<過去記事案内>江戸小咄からちょっと思うこと
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○話の落ち着き先は下ネタ
「下司咄屎果以古語、先此巻是切」(下種の話は糞で終わるという古語で、とりあえずこの巻を終わる)
「鹿の子餅」は、この一文で終わっています。「下司咄屎果」とは、身分低い人間の話は、最初は上品でも最後は下品な話題で終わるという意味だそうです。最後に収められているのが歴史上の偉人のウンコネタだった事と、本書全体への卑下(というか謙譲)の二つの意味を込めていると思われます。もっとも大学者の話でも、主題は立派なのに下品ネタでしめた例があるようで。
「<言葉> マニアから非マニアに向けて、どういう語りをするべきか」
歴史を題材にして、エロネタ・シモネタの話をしている我々は、上品で始まって下品で終わっているのか、それとも逆なのか。ちょっと気になります。
「【分野別記事一覧】エロティシズム/グロテスク」
○待てあわてるな これは時政の罠だ
小咄集「茶のこもち」より。
「富士山はいつの頃、できました」「はて、頼朝時代さ」「そんなら、鎌倉へできそうなもの、なぜ、駿河へできました」「サァ、それが北条殿のたくみ」
徳川期においては、北条氏隆盛の基礎を築いた北条時政は源氏が樹立した鎌倉幕府を謀略で乗っ取った悪人として広く認識されていました。そのため歌舞伎などでも知恵の廻る悪役と相場が決まっており、「鎌倉三代記」のように大坂の陣を題材にした際に(徳川政権を憚ってそのままは書けないので)舞台を鎌倉期に移して家康に相当する役を充てられたりもしています。そのせいか、何でも都合の悪い事は時政の悪知恵として説明してしまおう、というわけですね。
ところで、「待てあわてるな これは孔明の罠だ」という台詞やAAがネット上で時々見られます。この元ネタは横山光輝先生の傑作「三国志」。孔明が蜀軍を率いて魏へ北伐しているときのことです。蜀軍が撤退する様子を見せた際、孔明と対峙していた魏将・司馬懿が追撃を主張する部下を抑えるためにこの台詞を吐いたのが由来でした。その一コマが、何やら俄かには信じられないものや見るからに怪しいもの(リンク先など)を見た際などのお約束として用いられるようになったようです。何でも孔明の罠にされてしまいそうですね。そういえば、孔明以外でも、何でも天狗のせいにしてしまうAAもありましたね。
「あのAAどこ?」(http://dokoaa.com/)より
「これは孔明の罠だ」(http://dokoaa.com/komei.html)
「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」(http://dokoaa.com/tengu.html)
徳川期には、これと同じような感じで何でも時政のせいにされたのでしょうか。
「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」
○夜する事を昼に、二人でする事を一人で
「今歳咄」より。
「隣の内で、『ア、いきやすいきやす』といふは、コリヤ途方もない、昼中に」と、門を見れば、戸がしめてある。「モシ、昼中に何なされます」。
隣の亭主「されば、『貧すれば鈍する』で、夜する事を、昼いたします」と、覗くもかまはず、サツサツとやる。コリヤたまらぬと、飛んで帰り、五人組(NF注:五本指を使う事から自慰をこう呼んだ)の最中、隣の亭主が来て、「お前は何をなされますぞ」「ハイ、『貧すりゃ鈍する』から、二人でするを、一人でいたします」
仕事がないからといって真昼間から…。とりあえず、
・「夜する事を、昼」するのがリア充
・「二人でするを、一人で」するのが非モテ
という理解でよろしいでしょうか。男ってのは昔も今も…。
「『ひとりでできるもん』~自慰を歴史的に少し振り返る~」
「コミュニストはSEXがお好き?」
○物をかじる化物
「茶のこもち」より。
「両国へ奇妙な見世物が出た。釘金物でも煙管のつぶれでもかぢる、途方もないやつよ」「なに、それが奇妙な事があるものだ。をらが隣の息子は、尤も男も大きし、年も二十四五だが、親のすねをかじる」。
徳川期の人間も、やっぱり「働いたら、負けだと思ってる」。
「『引きこもりニート列伝』に関する余談」
「引きこもりニート列伝外伝その1 宮沢賢治―理想郷を夢見た文学青年―」
「引きこもりニート列伝外伝その2 種田山頭火・尾崎放哉―俳人、そして廃人―」
「ダメ人間の世界史」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/dame.html)
こちらに「引きこもりニート列伝」があります。
昔と今とでは、価値観も考え方も違うところは大きいのでしょうが、変わらない面もあるのだな、と変に実感した次第です。
【参考文献】
安永期小咄本集 武藤俊夫校注 岩波文庫
歌舞伎にみる日本史 佐藤孔亮 小学館
三国志 横山光輝 潮出版社
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
関連サイト:
「江戸小噺集」(http://tibaraku.web.fc2.com/kobanasi/edo001.html)