2009年 08月 08日
南北朝動乱とメイドさん再び~戦乱に火を注ぐ花々~
|
それは洋の東西を問わず多くの主人に愛されし 屋敷を彩る百花の繚乱
その名はメイド メイドさん!
(「仮面のメイドガイ」七巻P51)
なんて文言が漫画で見られたりもするように、メイドさんは何だかんだいって大人気。
さてメイドさんの魅力といえば、御主人様への献身的な御奉仕があるのは勿論ですが、以前の雑記に登場する台詞のようにその愛らしいメイド服もまた大きな要因である事は争えない事実かと思います。しかし、アサミ・マート先生「木造迷宮」で描かれる割烹着姿の健気な女中・ヤイさんの姿からは、メイド服がなくともメイドさんは十二分に魅力的であることが分かります。無論、あればなお良いのでしょうけど。思えば、メイド服を始めとする西洋メイド文化が我が国に導入されたのは近代以降の事でしたが、それ以前にも在原業平に始まって徳川将軍に至るまで日本人はメイドさんに惹かれ続けて来ました。たとえメイド服がなくとも、メイド萌えもまた時代を超えて我が国に脈々と伝えられた伝統的精神である事はもはや疑問の余地がありますまい。
「【分野別記事一覧】メイドさん」
さて、以前の記事で南北朝両陣営の巨頭である後醍醐天皇と足利尊氏の双方がメイドさんを母として生まれており、それが歴史の流れに影響を与えていた可能性があることについて述べました。日陰者として育った二人が反北条に傾き、揺れ動いていた鎌倉政権を打ち倒して六十年にわたる内乱へと導いた一助となったと見れなくもなさそうな感じ。
しかしこれだけに留まらず、南北朝動乱が激しさを増した背景には更にメイドさんが関わりを持っていたらしいのです。
後醍醐天皇は数多くの女性と関係を持った事で知られていますが、その中で最も寵愛されたのが阿野廉子でした。彼女は下級貴族の生まれながらその美貌と才知から後醍醐の目に留まり恒良・成良・義良の三人の皇子をもうけています。後醍醐が鎌倉政権との戦いに敗れ隠岐に流された際には同伴しており、これが後醍醐との紐帯をより強いものとしたようです。そのため建武政権成立後には隠然たる権勢を誇ったようで、後に北畠顕家からは「貴族・武士・女官・僧侶の中に政治へ口出しをするものがいる」と暗に非難されるに至っています。中でも自らや子供達の地位を守るため名和長年ら隠岐時代の功臣たちを中心に自らの派閥を形成し、鎌倉政権打倒に巨大な功績があった護良親王と対立してその失脚に一枚噛んだとされた事は悪評を呼びました。実際、護良の失脚が南朝方の戦闘力を削いだのではないかと考える向きもありますから、これが南朝の劣勢に少なからず影響した可能性はあります。護良失脚により強力な競争者がいなくなった事が足利尊氏を離反に踏み切らせたと見れなくもないですし。こう考えると、彼女は「太平記」を始めとする多くの書物で「悪女」「傾国の美女」として扱われていますが、案外これも伊達ではないのかもしれません。ま、実際には後醍醐自身が護良を危険視していた節がありますから、彼女が居なくとも結果は変わらなかった気もしますが、細かい事は気にしない。
なお、後醍醐が吉野で崩御した後には彼女の子である義良が後村上天皇として即位しており、廉子は「新待賢門院」と呼ばれ「国母」として生涯を閉じていますから一地方政権に転落したとは言え一応は栄華を極めての終焉を迎えたといえそうです。
さてそんな廉子ですが、「太平記」巻一で「三位殿ノ局ト申ケル女房、中宮の御方ニ候レケル」とあるように元来は後醍醐の中宮・西園寺禧子に使える侍女でした。メイドさんを母として生まれた後醍醐が自らもメイドさんを寵愛し、彼女の権勢欲が歴史に嵐を巻き起こす。南北朝動乱の火種だけでなく、南北朝動乱の勃発においてもメイドさんの影がちらついています。そして、後醍醐に続いて後継者の後村上もまたメイドさんを母としました。つまり、南朝はメイドさんによって系譜が紡がれたんだよ!な、なんだってー!
さて閑話休題、メイドさんが生んだもう一人の立役者・足利尊氏を見てみましょう。彼には嫡男・義詮の他に直冬という庶子が存在しました。直冬は義詮よりも年長でしたが、尊氏が彼が本当に自分の子か疑問を持ったのかなかなか認知しなかったため直義(尊氏の弟で、足利政権初期の政務を担当)が養子として引き立てています。そして直冬が直義の推薦によりようやく中国探題という要職についたまさにその時期、足利政権は新興豪族・武断派を中心とした尊氏派と名門豪族・保守派に擁立された直義派による内部対立が深刻化しており観応元年(1350)に両者は軍事衝突。直冬は尊氏派の手を逃れて九州に逃れて独自の勢力を構築し、内乱の末に養父直義が死去した後も直義派を率いて尊氏に抵抗する事になります。最終的には勢力を失い山陰に隠れ住むようになったようですが、一時は南朝と結んで京を占領した事もあり尊氏にとって少なからぬ脅威であった事は間違いありません。また、この足利政権における内紛が、一時は足利方の圧倒的勝利で収束しかけた南北朝動乱を再燃させ終結を遅らせたのは確実だといえます。
その直冬ですが、「太平記」巻二十六によれば「古ヘ将軍ノ忍テ一夜通ヒ給タリシ越前ノ局ト申ス女房ノ腹ニ出来タリシ人」だとか。要約すると尊氏が若い頃に気まぐれで手を出した越前の局と呼ばれる「女房」の子だった。古語辞典によれば「女房」とは宮中や院・宮・貴族の家に仕える女性を意味しており、つまり直冬の母もメイドさんであった可能性が十二分にある(杉本苑子「風の群像」ではそういう設定)のです。もっとも、中世・近世すなわち南北朝期には女性そのものを指すようにもなっており、実際には彼女がメイドさんであった確証はない(例えば吉川英治「私本太平記」では直冬の母は芸能一座の舞姫という設定)のですが、細けえことはいいんだよ!
