ロリコン神、乳を語る
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例えば彼は、小説『ロリータ』の先日紹介した箇所で、普通の女性の乳について「胸にカボチャか梨の実をぶらさげた」(大久保康雄訳 新潮文庫 27頁)などと描写しています。
ここには乳に対する微妙な悪意を感じ取ることもできそうなわけですが、そんな彼だって『ロリータ』の別の箇所で、「思春期の肉体的変化の過程のなかで、最初にあらわれるのは胸部発達の初期段階だ(十年七ヵ月)。成熟の第二の有力な徴候は、色素をおびた恥毛が発生することだ(十一年二ヵ月)。ここで私の心の小さな壺は想念のおはじきであふれそうになる。」(30頁)などと、ご機嫌に少女の乳の女性的発達を妄想しているわけで、乳を完全に否定しているわけではありません。
女子学生のおぞましさを語る際も「ずっしりと垂れさがった骨盤や、ふといふくらはぎや、なんともひどい顔色」(262頁)を罵りつつ、さりげなく乳は除外されていますしね。
おそらく大きな乳は気に入らないが、さりとて何も無いのも気に入らない。
ふくらみかけの小さいのが最高とでも言うのでしょう。
ロリコンですし。
というわけで、大人の豊乳は鬱陶しいが、未乳の無乳っぷりはガッカリな、難儀な嗜好のロリコン神の、少女の乳に対する思いのたけ。それをたいへんよく表している一節を、『ロリータ』の原型である小説『魅惑者』から抜き出してみましょう。
まだ狭いけれども、すでにふくらみを帯びた胸の、はっきりとせぬ優しさ
(出淵博訳 河出書房新社 24頁)
ちなみに、少女の体は前腋の間隔が狭く、丸胴傾向にあるのが特徴で、成長とともに体幹が扁平になっていくのですが、少女の乳を語るに、ただ小さいことのみに心奪われず、少女らしい胸部の狭さにまで着目しているのは、さすがロリコン神と言うべきでしょう。
ところでこんなロリコン神の、ロリ画像を収めた脳内フォルダは、小説上の文学的空想以外のリアル画像も収められています。
例えば、彼は少年時代に見かけた同い年の少女ポレンカついて、「いつまでも眼の前に浮かべておきたくなるとくに鮮明な光景」(『ナボコフ自伝 記憶よ、語れ』大津栄一郎訳 晶文社 166頁)と称して、一枚のエロ画像を大切に脳内保存したりしています。
ちょっと長いので省略しつつ引用すると
遠くからそっと眺めるだけにしておいた方がいいような、彼女の哀れな美しさのなかに、私はニンフの生れ変わりを見たのだった。私と彼女が十三の年の六月のある日のこと、……ポレンカと三、四人の子供たちが数フィート離れた壊れた古い更衣小屋から出てきて素っ裸で水浴びしているのを見たのだった。全身を水に濡らしてあえぎながら、……鳥肌だった青白い皮膚の下から思春期の娘らしく肋骨をくっきり浮かびあがらせ、……腕をはすに組んで東風から乳房を守りながら、半ば崩れた桟橋の上にうずくまって震えていたポレンカは、全くの別人だった
(166、167頁)
乳房のみならず、それどころか乳房以上の熱意をもって、思春期の肋骨に関心を向けてる当たり、胸部の狭さに意識を向けた先の『魅惑者』の乳描写と通じるものがありますね。
それにしてもロリコン神ともなると、少年時代から何ともマニアック。しかもその記憶をずっとずっと大事に保管してるあたり、恐ろしいばかりの執着です。
それはさておき、
少女の乳の美を味わうためには、乳のみに心を奪われてはならず、乳を支える胴体・骨格の少女らしさにも着目せねばならぬ。
たいへんありがたい、ロリコン神ナボコフ先生の教えでした。
参考資料
ナボコフ『ロリータ』大久保康雄訳 新潮文庫
ナボコフ『魅惑者』出淵博訳 河出書房新社
ナボコフ『ナボコフ自伝 記憶よ、語れ』大津栄一郎訳 晶文社
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