これまで、結構な数の日本人野手がメジャーリーグ(以下MLB)に挑戦してきました。苦戦している選手も多い一方で、一定期間レギュラーを獲得した選手もいました。今後、仮に日本人野手がMLBに挑戦する場合、日本プロ野球(以下NPB)時代と比べてどの程度の成績変動なら成功と見てよいのか。また、MLBで活躍しているあの選手がNPBにとどまっていたなら、どんな成績を残したのか。そういった事が気になる方もおられるかと思います。そこで、MLBで複数シーズンにわたりレギュラーもしくはそれに準ずる存在(一応、シーズン300打席を目安とします)になった選手を対象に、NPB時代・MLB時代の成績を比較してみようかと思います。まだ現役中の選手も多数いますし、2011年・2012年とボールの反発係数が極めて低い時期を経験した選手も数人いますので、どの程度厳密かは疑問の余地はありますが御了承ください。また、参考までにMLB・NPBの双方で5シーズン以上レギュラーを張った助っ人選手数人についても同様に見てみました。
打順・出塁率・長打率・OPSについてはNPB・MLBの通算成績を対象としました。本塁打に関しては、レギュラーを張ったと思われるシーズンでの平均を対象としています。数値は、打率、出塁率、本塁打、長打率、OPSの順に表示しています。選手名の後ろの括弧内はNPB時代の在籍球団です。
・イチロー(オリックス)
日 .353 .421 118本/9年(レギュラー時117本/7年)→約16本/年 .522 .943
米 .317 .360 112本/14年→8本/年 .411 .771(2014年終了現在)
打率 NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
出塁率 NPB×0.86=MLB(またはMLB×1.17=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2=NPB)
長打率 NPB×0.79=MLB(またはMLB×1.27=NPB)
OPS NPB×0.82=MLB(またはMLB×1.22=NPB)
・松井秀喜(巨人)
日 .304 .413 332本/10年(レギュラー時321本/9年)→約35本/年 .582 .996
米 .282 .360 175本/10年(レギュラー時173本/9年)→約19本/年 .462 .822
打率 NPB×0.93=MLB(またはMLB×1.08=NPB)
出塁率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
本塁打 NPB×0.54=MLB(またはMLB×1.84=NPB)
長打率 NPB×0.79=MLB(またはMLB×1.26=NPB)
OPS NPB×0.83=MLB(またはMLB×1.21=NPB)
MLBで活躍した日本人野手を代表する二人が、似たような変動数値をたたき出しているのは興味深いですね。
・田口壮(オリックス)
日 .276 .332 70本/12年(レギュラー時66本/8年)→約8本/年 .384 .716
米 .279 .332 19本/8年(レギュラー時13本/3年)→約4本/年 .385 .717
打率 NPB×0.99=MLB(またはMLB×1.01=NPB)
出塁率 NPB×1=MLB(またはMLB×1=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2=NPB)
長打率 NPB×1.00=MLB(またはMLB×1.00=NPB)
OPS NPB×1.00=MLB(またはMLB×1.00=NPB)
本塁打は渡米後にペース半減してますが、他はほとんど変わっていません。そんな人もいるんですね。ただし、NPBの成績を見る上で現役晩年に2011年にプレイしていることを念頭に置くべきかもしれません。
・新庄剛志(阪神、日本ハム)
日 .254 .304 205本/13年(レギュラー時205本/12年)→約17本/年 .492 .736
米 .245 .299 20本/3年(レギュラー時19本/2年)→約9本/年 .370 .668
打率 NPB×0.96=MLB(またはMLB×1.04=NPB)
出塁率 NPB×0.98=MLB(またはMLB×1.02=NPB)
本塁打 NPB×0.53=MLB(またはMLB×1.89=NPB)
長打率 NPB×0.75=MLB(またはMLB×1.33=NPB)
OPS NPB×0.91=MLB(またはMLB×1.10=NPB)
打率・出塁率が日米双方であまり変わっていない、面白い選手ですね。
・松井稼頭央(西武、楽天)
日 .297 .348 187本/13年(レギュラー時185本/12年)→約15本/年 .462 .810(2014年終了現在)
米 .267 .321 32本/7年(レギュラー時26本/4年)→約6本/年 .380 .701
打率 NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
出塁率 NPB×0.92=MLB(またはMLB×1.08=NPB)
本塁打 NPB×0.4=MLB(またはMLB×2.5=NPB)
長打率 NPB×0.82=MLB(またはMLB×1.22=NPB)
OPS NPB×0.82=MLB(またはMLB×1.16=NPB)
なお、NPBの成績を見る上で2011年・2012年にプレイしたのを考慮する必要があるかもしれません。
・井口資仁(ダイエー、ロッテ)
