2010年 07月 11日
<「いっき おんらいん」発売記念>一揆の様々な形態について~一人でも「いっき」~
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昔、サンソフトから発売されたファミリーコンピュータ時代のゲームに「いっき」というのがありました。一部でコアな人気があるようで、最近になってPS3でオンラインゲーム化されたようですね。
このゲームは文字通り農民が代官の悪政に抵抗して立ち上がる「一揆」を題材にしたものであり、一人あるいは二人で代官配下の忍者などと戦うものでした。しかし、アイテムである竹槍を取ると逆に不利になったりBGMがチープだったり面の数が少なくて物足りないといった感想がもたれることもしばしばでした。一方で、アーケード向けのゲームは評価が高いようです。
しかし、ゲームの出来不出来以前に「一揆」という言葉の意味からしてこのゲームにはおかしな点があります。それは、プレイヤーが一人あるいは二人だけである事。「一揆」は元来「集団で同一行動を取る」という意味であり、しかも必ずしも農民の蜂起を意味するとは限りません。足利時代には土着豪族達の間の連合体として「一揆」が結成され、一族間で分家が惣領から分離するのを防いだり、逆に他の家と地縁で結合して惣領に対抗したりしていました。この頃には豪族達は分家を重ね個々の力が弱小になったためそうした連合を組んでいたのです。一揆内部では平等な同盟関係という形を取るため署名順を籤引で決めたり傘連判といった円の周囲に放射状に署名する形式が採用されたりしました。
以上から、「一揆」を一人で行うという事は本来ありえなく、また農民が立ち上がりさえすれば即「一揆」という訳では必ずしもないはずなのです。「いっき」がバカゲー呼ばわりされる一因もそこにあると思われます。しかし、ひょんな所からこの問題を解決する糸口が見えました。
「HELLSING」作者として知られる平野耕太先生の作品に「進め!!聖学電脳研究部」というのがあります。ゲームサークルを舞台に、変人として名高く変なゲームを好む部長を中心としてドタバタ騒ぎをするパロディ満載のギャグ漫画です。その漫画の作中で、ゲームキャラクターに扮装するパーティーに参加するためどのキャラの格好をするか頭を悩ませる話があるのですが、部長が主人公に勧めたのが「いっき」キャラへの扮装。普通はもっとメジャーでカッコよいキャラに扮装するものだと思うのですが…。で、その漫画における「いっき」キャラの格好を具体的に見ると、片手に竹槍、もう片方の手に請願書を持っているというものでした。今回、この請願書に注目して考察する事にします。
徳川期になると農民が年貢減免などを要求して立ち上がる「百姓一揆」が行われたのは周知の事実であり、上述ゲーム「いっき」もそれを念頭に置いたものと思われます。百姓一揆は徳川中期の農民が大規模に参加する「惣百姓一揆」や幕末期の豪農・商人に対する打ちこわしが中心となった「世直し騒動」が有名ですが、初期には村役人(有力農民)が代表して大名や幕府に訴え出る「越訴」が主流でした。その中でも特に有名なのが佐倉惣五郎で、伝えられるところによると惣五郎は承応年間(十七世紀半ば)の佐倉の名主だったとか。彼は領主であった堀田正信が始めた新規の重課の廃止を求めて他の名主と共に郡奉行や国家老に要求したものの拒否され、江戸に出て藩邸に訴えても取り上げらかったため主だった代表六人で老中に訴えたそうです。しかしこれも果たせず、最後の手段として惣五郎が将軍に直訴。要求は実現されたものの、惣五郎一家は処刑されその怨霊によって堀田家は断絶したと伝えられています。この伝承には「地蔵堂通夜物語」や「堀田騒動記」といった実録物語のような後世の作為も混じっていますが、十八世紀初頭の「総葉概録」に「公津村の民総五罪ありて肆せらる時、自ら冤と称し、城主を罵りて死し、時々祟りを現わし、遂に堀田氏を滅す、因て其の霊を祭りて一祠を建て惣五宮と称す」と記されており核となった事実はあるようです。惣五郎は後世に広く英雄視され嘉永四年(1851)には「偐紫田舎源氏」(柳亭種彦による源氏物語のパロディ)の世界を絡ませた「東山桜荘子」として歌舞伎化され、現在は役名を実名にした「佐倉義民伝」として上演されています。惣五郎のように農民のため生命を犠牲にして貢献した人々は「義民」として祀られる事が多く、他に十七世紀後半に沼田藩主真田信澄の苛政を訴えて処刑されたとされる磔茂左衛門が有名です。彼らは、その犠牲によって生命を救われた多くの一般農民達や彼らの行為に感銘を受けた人々によってその名を今日まで語り継がれているのです。
