2009年 03月 21日
高貴な殿方は何故メイドさんを愛するのか、合理的に(?)考える
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これまで、哲学者や文学者を始め一般人にもメイドさんに好んで手をつける人々が多数存在する事を話してきました。全く、みんななぜそんなにメイドさんが好きなんでしょうか。さて、身分の高い男性がメイドさんを好む件に関してちょっと気になる言葉があったので紹介してみようかと思います。
問題の発言があるのは芥川龍之介「河童」。「河童」は芥川が自殺直前に著した最晩年における代表作の一つで、河童の国に迷い込んだ主人公が人間世界とは一風変った価値観を持つ河童たちの様子を描写するという形式の話です。それによると、河童の国には「遺伝的義勇態を募る 健全なる男女の河童に 悪異伝を撲滅するために 不健全なる男女の河童と結婚せよ」という不可解に思えるスローガンが張り出されているとか。これに疑問を持った主人公に対し一人の河童は以下のように答えます。
スローガンも不思議ならこの答えも不思議です。そこで、この言葉が何を意味しているのかを少し今回は探ってみようかと思います。それによって、あるいはメイドさん愛好趣味へのヒントがつかめるかもしれません。
ところで、我が国における高貴な男性といえば皇室やら将軍家やらがまず浮かぶところでしょう。その中で、今回は徳川将軍家について見てみます。徳川将軍は初代家康から最後の慶喜まで十五人いますが、家康は除いて考えるとして歴代の中で正室から生まれたのは第三代家光と第十五代慶喜だけ。それ以外はみな側室を生母としていました。彼女たちの中には武士の娘も多いですが、その一方で農民・商人の娘といった通常なら将軍家に縁のなさそうな女性たちも少なからず見られます。例えば第四代家綱の母であるおらん(後に「お楽」と改名)の父は農民でしかも禁制の鶴を狩って死罪となっていますし、第五代綱吉の母お玉は八百屋の娘とも言われています。また綱重(家綱の弟)の母お夏は京の町人の子でしたし、更に第六代家宣の母おほらは魚屋の娘で第七代家継の母お喜世は僧侶の娘。そして第八代吉宗の母お由利は農民の娘だった、といった具合です。彼女たちがどうやって将軍に近づき側室となり更に栄光を勝ち得たのかというと、大奥(後宮)に侍女や風呂焚き・庭掃除などとして入り目に留まって手が付いたというパターンが多いようです。上述の生母たちも例に漏れず、例えばお夏は家光の正室の侍女でしたし、おほらは酌女として家宣の父・綱重の情けを受け、お由利は風呂焚き女だったと伝えられます。その他にも家光の第六子鶴松を産んだお里佐や第十代家治の母お幸、家宣の側室で男児大五郎(早世)を生んだお須免はいずれも元は将軍正室の侍女であったそうです。また、将軍家ではありませんが水戸光圀の母久子も奥方に仕えた老女(侍女)の娘であり身分の低さや父の寵妾による嫉妬ゆえに側室もなれなかった身の上だといわれています。侍女・風呂焚き女・庭掃除女…、現在で考えればまさしくメイドさん。つまり徳川将軍の多くはメイドさんを愛し、そしてメイドさんを母として生まれてきた訳ですね。それにしてもなぜそうした事態が生じたのでしょうか。
医師・篠田達明氏はその著作でこれは一種の「雑種強勢」ではないか、と述べています。因みに「雑種強勢」とは「雑種第一代が、両親のいずれよりも大きさや病気、環境に対する抵抗性あるいは生産力などの点ですぐれた形質を示す現象。ヘテロシス。」(大辞林第二版より)という意味だとか。農産物の品種改良でもしばしば考慮される現象で、そこから雑種こそ生物としてあるべき姿と述べる論者も存在するようです。しかし人間における「雑種強勢」とはどういうことなのか。
将軍たちの正室は、初期の家康・秀忠を別にすればいずれも皇室や公家といった最上流の女性たちばかりでした。しかし深層で育った彼女たちの多くは教養ある美女であっても肉体的に虚弱で、遺骨調査によれば家宣の正室熙子は全体に骨格が華奢で顎の骨の発達が悪かったそうですし、家斉の正室茂姫も歯の噛み合せが少なく固い物を食べていなかったと推定されるとか。そして家茂の正室だった和宮は四肢の筋肉がかなり弱かったとされています。そんな正室たちは平均寿命も四十七歳と低かったそうで、当時死亡率が高かった出産をこなすのはかなりの難事だったでしょう。将軍家の後継者確保を彼女たちだけに担わせるのは余りに酷ですし無謀といえます。
