2009年 12月 21日
戦う老人力 ~戦闘の限界年齢を西洋古代史から考える~ 古代のジジィが強すぎるの巻
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今回は久しぶりに軍事の話。
人はいったい何歳くらいまで現役で戦闘への参加を続けていられるのか、西洋古代史を題材に見てみます。
人間加齢すると肉体は衰えるもので、年老いてなお若者と互角に戦うというのは不可能。自然な考えとしては、そう結論づけられるはずです。
ところが、世の中には猛者がいるもので、ときどき年取っても元気いっぱい大暴れしてくれる人がいます。
例えば、
3世紀のローマ皇帝マクシミヌス。
彼は、軍人上がりの人物で、若い頃から剛力で鳴らした男だったのですが、その彼は、新兵の訓練の責任者を務めていた頃に、60代に入っているのに、喜々として若い者に立ち混じり、裸になってのレスリングでは自分も裸になって、若い者やさらには隊長をも次々投げ飛ばし、疲れも見せず元気いっぱいだったそうです。
それどころか、
世の中さらに上がいます。
それは、紀元前3世紀から2世紀の北西アフリカのヌミディア王マシニッサ。彼は、強健な肉体の武人であり、なんと86歳で子供を作るなどと、怪物的な元気を誇っていたのですが、この男、88歳の時に騎馬戦士として勝利を収めるなど、90年を越える人生の最晩年まで、馬を駆って大暴れ、近隣に征服の手をせっせと伸ばしていました。
というわけで、凄い武人は老いてなお強いということが分かりました、それでは普通の兵士の場合も老いてなお戦うことは可能だったのでしょうか。
これについては、紀元前4世紀、マケドニアのアレクサンドロス大王の軍隊が、大王死後に引き起こした戦乱において、一つ面白い資料を見ることができます。
それは戦乱の中で、エウメネスとアンティゴノスという二人の名将が争ったときのこと。エウメネス軍中にはアレクサンドロスの父のフィリッポス2世の代から兵士を務めているマケドニア人老兵がぞろりと揃っていたようなのですが、
何というか、すごい自信です。
ワシらはみんな70歳の歴戦の猛者、それが60にも満たぬ若造どもに負けるはずないから安心ぢゃと、老兵たちしわ寄った首を並べて将軍を励ました模様。しかも、精鋭部隊であるらしい銀盾隊だけならまだしも、その他のマケドニア一般老兵まで一緒になって。
ところで、ムキムキの漢メイドがはた迷惑な大活躍をするギャグ漫画『仮面のメイドガイ』という作品がありまして、その中で、ムキムキのメイドガイコガラシとその師匠、これまたムキムキのマスターメイドガイカミカゼが、しょーもないことで激しく争い力比べしたことがありました。そしてそこでカミカゼはコガラシと睨み合いながらコガラシのことを、60にも満たぬ若造と馬鹿にするのですが、リアルでそんな発言をするヤツがいるとは。
またまた、ご冗談を。その発想はギャグ漫画並みにおかしいです、マケドニアのお爺ちゃんたち。私の理性が思わず突っ込みを入れてしまいます。ところが、戦いの推移は、そんな理性の予想を斜め上に裏切ってくれました。すなわち、先の引用部の続きを見ると、
互角に戦ったとかそんなモンじゃない。勝利した、そんな表現は生ぬるい。圧倒した、それでも表現がなお不足する。
なんと、若造皆殺し。
ジジィ超強え。
ということで、割と普通の人でも、70代まで元気に戦える模様。人間の寿命を考えるとほぼ一生ですね。
弱者はそれまでに脱落してて壮健な老人ばかりが残ってるのかも知れませんが、それでも一軍の主力を固められる程度の大人数が残ってるわけで、怪物的な生命力とか超人的な剛勇を持った人間ばかりとまでは行きますまい。つまり、一般人の中でそこそこ強い部類に入れれば、戦闘で生涯現役は可能。
まとめると、古代史的に、やろうと思えば、あるいは他に道がなければ、戦闘に限界年齢無し。
参考資料
塩野七生著『ローマ人の物語 XII』 新潮社
長谷川博隆著『カルタゴ人の世界』 講談社学術文庫
『プルターク英雄伝 (八)』河野与一訳 岩波文庫
赤衣丸歩郎著『仮面のメイドガイ』富士見書房
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どれほど兵は神速を尊ぶか? ~歴史的に行軍速度を探求し戦争術評価の尺度とする試み~
戦争史における兵力について ~軍事史の巨人ハンス・デルブリュックの著作から~
F.E.Adcock『ギリシア人とマケドニア人の戦争術』(翻訳)について補足
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
F.E.Adcock『ギリシア人とマケドニア人の戦争術』(翻訳)(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14618338/
アレクサンドロス
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1999/991022.html
『軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史』(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14455184/
リンクを変更(2010年12月8日、21日)
人はいったい何歳くらいまで現役で戦闘への参加を続けていられるのか、西洋古代史を題材に見てみます。
人間加齢すると肉体は衰えるもので、年老いてなお若者と互角に戦うというのは不可能。自然な考えとしては、そう結論づけられるはずです。
