま学芸文庫 61頁より)
※「三蔵」とは、経蔵・律蔵・論蔵すなわち経典・戒律・仏教論を伝来させ翻訳した僧をさします。
過去の事例を出して正当化するのは言い訳としてよく見かけますが、それに加えて日本は仏教の威光が届きにくい辺境だからというよくわからない理由を述べています。更に、次のようにも言いました。
汝不見仏説乎。一切女人皆母子也。姉妹也。誰親誰疎。何分何弁。
【現代語訳】
そなたは仏説を見ていないのか。全ての女性は母であり娘であり、そして姉妹でもある。誰と近しく誰と疎遠か、どうやって区別し論じるというのだ。そんなことはできはすまい。
…何という言い草でしょうか。仏教の教説からすれば全ての女性が平等であり、親子や姉妹と同然だから娘と婚姻してもよいではないか、と言うのですから。さすがにこれはアウトじゃないのか、一見するとそう思えます。
ところが、この話の結末は、以下のようなものでした。順源さん、生前に「毘沙門天(仏教守護神の一人)が臨終の際に極楽へ案内してくれる」との啓示を既に受けていたとか。そして、いまわの際に「お告げの通りになった」と喜び、西に向かって念仏を唱えた末に果てたとか。順源の事績は、少なくとも『拾遺往生伝』においては肯定的に捉えられている、そう考えて差し支えないでしょう。
どうやら、仏教思想は日本のhentaiぶりに理論的根拠を当てる方向に働いたようです。考えてみれば、日本仏教は古代の説話集で女神像にぶっかけたという話を始め様々なエロ話を記録したり、中世には男色の発信源になった挙句に思想的に正当化したり、南北朝にはセックス宗教立川流を大成させたりとhentai方面に火に油を注ぐ役割を果たしてきた存在でした。もちろん、それにブレーキをかける動きも相当にあったわけですけどね。
しかし、順源の発言からすると海外の仏僧にも大概な存在がいたようで、仏教自体にhentai精神と通じ合う側面がないわけではなかったのかもしれません。ともあれ、日本仏教に関して言えばhentaiの国・日本の完成に対し果たした役割は色々な意味で大きかったと言えるようです(本来の仏教からすれば邪道であったかもしれませんが)。
【参考文献】
「近代デジタルライブラリー 国立国会図書館」(http://kindai.ndl.go.jp/)より
「浄土宗全書 第三冊」(http://kindai.ndl.go.jp/BIToc.php)
(『拾遺往生伝』が収録されています)
女犯 石田瑞麿 ちくま学芸文庫
日本大百科全書 小学館
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西洋の聖職者も大概のようで。
歴史研究会・とらっすばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2002/021206.html)
「文観」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/monkan.html)
日本や日本仏教のhentaiぶりを支えた偉人たちについて興味のある方は、社会評論社『ダメ人間の日本史』をご参照いただければ幸いです。
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