2009年 03月 31日
鎌倉時代のハードエロノベル『我身にたどる姫君』1 ~狂乱するヤンデレ皇女の苛烈な愛欲の日々~
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今回からは、数回、13世紀のエロ小説『我身にたどる姫君』を取り上げます。
これは皇室と摂関家の幾世代にもわたる血筋の絡み合いを描いた物語なんですが、現代人にとっては、そんな血筋云々なストーリーよりも、エキセントリックなキャラクターや、苛烈にエロい情念・情景描写のほうが魅力的な作品です。
平安・鎌倉時代に盛行した物語文学は、通常、お上品を旨とし、色恋ばかり扱う割に一部例外を除いてエロいシーンは類型的なぼかした描写があるばかりで、行為に及んではいるらしいが、全然エロさは感じないって代物だったりします。ところが、エキセントリックなキャラクターが激しく鮮烈なエロシーンを展開するこの『我身にたどる姫君』は、例外中の例外。
ズンパンくちゅくちゅ、ピストン、粘液、乳やら尻やら太ももやら、行為・興奮の局所に焦点を合わせた液湧き肉踊る描写こそ無いものの、その行為回りの描写まで視野を広げれば、その筆致は具体的かつ詳細で、とってもハードにセックス&バイオレンス。熾烈に病み爛れた変態さんの世界。
で、今回は、そんな鎌倉ハードエロ小説から、ヒロインの一人、女四の宮の激烈な愛情生活をご紹介。
(原文引用は徳光澄雄著『我身にたどる姫君全註解』有精堂より)
最近は、誰かのことが好きすぎておかしくなったヒロインをヤンデレと呼んだりするわけですが、このヒロインはまさにヤンデレ中のヤンデレ。
なにせ、この女四の宮、愛情余って嫉妬に狂い、夫に噛みつき(←比喩表現じゃない)、まとわりついて、愛すか殺すか二択を迫り、夜昼問わず何日も離さず抱き合うという、爛れたエロスのタナトスな日々を送ります。
他の物語にも、愛情余ったヒロインはいて、嫉妬から生霊発生させたりする例なんかがちょくちょく見られるわけですが、
恨みの余りの生霊なんてものは、当時、人を陥れる手段として利用されており、それに対抗するため、あれは狐の仕業なんて言い逃れ用の言葉が存在したほどで、
生霊が出たとして、本当にそのキャラクターが愛情余って病んでるのか、周囲の勝手な解釈や陰謀が正気のヒロインを病んでることに仕立て上げただけなのか、
よく分かりません。
こんなその他の物語のヤンデレキャラと比べて、この女四の宮のヤンデレぶりは、圧倒的。
物語史上最狂・最凶、極上のヤンデレ。
で、女四の宮ですが、容姿は、「どこまでも子供っぽくて可愛らしい(あくまでこめき愛敬づきたまへる)」様子で、咲き誇った「八重山吹」に喩えられる人物。
そんな彼女は、天皇の正妻である母の圧力で権中納言と結婚することになりますが、この皇女を押しつけられた権中納言は、元々彼女の姉の女三の宮に恋しており、無理強いされた結婚に大変不満。ところが、妨げられた恋の悩みも、女四の宮の魅力の前に「大いに気が紛れてしまったのも人情というものである(おほくは紛れたまひぬるもあはれなり)」。
それが、
<訳>
そうこうして少し打ち解けてきて落ち着いてみたところ、皇女という高貴な御身分としては、ちょっと聞いたことがないほどの嘆かわしい嫉妬癖が、おありであった。憎むべき酷い扱いというほどのことはなく、ほんの僅かばかり心に隔てがあり、不審な様子があるだけで、我慢なさることも出来ず、死んでしまいそうな様でまとわりついて、お恨みになるのでは、権中納言も早々と心苦しくなって、我が身がこんな目に遭うと想像だにしなかったと、心の中はげんなりと思い悩まれているが、とはいえ直接向かい合えば、とても疎んじることなどできない可愛らしさ愛おしさを感じてしまい、一人の人間の中で全く矛盾した心ではあるのだが、思ったこともしたことも、包み隠せぬほど、とろけてダメになってしまわれる。とはいえ、上品で我こそはと誇れるような出自の女であれ、人並みですらない下賤の山里の女であれ、こういう訳だとお知らせして、その人のことを了解しておかれた場合には、それ以上厳しく嫉妬する御心はない。ただ、とりわけ隠し事と隔てを嫌う御本性が、ただの予想や推量であっても、権中納言が不審な心隔てをして秘密を抱えている、などと感じ取れば、誰も彼も自分までも死んでしまえと自暴自棄になって、泣き焦がれ、恨み、まとわりついて、権中納言にとってはひどく心苦しいのであった。