「佐々木導誉」補足その2~闇に降り立った「ばさら」~
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おバカすぎる突き抜けた設定と無駄に熱い展開とのお陰で、僕のような麻雀を知らない人間にとっても楽しめる作品に仕上がっています。
「近代麻雀漫画生活」(http://blog.livedoor.jp/inoken_the_world/)より
「【ムダヅモ無き改革 勃発!“神々の黄昏(ラグナロク)”大戦 エピソード1】大和田秀樹」(http://blog.livedoor.jp/inoken_the_world/archives/51569054.html)
しかし考えて見ると、祖国の命運を背負って駆け引きや化かし合いをする外交というのは、確かに一種の大きなギャンブルゲームなのかもしれません。いや、外交だけじゃなくて国内政争だって同じことが言えます。賭けるのは金ではなく自分たちの社会的生命、ある時は命そのものというだけの違いで。
さて、日本史上有数の乱世だった南北朝時代を強かに泳ぎぬいた佐々木導誉という人物がいました。
「佐々木導誉」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/douyo.html)
彼は時には派手な出で立ちで派手に振る舞い「ばさら」大名と呼ばれ、ある時は政界を巧みに遊泳し敵対者を暗闘で次々に葬り、足利政権屈指の有力者として大往生しています。南北朝動乱を描いた軍記「太平記」は、そうした導誉を人々が「例の大博奕」と呼んだと記しています。人々は導誉にどんな感情を込めてそんな称号を付けたのでしょう。
導誉について見ていく前に、この当時の博打に対する見方について触れておきます。以前の雑記で少し述べましたが、十三世紀頃には博徒は一種の「職人」として社会的に認知されていました。例えば加賀国(現在の石川県南部)では国衙が博徒を管轄する「双雙六別当」なる役職もあったそうで、公式に職を持った人間として扱われていたのです。乱闘など秩序壊乱の原因になりえましたから鎌倉政権を始めとして時の政権がしばしば禁圧令を出してはいますが、一般世間からは必ずしも否定的な視点を向けられていたわけではなかったのです。「鷹尾文書」からは博奕が「芸能」であり「道」があるものと考えられており「調練」されたプロがいた事が分かります。また「梁塵秘抄」には
狗尸那城の後より 十の菩薩ぞ出でたまふ
博打の願ひを満てんとて 一六三とぞ現じたる
とあるように神仏さえもまた真剣に祈れば博打の願いをも叶えるものとされていたのです。というより、博打そのものが神意を問う手段として見られていた面がある(だからこそ遊興としての博打に反発を持つ向きもあったようですが)ようです。したがって、博徒は神意と関わる神秘の「職能」を持った人物と見られる訳です。
そうした事を考慮すると、「例の大博奕」という物言いには、導誉への苦々しい思いを込めていた人もいたでしょうが、その見事な世渡りへの賞賛が基本的にあったと見てよさそうです。実際、「太平記」がこの呼び方に言及した場面も導誉の強かさや人目を引く鮮やかな振る舞いに人々が(呆れながらも)感嘆する場面でした。政治・外交といった巨大なギャンブルの場で見事な生き残りを見せた導誉は確かに「大博奕」と呼ばれるにふさわしいように思います。
導誉は立花・闘茶といった新興文化を敏感に取り入れて派手な演出に利用し、人々の目を引き状況を有利に持ち込んだり敵対者の面目を失わせたりするのを得意としていましたが、彼に言わせればそれなんかも
政界という毒蛇の巣で生きていくにはな ああいう技の一つも必要なのさ
(小泉ジュンイチロー、「ムダヅモ無き改革」第1話より)
といったところなのかも。
思えば、権威を認めず傍若無人な「ばさら」な生き方は死と隣り合わせである危険なものでした。導誉と同様に「ばさら」として知られた土岐頼遠は光厳上皇の牛車に矢を射掛けて死罪となっていますし、同じく代表的「ばさら」であった高師直(足利政権執事)は保守派を中心とする人々から強い反発を受け足利政権内紛の当事者として殺害されています。更に政治的暗闘は多くの有力者たちを葬っていきました。将軍尊氏の弟である直義すらも例外ではなく非業の死を遂げています。導誉が追い落とした相手にせよ、細川清氏は反逆者の烙印を押され戦死し斯波高経も中央政権から去って失意のうちに世を去りました。更に戦場で落命する事も珍しくありません。導誉もまた三人の息子と二人の孫を戦場で失っています。
こうした運命がいつ導誉自身に襲い掛かっても不思議ではありませんでした。当時の武将は本拠地の中に一族の運命が極まったときに女性や子供が集団自決するための場所を予め設けるのがたしなみとされていました。導誉も本拠地である勝楽寺城に「上臈落し」の崖を作っており、そのときの覚悟を事前にしていた事が伺えます。彼が畳の上で天寿を全うできたのは幸運の産物といえます。
しかし導誉はそんな危険も知った事ではないと言わぬばかりに派手に振舞っていました。生死を分けるギリギリの境目を見抜きつつ泳ぎぬいた巧妙さもさることながら、案外に生死への執着を離れた心境で世を渡っていたのが逆に彼を大往生に導いたのではないかとも思います。「閑吟集」には
何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ
【真面目くさった所で何になろうか。人生は夢のようなものでしかない、ただ面白おかしく楽しめ】
なんて小唄があります。どうせ人はやがて死ぬ、人生は一夜の夢なのだから何を恐れる事もなく好きなように世を渡り自らを試してみようじゃないか。それで命を落とすのもまた一興。そんな感じだったのではないかと。案外、導誉は、従来の権威を否定する行動に出た時も、派手なイベントで政敵の面目を奪った時も、戦場でも、
不合理こそ博打… それが博打の本質 博打の快感 不合理に身をゆだねてこそギャンブル…
(赤木しげる、「アカギ」第3巻第26話より)
もともと損得で勝負事などしていない ただ勝った負けたをして
その結果無意味に人が死んだり不具になったりする… そっちの方が望ましい
その方が…… バクチの本質であるところの……
理不尽な死
その淵に近づける……! 醍醐味だ…
(赤木しげる、同第6巻第51話より)
なんて心情を奥底に秘めながら、いつ「理不尽な死」を迎えるか分からない危険な綱渡りそのものに人生の快感を得ていたのかもしれません。そういや彼は政敵を追い詰めるときも容赦ありませんでしたが、これもあるいは
倍プッシュだ…!といった具合だったのでしょうか。…すみません、引用してみたかっただけです。
まだまだ終わらせない…! 地獄の淵が見えるまで 勝負の後は骨も残さない
(共に赤木しげる、同第2巻第12話より)
そして彼の生き様を注視していた人々は、その派手さや大胆さ、狂気とも見える命知らずさに「ざわ… ざわ…」とばかりに息を呑みながら時に反発しながらも魅せられていたのかも知れません。
一方で、余り注目されない事ですが、無節操そうに見えながら導誉は基本的に一貫して尊氏・義詮に味方し足利将軍陣営を支え続け忠節を尽くしています(実は裏で不穏な動きをしてた事もありますが)。それだけに足利将軍からの信頼も篤く、政所別当・引付頭人といった要職を歴任した他にも政治的に大事な場面での起用が目立ちます。一例を挙げると、観応三年(1352)に南朝が京都を一時的に奪回し北朝方の天皇・上皇を全員連れ去って北朝が崩壊した事がありました。足利政権としては自らの正当性を保証するためにも北朝再建が必須で、連れ去られなかった親王を擁して即位させ光厳院の母である広義門院を「治天の君」として奉じる方針としたのです。しかし広義門院は北朝崩壊の責任が足利政権にあるとして(まあ当然ですね)反発してこれを拒否。導誉はその説得に当たり、要求を飲ませています。北朝が再建され足利政権の大義名分が再び立つ上で彼の功績は大きかったのです。導誉は勧修寺家や西園寺家など有力貴族との人脈が豊富で、朝廷関連の交渉や訴訟には大きな役割を果たしました。また南朝との和平交渉を長らく担ってもいたようです。乱世において思いのままに振る舞い力を伸ばすだけでなく、新たな秩序作りへの尽力も惜しむ事はなかった。彼はただのギャンブラーではなく、
たとえこの身が塵芥に成り果てても 私はこの国を護る!!!といった志をも胸に秘めていたのかもしれません。
(小泉ジュンイチロー、「ムダヅモ無き改革」第7話より)
「例の大博奕」という一言半句を捉えて色々話を引っ張ってみたけど、余りちゃんとした歴史の話になってないですね。無理がありすぎ。反省。
【参考文献】
日本古典文学大系太平記 三 岩波書店
佐々木導誉 森茂暁 吉川弘文館
佐々木道誉 林屋辰三郎 平凡社
蒙古襲来(上) 網野善彦 小学館
海の国の中世 網野善彦 平凡社
中世の奈良 安田次郎 吉川弘文館
新訂閑吟集 浅野建二校注 岩波文庫
ムダヅモ無き改革 大和田秀樹 竹書房
アカギ~闇に降り立った天才~ 福本伸行 竹書房
関連記事:
「『引きこもりニート列伝』に関する余談」
「『佐々木導誉』補足」
「『男泣き』について考えてみる」
導誉の意外な逸話が。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「佐々木導誉」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/douyo.html)
以外にも南北朝関連発表は
「南北朝関連発表まとめ」
にまとめてリンクしています。
関連サイト:
「肩がこらないページ」(http://www5d.biglobe.ne.jp/~katakori/index.html)より
「太平記 現代語訳」
(http://www5d.biglobe.ne.jp/~katakori/taiheiki/index.html)
「近代麻雀オリジナル」(http://kinma.takeshobo.co.jp/original/index.html)より
「ムダヅモ無き改革」
(http://kinma.takeshobo.co.jp/original/story/mudadumo/index.html)
「龍神王国―――プロレスファンページ」(http://www.kcc.zaq.ne.jp/saikyou/index.html)より
「福本伸行名言集」
(http://www.kcc.zaq.ne.jp/saikyou/hukumoto-meigen.html)
「近代麻雀漫画生活」(http://blog.livedoor.jp/inoken_the_world/)
「ムダヅモ無き改革」やら「アカギ」やらの記事が。