<読書案内>神坂次郎『元禄御畳奉行の日記 尾張藩士の見た浮世』
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太平の世が定着しつつあったこの時代、武士も平和に慣れて遊民化。現代の我々から見ても、他人とは思えないような情けない逸話が記録されていたりします。文左衛門自身もその例にもれず、接待にことよせて遊興にふけったり妻の嫉妬に苦しんだりと様々。
物見高い文左衛門の性格もあって、世間の様々な事件についても詳細に記録されています。不倫の結果としての修羅場やら、生活苦に悩んでの悲惨な末路やら、心中やら、間の抜けた笑い話な失策やら。当時の人々も、我々と同様に様々な事に悩み時には情けないところをさらしており、彼らもまた日常を活きた生身の人間なのだ、ということを実感させてくれます。
もちろん、当時の世相に対するリアルタイムでの感想とか、武家社会の風習などを知る上でも役に立つ史料なのは言うまでもありません。
文左衛門自身は特に偉人として語り継がれる事績を残したわけでもなく、どこにでもいそうな武士の一人として生涯を過ごした人物です。ですが、その日記によって後世の研究者に貢献することとなりました。人間、どのような形で役にたてるか、そして名が残るかわからない。その意味でも、興味深い一冊だと思います。