2010年 09月 05日
近代知識人の命名の一例~近代日本のDQNネーム~
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近年、「DQNネーム」という言葉が一部で囁かれています。近年の親が、子供に読みづらかったりや変な意味の言葉に由来する名前をつける風潮がまま見られる事を問題視して、そういった珍名を「DQNネーム」と呼んでいるようです。そこで、今回は例によって歴史に少し眼を向けて類例を探してみましょう。今回は日本近代史を題材に知識人の事例を二、三ほど検討してみます。
大正期における代表的な急進的左翼・無政府主義者として知られる大杉栄は、愛人で思想的同志である伊藤野枝との間に大正六年(1917年)に娘をもうけました。その娘に大杉は「魔子」という一風変わった名を付けたのですが、その理由について大杉自身が『二人の革命家』序文でこう述べています。
世間からの悪評に対する反発心が背景にあったとは言え、いくらなんでも「悪魔の子」はちょっとあんまりな気がします。流石に母親である伊藤野枝は反対したそうなのですが押し切られてしまったとか。因みに、両親が関東大震災直後に暗殺された後、魔子は「真子」と改名したそうで、やはりその名前のままでは生き辛かったんでしょうね。ただでさえ、世情からいって無政府主義者の子というだけで風当たりは強かったでしょうし。
明治から昭和初期にかけて活躍した女流歌人・与謝野晶子は夫・鉄幹との間に十一人の子をもうけましたが、そのうち四男にアウギュスト、五女にエレンヌと名づけています。アウギュストという名は、パリで彫刻家ロダンに面会できた事にちなんでだそうで、晶子の息子への期待と愛情が込められたものと理解してよいでしょう。とはいえ、色々と気苦労が多かったようで後にアウギュストは「昱」と改名しています。晶子は文学活動の傍らでよく子供達を育て上げた愛情深い母親として知られていますが、そんな彼女でもハイになったのかやらかしてしまう事はあったのですね。
以上を見ると、近代にも現在なら「DQNネーム」と分類されても不思議ではない命名の事例が散見されたようです。また、ここでは近代知識人だけを問題にしましたが、前近代を見ても兼好法師も「徒然草」第百十六段で
なんて言っていますから、同様な問題は昔からあったものと思われます。「DQNネーム」は現代に限った問題ではない事が分かりましたが、現代に応用できる結果かは分かりません。
ただ、昔の例でも場合によっては改名を余儀なくされたりしている事から、極端な珍名は(白眼視やいじめの原因となったりして)子供に苦労を背負わせる事になるという事は言えそうです。歌人・俵万智は
と詠んでいますが名前が子供の人生に与える影響が大きいのは否定できません。まあ、智恵を絞り期待を込めて思い入れのある名をつけてやろうという親の情だったりする事もあるのはわからなくもありません。ただ、一般論として、変な意味の言葉に聞こえる名前は苛められる原因となりかねませんし、他人がすんなり読めない名前も社会の中で個人識別に用いられるという名前の機能を考えると問題が大きいのじゃないかという気はします。思い入れとの兼ね合いが難しいところですね。
【参考文献】
日録大杉栄伝 大杉豊編著 社会評論社
与謝野鉄幹 青井史 深夜叢書社
名文どろぼう 竹内政明 文春新書
新訂徒然草 西尾実・安良岡康作校注 岩波文庫
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「コミュニストはSEXがお好き?」
「スイーツ(笑)断罪 1330 ~リアル女はノー・センキュー 僕はフィクションに恋をする~ 徒然草の恋愛論」
「貴公子たちの蛮行―因果の歴史が、また一ページ―」
一番下はDQN関連の話題。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「引きこもりニート列伝その3 鴨長明・兼好法師」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet03.html)
「引きこもりニート列伝その35 ゴータマ・シッダールタ」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet35.html)
子に「障壁」という意味の名をつけたという説も。
関連サイト:
「DQNネーム(子供の名前@あー勘違い・子供がカワイソ)」(http://dqname.jp/)
「DQNネーム」のデータベース。俵万智の歌や徒然草の一説もコメントとして引用されています。収録された名前については、あえてノーコメントとさせていただきます。
「らばQ」(http://labaq.com/)より
「「アドルフ・ヒトラー」という名前の3歳児、誕生日ケーキを拒否される」
(http://labaq.com/archives/51141631.html)
もちろん、海外にも似たような話はあります。不要な苦労をさせられるのは名を付けられた子供という点も日本と同様です。
もし大杉栄や兼好法師に興味がある方は、よろしければ『ダメ人間の日本史』の「大杉栄 ツンデレ、ヤンデレ、どっちもいいなあ ~でも刃傷沙汰には御用心 優柔不断なヤリチンは命がけ~」「吉田兼好 女など心に浮かぶ虚像で十分 ~700年前の二次元大好きキモオタのリアル女弾劾の声を聞け~」も御参照ください。
大正期における代表的な急進的左翼・無政府主義者として知られる大杉栄は、愛人で思想的同志である伊藤野枝との間に大正六年(1917年)に娘をもうけました。その娘に大杉は「魔子」という一風変わった名を付けたのですが、その理由について大杉自身が『二人の革命家』序文でこう述べています。