人が見聞きしていれば、さすがにそうもいかずに耐え忍んでいるものの、御自分一人だけで添い臥していて、すこしでも怪しいと思うことがあれば、日がな一日さらには二日三日でも、許さずに泣き恨んでおられるので、権中納言としてはひたすら不満足で、生きているのも辛いのであって、あれほど女三の宮の方を深く思っていることからしても、女四の宮の煩わしい嫉妬癖を、不愉快で鬱陶しく思っているのであるが、宮仕えで昼夜を束縛される際に、打ち解けた絡み合いから引き別れるとなると、女四の宮のことが何度も心にかかりどうにも恋しいのを、三の宮と四の宮いずれも恋いるとは我ながらなんとも道理に合わぬ二心だといぶかしんでおられる。こうしているうちに女三の宮へと思いは露ほども冷めてはいないが、女四の宮のあまりに酷い嫉妬癖は、ちょっとしたことからでも必ず気づいてしまうだろうから、それは女三の宮のためにも軽率で気の毒なことであろうと、無理して自制して、手紙の一つさえ書くのは難しく、常に女四の宮にまとはりつかれてのみ過ごしていて、……
で、権中納言が女四の宮と嫉妬ドロドロな結婚生活していた頃、退位した天皇の意向により、彼の父の関白が彼の思い人の女三の宮と結婚することになったりして、とりあえず権中納言の女三の宮への思いは絶望的になっています。
実は彼には以前にもう一人思いを寄せた姫君がいたのに、その人は行方知れずになっていたりと、色恋方面ではどうにも恵まれないわけなんですが、
こんな不運な彼は、
いろいろ不倫とか血縁とか事情が絡み合った結果、女三の宮や、権中納言が想いを寄せたもう一人の姫君と似た容貌を持っている、近頃発覚した父の隠し子である妹姫(実は権中納言が思いを寄せた姫君と同一人物)の元を訪れて、悶々としたりもしています。
ところが、こんなささやか秘かな慰めから、帰宅してきた権中納言に対し、女四の宮の例の嫉妬癖が激しく爆発します。
<訳>
ところが他所で移して帰った御袖の上の匂いのことは、権中納言は妹相手では出会ってきても想いがばれるはずはないと油断していたところ、例のごとくベタベタまとわりつかれておられた際に、広がる御匂いが、並の薫き物・香の香りではなく、これ以上もなく深く染みついているのを、ふと咎めて、やっぱりだ、何か隠してることがあると、妹姫とも近しい間柄として、たいへんよく慣れ親しんでいたので、直ちにそういうことかと明らかに悟って、見知らぬ人とそうであるよりも恥ずかしく心苦しいと、御涙がポロポロとこぼれて、こんなちょっと出向いてきただけの時間の間に、ここまで親しく訪問してきたのを、こんなに遠く心隔てて何もなかったかのように仰っているのだと思って、どうにも情けなく、劣等感に陥って、辛く憎たらしければ、ついには権中納言の袖まで目に押し当てて、酷くお泣きになっていた。「ちょっと顔を出しただけの時でさえ、近くにすり寄って、仲良く語り合ってるなんて、どれだけ深い仲なのよ、私には、こんな知らんぷりを決め込んで、遠ざけるくせに」と、何度も何度も言っても言い足りず、ついには言葉さえ出せずに、耐えられない様子で泣き悶えるのを、権中納言はどうにも憎らしく面白くないと思ったが、女四の宮の身分と自分の身分を考え、うかつにも人に聞かれると体面が悪いので、厳しく叱りつけて、「キチガイが、何て事を考えてやがる」などと申し上げた。ところが「そんなこと言うんだ。言うこと言うこと、みんな嘘ばっかりだし、その上、キモイ、ウザイ、セコイ。こんな目に遭わせるくらいなら、もう私のことなんか、今夜にでも、そこでもどこでも引きずっていって、川なり谷なり投げ捨てればいいのよ。こんな死んでも変わらない酷い扱いで生かして置いとくだけなら、どっちみちお母様に顔向けなんかできないんだから、それならいっそ憎い私を、早く殺してしまいなさいよ」とお泣きになるのでどうしようもない。「まだ言うことがあるっていうの。もう生きて顔を合わせてようとは思わないから、どんな目に遭わされたって、別にどうでもいいわよ。殺すなり、壊すなり、好きにして良いから、黙り込んで隠したことだけ最後に見せてよ」と相変わらず悶え焦がれておられるので、どうして良いやらなだめる方策もないと、権大納言はとりあえず灯火をそのままに、女四の宮に寄り添って寝ることにしたが、そうなるとやはり権大納言の落ち着いた風情にあやされて、灯火もいまは煩わしく、うるわしい平静な声で人を召しだし、「その灯をしばらく取りのけなさい」と仰る。いつものように夫婦の営みが始まったのだと、侍女は灯火をそっと取り出した。女四の宮は満足げに権中納言にしがみついて、つねったり噛みついたりしておられるが、結局、これも愛しい可愛いと口には出さないまでも、ほほえんで添い寝しておられるので、女四宮はさすがにどう声をかけて良いのか口ごもったまま、しがみついてお眠りになった。