一方、側室たちの平均寿命は五十九歳と正室たちにくらべ長く、中には八十歳以上の長寿を誇る女性たちも少なくなかったとか。彼女たちの中でも庶民出身で下働きから入った女性たちは特に肉体的にも頑強で健康美を誇っていたであろう事は想像に難くありません。そして出産という大事業をこなす上での体力・健康にも不足はなかったと思われ、彼女たちが世継ぎを確保する事例が多かったのもごく自然な結果だったでしょう。
将軍たちが女中さんたちに惹かれた理由の一つは、おらんの歌う田舎の麦つき唄が面白いため家光が興味を覚えたというように異世界からの新鮮な魅力という面や健康的肉体美に欲情を覚えたという要素が個人レベルでは大きかったと思われます。しかし総体としてはひょっとすると本能的に子孫をより確実に残す術と察してメイドさんたちに手を出していたのかもしれませんね。正室たちに代表されるような上流階級同士の結婚ではどうしても近親婚が増えてきますから、生育環境による虚弱さ以外にも世代を重ねる事によって両親から同一の遺伝子を受け継ぐ可能性が高くなって多様性を失い遺伝病の危険が高まるという問題も経験的に知られていたでしょう。なるほど、篠田氏の言う「雑種強勢」とは、そして河童の言う「悪異伝を撲滅」とはそうした意味だったのでしょうね。徳川将軍家は何度も家系断絶の危機を向かえ(というか何度か直系断絶しています)ながらもそれを乗り越えてきました。その影にはこうした事情があったんですな。徳川家が十五代続いた秘訣の一つは、将軍のメイドさん萌えだったのですね。
ここでは徳川将軍家だけを例として考えましたが、おそらくは洋の東西を問わず同様な効果がメイドさんに手をつけたり妻に迎えたりすることによって見られていたのでしょう。より健康な子孫を残そうという生物として、オスとしての本能が個人の性欲とあいまって働いていた結果が、高貴な殿方によるメイドさん愛であったといえそうです。
【参考文献】
徳川将軍家十五代のカルテ 篠田達明 新潮新書
骨は語る―徳川将軍・大名家の人びと 鈴木尚 東京大学出版会
人物叢書徳川家光 藤井譲治 吉川弘文館
人物叢書徳川綱吉 塚本学 吉川弘文館
人物叢書徳川吉宗 辻達也 吉川弘文館
人物叢書徳川光圀 鈴木暎一 吉川弘文館
大辞林第二版 三省堂
作物の一代雑種―ヘテロシスの科学とその周辺― 山田実著 義賢堂
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「芥川龍之介 河童」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/69_14933.html)
関連記事:
「【分野別記事一覧】メイドさん」
「レズビアン補足:我が国の事例」
徳川時代大奥の話が少しあります
「『十七か、聞くだけで勃起するわい』―日本の性器信仰―」
大奥を舞台にしたエロ漫画に少し触れています
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール」(当ブログ内に移転しました)
(http://trushnote.exblog.jp/14529065/)
「引きこもりニート列伝その10 マルクス」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet10.html)
関連サイト:
「富士見書房 仮面のメイドガイ」
(http://www.fujimishobo.co.jp/sp/maidguy2/)
「江戸幕府」(http://ume.sakura.ne.jp/~edo/index.html)
「歴史チップス」(http://www.geocities.jp/rekishi_chips/homepage.html)より
「歴代将軍一覧表」(http://www.geocities.jp/rekishi_chips/syogun.htm)
関連記事コーナーの位置を、関連発表の下から上に移動し、他の記事の体裁に合わせました(5月20日)。
