意外と小さいチンギス・ハーンの帝国 ~チンギス・ハーンは世界征服者ではなく草原の王者~
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意外とチンギス・ハーンの帝国が小さいということをお話ししましょう。
我々は中国からロシアまで支配下に治めた巨大なモンゴル帝国のイメージでチンギス・ハーンを見ていますが、実のところ彼の時代のモンゴル帝国、彼の没年頃の帝国を世界地図の上に描くと、下の地図の黒線で囲まれた領域ということになります。
なお比較対象として、モンゴル帝国の最大領域を緑、モンゴルに先行する巨大遊牧国家、突厥の領域を赤、匈奴の領域を青で描いておきました。
チンギス・ハーンの帝国は、我々がモンゴルの語でイメージするユーラシアを呑み込む巨大帝国の半分くらいの大きさ、過去に存在した巨大遊牧国家、匈奴より一回り、突厥より若干大きいくらいの領域です。もちろんそれでも広大な国ではありますが、その領域の主な構成要素は草原。
「チンギスはあくまで草原世界の王者であった。また、そうあろうとした。」「彼の時代のモンゴルは、草の匂いが濃密にただよう帝国であった。帝国の行方は、まだ定かではなかった。」(杉山正明『モンゴル帝国の興亡』講談社現代新書 55頁)
と評されたりもします。従来型の草原の英雄の作った従来型の国ということですね。
大きさも従来型の国といって良いレベル。
そういえば義経がチンギス・ハーンだとか、チンギス・ハーンは中国の英雄だとか、チンギス・ハーンを自国の英雄に取り込もうとする良く分からない与太話が、時々見られますが、
正直、チンギス・ハーンは、そこまでして欲しがらねばならないような圧倒的レベルの英雄でもないし、
草原匂が強すぎて、モンゴル以外の国に似合う存在でもない
と言えるでしょう。
ところで昔、何かの講義で、戦前の右翼思想家に、オゴタイ・ハーンを生み出して白人勢力にアジアは反撃しなければならない、と主張した人物がいると聞いたことがありますが、
確かにモンゴル帝国が草原の国のレベルを超えて、世界史に冠たる大征服者として国家を確立していくのは、オゴタイ時代以降ですし、オゴタイの後はちょっと内部でごたごたが過ぎるので、モンゴル帝国の象徴にするなら確かにオゴタイが適任ではないかと思います。
参考資料
杉山正明『モンゴル帝国の興亡』講談社現代新書
『最新世界史図説タペストリー』(十訂版)帝国書院
『歴史群像シリーズ チンギス・ハーン』学研
FLand-Ale日本世界地図(http://gpscycling.net/fland/fla/flav3/flandv3.html)
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