御格子を上げて、昼になったが、女四の宮は布団をひきかぶって、権中納言を起床させなかった。「困ったことだ。何かの評定があって出勤しなければならなかったのだが」と権中納言は仰ったが、「それなら、私を、淵なり川なりに沈めてから行けば良いわ」とだけ仰ったので、権中納言は思い悩みつつ臥して過ごされた。女四の宮が「それじゃあね、それがホントじゃなくて嘘でも良いから、ハッキリ誰が好きか言って欲しい。知らんぷりされるのが一番苦しくて耐えられないの」と仰ると、どうにも可愛く思われて、権中納言は「それで誰がそんな人が居ると言ったんだい。どうしてそんな苦しい目を見たのかな」と仰る。女四の宮は「居ないって言うけど、ホントに居ないなら安心するわ。でも、その袖の匂いだったら、よく知ってるの。いつから好きなの。去年から、それとも一昨年。それならなんで、好きでもない私と結婚したの。それなのに、結婚前に逃げたくなって仮病になるような人を、地位に任せて無理に呼び寄せて、私に辛い目を見させたお母様は、酷いお人ね」など、どうにも面倒なことを、顔と顔を押しつけたまま仰って臥していたが、権中納言は辛く困ったことではあるものの、耐え難いとまでは辛く思わないのも、結局、愛情があるのだろう。同じ男といっても、権中納言と対照的な友人の二の宮などは、強く恋する余り、このような女に捕らわれ引きこもってしまうこともおありだろう。ところがこの権中納言は、回りが気後れするほどの非常に思慮深い方なのに、こんなにもとろけてダメになってしまった。「さあ、いるのかな、いないのかな」など問われるのも、結局は可愛いというのである。その一方で、かつてどうにも心引かれた女に、最近見つかった妹がよく似ているものだなどと、思い続けているのも、情けないことではないか。女四の宮は、今日もまだ外に出してあげないと考えておられたのだが、父君から権中納言の参上を促す御手紙があった。「あの姫君にどんなことを言いにいくのかしら。目が色っぽくなってることにくらい言われる前に気づきなさいよ」と、この期に及んで、つぶやいておられるのはあきれるばかりである。女四の宮は、不満げに丸まって、しがみついていた手をさすがにお離しになり、権中納言は御装束を整えて、出発を挨拶申し上げる。女四の宮は、華々しい可愛らしさが、あたりにもこぼれるばかりで、理想的な色気に満ちた様子で、「どこに出かけて、いつ帰ってくるの」と仰った。ちょっと微笑んで、「すぐに帰ってくるよ。むやみに昼間から寝ていてはいけないよ」と申し上げたところ、「昼の間はどこか他所の女と寝ていて子供がいるんでしょ」と、近寄ってきて仰るのは尋常でない様子である。権中納言が「日に日に見苦しく成長していくな」と、うめきつつ出発なさるところに、さすがに少しばかり赤面して寄り添って居られるのは、どんな欠点も許してしまいそうである。……
その後、権中納言は、父の留守に屋敷を訪れては女三の宮や例の妹姫(権中納言的には両者は別人)に接近する内に、とにかく女三の宮の手紙だけは得ることが出来ました。
ところが、そんなことやってると、女四の宮の反応が権中納言的にも読者的にも大変気がかり。
<訳>
かの御手紙だけを思いの拠り所と身に携えてはいたが、こんな物が女四の宮に見つかれば以前にも増して恐ろしいので、しっかりと女性が読むことのない漢籍の中にお隠しになった。部屋にお戻りになると、女四の宮は、例の辺りにこぼれるばかりの可愛らしい様子ながら、夜更けになった不満からか、目も合わせようとなさらない。「ああ辛い。あんまりな態度に、身もすくんでしまう」と言って、横になられたが、女四の宮は離れた位置で御衣を引きかぶって、そっぽを向いて寝ておられ、それが憎たらしいながら可愛くもあって、いつものように着物を引き乱しなさったところ、つれない態度で、御腕をひどく痛くつねりなさったが、権中納言は「痛い痛い痛い痛い。なんでこんなに荒れてるかなあ」と仰って、ところがこれにも返答なされず、「お屋敷に父上がお帰りになって逃げてきたのですか」とだけ仰った。「最初からお出かけになっていないから帰ってきたとかいうわけじゃないよ。昼から父上の御前で過ごして、大変だったよ」と悩んだふりを見せたところ、女四の宮はそんなに長く御前で過ごすことが許されている人間などいるわけないと嘘を見破り、ふてくされておられたが、いつものように不平をこぼして、「どうしてこんな時間まで帰ってこないのよ。憎たらしい」と、噛みつきつねりなさったところ、今度のは本当に耐え難い。さらに少し夜が更けたと思われた頃、「うざい、キモイ。そんなにあっちの女がよければ、移り香嗅いで、一人で寝てろー」と転がって離れて行ったが、こう嫉妬されていると、向こうの人々のことばかり思い返されて、大いにお嘆きになったのであった。その後は夜の間中、昼の間中、しがみついて引きこもり、誓言させて、自分も権中納言も耐えられそうにないくらい、夜になっても離そうとせず、権中納言は今宵もうるさいと思っていた。さらに明けてもまだ、捕らえられていて、権中納言は出歩くこともお出来にならない。