「僕等があんまり世間から悪魔!悪魔!と罵られたものだから、つい其の気になって、悪魔の子なら魔子だと云ふので魔子と名づけて了つた」(大杉豊編著『日録大杉栄伝』 社会評論社 211頁)
世間からの悪評に対する反発心が背景にあったとは言え、いくらなんでも「悪魔の子」はちょっとあんまりな気がします。流石に母親である伊藤野枝は反対したそうなのですが押し切られてしまったとか。因みに、両親が関東大震災直後に暗殺された後、魔子は「真子」と改名したそうで、やはりその名前のままでは生き辛かったんでしょうね。ただでさえ、世情からいって無政府主義者の子というだけで風当たりは強かったでしょうし。
明治から昭和初期にかけて活躍した女流歌人・与謝野晶子は夫・鉄幹との間に十一人の子をもうけましたが、そのうち四男にアウギュスト、五女にエレンヌと名づけています。アウギュストという名は、パリで彫刻家ロダンに面会できた事にちなんでだそうで、晶子の息子への期待と愛情が込められたものと理解してよいでしょう。とはいえ、色々と気苦労が多かったようで後にアウギュストは「昱」と改名しています。晶子は文学活動の傍らでよく子供達を育て上げた愛情深い母親として知られていますが、そんな彼女でもハイになったのかやらかしてしまう事はあったのですね。
以上を見ると、近代にも現在なら「DQNネーム」と分類されても不思議ではない命名の事例が散見されたようです。また、ここでは近代知識人だけを問題にしましたが、前近代を見ても兼好法師も「徒然草」第百十六段で
「寺院の号、さらぬ万の物にも、名を付くる事、昔の人は、少しも求めず、ただ、ありのままに、やすく付けけるなり。この比は、深く案じ、才覚をあらはさんとしたるやうに聞ゆる、いとむつかし。人の名も、目慣れぬ文字を付かんとする、益なき事なり。
何事も、珍らしき事を求め、異説を好むは、浅才の人の必ずある事なりしとぞ。」
(『徒然草』 岩波文庫 198頁)
<現代語訳>
寺院の号やその他の様々な物に名を付ける際、昔の人は特に思案を凝らすことなく、ただありのままに分かりやすい名を付けたものだ。それなのに、この頃は、色々と変に考え込んで、智恵や学があるところをみせてやろうとしているように見えるのは、何ともいやなものだ。人の名前にしても、見慣れず違和感のある文字を使おうとしているが、そんな事をしても仕方がないのだが。
何にせよ、珍しさばかりを追求して、普通と違ったものを好むのは、大して才覚のない人間に必ず見られる事である。
なんて言っていますから、同様な問題は昔からあったものと思われます。「DQNネーム」は現代に限った問題ではない事が分かりましたが、現代に応用できる結果かは分かりません。
ただ、昔の例でも場合によっては改名を余儀なくされたりしている事から、極端な珍名は(白眼視やいじめの原因となったりして)子供に苦労を背負わせる事になるという事は言えそうです。歌人・俵万智は
とりかえしつかないことの第一歩 名付ければその名になるおまえ
と詠んでいますが名前が子供の人生に与える影響が大きいのは否定できません。まあ、智恵を絞り期待を込めて思い入れのある名をつけてやろうという親の情だったりする事もあるのはわからなくもありません。ただ、一般論として、変な意味の言葉に聞こえる名前は苛められる原因となりかねませんし、他人がすんなり読めない名前も社会の中で個人識別に用いられるという名前の機能を考えると問題が大きいのじゃないかという気はします。思い入れとの兼ね合いが難しいところですね。
【参考文献】
日録大杉栄伝 大杉豊編著 社会評論社
与謝野鉄幹 青井史 深夜叢書社
名文どろぼう 竹内政明 文春新書
新訂徒然草 西尾実・安良岡康作校注 岩波文庫
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「コミュニストはSEXがお好き?」
「スイーツ(笑)断罪 1330 ~リアル女はノー・センキュー 僕はフィクションに恋をする~ 徒然草の恋愛論」
「貴公子たちの蛮行―因果の歴史が、また一ページ―」
一番下はDQN関連の話題。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「引きこもりニート列伝その3 鴨長明・兼好法師」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet03.html)
「引きこもりニート列伝その35 ゴータマ・シッダールタ」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet35.html)
子に「障壁」という意味の名をつけたという説も。
関連サイト:
「DQNネーム(子供の名前@あー勘違い・子供がカワイソ)」(http://dqname.jp/)
「DQNネーム」のデータベース。俵万智の歌や徒然草の一説もコメントとして引用されています。収録された名前については、あえてノーコメントとさせていただきます。
「らばQ」(http://labaq.com/)より
「「アドルフ・ヒトラー」という名前の3歳児、誕生日ケーキを拒否される」
(http://labaq.com/archives/51141631.html)
もちろん、海外にも似たような話はあります。不要な苦労をさせられるのは名を付けられた子供という点も日本と同様です。
もし大杉栄や兼好法師に興味がある方は、よろしければ『ダメ人間の日本史』の「大杉栄 ツンデレ、ヤンデレ、どっちもいいなあ ~でも刃傷沙汰には御用心 優柔不断なヤリチンは命がけ~」「吉田兼好 女など心に浮かぶ虚像で十分 ~700年前の二次元大好きキモオタのリアル女弾劾の声を聞け~」も御参照ください。
by trushbasket
| 2010-09-05 22:55
| NF