請願書の存在から越訴に着目して考察すると、「いっき」の主人公は農民達を代表して直訴に行こうとしているのかも知れないという可能性に思い至ります(その割にはえらく戦闘的ですが)。だとすると、一人あるいは二人で「一揆」を行っているのにも納得がいかなくもありません。しかしそうすると、おにぎりを取ってスピードアップしたり腰元に懸想されて身動きできなくなったり滑稽な代官にアタックしたりといったコミカルな世界観の裏には主人公がその後に身を犠牲にして処刑されるという悲劇が隠れているのでしょうか?まさかとは思いますが、直訴先の家来をバッタバッタ倒してますしこれが罪に問われたらと心配になってきます。そう考えると、「いっき」をバカゲーとして笑っているのが気がとがめてきます。
しかし、新時代の「いっき」は仲間と共に多人数での戦い(といっても最大12人だそうですが)。これで多人数による惣百姓一揆の一部をなしていると考えられなくもない形になりましたから、これで少しは権べ(「いっき」の主人公)が首謀者として処刑される可能性は減ったと期待を持てるかも?
【参考文献】
日本の歴史9南北朝の動乱 佐藤進一 中公文庫
日本の歴史15大名と百姓 佐々木潤之助 中公文庫
日本大百科全書 小学館
進め!!聖学電脳研究部 平野耕太 新声社
関連記事:
「ああ人生に涙あり?―東西の回国伝説―」
サン電子は「水戸黄門」シリーズも出しています。また、「義民伝説」と同様に回国伝説も民衆の夢を反映しています。
「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」
冒頭でバカゲーとして名高い別のゲームに触れています。
「撃て、カニ光線!! 目覚めよ、世知辛い夜のサンタクロースの使徒達よ。」
虐げられた民衆が立ち上がってより良い明日をつかむ事を祈った人物に関する話。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「本居宣長『秘本 玉くしげ 上』」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/tamakushi21.html)
「本居宣長『秘本 玉くしげ 下』」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/tamakushi22.html)
困窮し一揆を起こす農民に同情的な意見を述べています。
関連サイト:
「サンソフト公式サイト」(http://www.sun-denshi.co.jp/soft/)
「バカ文化研究課」(http://hell-z.hp.infoseek.co.jp/baka_rabo.htm)より
「進め!!聖学電脳研究部」(http://hell-z.hp.infoseek.co.jp/baka/dennou.htm)
「国立歴史民俗博物館」(http://www.rekihaku.ac.jp/index.html)より
「義民の世界 佐倉惣五郎伝説」(http://www.rekihaku.ac.jp/about/books/1.html)
「関東周辺ドライブマップ」(http://www.asahi-net.or.jp/~kr5t-hrks/index.htm)より
「宗吾霊堂」(http://www.asahi-net.or.jp/~kr5t-hrks/t19fah30.htm)
「からっ風倶楽部」(http://s42masa71.ld.infoseek.co.jp/index.html)より
「茂左衛門と沼田廃城」
(http://s42masa71.ld.infoseek.co.jp/shiro/numata/txt-numata/haijyou.htm)