リンクを変更(2010年12月8日)
問題の発言があるのは芥川龍之介「河童」。「河童」は芥川が自殺直前に著した最晩年における代表作の一つで、河童の国に迷い込んだ主人公が人間世界とは一風変った価値観を持つ河童たちの様子を描写するという形式の話です。それによると、河童の国には「遺伝的義勇態を募る 健全なる男女の河童に 悪異伝を撲滅するために 不健全なる男女の河童と結婚せよ」という不可解に思えるスローガンが張り出されているとか。これに疑問を持った主人公に対し一人の河童は以下のように答えます。
「だってあなたの話ではあなたがたもやはり我々のように行っていると思いますがね。あなたは令息が女中に惚れたり、令嬢が運転手に惚れたりするのはなんのためだと思っているのです?あれは皆無意識的に悪異伝を撲滅しているのですよ。」(「河童」より)
スローガンも不思議ならこの答えも不思議です。そこで、この言葉が何を意味しているのかを少し今回は探ってみようかと思います。それによって、あるいはメイドさん愛好趣味へのヒントがつかめるかもしれません。
ところで、我が国における高貴な男性といえば皇室やら将軍家やらがまず浮かぶところでしょう。その中で、今回は徳川将軍家について見てみます。徳川将軍は初代家康から最後の慶喜まで十五人いますが、家康は除いて考えるとして歴代の中で正室から生まれたのは第三代家光と第十五代慶喜だけ。それ以外はみな側室を生母としていました。彼女たちの中には武士の娘も多いですが、その一方で農民・商人の娘といった通常なら将軍家に縁のなさそうな女性たちも少なからず見られます。例えば第四代家綱の母であるおらん(後に「お楽」と改名)の父は農民でしかも禁制の鶴を狩って死罪となっていますし、第五代綱吉の母お玉は八百屋の娘とも言われています。また綱重(家綱の弟)の母お夏は京の町人の子でしたし、更に第六代家宣の母おほらは魚屋の娘で第七代家継の母お喜世は僧侶の娘。そして第八代吉宗の母お由利は農民の娘だった、といった具合です。彼女たちがどうやって将軍に近づき側室となり更に栄光を勝ち得たのかというと、大奥(後宮)に侍女や風呂焚き・庭掃除などとして入り目に留まって手が付いたというパターンが多いようです。上述の生母たちも例に漏れず、例えばお夏は家光の正室の侍女でしたし、おほらは酌女として家宣の父・綱重の情けを受け、お由利は風呂焚き女だったと伝えられます。その他にも家光の第六子鶴松を産んだお里佐や第十代家治の母お幸、家宣の側室で男児大五郎(早世)を生んだお須免はいずれも元は将軍正室の侍女であったそうです。また、将軍家ではありませんが水戸光圀の母久子も奥方に仕えた老女(侍女)の娘であり身分の低さや父の寵妾による嫉妬ゆえに側室もなれなかった身の上だといわれています。侍女・風呂焚き女・庭掃除女…、現在で考えればまさしくメイドさん。つまり徳川将軍の多くはメイドさんを愛し、そしてメイドさんを母として生まれてきた訳ですね。それにしてもなぜそうした事態が生じたのでしょうか。
医師・篠田達明氏はその著作でこれは一種の「雑種強勢」ではないか、と述べています。因みに「雑種強勢」とは「雑種第一代が、両親のいずれよりも大きさや病気、環境に対する抵抗性あるいは生産力などの点ですぐれた形質を示す現象。ヘテロシス。」(大辞林第二版より)という意味だとか。農産物の品種改良でもしばしば考慮される現象で、そこから雑種こそ生物としてあるべき姿と述べる論者も存在するようです。しかし人間における「雑種強勢」とはどういうことなのか。
将軍たちの正室は、初期の家康・秀忠を別にすればいずれも皇室や公家といった最上流の女性たちばかりでした。しかし深層で育った彼女たちの多くは教養ある美女であっても肉体的に虚弱で、遺骨調査によれば家宣の正室熙子は全体に骨格が華奢で顎の骨の発達が悪かったそうですし、家斉の正室茂姫も歯の噛み合せが少なく固い物を食べていなかったと推定されるとか。そして家茂の正室だった和宮は四肢の筋肉がかなり弱かったとされています。そんな正室たちは平均寿命も四十七歳と低かったそうで、当時死亡率が高かった出産をこなすのはかなりの難事だったでしょう。将軍家の後継者確保を彼女たちだけに担わせるのは余りに酷ですし無謀といえます。