とまあ以上で、女四の宮のヤンデレぶりを概ね紹介しできたと思います。
ちなみに、これらの描写は、「滑稽なまでにすさまじい嫉妬をこれほど写実的に表現している物語は、ほかに見当たらない」(前掲書 176頁)とか評されているわけですが、
流石は多くの物語中のナンバーワン。
なかなか良いヤンデレだと思います。
第二回「~レイプレイプレイプあの娘をレイプ?~」はこちら
第三回「~百合ん百合んな姫巫女の嫉妬渦巻くレズハーレム~」はこちら
参考資料
『ヤンデレ大全』 インフォレスト
他は続編記事参照
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これは皇室と摂関家の幾世代にもわたる血筋の絡み合いを描いた物語なんですが、現代人にとっては、そんな血筋云々なストーリーよりも、エキセントリックなキャラクターや、苛烈にエロい情念・情景描写のほうが魅力的な作品です。
平安・鎌倉時代に盛行した物語文学は、通常、お上品を旨とし、色恋ばかり扱う割に一部例外を除いてエロいシーンは類型的なぼかした描写があるばかりで、行為に及んではいるらしいが、全然エロさは感じないって代物だったりします。ところが、エキセントリックなキャラクターが激しく鮮烈なエロシーンを展開するこの『我身にたどる姫君』は、例外中の例外。
ズンパンくちゅくちゅ、ピストン、粘液、乳やら尻やら太ももやら、行為・興奮の局所に焦点を合わせた液湧き肉踊る描写こそ無いものの、その行為回りの描写まで視野を広げれば、その筆致は具体的かつ詳細で、とってもハードにセックス&バイオレンス。熾烈に病み爛れた変態さんの世界。
で、今回は、そんな鎌倉ハードエロ小説から、ヒロインの一人、女四の宮の激烈な愛情生活をご紹介。
(原文引用は徳光澄雄著『我身にたどる姫君全註解』有精堂より)
最近は、誰かのことが好きすぎておかしくなったヒロインをヤンデレと呼んだりするわけですが、このヒロインはまさにヤンデレ中のヤンデレ。
なにせ、この女四の宮、愛情余って嫉妬に狂い、夫に噛みつき(←比喩表現じゃない)、まとわりついて、愛すか殺すか二択を迫り、夜昼問わず何日も離さず抱き合うという、爛れたエロスのタナトスな日々を送ります。
他の物語にも、愛情余ったヒロインはいて、嫉妬から生霊発生させたりする例なんかがちょくちょく見られるわけですが、
恨みの余りの生霊なんてものは、当時、人を陥れる手段として利用されており、それに対抗するため、あれは狐の仕業なんて言い逃れ用の言葉が存在したほどで、
生霊が出たとして、本当にそのキャラクターが愛情余って病んでるのか、周囲の勝手な解釈や陰謀が正気のヒロインを病んでることに仕立て上げただけなのか、
よく分かりません。
こんなその他の物語のヤンデレキャラと比べて、この女四の宮のヤンデレぶりは、圧倒的。
物語史上最狂・最凶、極上のヤンデレ。
で、女四の宮ですが、容姿は、「どこまでも子供っぽくて可愛らしい(あくまでこめき愛敬づきたまへる)」様子で、咲き誇った「八重山吹」に喩えられる人物。
そんな彼女は、天皇の正妻である母の圧力で権中納言と結婚することになりますが、この皇女を押しつけられた権中納言は、元々彼女の姉の女三の宮に恋しており、無理強いされた結婚に大変不満。ところが、妨げられた恋の悩みも、女四の宮の魅力の前に「大いに気が紛れてしまったのも人情というものである(おほくは紛れたまひぬるもあはれなり)」。
それが、
さるはすこし見慣れしづまりたまふままに、かばかりの御程に、聞きならはずあさましきまで性なげなる御癖ぞ、おはしますべき。さまあしくにくげなる方にはあらで、露ばかりも隔てあり、いぶせからん筋は、耐へたまふまじく、身もいたづらになるばかりまつはれ恨みたまふに、まだきにいとくるしう、いとど、思ひし身かはと、心の中はあさましうぞ、思しなやまるれど、ただうち向かひぬるが、えさしはなつまじうあはれになつかしきに、同じ人ながら変はる心にや、思ふ事しつる事も、え隔てずぞくづほれはてたまひぬる、心にくく、われはと思はむあたりなりとも、ましてなみなみならずあやしからん山賤の中にもあれ、かうとも聞こえ、その人とも許したまはんには、さらに性なくにくげなる御心もなし。わざと裏なくうつしき御本性の、ただあらまし事、推し当て事にても、心にくくうち隔て心にこめてふかく思すにや、など心得たまひぬるに、人をも身をもいたづらになすばかり、泣きこがれ恨みまつはれしたまふに、いみじうぞくるしきや。