「サンソフト公式サイト」(http://www.sun-denshi.co.jp/soft/)より
「いっき おんらいん」(http://sunsoft.jp/official/ikki/ps3/)
このゲームは文字通り農民が代官の悪政に抵抗して立ち上がる「一揆」を題材にしたものであり、一人あるいは二人で代官配下の忍者などと戦うものでした。しかし、アイテムである竹槍を取ると逆に不利になったりBGMがチープだったり面の数が少なくて物足りないといった感想がもたれることもしばしばでした。一方で、アーケード向けのゲームは評価が高いようです。
「芸夢亭」(http://kakutei.cside.com/game.htm)より
「いっき」(http://kakutei.cside.com/game/ikki.htm)
しかし、ゲームの出来不出来以前に「一揆」という言葉の意味からしてこのゲームにはおかしな点があります。それは、プレイヤーが一人あるいは二人だけである事。「一揆」は元来「集団で同一行動を取る」という意味であり、しかも必ずしも農民の蜂起を意味するとは限りません。足利時代には土着豪族達の間の連合体として「一揆」が結成され、一族間で分家が惣領から分離するのを防いだり、逆に他の家と地縁で結合して惣領に対抗したりしていました。この頃には豪族達は分家を重ね個々の力が弱小になったためそうした連合を組んでいたのです。一揆内部では平等な同盟関係という形を取るため署名順を籤引で決めたり傘連判といった円の周囲に放射状に署名する形式が採用されたりしました。
以上から、「一揆」を一人で行うという事は本来ありえなく、また農民が立ち上がりさえすれば即「一揆」という訳では必ずしもないはずなのです。「いっき」がバカゲー呼ばわりされる一因もそこにあると思われます。しかし、ひょんな所からこの問題を解決する糸口が見えました。
「HELLSING」作者として知られる平野耕太先生の作品に「進め!!聖学電脳研究部」というのがあります。ゲームサークルを舞台に、変人として名高く変なゲームを好む部長を中心としてドタバタ騒ぎをするパロディ満載のギャグ漫画です。その漫画の作中で、ゲームキャラクターに扮装するパーティーに参加するためどのキャラの格好をするか頭を悩ませる話があるのですが、部長が主人公に勧めたのが「いっき」キャラへの扮装。普通はもっとメジャーでカッコよいキャラに扮装するものだと思うのですが…。で、その漫画における「いっき」キャラの格好を具体的に見ると、片手に竹槍、もう片方の手に請願書を持っているというものでした。今回、この請願書に注目して考察する事にします。
徳川期になると農民が年貢減免などを要求して立ち上がる「百姓一揆」が行われたのは周知の事実であり、上述ゲーム「いっき」もそれを念頭に置いたものと思われます。百姓一揆は徳川中期の農民が大規模に参加する「惣百姓一揆」や幕末期の豪農・商人に対する打ちこわしが中心となった「世直し騒動」が有名ですが、初期には村役人(有力農民)が代表して大名や幕府に訴え出る「越訴」が主流でした。その中でも特に有名なのが佐倉惣五郎で、伝えられるところによると惣五郎は承応年間(十七世紀半ば)の佐倉の名主だったとか。彼は領主であった堀田正信が始めた新規の重課の廃止を求めて他の名主と共に郡奉行や国家老に要求したものの拒否され、江戸に出て藩邸に訴えても取り上げらかったため主だった代表六人で老中に訴えたそうです。しかしこれも果たせず、最後の手段として惣五郎が将軍に直訴。要求は実現されたものの、惣五郎一家は処刑されその怨霊によって堀田家は断絶したと伝えられています。この伝承には「地蔵堂通夜物語」や「堀田騒動記」といった実録物語のような後世の作為も混じっていますが、十八世紀初頭の「総葉概録」に「公津村の民総五罪ありて肆せらる時、自ら冤と称し、城主を罵りて死し、時々祟りを現わし、遂に堀田氏を滅す、因て其の霊を祭りて一祠を建て惣五宮と称す」と記されており核となった事実はあるようです。惣五郎は後世に広く英雄視され嘉永四年(1851)には「偐紫田舎源氏」(柳亭種彦による源氏物語のパロディ)の世界を絡ませた「東山桜荘子」として歌舞伎化され、現在は役名を実名にした「佐倉義民伝」として上演されています。惣五郎のように農民のため生命を犠牲にして貢献した人々は「義民」として祀られる事が多く、他に十七世紀後半に沼田藩主真田信澄の苛政を訴えて処刑されたとされる磔茂左衛門が有名です。彼らは、その犠牲によって生命を救われた多くの一般農民達や彼らの行為に感銘を受けた人々によってその名を今日まで語り継がれているのです。
