千年前の「※ただしイケメンに限る」 ~スイーツ(笑)クイーン清少納言おおいに語る~ 『枕草子』
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男の随筆のアホさを取り上げたのだから、公平に、女の随筆のアホさも取り上げておこうと思います。
平安時代の宮廷文学サロンで活躍した女性文人の清少納言は『枕草子』の「説教の講師は」の段で言いました。
説経の講師は、顔よき。講師の顔をつとまもらへたるこそ、その説くことのたふとさもおぼゆれ。ひが目しつれば、ふと忘るるに、にくげなるは、罪や得らむとおぼゆ。……
(『新編 日本古典文学全集 18』小学館 72、73頁)
<訳>
説経の講師は、イケメンに限る。講師の顔をずっと見ていてこそ、その説経の尊さも分かるというものだ。イケメン以外はよそ見しているうちに、ふと内容を忘れてしまうし、キモメンの話なんか聞くと、罪を犯している気分になる。……
というわけで、
説経は尊いものだ。※ただしイケメンに限る
「※ただしイケメンに限る」とは、
結局人間顔で、とりわけ女から男の評価においては、恋愛と無関係の場面においてさえ、その男が優れた能力識見を発揮しあるいは良い事をしようとも、顔が良くないと評価されない、という絶望を表現したネット上の常套句です。
ちなみに、説経は当時のレクリエーションだったそうですから、聞き手が真面目な宗教心を欠いていても、それはまあ仕方ないのです。ですが、それにしたってイケメンに限るは無いと思います。
顔で人間を選ぶのは人情として当然のことですから、イケメン好きでキモメン嫌いでも何にも悪いことはないんですが、
説経は、話聞くのが目的なんだから、話の内容とかうまさで評価してあげましょうよ。
顔が良くければ聞いてられないくらい説経に興味がなくて、説経の講師は、イケメンに限るとか言うんなら、
そもそも説経なんか聞きに来ずに、イケメンと話してれば良いじゃないですか。
その席は説経聞きたい人に空けてやってください。
女性文化に過剰に染まった軽薄な女性を揶揄する蔑称として、「スイーツ(笑)」という言葉があるわけですが、
この頭の悪い軽薄さは、まさにスイーツ(笑)と呼ぶに相応しい。
『枕草子』は王朝女流文学を代表する傑作として『源氏物語』と並んで歴史上に巨大な名声を博しているわけですが、その名声の巨大さから言って、作者の清少納言は日本スイーツ(笑)の女王と呼んで良いかと思います。
ちなみにこのスイーツ(笑)クイーンお言葉集『枕草子』は、二次元大好きキモオタ日記『徒然草』とともに古典随筆の双璧とされるんだそうですが、なるほどそれに相応しいダメさだと思います。
ところで、仮にも言語芸術、言語文化を背負う文学サロンの文人が、言葉の芸を見に行って、言葉そっちのけで、話し手の顔ばっかりとやかく言うのはどうなんでしょうねえ。そういう点でも、清少納言の文章は非難に値すると思います。あの文章の直後で、さすがに無茶苦茶言い過ぎたと申し訳なく思ったのか、清少納言、仏罰を恐れているのですが、仏様以外に、日本語に対しても申し訳なく思って欲しいものです。
参考資料
『新編 日本古典文学全集 18』小学館
『スーパー・ニッポニカ Professional for Windows』小学館
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レクリエーションの話だったので、それっぽいネタのものをいくつか
旅行業と巡礼
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/travel.html
物語の消費形態について―いわゆるオタクを時間的・空間的に相対化する試み―その2
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/genji.html
日本民衆文化史
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html