「軍隊に入れば美味いものが食える」~続「諸君、私は軍隊が好きだ~徴兵制時代の軍隊への意外な視線~」~
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まずは戦前日本に関して少し補足しておきましょう。山本夏彦氏は、以下のように証言しています。
軍隊なら戦前から皆いやがっていたと言われているけれど、それは大都会です。田舎では軍隊に入れば白米食べ放題、見たこともないライスカレーが出る。給金ももらえる、下士官になれると進んで志願するものがあった。下士官の多くはそれだったのじゃないかな。それが意地が悪くてね、小学校だけだからことに学生上りにつらくあたった。
(山本夏彦『誰か「戦前」を知らないか』文春文庫 130-131頁)
第二次大戦あたりの米軍でも状況は似たり寄ったりなようです。アメリカが第二次大戦で勝利すると、米軍は進駐軍として日本に駐留していた事は皆様ご存知かと思います。その進駐軍基地に、多数の日本人芸能人も営業のため慰問に訪れていました。その面子は錚々たるもので、森光子・美空ひばり・江利チエミ・雪村いずみ・植木等・ペギー葉山・フランク永井など戦後日本の音楽界に大きな足跡を残した人々がいたようです。こうした慰問会に関して、東谷護『進駐クラブから歌謡曲へ』はこう述べているのです。
兵士には地方出身者が多く、彼らにとって、バンドの生演奏を聴きながら食事をしたり酒を飲んだりするのは、いわば憧れの都会のライフスタイルであり、それが形だけでも実現されるというだけで満足であったのである。
(鴨下信一『誰も「戦後」を覚えていない [昭和20年代後半篇]』文春新書 162頁)
…要は、それまでパッとしない生活だったのが、戦争によって夢に見たシティライフらしきものを経験できて御満悦な兵士たちが進駐軍には多数いたのですね。戦争は多くの人を不幸にするのは間違いない事実ですが、一方で軍隊生活によってそれまでの浮かばれない人生から救われた思いをした人々がいるのも否定は出来ないようです。人間世界というのは全く業なものですね。もっとも、だからといって安易に徴兵に舵を切るのにも問題というかリスクがあるのは改めて申し上げるまでもない事ではありますけれど。
【参考文献】
誰か「戦前」を知らないか 山本夏彦 文春文庫
誰も「戦後」を覚えていない [昭和20年代後半篇] 鴨下信一 文春文庫
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歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2002/021206.html)