請願書の存在から越訴に着目して考察すると、「いっき」の主人公は農民達を代表して直訴に行こうとしているのかも知れないという可能性に思い至ります(その割にはえらく戦闘的ですが)。だとすると、一人あるいは二人で「一揆」を行っているのにも納得がいかなくもありません。しかしそうすると、おにぎりを取ってスピードアップしたり腰元に懸想されて身動きできなくなったり滑稽な代官にアタックしたりといったコミカルな世界観の裏には主人公がその後に身を犠牲にして処刑されるという悲劇が隠れているのでしょうか?まさかとは思いますが、直訴先の家来をバッタバッタ倒してますしこれが罪に問われたらと心配になってきます。そう考えると、「いっき」をバカゲーとして笑っているのが気がとがめてきます。
しかし、新時代の「いっき」は仲間と共に多人数での戦い(といっても最大12人だそうですが)。これで多人数による惣百姓一揆の一部をなしていると考えられなくもない形になりましたから、これで少しは権べ(「いっき」の主人公)が首謀者として処刑される可能性は減ったと期待を持てるかも?
【参考文献】
日本の歴史9南北朝の動乱 佐藤進一 中公文庫
日本の歴史15大名と百姓 佐々木潤之助 中公文庫
日本大百科全書 小学館
進め!!聖学電脳研究部 平野耕太 新声社
関連記事:
「ああ人生に涙あり?―東西の回国伝説―」
サン電子は「水戸黄門」シリーズも出しています。また、「義民伝説」と同様に回国伝説も民衆の夢を反映しています。
「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」
冒頭でバカゲーとして名高い別のゲームに触れています。
「撃て、カニ光線!! 目覚めよ、世知辛い夜のサンタクロースの使徒達よ。」
虐げられた民衆が立ち上がってより良い明日をつかむ事を祈った人物に関する話。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「本居宣長『秘本 玉くしげ 上』」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/tamakushi21.html)
「本居宣長『秘本 玉くしげ 下』」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/tamakushi22.html)
困窮し一揆を起こす農民に同情的な意見を述べています。
関連サイト:
「サンソフト公式サイト」(http://www.sun-denshi.co.jp/soft/)
「バカ文化研究課」(http://hell-z.hp.infoseek.co.jp/baka_rabo.htm)より
「進め!!聖学電脳研究部」(http://hell-z.hp.infoseek.co.jp/baka/dennou.htm)
「国立歴史民俗博物館」(http://www.rekihaku.ac.jp/index.html)より
「義民の世界 佐倉惣五郎伝説」(http://www.rekihaku.ac.jp/about/books/1.html)
「関東周辺ドライブマップ」(http://www.asahi-net.or.jp/~kr5t-hrks/index.htm)より
「宗吾霊堂」(http://www.asahi-net.or.jp/~kr5t-hrks/t19fah30.htm)
「からっ風倶楽部」(http://s42masa71.ld.infoseek.co.jp/index.html)より
「茂左衛門と沼田廃城」
(http://s42masa71.ld.infoseek.co.jp/shiro/numata/txt-numata/haijyou.htm)
by trushbasket
| 2010-07-11 07:14
| NF








