高師直、痛恨の人選ミス~恋文の代筆、という作戦は本当に適切だったか?~
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これは『太平記』にのみ見られる逸話であり、史実でない可能性が高いとされています。しかし、あえて事実とみなしつつ師直が失敗した原因を考えてみようかと思います。
考えてみれば、兼好法師は女性嫌悪の非モテでした。そうした人物に恋文を頼んだのは、いかがなものでしょうか。兼好が当時屈指の歌人でありインテリであったため、師直もその名声に目がくらんだという事でしょうか?
そういえば話は変わりますが、作家・塩野七生氏はインテリ男が魅力に乏しいと述べています。その理由として挙げられているのが、
・当事者意識なく言うことが「評論」ばかり
・修羅場をくぐっていない弱み
・人を(肉体的に限らず精神的にでも)殺した経験を持たない
・望みが小さい
といったところ。これは言い方を変えると
「薄いんだよ あんたら……」「悪党どもっていうのは濃いぜ……! 誰もが一度や二度 死線を越えている それに比べりゃ あんたら 生き方がぬるい スカスカだっ……! すけちまってるよっ……!」
(福本伸行『銀と金 闇の錬金術師』アクション6Coinsオリジナル 双葉社 475頁)
「女はそのへん敏感さ…… その点悪党っていうのはたいてい愛人がいる…… そういう器量がごく自然に身についてる」
(同書 476頁)
という事でしょうか。考えてみると、兼好は塩野氏の批判に完全に当てはまるように思われます。そんな人物が書いた恋文が、女性から見て魅力がないのは当然という理屈になりましょうか。ま、兼好は承知の上で「男性」である事から降りた感がなくもないですが。そして一方、師直は権力者・武将として名を轟かせており対照的な存在と言うべきでしょう。
その観点からすると、兼好の書からは、紙や香の選定といった時点からそうした非モテな雰囲気がかもし出されていた可能性があります。更に考えると、塩野氏の言う視点からは師直の方が権力や金といった要素を抜きにしても女性から見て兼好よりも男性として魅力が上のはずです。また、師直も歌の素養を含め教養はある部類でした。だから、わざわざ兼好に頼むべきではありませんでした。実際、兼好の次に恋文を代筆した薬師寺公義は、靡かないまでも返事はもらえるというマシな反応を得ている。薬師寺は歌人として名高い一方で当時「悪党」と呼ばれた新興豪族の一人であり、「オス」としての魅力がある人物だったと想像されます。師直自身も、同様な範疇の存在ではありますまいか。
結論。師直は恋文を自分で書くべきでした。それが分からず、よりによって兼好に任せた辺り『太平記』中の師直も権力に任せて女を漁りつつも魂は非モテのままだった、という設定なのでしょうな。徳川期には兼好がスター扱いになっており、実は南朝の密偵で内紛を誘発させるため敢えて恋文を失敗させたなんて話もあったりしますが、同時代的には兼好に頼んだ事自体が笑いどころだったのかも。何しろ、和歌四天王の中で最弱らしいですし。
【参考文献】
日本古典文学大系太平記 一~三 岩波書店
日本の歴史9南北朝の動乱 佐藤進一著 中公文庫
男たちへ 塩野七生 文春文庫
銀と金 闇の錬金術師 福本伸行 アクション6Coinsオリジナル 双葉社
楠木正成と悪党 海津一朗 ちくま新書
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