それにしても、メイドさんを母として生まれ日陰者として育った事が影響して北条氏打倒を志向した尊氏でしたが、長じては自身もメイドさんに手を出してその子を日陰者にし、子はそれに影響されて父すなわち時の権力者へ反発する。ここに歴史は繰り返す、って感じです。尊氏は自身の生い立ちからメイドさんの子の扱い方を学ばなかったのでしょうか?
以上を考えると、南北朝の動乱はメイドさんによってその火種が植え付けられ、メイドさんが発火に一役買い、再燃にもメイドさんが絡んでいたと見る事も不可能ではなさそうです。そういえば数多くの歴史家が南北朝動乱は日本史有数の転換点と言及していますが、してみると、メイドさんが日本社会の変革を引き起こしたという事になるんでしょうか?
それにしても、メイドさんの扱いを間違えると深刻な結果になるのですね。冷遇して日陰者にしてもいけないし、寵愛しすぎて権勢を握らせても問題が生じるようで。ま、裏を返せば、これもメイドさんが秘める力の大きさや日本人の魂に根付いたメイドさん萌えの深さの証なのかも知れません。そういえば漫画「仮面のメイドガイ」はかつて大英帝国が繁栄した背景を二つの力に求めました。すなわち、魔術師とメイドさん。
「アーサー王を助けた宮廷魔術師マーリン
時の首相より国土防衛を依頼されたクロウリー
そして数々の魔女や闇の錬金術師たち!
英国史に数多く登場し歴史の流れを変転させ続けてきた魔に属する者たちの黒きパワー!」
「愛と笑顔で市民を鼓舞し やる気と国力を増大させた
白きメイドさんたちの奉仕のパワー!!」
(共に「仮面のメイドガイ」十巻P36)
何でも作中世界においてはこの両者が英国の表裏を支える柱だったとか。そして我が国の朝廷も安倍晴明に代表される陰陽師、文観ら護持僧といった魔術師に守護を委ねていました。これに冒頭で述べたメイド萌えの伝統を考えると、「メイドガイ」の世界観からすれば我が国でもメイドさんは当時から国を守護し支える柱だったと言えなくもないのかも。だとすると、扱いを間違えると大乱に陥るような力を秘めているのも納得です。
…何だか結論が少しばかりアレな方向に到達した気もしますが、ひょっとして僕はどこかで何かを間違えたのでしょうか?まあ、いいや。
【参考文献】
日本古典文学大系 太平記(一)~(三) 岩波書店
後醍醐天皇のすべて 佐藤和彦・樋口州男編 新人物往来社
帝王後醍醐 村松剛 中公文庫
人物叢書足利直冬 瀬野精一郎 吉川弘文館
異界と日本人 小松和彦 角川選書
風の群像―小説・足利尊氏(上)(下) 杉本苑子 講談社文庫
吉川英治歴史時代文庫 私本太平記(一)~(八) 吉川英治 講談社
全訳読解古語辞典 三省堂
仮面のメイドガイ 赤衣丸歩郎 角川書店
木造迷宮 アサミ・マート リュウコミックス
関連記事:
「『足利尊氏』補足~南北朝の動乱とメイドさん~」
「世界の偉人とメイドさん」
「いくつかの補足(『護良親王』『新田義貞』など)」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「後醍醐の女性関係と皇子たち」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/godaigofamily.html)
「足利直義」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/tadayoshi.html)
その他に南北朝関連発表は
「南北朝関連発表まとめ」
にまとめてリンクしています。
関連サイト:
「comicリュウ」(http://comicryu.com/index.html)より
「木造迷宮」(http://comicryu.com/manga/m_mokuzou.html)
「とくめー雑記(ハーレム万歳)」(http://d.hatena.ne.jp/FXMC/)より
「木造迷宮」(http://d.hatena.ne.jp/FXMC/20090301/p1)
「史劇的な物見櫓」
(http://www2s.biglobe.ne.jp/~tetuya/REKISI/REKISIMENU.HTML)より
「かみやそのこ『阿野廉子』」
(http://www2s.biglobe.ne.jp/~tetuya/REKISI/taiheiki/soman/kamiya.html)
阿野廉子を主人公にした珍しい漫画。内容は歴史物としては…。
by trushbasket
| 2009-08-08 23:44
| NF