日 .272 .360 238本/13年(レギュラー時223本/11年)→約20本/年 .455 .818(2014年終了現在)
米 .268 .338 44本/4年→11本/年 .401 .739
打率 NPB×0.99=MLB(またはMLB×1.01=NPB)
出塁率 NPB×0.94=MLB(またはMLB×1.07=NPB)
本塁打 NPB×0.55=MLB(またはMLB×1.82=NPB)
長打率 NPB×0.79=MLB(またはMLB×1.27=NPB)
OPS NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
打率の変化はほとんどありませんでした。
ただ、NPBの成績を見る上で2011年・2012年にプレイしたのを考慮する必要があるかもしれません。
・城島健司(ダイエー、ソフトバンク、阪神)
日 .296 .355 244本/14年(レギュラー時235本/10年)→約23本/年 .508 .863
米 .268 .310 48本/4年(レギュラー時39本/3年)→約13本/年 .411 .721
打率 NPB×0.91=MLB(またはMLB×1.10=NPB)
出塁率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
本塁打 NPB×0.57=MLB(またはMLB×1.77=NPB)
長打率 NPB×0.81=MLB(またはMLB×1.24=NPB)
OPS NPB×0.84=MLB(またはMLB×1.20=NPB)
なお、NPBの成績を見る上で2011年・2012年にプレイしたのを考慮する必要があるかもしれません。
・岩村明憲(ヤクルト、楽天)
日 .290 .358 193本/13年(レギュラー時165本/6年)→約27本/年 .494 .851
米 .267 .345 16本/4年(レギュラー時13本/2年)→約6本/年 .375 .720
打率 NPB×0.92=MLB(またはMLB×1.09=NPB)
出塁率 NPB×0.96=MLB(またはMLB×1.04=NPB)
本塁打 NPB×0.22=MLB(またはMLB×4.5=NPB)
長打率 NPB×0.76=MLB(またはMLB×1.32=NPB)
OPS NPB×0.85=MLB(またはMLB×1.20=NPB)
出塁率にあまり変化がありません。本塁打は渡米後に激減していることが分ります。
なお、NPBの成績を見る上で2011年・2012年にプレイしたのを考慮する必要があるかもしれません。
・福留孝介(中日、阪神)
日 .296 .388 207本/11年(レギュラー時201本・10年)→約20本/年 .520 .908(2014年終了現在)
米 .258 .359 42本/5年(レギュラー時42本/4年)→約10本/年 .395 .754
打率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
出塁率 NPB×0.91=MLB(またはMLB×1.10=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2.0=NPB)
長打率 NPB×0.76=MLB(またはMLB×1.32=NPB)
OPS NPB×0.83=MLB(またはMLB×1.20=NPB)
・青木宣親(ヤクルト)
日 .329 .402 84本/8年(レギュラー時84本/7年)→12本/年 .454 .856
米 .287 .353 19本/3年→約6本/年 .387 .741(2014年終了現在)
打率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
出塁率 NPB×0.88=MLB(またはMLB×1.14=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2=NPB)
長打率 NPB×0.85=MLB(またはMLB×1.17=NPB)
OPS NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.16=NPB)
なお、NPBの成績を見る上で2011年にプレイしたのを考慮する必要があるかもしれません。
イチロー・松井秀喜と似たような傾向を示している数値が多いですね。一方、日本時代と変わらない数値を出している部分もあって面白いところ。
次に、日米双方で長期間プレイした助っ人選手を見ていきましょう。
・ダリル・スペンサー(阪急)
日 .275 .379 152本/7年(レギュラー時142本/5年)→約28本/年 .536 .915
米 .244 .327 105本/10年(レギュラー時102本/7年)→約14本/年 .380 .707
打率 NPB×0.89=MLB(またはMLB×1.13=NPB)
出塁率 NPB×0.86=MLB(またはMLB×1.16=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2=NPB)
長打率 NPB×0.71=MLB(またはMLB×1.41=NPB)
OPS NPB×0.77=MLB(またはMLB×1.29=NPB)
優秀な打撃成績を残すにとどまらず、阪急ブレーブス(現・オリックスバファローズ)における野球の質を高めた事で知られる名助っ人。
・ウィリー・カークランド(阪神)
日 .246 .308 126本/6年→21本/年 .450 .757
