ここのところ、鶴竜・稀勢の里と優勝1回で昇進した横綱が連続しました。しかし、長らく2場所連続優勝での昇進が厳密に守られていたせいか、聞くところによれば連覇のない横綱に違和感を感じる方もおられるようです。そこで、優勝制度が確立してから昇進した横綱を対象に、連覇経験の有無を調べてみました。なお、情報源は例によってWikipediaなので話半分に見ていただければ幸いです。大阪横綱は、基本的に除外しています(東西合併により東京相撲に加入した宮城山をのぞく)。
※は2017年1月場所終了時点で現役の横綱、△は「連覇経験なし」、○は「3連覇以上の経験はないが、2連覇を複数回経験した横綱」、●は「3連覇以上を経験した横綱」を意味しています。
関連サイト:
「メインウェーブ」(http://www.main-wave.com/index.html)より
「大錦卯一郎」(http://www.main-wave.com/oonisiki-uitirou.html)
大錦卯一郎の横綱勝率はここを参照して計算しています。
22代 ●太刀山 優勝9回(他に相当成績2回) 横綱勝率.966 2連覇1回、5連覇1回
1910年夏-1012年夏 5連覇、1913年夏-1914年春 2連覇
23代 大木戸 大阪横綱のため除外
24代 △鳳 優勝2回 横綱勝率.593 連覇なし
25代 △西ノ海(二代目) 優勝1回 横綱勝率.706(ただし半分以上を休場している)
連覇なし
26代 ●大錦卯一郎 優勝5回 横綱勝率.891 3連覇1回
1920年春-1921春 3連覇
27代 ●栃木山 優勝9回 横綱勝率.935 3連覇1回、5連覇1回
1917年夏-1919年夏 5連覇、1924年春-1925年春 3連覇
28代 大錦大五郎 大阪横綱のため除外
29代 △宮城山 大阪横綱、1927年春より東京に合流 東京での優勝2回
東京での横綱勝率.563 連覇なし
30代 △西ノ海(三代目) 優勝1回 横綱勝率.721(ただし半分以上を休場している)
連覇なし
31代 ●常ノ花 優勝10回 横綱勝率.809 2連覇1回、3連覇1回
1927年3月-同年秋 3連覇、1929年夏・秋 2連覇
32代 ●玉錦 優勝9回 横綱勝率.852 3連覇2回
1930年秋-1931年3月 3連覇、1935年春-1936年春 3連覇
33代 △武蔵山 優勝1回 横綱勝率.500 連覇なし
34代 △男女ノ川 優勝2回 横綱勝率.613 連覇なし
35代 ●双葉山 優勝12回 横綱勝率.882 2連覇1回、4連覇1回、5連覇1回
1936夏-1938夏 5連覇、1939夏-1940春 2連覇、1942年春―1943年夏 4連覇
36代 ●羽黒山 優勝7回 横綱勝率.788 4連覇1回
1945年秋-1947年秋 4連覇
37代 △安芸ノ海 優勝1回 横綱勝率.667 連覇なし
38代 照国 優勝2回 横綱勝率.728 2連覇1回
1950年秋・1951年春 2連覇
39代 △前田山 優勝1回 横綱勝率.471 連覇なし
40代 △東富士 優勝6回 横綱勝率.699 連覇なし
以降は、横綱審議委員会成立後の横綱です。
41代 ○千代の山 優勝6回 横綱勝率.699 2連覇2回
1949年9月・1950年1月 2連覇、1955年1月・3月 2連覇
42代 鏡里 優勝4回 横綱勝率.693 2連覇1回
1955年9月・1956年1月 2連覇
43代 △吉葉山 優勝1回 横綱勝率.619 連覇なし
44代 栃錦 優勝10回 横綱勝率.777 2連覇1回
1954年5月・9月 2連覇
45代 ○若乃花(初代) 優勝10回 横綱勝率.794 2連覇2回
1958年7月・9月 2連覇、1960年7月・9月 2連覇
46代 △朝潮 優勝5回 横綱勝率.638 連覇なし
47代 △柏戸 優勝5回 横綱勝率.735 連覇なし
48代 ●大鵬 優勝32回 横綱勝率.858
2連覇2回、3連覇1回、4連覇1回、6連覇2回