人など見聞こゆるには、さすがにさばかりもえあらはれたまはず。ただ御みづからひとりに添ひ臥して、すこしもあやしと思ふ事あれば、日暮らし二日三日も、ゆるさず泣き恨みたまふに、まめやかに心づきなく、ありぐるしくのみなりたまへど、いかばかりなる御宿世にか、さばかり染む方ことなる人の、かうにくき癖を、思はずにむつかしと思ふものから、限りある宮仕へなどにつけて、日を暮らし夜を明かしたまふにも、心とけず結ぼれながら、ひき別れたまひぬれば、たちかへり心にかかりわりなく恋ひしきも、われながらいかに分くる心ぞと、けしからず思し知らる。かかるままに、露ばかり思ひのさむるにもあらねど、あまりけしからぬ御癖は、かならず見つけたらんに、人の御ためのいとほしくあはつかなるべきを、せめて思ふゆゑは、文ひとつだにやすくもえ書きたまはず、常はまつはされてのみおはするに、……
<訳>
そうこうして少し打ち解けてきて落ち着いてみたところ、皇女という高貴な御身分としては、ちょっと聞いたことがないほどの嘆かわしい嫉妬癖が、おありであった。憎むべき酷い扱いというほどのことはなく、ほんの僅かばかり心に隔てがあり、不審な様子があるだけで、我慢なさることも出来ず、死んでしまいそうな様でまとわりついて、お恨みになるのでは、権中納言も早々と心苦しくなって、我が身がこんな目に遭うと想像だにしなかったと、心の中はげんなりと思い悩まれているが、とはいえ直接向かい合えば、とても疎んじることなどできない可愛らしさ愛おしさを感じてしまい、一人の人間の中で全く矛盾した心ではあるのだが、思ったこともしたことも、包み隠せぬほど、とろけてダメになってしまわれる。とはいえ、上品で我こそはと誇れるような出自の女であれ、人並みですらない下賤の山里の女であれ、こういう訳だとお知らせして、その人のことを了解しておかれた場合には、それ以上厳しく嫉妬する御心はない。ただ、とりわけ隠し事と隔てを嫌う御本性が、ただの予想や推量であっても、権中納言が不審な心隔てをして秘密を抱えている、などと感じ取れば、誰も彼も自分までも死んでしまえと自暴自棄になって、泣き焦がれ、恨み、まとわりついて、権中納言にとってはひどく心苦しいのであった。人が見聞きしていれば、さすがにそうもいかずに耐え忍んでいるものの、御自分一人だけで添い臥していて、すこしでも怪しいと思うことがあれば、日がな一日さらには二日三日でも、許さずに泣き恨んでおられるので、権中納言としてはひたすら不満足で、生きているのも辛いのであって、あれほど女三の宮の方を深く思っていることからしても、女四の宮の煩わしい嫉妬癖を、不愉快で鬱陶しく思っているのであるが、宮仕えで昼夜を束縛される際に、打ち解けた絡み合いから引き別れるとなると、女四の宮のことが何度も心にかかりどうにも恋しいのを、三の宮と四の宮いずれも恋いるとは我ながらなんとも道理に合わぬ二心だといぶかしんでおられる。こうしているうちに女三の宮へと思いは露ほども冷めてはいないが、女四の宮のあまりに酷い嫉妬癖は、ちょっとしたことからでも必ず気づいてしまうだろうから、それは女三の宮のためにも軽率で気の毒なことであろうと、無理して自制して、手紙の一つさえ書くのは難しく、常に女四の宮にまとはりつかれてのみ過ごしていて、……
で、権中納言が女四の宮と嫉妬ドロドロな結婚生活していた頃、退位した天皇の意向により、彼の父の関白が彼の思い人の女三の宮と結婚することになったりして、とりあえず権中納言の女三の宮への思いは絶望的になっています。
実は彼には以前にもう一人思いを寄せた姫君がいたのに、その人は行方知れずになっていたりと、色恋方面ではどうにも恵まれないわけなんですが、
こんな不運な彼は、
いろいろ不倫とか血縁とか事情が絡み合った結果、女三の宮や、権中納言が想いを寄せたもう一人の姫君と似た容貌を持っている、近頃発覚した父の隠し子である妹姫(実は権中納言が思いを寄せた姫君と同一人物)の元を訪れて、悶々としたりもしています。
ところが、こんなささやか秘かな慰めから、帰宅してきた権中納言に対し、女四の宮の例の嫉妬癖が激しく爆発します。
