『童貞の世界史』落選者列伝 ホッブズ ~生涯独身のクマさん先生はHな経験を有しているか?~
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さて今日は私が『童貞の世界史』「落選者列伝」を担当いたしますが、
取り上げるのは主著『リヴァイアサン』で名高い17世紀の大思想家ホッブズ(1588-1679)。
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この人は、社会のみんなの安全を守るためには、みんなで契約を結んで強力な権力を作り、その権力をみんなで選んだ代表に委ねて全体の利害を代弁させれば良い、って感じの国家論を唱え、近代国家の有り様に関する理論を史上初めて打ち立てた人だそうです。
まあ、そんな小難しい話は置いておいて、このホッブズ先生は、生涯独身であったことが知られています。
よほど高貴・裕福に生まれに恵まれない限り、この時代のインテリは、金持ちのパトロンを見つけて、その家に住み込み家庭教師となって仕えるぐらいしか、食ってく道が無かったらしく、それは事実上結婚を放棄するという意味でもあったそうです。
ホッブズ先生、イケメンではないが、すごく誠実快活で誰からも好かれる正確で、しかも才気煥発・当意即妙、人の応対も大変上手かったらしいのですが、
中産階級の身でインテリの道を歩んでしまったばっかりに、その魅力とコミュ力にもかかわらず、女性と結婚することは出来なくなってしまったわけです。
ちなみにホッブズ先生、後にはチャールズ皇太子の家庭教師も努めたりしたのですが、その際は、でっかい体をしていたこともあって、皇太子に「熊(ベア)ちゃん」と呼ばれて、気に入られていたそうです。
なんかプーさんとか、テディベアとか、リラックマとか、くまモンとか、クマキャラって女性に人気ありそうですし、このオッちゃんモテたと思うんですよね。
だから生涯独身とはいえ、この時点で非童貞認定しても良かったのですが、もう少し、きちんと調べてみますと、
ホッブズの酒や女性に関する問題に関しては、ホッブズの同郷の知り合いでホッブズのことを郷土の偉人と崇拝して止まないジョン・オーブリーが『名士小伝』で、モヤッとした感じではありますが、情報を提供してくれています。
すなわち、
調和のとれた心の持主なら、女嫌いになるのは辻褄は合わぬし、良いお酒を忌み嫌うはずもない──だがこれは多言無用のこと。彼は、若い頃でさえ、酒と女については(おおむね)節度を守った。自分が度を過したのは百回ほどだったと思う、と語るのを聞いたことがある。彼の長命を考えると、一年一回以上にはならない。(ジョン・オーブリー『名士小伝』冨山房百科文庫 116頁)
「(おおむね)節度を守った」
「(おおむね)」
そして具体的にどういう意味かは明らかにされないものの、度を過ごすこと、百回ほど。
やはり、予想通り、童貞ではなさそうです。
だいたいホッブズ先生は、死ぬ直前にも恋愛詩(↓)を残しており、かなり恋愛に積極的な性格。
すでに九十を超えたる老いの身とて
キューピットの御前に抜擢も望めず、
また多年の厳冬わが身を冷やして
血のめぐりもほぼ停まらんとす。
されど、いと眉目よく賢き女を
愛しまた抱くにもなお力あり、
そを誇るにはあらず、さりとて
彼の愛に望みを断ついわれもなし。
女の名を告げんはあまりにも放胆なるべし、
されど、もし御身がそれに当たると思い給わば、
美しき肢体のなかにより美しき心を見て
そを愛しむ老者を、痴と思い給うな。
(同書 124頁)
「もし御身がそれに当たると思い給わば」とのことなので、あくまで詩の上の仮定の話、ここで実際に行為に及んだわけではないようですが、愛し抱くになお力あると自ら誇っています。
パワフル&アグレッシブ、さすがはクマさんです。
『童貞の世界史』で取り上げたように、晩年まで異性と子供を望み、恋に身を焦がしながら、昇華の歴史を送ったアダム・スミスの様な人物もいるわけで、恋愛に積極的イコール非童貞というわけではないのですが、
しかし、このホッブズ先生は、この性格でかつ、100回も度を過し、「節度を守った(常に守ったとは言っていない)」と自認しているわけで、
度を過したの内容について具体的な証言は無いとは言え、
やはりそれはHな経験と判断せざるを得ず、ホッブズは童貞とは、考えられないと思われます。
こういうわけで、ホッブズは『童貞の世界史』には採用できませんでした。
参考資料
ジョン・オーブリー『名士小伝』橋口稔、小池銈訳 冨山房百科文庫
田中浩『人と思想 49 ホッブズ』清水書院
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