1961年7月-1962年1月 4連覇、1962年7月-1963年5月 6連覇、
1964年1月・3月 2連覇、同年9月・11月 2連覇、
1966年3月-1967年1月 6連覇、1968年9月-1969年1月 4連覇
49代 △栃ノ海 優勝3回 横綱勝率.596 連覇なし
50代 佐田の山 優勝6回 横綱勝率.746 2連覇1回
1967年11月・1968年1月 2連覇 なお、直後の1968年3月に引退
51代 玉の海 優勝6回 横綱勝率.867 2連覇1回
1970年9月・11月 2連覇
52代 ○北の富士 優勝10回 横綱勝率.746 2連覇3回
1969年11月・1970年1月 2連覇、1970年5月・7月 2連覇、
1971年9月・11月 2連覇
53代 琴櫻 優勝5回 横綱勝率.660 2連覇1回
1972年11月・1973年1月 2連覇
54代 ○輪島 優勝14回 横綱勝率.766 2連覇2回
1973年9月・11月 2連覇、1974年7月・9月 2連覇
55代 ●北の湖 優勝24回 横綱勝率.811 2連覇2回、3連覇1回、5連覇1回
1978年1月-9月 5連覇、1979年1月・3月 2連覇、1980年3月-同年7月 3連覇、
1981年3月・5月 2連覇
なお、初めて連覇を経験した1978年1月・3月場所は10回目・11回目の優勝に相当する。
56代 △若乃花(二代目) 優勝4回 横綱勝率.751 連覇なし
57代 三重ノ海 優勝3回 横綱勝率.705 2連覇1回
1979年11月・1980年1月 2連覇
58代 ●千代の富士 優勝31回 横綱勝率.848
2連覇2回、3連覇2回、4連覇1回、5連覇1回
1982年3月-同年7月 3連覇、1984年11月・1985年1月 2連覇、
1985年9月-1986年1月 3連覇、1986年5月-1987年1月 5連覇、
1988年5月-同年11月 4連覇、1989年7月・9月 2連覇
59代 隆の里 優勝4回 横綱勝率.693 2連覇1回
1983年7月・9月 2連覇
60代 △双羽黒 優勝なし 横綱勝率.692 連覇なし
61代 △北勝海 優勝8回 横綱勝率.767 連覇なし
62代 △大乃国 優勝2回 横綱勝率.662 連覇なし
以後、日馬富士までは2場所連続優勝が事実上必須
63代 旭富士 優勝4回 横綱勝率.710 2連覇1回
1990年5月・7月 2連覇
64代 ●曙 優勝11回 横綱勝率.780 2連覇1回、3連覇1回
1992年11月・1993年1月 2連覇、1993年7月-同年11月 3連覇
65代 ●貴乃花 優勝22回 横綱勝率.813 2連覇2回、3連覇2回、4連覇1回
1994年9月-1995年1月 3連覇、1995年5月-同年9月 3連覇、
1996年3月-同年9月 4連覇、1997年7月・9月 2連覇、
1998年7月・9月 2連覇
66代 若乃花(三代目) 優勝5回 横綱勝率.616 2連覇1回
1998年3月・5月 2連覇
67代 ○武蔵丸 優勝12回 横綱勝率.763 2連覇3回
1999年3月・5月 2連覇、1999年9月・11月 2連覇、2002年3月・5月 2連覇
68代 ●朝青龍 優勝25回 横綱勝率.836 2連覇1回、4連覇2回、7連覇1回
2002年11月・2003年1月 2連覇、2004年1月-同年7月 4連覇、
2004年11月-2005年11月 7連覇、2006年7月-2007年1月 4連覇
以下はいずれも2017年1月場所終了時点での成績
69代 ※●白鵬 優勝37回 横綱勝率.883
2連覇3回、3連覇2回、4連覇1回、6連覇1回、7連覇1回
2007年3月・5月 2連覇、2007年9月-2008年1月 3連覇、
2008年7月-同年11月 3連覇、
2010年3月-2011年5月 7連覇(2011年3月場所は中止のため)、
2011年9月・11月 2連覇、2013年3月-同年9月 4連覇、
2014年5月-2015年3月 6連覇、2016年3月・5月 2連覇
