「『偉大なるダメ人間シリーズその7 本居宣長』補足再び」そのまた補足
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彼は兄妹(姉弟)の婚姻を無条件に認めていたわけではありません。問題の場所でも書いていましたが、母を同じくする兄妹(姉弟)に関しては認めていませんでした。晩年に弟子との問答をまとめた「鈴屋答問録」でもこう述べています。
「同母兄弟の婚(まぐはひ)也。然れども、迦具土神は悪神にて、御母神を焼殺し奉れり。故、鎮火祭祝詞にも、御母神の御言に、心悪子と詔へり。然れば此婚は、通例のことに非ず。悪行とすべし。」(「うひ山ふみ・鈴屋答問録 岩波文庫」108頁)つまり、同母兄弟の婚姻をした神がないわけではないが、悪い神なので前例にはならないということです。やはり、同母兄妹(姉弟)については宣長は強いタブー感を持っているようですね。
事実、古代の日本においては異母兄妹(姉弟)の婚姻はしばしば認められた(尤も、日本だけでなくプトレマイオス朝エジプトなど王家の純血性を保つために行われる例はままあるようです)ものの同母兄妹(姉弟)のそれは禁じられていたようです。例えば、允恭天皇の皇太子であった木梨軽皇子は同母妹である軽大娘皇女(かるのおおいらつめ、美しさが衣服を通して外から現れるようだとして衣通姫とも呼ばれる)と密通して皇太子の位を追われ身を滅ぼしています。
以上のように、宣長には古典を忠実に読んだ上でのポリシーがあったわけですね。…でも、やっぱり異母とはいえ兄妹(姉弟)婚を神の定めた正しい道だのこれを禁じるのは偽善で自然な人情に背くだのと言明するのは尋常じゃないとは思います。遺伝的に疾患を持つ子が生まれる可能性が高いという話があったりもするというのにね。
【参考文献】
うひ山ふみ・鈴屋答問録 本居宣長著 村岡典嗣校訂 岩波文庫
本居宣長全集第一巻 筑摩書房
本居宣長全集第十四巻 筑摩書房
本居宣長(上)(下) 小林秀雄 新潮文庫
人物叢書新装版本居宣長 城福勇 吉川弘文館
古事記 倉野憲司校注 岩波文庫
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歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「本居宣長」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2001/011214.html)
「日本民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050311.html)
「偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール」(当ブログ内に移転しました)
(http://trushnote.exblog.jp/14529065/)
「偉大なるダメ人間シリーズその3 モルトケ」(当ブログ内に移転しました)
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「偉大なるダメ人間シリーズその8 プラトン」(当ブログ内に移転しました)
(http://trushnote.exblog.jp/14529128/)
上述の三人も勇敢なカミングアウトをしています。
「物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―その2」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/genji.html)
本居宣長については
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の日本史』
(「本居宣長 国学大成した大学者は、骨の髄から重度のキモオタ」収録)
もご参照ください。
(著作紹介2010年6月27日加筆)
関連して:
集団遺伝学講座第11回 表現型への近親婚の効果
(http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/11.html)
近親婚(きょうだい、いとこなど)が行われた場合での遺伝性障害が子供に発生する可能性について。通常よりは劣性遺伝が発現する可能性は高くなるものの、有意に上昇するとまではいえないようですね、これを見る限り。ただ、諸説あってはっきりしなかった気もします。
「姉ゲーム」大全完全保存版(エキサイトブックス)
(http://www.excite.co.jp/book/product/ASIN_4902566850/)
「妹ゲーム」大全完全保存版(エキサイトブックス)
(http://www.excite.co.jp/book/product/ASIN_4902566362/)
リンクを変更(2010年12月8日)