一方、側室たちの平均寿命は五十九歳と正室たちにくらべ長く、中には八十歳以上の長寿を誇る女性たちも少なくなかったとか。彼女たちの中でも庶民出身で下働きから入った女性たちは特に肉体的にも頑強で健康美を誇っていたであろう事は想像に難くありません。そして出産という大事業をこなす上での体力・健康にも不足はなかったと思われ、彼女たちが世継ぎを確保する事例が多かったのもごく自然な結果だったでしょう。
将軍たちが女中さんたちに惹かれた理由の一つは、おらんの歌う田舎の麦つき唄が面白いため家光が興味を覚えたというように異世界からの新鮮な魅力という面や健康的肉体美に欲情を覚えたという要素が個人レベルでは大きかったと思われます。しかし総体としてはひょっとすると本能的に子孫をより確実に残す術と察してメイドさんたちに手を出していたのかもしれませんね。正室たちに代表されるような上流階級同士の結婚ではどうしても近親婚が増えてきますから、生育環境による虚弱さ以外にも世代を重ねる事によって両親から同一の遺伝子を受け継ぐ可能性が高くなって多様性を失い遺伝病の危険が高まるという問題も経験的に知られていたでしょう。なるほど、篠田氏の言う「雑種強勢」とは、そして河童の言う「悪異伝を撲滅」とはそうした意味だったのでしょうね。徳川将軍家は何度も家系断絶の危機を向かえ(というか何度か直系断絶しています)ながらもそれを乗り越えてきました。その影にはこうした事情があったんですな。徳川家が十五代続いた秘訣の一つは、将軍のメイドさん萌えだったのですね。
ここでは徳川将軍家だけを例として考えましたが、おそらくは洋の東西を問わず同様な効果がメイドさんに手をつけたり妻に迎えたりすることによって見られていたのでしょう。より健康な子孫を残そうという生物として、オスとしての本能が個人の性欲とあいまって働いていた結果が、高貴な殿方によるメイドさん愛であったといえそうです。
【参考文献】
徳川将軍家十五代のカルテ 篠田達明 新潮新書
骨は語る―徳川将軍・大名家の人びと 鈴木尚 東京大学出版会
人物叢書徳川家光 藤井譲治 吉川弘文館
人物叢書徳川綱吉 塚本学 吉川弘文館
人物叢書徳川吉宗 辻達也 吉川弘文館
人物叢書徳川光圀 鈴木暎一 吉川弘文館
大辞林第二版 三省堂
作物の一代雑種―ヘテロシスの科学とその周辺― 山田実著 義賢堂
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「芥川龍之介 河童」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/69_14933.html)
関連記事:
「【分野別記事一覧】メイドさん」
「レズビアン補足:我が国の事例」
徳川時代大奥の話が少しあります
「『十七か、聞くだけで勃起するわい』―日本の性器信仰―」
大奥を舞台にしたエロ漫画に少し触れています
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「偉大なるダメ人間シリーズその1 キルケゴール」(当ブログ内に移転しました)
(http://trushnote.exblog.jp/14529065/)
「引きこもりニート列伝その10 マルクス」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet10.html)
関連サイト:
「富士見書房 仮面のメイドガイ」
(http://www.fujimishobo.co.jp/sp/maidguy2/)
「江戸幕府」(http://ume.sakura.ne.jp/~edo/index.html)
「歴史チップス」(http://www.geocities.jp/rekishi_chips/homepage.html)より
「歴代将軍一覧表」(http://www.geocities.jp/rekishi_chips/syogun.htm)
関連記事コーナーの位置を、関連発表の下から上に移動し、他の記事の体裁に合わせました(5月20日)。
リンクを変更(2010年12月8日)
by trushbasket
| 2009-03-21 01:19
| NF