ただ他所ながらの御袖の上は、思ひ寄る程ならぬにたゆみて、例のいといたうまつはされたまふに、所せき御匂ひは、世の常の薫物・香の香にもあらず、染みかへり類ひなきを、ふととがめて、さればよ、あるやうありけりと、さるは異人といふべくもあらざりければ、いとよう馴れきこえたまへるあたりにて、たださばかりとしるきに、知らざらん人よりもはづかしう心うきに、御涙はほろほろとこぼれて、かばかりの時の間にだに、かう心やすくかよひける心のほどを、さしもかけはなれてつれなく宣ひけるよと思ふに、うたてゆゆしう、身も心劣りして、つらうまがまがしければ、まして人の袖まで押しあてて、いみじう泣きたまふ。「さばかり聞き所なくすずろなるすさびをだに、隔てなきよしつくりて、いとよう語りならしたまふを、いかばかり言ひ契りたる中なれば、さばかりは掲焉に思ひだに寄らずとかけはなれたまふらん」と、返す返す言ひてもあまりあるに、はては言の葉もなくて、身も耐へがたげに泣き揉まれたまふを、いかばかりかは心づきなく愛敬なしと思せど、人の御程・我が御程、荒らかにはしたなめて、人にきかれんにきやうきやうにさまあしかるべければ、「こは物に狂はせたまふか。いかにおぼさるるぞ」などばかりぞ聞こえたまふ。「何事宣ふぞ。言ひと言ふ事は、みないつはりにてありければ、さらにうとましう心うくきたなし。ただ此宵、いづちもいづちも率ておはして、水にも谷にもうち捨てて、かうわびしき目な見せたまひそ。生きても生きたるとも覚えばこそ、宮にも見えたてまつらめ。かうまがまがしかりける身なれば、此宵失ひたまへ」と泣きたまふに、言はんかたもなし。「いまさへ争はんと思うか。現し人にて見んと思はねば、かかる目は見すると知りぬれば、それはいとよし。ただ死ぬるにても、いたづらになるにても、その隠しつらん所、言ひつらん所、我に見せよ」と例の揉まれ焦がれたまふに、ともかくも言ふ謀りなければ、例の灯をうちながめて添ひ臥したまへるが、さすがにいとはづかしげになまめかしきに、うるさくて、いとうるはしく世の常なる御声にて人召して、「その灯しばしとりのけよ」と宣ふ。例の事出で来にけりと思ひて、やをら取り出づ。事もなく取りつきて、抓み食ひなどしたまへど、はてはては痛しかなしとも言はず、うち笑ひて臥したまへるに、さすがに言ひわびて、とらへて寝たまひぬ。
御格子まゐり、昼になれど、御衾ひきかづきて、起こしたまはず。「わりなきわざかな。なにがしの定めに参るべかりつるを」と宣へども、「されば、ただまろを、淵にも川にも入れて参れ」とのみ宣へば、思ひわびて臥し暮らしたまひつ。「さば、これ、いつはりなりとも、さなきとも、さだかにいふ人あらなん。耐げがたうくるしきに」と宣ふに、さすがにをかしうなりて、「されば誰かあることと言ひしぞ。などさくるしき目は見たまふ」と宣ふ。「なしと言ふとても、なき事ならばこそやすまめ。その袖の匂ひは、よく知りたり。いつよりありけるにか。昨年よりか、一昨年よりか。さらばなにしにか、ほかへはおはせし。されば、来じとて空病せし人を、すずろに呼び寄せて、かく人にわびしき目を見せさせたまふ宮ぞ、いと心うくおはします」など、言ひ知らずにくき事を、顔にさしあてて宣ひ臥したるが、むつかしうわびしけれど、耐へがたう心づきなからぬや、心ざしのあるならん。同じ人とは聞こゆれど、二の宮などは、いみじく思しそめては、かやうならんにとり籠められたまひなん。この君は、いみじうはづかしげに心ふかかりしも、かうぞくづほれたまへる。「さてある事か、なき事か」と問ひたまふに、はてはをかしうぞある。などかうすずろなる人の。さしも似かよひたまふらんと、うち思ひつづくるも、あさましうぞあるや。今日もさらに出だしきこえじと思したるに、殿より、参りたまふべきよし、御文あり。「なに事言ふぞとよ。まづ御目の色めかしさを知りたまへかし」と、つぶやきたまふもあさまし。心もゆかず折り臥しながら、さすがにはづしたまへば、御装束ひきつくろひて罷り申したまふ。はなばなと愛敬づきて。あたりもこぼるばかり、思ふ事なげに匂ひみちたるさまして、「いづこへおはして、いつ帰りたまふべきぞ」と宣ふ。うちほほゑみて。「いまとくかへりはべらん。すずろに昼な御殿籠りそ」と聞こえたまへば、「昼はたれと子やもちたまへる」と、さし寄りて宣ふもめづらかなり。「日に添へて様あしくも生いなりたまふかな」と、うちうめきて出でたまへば、さすがに我が御顔もすこし移ろひて寄り居りたまへるは、何の罪も許しつべし。……
<訳>
ところが他所で移して帰った御袖の上の匂いのことは、権中納言は妹相手では出会ってきても想いがばれるはずはないと油断していたところ、例のごとくベタベタまとわりつかれておられた際に、広がる御匂いが、並の薫き物・香の香りではなく、これ以上もなく深く染みついているのを、ふと咎めて、やっぱりだ、何か隠してることがあると、妹姫とも近しい間柄として、たいへんよく慣れ親しんでいたので、直ちにそういうことかと明らかに悟って、見知らぬ人とそうであるよりも恥ずかしく心苦しいと、御涙がポロポロとこぼれて、こんなちょっと出向いてきただけの時間の間に、ここまで親しく訪問してきたのを、こんなに遠く心隔てて何もなかったかのように仰っているのだと思って、どうにも情けなく、劣等感に陥って、辛く憎たらしければ、ついには権中納言の袖まで目に押し当てて、酷くお泣きになっていた。