「男のしるし、皇統の危機」訂正事項
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道鏡の巨根伝説について、「局部を蜂に刺された事で巨根となったとか、雪の中を歩くと足跡が三つついていたといった類の逸話がまことしやかに語られたりしています」とかつて記しました。聞き及んだ事のある逸話を書き連ねたのですが、改めて調べてみたところ前者についてはそういった言い伝えが「水鏡」別本にあるのを知りえたものの後者は文献的に裏が取れませんでした。申し訳ありません。
さて、改めて裏を取ろうと調べてみた際、徳川期の川柳に
道鏡ハ居ルとひざが三ツ出来なんてのがありました。座ると巨根のせいで膝が三つに見えたというのですから、相当に誇張された伝説があったのは間違いないのですが、流石に歩くと足跡が三つというのは言いすぎなようです。ここで訂正し改めてお詫び申し上げます。
…一方で、
道鏡の足駄前から先へ減り
というのもありました。足駄の前が巨根によって擦り切れて足駄の歯より先に減るというのですから、ここまで来ると足跡三つ云々もあながち間違いではないような気もしないでもありませんが。
徳川期の川柳には道鏡をネタにしたものが数多くあったようで、
道鏡に根まで入れろと詔
道鏡に崩御崩御と称徳言い
あたりも知られています。…近代なら間違いなく不敬罪ものでしょうけど、徳川期の庶民はそういった遠慮もいらなかったのですね。しかし、皆さん高貴な人のエロネタは好きなようですね。もっとも、だからと言って高貴な方への敬意がないとは限らないようで、例えば幕末の川路聖謨は奈良奉行時代に天皇陵の荒廃を気に掛け盗掘を厳しく防ぐなど尊王の念を持っていた一方で現役皇室をネタにした猥談で家族と盛り上がる事もしばしばだったと言われています。
さて、道鏡のこの手の話はさかのぼると鎌倉初期に及ぶようです。十三世紀初頭に成立し古い説話を集めた「古事談」の冒頭はこんな文で始まります。
「称徳天皇【聖武御女、母は光明皇后不比等女なり、初め孝謙天皇、後称徳を号す、又た高野姫と号す】道鏡の陰 猶ほ不足に思し食されて、薯蕷を以て陰形を作り、之れを用ゐしめ給ふ間、折れ籠る、と云々」(「新日本古典文学大系41古事談・続古事談」 P3)つまり、称徳女帝が道鏡の巨根でもなお飽き足らずに山芋で自慰行為に耽っていたところ折れてしまい中に残ってしまったという事です。…本を開けて真っ先に目に飛び込む文章がこれです。まあ、最初が帝王の部で、時代順で一番古いのが称徳なのは分かるんですが、だからといって称徳の項目の先頭にこれをもってくる辺りが鎌倉期の貴族は素敵な趣味をしております。更に「百川伝」(奈良期の政治家・藤原百川の伝記)にもぼかしてはいるものの同様な逸話が掲載されている事が「日本紀略」から知られ、鎌倉期の歴史書である「水鏡」もこの手の話が「百川伝」にあると記しています。そういえば、前述の蜂に刺されて云々という話も出所が「水鏡」でした。やんごとない方をネタにしたエロ話が好きなのは中世貴族も変わらないようで、どうやら古今共通と言えそうです。
訂正とお詫びで終わるはずだったのが大分話が逸れてしまいました。やはり貴賎や古今を問わずみんな下世話なエロ話が大好きなんですね。これに好奇心や反発心が絡むとよい感じに話に尾鰭がつくのも変わらないようです。
【参考文献】
人物叢書道鏡 横田健一 吉川弘文館
日本奇談逸話伝説大事典 勉強社
日本架空伝承人名事典 平凡社
江戸の性風俗 氏家幹人 講談社現代新書
新日本古典文学大系41古事談・続古事談 岩波書店
史書を読む 坂本太郎 中公文庫
逆説の日本史3古代言霊編 井沢元彦 小学館(川柳を引用するのに使用)
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歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050311.html)
関連サイト:
「私だけの十字架」(http://www5a.biglobe.ne.jp/~kitakaz/)
「ダメゲーレビュー」に18禁ゲーム「道鏡」のレビュー
(http://www5a.biglobe.ne.jp/~kitakaz/damedame/doukyou.htm)
があります。
「おやぢのパソコンゲーム調査隊」
(http://in.geocities.com/ninjazxrzxzx/oyajinopcgamechousa/oyaji.html)
「ゲーム紹介」「ゲーム攻略」で「道鏡」も紹介されています。
どちらも18歳未満は閲覧禁止です。それ以上の方も自己責任で。
「孝謙女帝と弓削道鏡」(http://www8.ocn.ne.jp/~giyoh/senryu-6.htm)
道鏡絡みの川柳がいくつか見られます。
「物不勃陰虚酣楽」(http://hyper-inkyo81.jugem.jp/)より
「川柳」(http://hyper-inkyo81.jugem.jp/?cid=9)
その中で「弓削道鏡」(http://hyper-inkyo81.jugem.jp/?eid=100)もあります