70代 ※日馬富士 優勝8回 横綱勝率.736 2連覇1回
2012年7月・9月 2連覇
71代 ※△鶴竜 優勝3回 横綱勝率.701 連覇なし(末尾注参照)
72代 ※△稀勢の里 優勝1回 横綱勝率- 連覇なし(末尾注参照)
まとめると、以下の通りです。※は2017年1月場所終了時点で現役。
連覇なし 19人(末尾注参照)
鳳、西ノ海(二代目)、宮城山、西ノ海(三代目)、武蔵山、男女ノ川、安芸ノ海、前田山、東富士、吉葉山、朝潮、柏戸、栃ノ海、若乃花(二代目)、双羽黒、北勝海、大乃国、※鶴竜(末尾注参照)、※稀勢の里(末尾注参照)
連覇は2連覇1回のみ 11人(末尾注参照)
照国、鏡里、栃錦、佐田の山、玉の海、琴櫻、三重ノ海、隆の里、旭富士、若乃花(三代目)、※日馬富士
3連覇以上の経験はないが、2連覇経験は複数回あり 5人
千代の山、若乃花(初代)、北の富士、輪島、武蔵丸
3連覇以上の経験あり 14人
太刀山、大錦卯一郎、栃木山、常ノ花、玉錦、双葉山、羽黒山、大鵬、北の湖、千代の富士、曙、貴乃花、朝青龍、※白鵬
意外にも、連覇なしの横綱が最多派閥でした。横綱審議委員会成立前は、照国以外は「連覇なし」か「3連覇以上経験者」のいずれかのみなのも面白いところ。
注目すべきは、3連覇以上を経験した横綱はいずれも一時代を築いた大横綱ばかりという事。戦前の横綱には優勝回数が少ない人もいますが、当時は基本的に年2場所の時期が多かった事を考慮すべきかと思います。
そして、3連覇以上の経験がなくとも2連覇を複数回している横綱も優勝回数を二けたに載せた面々ばかり。例外である千代の山にしても、決して弱い横綱ではありません。まあ、千代の山の場合は、年6場所制が確立する前の横綱だった事を考慮しても良いのではないかと思います。なお、全員が横綱審議委員会成立後の横綱である事実も、偶然ではあるでしょうが興味深いですね。
これらの事実を見る限り、やはり、連覇経験は横綱としての強さをある程度示す指標にはなるようです。
では、連覇経験がない横綱はどうでしょう。確かに、昇進後に苦戦を強いられた面子も目立ちます。しかし、皆が「弱い横綱」かと言えばそうでもありません。
以前にお話したように、柏戸・二代目若乃花は優勝回数には恵まれないながらも高い勝率を誇る強豪でした。更に、北勝海のように、優勝8回・横綱勝率.767という数字を誇りながらも連覇はしていない存在もいます。東富士も、横綱時代に5回の優勝を重ねており実力者横綱と称して大きな問題はなさそうです。
面白いのは、大横綱・北の湖。初めて連覇を経験したのは10回目・11回目の優勝の時でした。一時期のように2場所連続優勝が横綱昇進に必須であったなら、北の湖は「10回目の優勝の時点でまだ大関」という珍記録を生み出していたと思われます。さらに言えば、佐田の山も注目に値します。何しろ、初めて連覇を成し遂げた直後に引退しているのですから。やはり2場所連続優勝による昇進が厳密に守られていたら、「新横綱の場所で引退」という事態になったのかどうか。気になるところです。
以上を見る限り、「連覇経験の有無は横綱の実力を測る指標として一定の意味は持つが、連覇経験がないから弱いとも言えない」。そういう結論になるかと思います。
注:これは2017年1月場所終了時点での話です。同年3月場所、稀勢の里は13勝2敗で新横綱場所を優勝で飾り、2連覇1回となっています。これに伴い、連覇なしの横綱が18人、2連覇1回の横綱が12人となりました。(2017/4/8追記)
注2:上記では連覇経験なしとなっている鶴竜。2018年3月場所で13勝2敗、5月場所で14勝1敗にて連覇を経験。是に伴い、連覇なしの横綱は17人、2連覇1回の横綱が13人となりました。(2018/5/28追記)
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この時点では稀勢の里はまだ入れていません。
平成26年11月場所終了時点での記事なので、データが古くなっています。
※2017/2/2 少し加筆。