【『世界ナンバー2列伝』関連】祖国再建のため、「皇帝ナポレオン」に美女を献じた人々~歴史は繰り返す~
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実のところ、カブールがフランスに美女を献じたのは一度だけではありませんでした。『世界ナンバー2列伝』で挙げられている事例の他にも、サルディーニャ国王の愛人であったカスティリオーネ伯爵夫人をフランス皇帝ナポレオン三世に差し出しています。フランス皇帝は彼女を寵愛しイタリア統一運動に好意的に傾きましたが、イタリア統一運動の過激派によるテロと伯爵夫人が関与した疑いがかけられた事もあってカブールの目論みは一旦頓挫。それでもカブールは働きかけを諦めずフランスとの友好関係樹立に成功しています。
ところで、こうしたサルディーニャからの働きかけを苦々しい思いで見つめていたフランスの閣僚は少なくありませんでした。その一人が、外務大臣ヴァレフスキ伯爵です。彼はハプスブルク帝国に立ち向かおうとするサルディーニャを「牛と大きさを競おうとするカエル」(鹿島茂『怪帝ナポレオン三世』講談社学術文庫 426頁)のようなものだと考え、それに巻き込まれるのは愚かであると考えていました。彼の目からすると、これらの美女は自国の都合のためフランスを面倒に引っ張り込もうとする獅子身中の虫と映っていたかもしれません。とはいえ、苦しみの最中にある周辺国が大国フランスとその支配者たる「皇帝ナポレオン」に助けを求めるため美女を差し出したのはこれが初めてではありませんでした。そして皮肉な事に、その所産と言えるのがヴァレフスキ伯爵その人でありました。
時は1807年初春。フランス皇帝ナポレオン一世はロシアとの決戦を前にポーランドの中心都市ワルシャワに滞在していました。当時のポーランドはロシア・プロイセン・オーストリアによって分割され独立を失っており、祖国の再建を熱望するポーランド人は様々な努力を重ねていたのです。かくして、ナポレオン一世を親ポーランドに引き込むべく一人の美女が選ばれました。それがマリア・ヴァレフスカ。ナポレオンは馬車でワルシャワに向かう途中で彼女を見初め、ワルシャワでの舞踏会に招待しました。彼女は年長の夫と仲睦まじく暮らしており、当初はナポレオンに身を差し出す事を拒絶。しかしポーランド貴族たちの粘り強い説得によってナポレオンの愛人となり、やがてナポレオンとの間に男の子を儲けアレクサンドルと名づけました。この子こそ、上述のヴァレフスキ伯爵だったのです。成長したアレクサンドル・ヴァレフスキはナポレオン一世と容姿も声もそっくりで、ナポレオン三世をよく知らない外国人の中には彼を「皇帝ナポレオン三世」だと勘違いする者もいた程だったそうです。
なお、こうしたポーランドの愛国者たちの動きに対し、当時のフランス帝国外交担当者はどう見ていたのでしょうか。ナポレオンの重臣で外交を担当していたタレイランはポーランドの独立がヨーロッパの平和とフランスの国益に叶うと考えていたようです。ポーランドが独立を回復する事でロシア・プロイセン・オーストリアの力を削げると同時にこの三国の利害対立を生み一致団結するのを避けられるのではないか。またポーランドはフランスに恩義を感じて友好国となり、ロシアへの防波堤となりうる。これがタレイランの狙いだったとされています。そのためポーランド独立派に彼は同情的で、ヴァレフスカをナポレオンの愛人とするのにも一枚かんでいたとという話も。この辺りは、ナポレオン三世時代と異なる点ですね。
歴史は繰り返す。アレクサンドル・ヴァレフスキ伯爵はこの事実を立場を変えながら身をもって体験した人物と言えるでしょう。歴史と言うのは時に皮肉で、そしてだからこそ興味深いものですね。
【参考文献】
世界ナンバー2列伝 山田昌弘 社会評論社
怪帝ナポレオン三世 鹿島茂 講談社学術文庫
ナポレオン フーシェ タレーラン 鹿島茂 講談社学術文庫
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歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「フランス史概説」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2004/050204.html)
「幕末の群像とナポレオン」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2002/020621a.html)
ナポレオン一世・ナポレオン三世が失墜後にフランスの戦後処理に当った人々については社会評論社『敗戦処理首脳列伝』でも扱っています。ナポレオン一世失脚後に奮闘したのは、上述にあるタレイランで同『戦後復興首脳列伝』に登場するルイ18世などにも仕えました。興味のある方は御参照ください。
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