「ちょっと顔を出しただけの時でさえ、近くにすり寄って、仲良く語り合ってるなんて、どれだけ深い仲なのよ、私には、こんな知らんぷりを決め込んで、遠ざけるくせに」と、何度も何度も言っても言い足りず、ついには言葉さえ出せずに、耐えられない様子で泣き悶えるのを、権中納言はどうにも憎らしく面白くないと思ったが、女四の宮の身分と自分の身分を考え、うかつにも人に聞かれると体面が悪いので、厳しく叱りつけて、「キチガイが、何て事を考えてやがる」などと申し上げた。ところが「そんなこと言うんだ。言うこと言うこと、みんな嘘ばっかりだし、その上、キモイ、ウザイ、セコイ。こんな目に遭わせるくらいなら、もう私のことなんか、今夜にでも、そこでもどこでも引きずっていって、川なり谷なり投げ捨てればいいのよ。こんな死んでも変わらない酷い扱いで生かして置いとくだけなら、どっちみちお母様に顔向けなんかできないんだから、それならいっそ憎い私を、早く殺してしまいなさいよ」とお泣きになるのでどうしようもない。「まだ言うことがあるっていうの。もう生きて顔を合わせてようとは思わないから、どんな目に遭わされたって、別にどうでもいいわよ。殺すなり、壊すなり、好きにして良いから、黙り込んで隠したことだけ最後に見せてよ」と相変わらず悶え焦がれておられるので、どうして良いやらなだめる方策もないと、権大納言はとりあえず灯火をそのままに、女四の宮に寄り添って寝ることにしたが、そうなるとやはり権大納言の落ち着いた風情にあやされて、灯火もいまは煩わしく、うるわしい平静な声で人を召しだし、「その灯をしばらく取りのけなさい」と仰る。いつものように夫婦の営みが始まったのだと、侍女は灯火をそっと取り出した。女四の宮は満足げに権中納言にしがみついて、つねったり噛みついたりしておられるが、結局、これも愛しい可愛いと口には出さないまでも、ほほえんで添い寝しておられるので、女四宮はさすがにどう声をかけて良いのか口ごもったまま、しがみついてお眠りになった。
御格子を上げて、昼になったが、女四の宮は布団をひきかぶって、権中納言を起床させなかった。「困ったことだ。何かの評定があって出勤しなければならなかったのだが」と権中納言は仰ったが、「それなら、私を、淵なり川なりに沈めてから行けば良いわ」とだけ仰ったので、権中納言は思い悩みつつ臥して過ごされた。女四の宮が「それじゃあね、それがホントじゃなくて嘘でも良いから、ハッキリ誰が好きか言って欲しい。知らんぷりされるのが一番苦しくて耐えられないの」と仰ると、どうにも可愛く思われて、権中納言は「それで誰がそんな人が居ると言ったんだい。どうしてそんな苦しい目を見たのかな」と仰る。女四の宮は「居ないって言うけど、ホントに居ないなら安心するわ。でも、その袖の匂いだったら、よく知ってるの。いつから好きなの。去年から、それとも一昨年。それならなんで、好きでもない私と結婚したの。それなのに、結婚前に逃げたくなって仮病になるような人を、地位に任せて無理に呼び寄せて、私に辛い目を見させたお母様は、酷いお人ね」など、どうにも面倒なことを、顔と顔を押しつけたまま仰って臥していたが、権中納言は辛く困ったことではあるものの、耐え難いとまでは辛く思わないのも、結局、愛情があるのだろう。同じ男といっても、権中納言と対照的な友人の二の宮などは、強く恋する余り、このような女に捕らわれ引きこもってしまうこともおありだろう。ところがこの権中納言は、回りが気後れするほどの非常に思慮深い方なのに、こんなにもとろけてダメになってしまった。「さあ、いるのかな、いないのかな」など問われるのも、結局は可愛いというのである。その一方で、かつてどうにも心引かれた女に、最近見つかった妹がよく似ているものだなどと、思い続けているのも、情けないことではないか。女四の宮は、今日もまだ外に出してあげないと考えておられたのだが、父君から権中納言の参上を促す御手紙があった。「あの姫君にどんなことを言いにいくのかしら。目が色っぽくなってることにくらい言われる前に気づきなさいよ」と、この期に及んで、つぶやいておられるのはあきれるばかりである。女四の宮は、不満げに丸まって、しがみついていた手をさすがにお離しになり、権中納言は御装束を整えて、出発を挨拶申し上げる。女四の宮は、華々しい可愛らしさが、あたりにもこぼれるばかりで、理想的な色気に満ちた様子で、「どこに出かけて、いつ帰ってくるの」と仰った。ちょっと微笑んで、「すぐに帰ってくるよ。むやみに昼間から寝ていてはいけないよ」と申し上げたところ、「昼の間はどこか他所の女と寝ていて子供がいるんでしょ」と、近寄ってきて仰るのは尋常でない様子である。権中納言が「日に日に見苦しく成長していくな」と、うめきつつ出発なさるところに、さすがに少しばかり赤面して寄り添って居られるのは、どんな欠点も許してしまいそうである。……
