南北朝を題材とした楽府をまた見る~頼山陽『東魚西鳥』~
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東魚西鳥
東魚坐呑四海。日沒西天三百七十日。
西鳥呑魚海宇一。何圖更有獮猴黠。
獮猴何能逞跳擲。君王羈策用無術。
(坂井松梁編『詠史詩集 日本楽府詳解』青山堂 121-122頁)
<読み下し>
東魚 坐して四海を呑み。日 西天に沒する三百七十日。
西鳥 魚を呑み海宇 一なり。何を圖(はか)らん 更に獮猴の黠なる有るを。
獮猴 何ぞ能く跳擲を逞する。君王 羈策 用るに術無し。
<超意訳>
東方の魚、すなわち鎌倉方が坐して天下を併呑した。
太陽が西に沈むかのように、後醍醐天皇が西の隠岐に流された。それから三百七十日がたった時。
今度は西の鳥、すなわち後醍醐側が魚たる鎌倉を飲み込んで、天下を朝廷の下で一つにした。
そんな中で、更に狡猾な猿がいるなどと、どうして予測できようか。
それにしても、猿はなぜかくも思いのままに跋扈できたのだろう。
それは、後醍醐天皇が残念ながらうまくこれを操縦できなかったからだ。
平仄は、下記の通り。○が平声、●が仄声。△は両方可。▲は仄声で韻脚。なお、平仄についてはこちらを参照ください。
○○●○●● ●●○○△●●●▲
○●○○●●▲ ○○●●●○●
●○○○●○● ○○○●●○▲
関連サイト:
「韻と平仄を検索するページです」(http://tosando.ptu.jp/kensaku.html)
・「東魚」:東国たる鎌倉政権を暗喩しています。「未来記」に準拠した表現です。
・「四海」:四方の海の内側、という事で天下を意味します。
・「西鳥」:西側、すなわち朝廷側を暗喩。「未来記」に準拠した表現です。
・「海宇」:同じく天下を意味する言葉。「宇」とは家を覆う庇、転じて大きな空に覆われた世界を表します。
・「獮猴」:猿の事、ここでは建武政権を顛覆させた足利尊氏を暗喩しています。「未来記」に準拠した表現です。
・「黠」:ずるがしこい、狡猾である。
・「跳擲」:飛びはね、投げつける。はね踊る、といったニュアンスのようです。
・「逞」:たくましくする、思うがままにする
・「羈策」:羈は手綱、策は鞭。
坂井松梁編『詠史詩集 日本楽府詳解』青山堂
『日本大百科全書』小学館
『大辞泉』小学館
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬舎ルネッサンス
兵藤裕己『太平記』(一)(二) 岩波文庫
村松剛『帝王後醍醐』中公文庫
亀田俊和『南朝の真実 忠臣という幻想』吉川弘文館
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