※注意:今回の内容は、人によっては悪趣味というかグロ寄りと感じられるかもしれません。そういった話が苦手な方は、閲覧を避けていただいた方が良いかもです。
この春、人気小説『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』が実写ドラマ化されるそうですね。
関連サイト:
「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」(http://www.fujitv.co.jp/sakurakosan/)
このタイトル、近代文豪である作家・梶井基次郎が残した
桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている!(梶井基次郎『桜の樹の下には』より)
という名文句に由来する事は改めて申し上げるまでもないでしょう。『櫻子さん』だけでなく、他の作品でもモチーフに用いられるのを割と見るように思います。この『桜の木の下には』は、桜の美しさに何かしら不吉なものを感じ、そこに更なる美を見出す、といった印象の作品だったかと。
さて、ここで別の近代文豪に目を向ける事といたしましょう。森鴎外は軍医が本職である。これも、多くの方が御存じのことだと思います。実際、鴎外は本職に関連しても、活発な執筆活動をしていました。洋行から帰国した翌年に当たる明治二十二年(1889)に、『衛生新誌』を創刊して啓蒙に励んだのはその一例といえるでしょう。さて、そんな鴎外が衛生学に関する講話を行い、それを筆録したものが明治四十年(1907)に出版されています。題して『衛生学大意』。本書で取り上げた話題は、土地事情・上下水道・都市計画・家屋など広きにわたっています。まあ、明治期の内容なので、現代からすればおかしなものもあるのでしょうけれど。この中で、埋葬に関連して鴎外は以下のように述べているのです。
墓地には草木を植ゑるがよいのである。何故と云ふに、屍骸の分解して出来た物を草木が吸取る。そればかりでなく、分解を早める力もあるからである。其草木の種類はあまり根の張らないものが好い。それは土を掘るに當つて、盛んに根を張るものは害をするからである。花の咲くやうな灌木の類が至極適當である。(医学博士森林太郎講述『家庭衛生講話第二編 衛生学大意』博文館 29頁)
その直後に別の話題として火葬について触れていますから、どうやら、上の話は土葬を前提とした話のようですが。
では、この鴎外の言葉から、基次郎の言葉について、少し検証をしてみましょう。桜は、改めて申し上げるまでもなく、花を咲かせる木です。そして、桜の木は浅根性なんだそうで、だから土を踏み固めるのは禁物だそうです。一方、灌木というには桜の木はちと大きいかもしれません。もっとも、高木もあれば低木もあるそうなので、品種によるのかもしれません。
関連サイト:
「公益財団法人 日本さくらの会」(https://www.sakuranokai.or.jp/)より
「さくらの基礎知識」(https://www.sakuranokai.or.jp/chishiki/)
そうして考えると、桜は、鴎外が上述した条件を、割によく満たしていそうですね。基次郎の名文句は、鴎外の言葉を見る限り、衛生学的には理にかなっているという結論になりうるようです。
【参考文献】
医学博士森林太郎講述『家庭衛生講話第二編 衛生学大意』博文館
『日本大百科全書』小学館
関連記事:
衛生面での啓蒙、という性格も強かった作品だそうです。
軍医にとって、衛生学は兵士を守る上でも大事。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
桜に関連した歴史人物、という事で。