偉大なるダメ人間シリーズ番外その2 等身大幼女フィギュアを抱えて動き回る変態武闘派哲学者?
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【以上(↑)、2010年12月05日加筆】
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近世合理主義哲学の祖であり数学史上にも大きな業績を残したフランス生まれの哲学者デカルト(1596~1650)は、等身大の幼女フィギュアを生きているかのように話しかけたり大事に世話しながら肌身離さず連れ歩いた変態オヤジでした。
って内容の文章を「偉大なるダメ人間シリーズ」(上記目次ページの(01)~(07))の一つとして書こうと思ったのです、最初は。
ですがこの人形の話は、晩年のデカルトが船旅の途上はげしい嵐に見舞われた際、船長がデカルトの船室を探って薄気味悪い幼女人形を発見、海に捨てると嵐が止んだとかいうオカルトくさい内容で、大方の評価としては信憑性が薄いただの伝説扱いらしく、ちょっと事実として取り上げるには難がありました。
まあデカルトは当時からくり人形が大流行していた南ドイツに足を踏み入れたこともあり、人形の一つや二つ持ち歩いていたとしても、別に不思議でも何でもないようなのですが。
それでもこの伝説を仮に事実としても、人形を持ち歩いた背景に思いを致すと、イマイチいかにもダメ人間って感じの香ばしいねじくれっぷりが感じられないのですよ。実はこの人形の名前はフランシーヌというのですが、フランシーヌといえば壮年期のデカルトが常に手元に置いて溺愛していた愛娘の名前。娘フランシーヌは幼くして死んでしまい、デカルトはそのことを人生最大の悲しみと嘆いたらしいのですが、今は無き娘への愛情余ってその似姿を携帯していたところで、別にそれはたいしてダメ人間ではありますまい。生きているかのように話しかけたり世話してるのはちょっとヤバイかもしれませんが、それにしたってダメ人間っていうよりは、悲しみのあまりの錯乱でしょうし。
ちなみに、フランシーヌはデカルトがメイドに手出しして生まれた娘ですが、マルクスといいキルケゴールといい思想家先生はメイドさんにちょっかいかけるのが好きですね(関連記事http://trushnote.exblog.jp/7232022/)。
さて奇怪な伝説を持つ割にいまいちダメ人間ぽくないデカルト先生ですが、その生涯を見ると大変雄々しく、ますますダメ人間ぽくなくなります。
病弱であった少年時代のせいで彼が朝寝の習慣を身につけ、それがほとんど生涯続いたことをご存じの方も多いかと思われますが、そんな彼もそれでヘタレた人物に育つこともなく、妙にたくましく行動的な人間に成長しています。
成人した彼は官吏となることを望む家族の期待を蹴り飛ばし、1618年にオランダで志願兵となり、訓練を経て翌年には血気に駆られて三十年戦争の勃発したドイツに渡り、バイエルン公の軍隊に参加したそうです。ちなみにドイツへの途上、追い剥ぎに襲われながら、抜剣して脅しつけ追い剥ぎを屈服させたとか。
その後、彼は、長らくヨーロッパ各地に遊学することになりますが、その過程の1625年頃には、美しい婦人とつきあいをもって求愛し(彼女はデカルトが求愛したのは自分だけであると常に誇っていたらしい)、その婦人をめぐって街道上で恋敵に襲撃されたところ、敵の剣を奪い取って撃退するといった、さらなる武闘派な逸話を重ねています。しかもその頃には自らの戦闘経験を活かして『剣術』なる著作を残しています。
そして思索と著作に専念するための1628年から約二十年にわたってのオランダ隠棲では、既に述べたように、メイドに手出しして娘をつくっています。ちなみにデカルトがメイドに子を産ませてその子を手元で溺愛していたことは、身分道徳の厳しい当時としては、世の指弾を受けかねない、結構危険なことだったそうです。
まあこんな感じに、怪しげな伝説はいまいち取り上げるには信憑性などに難があり、そのうえかなりの武闘派で、美しい婦人にももて、結構好き放題な生き様を颯爽とさらして、たくましく我が道を行くこの男の姿は、ダメ人間呼ばわりしてシリーズに組み込むのもどうかと思われたわけです。しかしそれなりに面白い逸話に満ちてますから、あえて番外として取り上げた次第。
ところでこの人物の場合、哲学者って点が最大のダメ人間ポイントのような気がしないでもないですよ。
参考資料
小林道夫著『デカルト入門』 ちくま新書
伊藤勝彦著『人と思想11 デカルト』 清水書院
野田又夫著『デカルト』 岩波新書
種村季弘著『怪物の解剖学』 河出文庫
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http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1999/991126.html
(以下2010年6月26日加筆)
デカルトについては
よろしければ、社会評論社『ダメ人間の世界史』
(「デカルト 人形こそは我が娘 ~等身大フィギュアを甲斐甲斐しく世話する変態学者~」収録)
もご参照ください。
色々リンクを変更(2010年12月7日)