米 .240 .304 148本/9年(レギュラー時104本/7年)→約19本/年 .422 .726
打率 NPB×0.98=MLB(またはMLB×1.03=NPB)
出塁率 NPB×0.97=MLB(またはMLB×1.03=NPB)
本塁打 NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
長打率 NPB×0.94=MLB(またはMLB×1.07=NPB)
OPS NPB×0.96=MLB(またはMLB×1.04=NPB)
日米双方であまり変わらない数値をたたき出しています。
・ジョージ・アルトマン(ロッテ、阪神)
日 .309 .378 205本/8年→約25本/年 .561 .938
米 .269 .329 101本/9年(レギュラー時92本/6年)→約15本/年 .432 .761
打率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
出塁率 NPB×0.87=MLB(またはMLB×1.15=NPB)
本塁打 NPB×0.60=MLB(またはMLB×1.67=NPB)
長打率 NPB×0.77=MLB(またはMLB×1.30=NPB)
OPS NPB×0.81=MLB(またはMLB×1.23=NPB)
・スティーブ・オンティベロス(西武)
日 .312 .403 82本/6年(レギュラー時66本/5年)→約13本/年 .474 .876
米 .274 .365 24本/8年(レギュラー時22本/5年)→約4本/年 .366 .731
打率 NPB×0.88=MLB(またはMLB×1.14=NPB)
出塁率 NPB×0.91=MLB(またはMLB×1.10=NPB)
本塁打 NPB×0.31=MLB(またはMLB×3.25=NPB)
長打率 NPB×0.77=MLB(またはMLB×1.30=NPB)
OPS NPB×0.88=MLB(またはMLB×1.20=NPB)
西武黄金時代初期を支えた助っ人で選球眼の良さに定評がありました。来日後、本塁打ペースが激増しています。
・ウォーレン・クロマティ(巨人)
日 .321 .350 171本/7年(レギュラー時161本/6年)→約26本/年 .558 .908
米 .281 .347 61本/10年(レギュラー時60本/7年)→約8本/年 .402 .749
打率 NPB×0.88=MLB(またはMLB×1.14=NPB)
出塁率 NPB×0.99=MLB(またはMLB×1.01=NPB)
本塁打 NPB×0.31=MLB(またはMLB×3.25=NPB)
長打率 NPB×0.72=MLB(またはMLB×1.39=NPB)
OPS NPB×0.82=MLB(またはMLB×1.21=NPB)
出塁率は日米でほとんど変わりません。一方、本塁打は来日以降ペースが激増しています。
助っ人でも日米間で似たような相関を示すケースが少なからずありますね。それも面白い事に、NPBとMLBの格差が今以上に大きかったと思われる時代の人でも同様な数字になってたりします。クロマティやスティーブが来日後に本塁打ペースが高くなっているのは、NPBが打高の時代だったことを反映している可能性はあります。
もっとも、相性もありますから、NPBのトッププレイヤーが必ずしもMLBでそうした相関に当てはまる成績に収まってくれる訳ではありません。むろん、逆も然り。ただ、少なくとも日米双方に順応したと思しき選手に関しては日本人・外国人問わず基本的に
打率 NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
出塁率 NPB×0.90=MLB(またはMLB×1.11=NPB)
本塁打 NPB×0.5=MLB(またはMLB×2=NPB)
長打率 NPB×0.80=MLB(またはMLB×1.25=NPB)
OPS NPB×0.83=MLB(またはMLB×1.20=NPB)
※OPSは出塁率・長打率を合計した方が良いと思われる。
前後と見る事が出来そうに思えます。
ただし、これも全員に全項目が当てはまるわけでもなさそうです。打率は田口・新庄・井口・カークランドでは大きな変化なし。出塁率は田口・新庄・岩村・カークランド・クロマティで大きな変化なし。本塁打はカークランドは大きな変化なく、岩村・クロマティ・スティーブは3倍以上の変化。長打率・OPSは田口・カークランドで大きな変化なし。なお、IsoD(出塁率-打率、四死球を選び取る力量を反映)でも評価してみましたが、こちらは人によってバラバラで法則性を見いだせず指標を作れませんでした。
という訳で、日本人野手がMLBに挑戦する際、「成功したらどの程度の成績になるのか」「成功したあの選手がNPBに留まっていたらどんな成績になっているのか」という件に関する一応の目安となる計算式が出せたかもしれません。しかしながら、打率・出塁率は結構な割合で変化しないケースもあり、長打率・OPSも少数ながら変化しない事例が見られるようです。そんな感じのかなり不完全かついい加減な計算式ですのでその辺りはゆるい目で見ていただけると幸いです。
関連記事:
「統一球時代の成績をどう評価するか ~簡易補正式が作れないか考えてみる~」
「統一球時代の成績をどう評価するか 2013年版~補正は要るのか要らないのか~」
「「バースの再来」と呼ばれたメジャーリーガーたち~虎で夢破れた助っ人たちが海の向こうで見せていた雄姿~」
MLBでレギュラー張ってた選手といえど必ずしも皆が上記の相関を示してくれるわけでもない、という話。
※2015/6/24 誤字を修正。