ところが、世の中には猛者がいるもので、ときどき年取っても元気いっぱい大暴れしてくれる人がいます。
例えば、
3世紀のローマ皇帝マクシミヌス。
彼は、軍人上がりの人物で、若い頃から剛力で鳴らした男だったのですが、その彼は、新兵の訓練の責任者を務めていた頃に、60代に入っているのに、喜々として若い者に立ち混じり、裸になってのレスリングでは自分も裸になって、若い者やさらには隊長をも次々投げ飛ばし、疲れも見せず元気いっぱいだったそうです。
それどころか、
世の中さらに上がいます。
それは、紀元前3世紀から2世紀の北西アフリカのヌミディア王マシニッサ。彼は、強健な肉体の武人であり、なんと86歳で子供を作るなどと、怪物的な元気を誇っていたのですが、この男、88歳の時に騎馬戦士として勝利を収めるなど、90年を越える人生の最晩年まで、馬を駆って大暴れ、近隣に征服の手をせっせと伸ばしていました。
というわけで、凄い武人は老いてなお強いということが分かりました、それでは普通の兵士の場合も老いてなお戦うことは可能だったのでしょうか。
これについては、紀元前4世紀、マケドニアのアレクサンドロス大王の軍隊が、大王死後に引き起こした戦乱において、一つ面白い資料を見ることができます。
それは戦乱の中で、エウメネスとアンティゴノスという二人の名将が争ったときのこと。エウメネス軍中にはアレクサンドロスの父のフィリッポス2世の代から兵士を務めているマケドニア人老兵がぞろりと揃っていたようなのですが、
……軍勢の形を整へたところが、ギリシャ兵と蠻族兵とを鼓舞したエウメネース自身が、マケドニアの歩兵と銀盾兵とには、敵軍は味方の攻撃に對抗しまいから元氣を出すやうにと却つて勵まされた。と云ふのは、これらのものがフィリッポス及びアレクサンドロスに仕へた老兵であつて、その時まで敵に負けたり屈したりしたことのない格闘士のやうに、多くのものは七十歳に達し六十歳以下のものは一人もゐなかつたからである。
(『プルターク英雄伝 (八)』岩波文庫 63頁)
何というか、すごい自信です。
ワシらはみんな70歳の歴戦の猛者、それが60にも満たぬ若造どもに負けるはずないから安心ぢゃと、老兵たちしわ寄った首を並べて将軍を励ました模様。しかも、精鋭部隊であるらしい銀盾隊だけならまだしも、その他のマケドニア一般老兵まで一緒になって。
ところで、ムキムキの漢メイドがはた迷惑な大活躍をするギャグ漫画『仮面のメイドガイ』という作品がありまして、その中で、ムキムキのメイドガイコガラシとその師匠、これまたムキムキのマスターメイドガイカミカゼが、しょーもないことで激しく争い力比べしたことがありました。そしてそこでカミカゼはコガラシと睨み合いながらコガラシのことを、60にも満たぬ若造と馬鹿にするのですが、リアルでそんな発言をするヤツがいるとは。
またまた、ご冗談を。その発想はギャグ漫画並みにおかしいです、マケドニアのお爺ちゃんたち。私の理性が思わず突っ込みを入れてしまいます。ところが、戦いの推移は、そんな理性の予想を斜め上に裏切ってくれました。すなわち、先の引用部の続きを見ると、
そこでアンティゴノスの兵士に向つて進む時には『不届者め、父親に對して相濟まないぞ。』と叫んだ。さうして憤激を以て襲ひ掛かると相手の歩兵部隊は悉く滅び、刃向かうものは一人もなく大部分は白兵戦で斃れた。
(同書 同頁)
互角に戦ったとかそんなモンじゃない。勝利した、そんな表現は生ぬるい。圧倒した、それでも表現がなお不足する。
なんと、若造皆殺し。
ジジィ超強え。
ということで、割と普通の人でも、70代まで元気に戦える模様。人間の寿命を考えるとほぼ一生ですね。
弱者はそれまでに脱落してて壮健な老人ばかりが残ってるのかも知れませんが、それでも一軍の主力を固められる程度の大人数が残ってるわけで、怪物的な生命力とか超人的な剛勇を持った人間ばかりとまでは行きますまい。つまり、一般人の中でそこそこ強い部類に入れれば、戦闘で生涯現役は可能。
まとめると、古代史的に、やろうと思えば、あるいは他に道がなければ、戦闘に限界年齢無し。
参考資料
塩野七生著『ローマ人の物語 XII』 新潮社
長谷川博隆著『カルタゴ人の世界』 講談社学術文庫
『プルターク英雄伝 (八)』河野与一訳 岩波文庫
赤衣丸歩郎著『仮面のメイドガイ』富士見書房
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F.E.Adcock『ギリシア人とマケドニア人の戦争術』(翻訳)について補足
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
F.E.Adcock『ギリシア人とマケドニア人の戦争術』(翻訳)(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14618338/
アレクサンドロス
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1999/991022.html
『軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史』(当ブログ内に移転しました)
http://trushnote.exblog.jp/14455184/
リンクを変更(2010年12月8日、21日)
by trushbasket
| 2009-12-21 00:06
| My(山田昌弘)