その後、権中納言は、父の留守に屋敷を訪れては女三の宮や例の妹姫(権中納言的には両者は別人)に接近する内に、とにかく女三の宮の手紙だけは得ることが出来ました。
ところが、そんなことやってると、女四の宮の反応が権中納言的にも読者的にも大変気がかり。
かの御文ばかりを身に引き添えたまへれど、ましておそろしければ、いといたうもの遠き唐の御文の中にぞ納めたまふ。入りたまひぬれば、例のあたりもこぼるばかり愛敬づきたるさまして、更けぬる憎さにや、目も見あはせたまはず。「あなくるし。いみじかりつる風に、身さへこそすくみぬれ」とて、うち臥したまへれど、御衣いとよく引き隔てて、うちそむきて臥したまへる、心づきなきものからをかしうて、例の引き乱しきこえたまへれど、つれなうもてなして、御腕をいといたう抓みたまへれば、「堪へがたや。などかうけしからずは」と宣へば、さらに返答もしたまはず、「殿は帰りたまひぬるか」とぞ宣ふ。「もとより出でたまへらばこそ帰りたまはめ。昼よりお前に居暮らして、いとくるしや」と悩みたまへば、誰がお前にさしも許されてはと思はせて、気色ばみたまふほどこそあれ、例のまたうちこぼし、「何をして今まで帰らぬ。愛敬なしの」と、食い抓みたまふに、まめやかにいと耐へがたし。すこし更けぬとも思せば、「いとここたし、むつかし。めでたき人の移り香に染みたる人は、ひとりぞ寝たる」とまろびいでたまへば、げにかからざらましよりも、来つる方にのみ心はかい返りつつ、大嘆きぞせられたまふ。夜すがら日暮らしとり籠めて、誓言をたてさせ、我も人も耐へがたうて、うちゆるびたまふ夜なければ、此宵もいみじううるさし。あけぬれど、とりこめられて、え歩きたまはず。
<訳>
かの御手紙だけを思いの拠り所と身に携えてはいたが、こんな物が女四の宮に見つかれば以前にも増して恐ろしいので、しっかりと女性が読むことのない漢籍の中にお隠しになった。部屋にお戻りになると、女四の宮は、例の辺りにこぼれるばかりの可愛らしい様子ながら、夜更けになった不満からか、目も合わせようとなさらない。「ああ辛い。あんまりな態度に、身もすくんでしまう」と言って、横になられたが、女四の宮は離れた位置で御衣を引きかぶって、そっぽを向いて寝ておられ、それが憎たらしいながら可愛くもあって、いつものように着物を引き乱しなさったところ、つれない態度で、御腕をひどく痛くつねりなさったが、権中納言は「痛い痛い痛い痛い。なんでこんなに荒れてるかなあ」と仰って、ところがこれにも返答なされず、「お屋敷に父上がお帰りになって逃げてきたのですか」とだけ仰った。「最初からお出かけになっていないから帰ってきたとかいうわけじゃないよ。昼から父上の御前で過ごして、大変だったよ」と悩んだふりを見せたところ、女四の宮はそんなに長く御前で過ごすことが許されている人間などいるわけないと嘘を見破り、ふてくされておられたが、いつものように不平をこぼして、「どうしてこんな時間まで帰ってこないのよ。憎たらしい」と、噛みつきつねりなさったところ、今度のは本当に耐え難い。さらに少し夜が更けたと思われた頃、「うざい、キモイ。そんなにあっちの女がよければ、移り香嗅いで、一人で寝てろー」と転がって離れて行ったが、こう嫉妬されていると、向こうの人々のことばかり思い返されて、大いにお嘆きになったのであった。その後は夜の間中、昼の間中、しがみついて引きこもり、誓言させて、自分も権中納言も耐えられそうにないくらい、夜になっても離そうとせず、権中納言は今宵もうるさいと思っていた。さらに明けてもまだ、捕らえられていて、権中納言は出歩くこともお出来にならない。
とまあ以上で、女四の宮のヤンデレぶりを概ね紹介しできたと思います。
ちなみに、これらの描写は、「滑稽なまでにすさまじい嫉妬をこれほど写実的に表現している物語は、ほかに見当たらない」(前掲書 176頁)とか評されているわけですが、
流石は多くの物語中のナンバーワン。
なかなか良いヤンデレだと思います。
第二回「~レイプレイプレイプあの娘をレイプ?~」はこちら
第三回「~百合ん百合んな姫巫女の嫉妬渦巻くレズハーレム~」はこちら
参考資料
『ヤンデレ大全』 インフォレスト
他は続編記事参照
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by trushbasket
| 2009-03-31 01:01
| My(山田昌弘)








