2010年 12月 31日
<2010年を振り返る>ゲゲゲの「神国」~水木しげる先生の天皇観~
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今年は、NHK連続テレビドラマで『ゲゲゲの女房』が大ヒットして、映画化もされたようですね。連続テレビドラマがこれだけ話題になったのは久々じゃないでしょうか。
大概の方は御存知だと思いますが、この『ゲゲゲの女房』の原作は漫画家・水木しげる先生の奥様・武良布枝さんによる自伝です。それにしても、水木先生が現在もなお御健在なのは我が国の漫画文化の上でも非常にありがたいことだと思います。いつまでも、御夫婦ともども御元気で過ごしていただきたいものです。
さて、水木先生といえば、大分前になりますがこのブログで「神国日本」の姿を最も正解に近く描き出しているのは水木ワールドじゃないかという内容の記事を書いた覚えがあります。本居宣長『古事記伝』によれば日本における「神」は人間であれ自然物であれ、良いものであれ悪いものであれ、尋常でなく常識離れしたものすべて、と定義されており、「神国」とはそうした神を祀り付き合いながらこれまでやってきた国、という意味らしいという内容の記事でした。これに関してですが、水木先生の著書によれば
とあり、日本の「神」には水木先生の描く妖怪世界に出没していてもおかしくない存在も多々いるという事みたいです。やはり「神国日本」の本来の姿に一番近いのは水木ワールドのようです。
ところで、「神国日本」という言葉からは天皇関連を連想される方も多いと思います。ついでにここで水木先生が天皇についてどのように考えておられるのかを見てみると、まず戦中を回想して
と語る一方で
と戦後の象徴天皇については非常に肯定的な発言をされています。天皇は上述したような''カミ''たちの主としてこの国を見守り無事を祈る存在という事ですね。確かに、歴史的に見ても天皇は神々に祈りを捧げる「巫女」として「女性的」な一面も強い存在でした。
そういえば、水木先生の作品世界でも「昭和天皇」には二面性がありました。水木先生は戦中に南方の最前線へ送られそこで片腕を失っていますが、その際の体験を基にした戦記ものを多数描いておられます。そうした作品群では、「天皇陛下」という言葉には横暴な上官たちが兵士達を消耗品として無体な命令で死地へ追いやるための錦の御旗という性格が強く、上官が気に入らない兵に向かって
などといたぶるための口実にされています。一方、南方熊楠の伝記漫画『猫楠』では昭和天皇本人が登場しますが、ここでは熊楠の理解者であり晩年の熊楠に大きな名誉と喜びをもたらした存在として肯定的に描かれています。例えば熊楠に「どうしてもお会いになるときかれない」というので作中の狂言回し的役割である猫に「面白い人」(水木しげる『猫楠』角川ソフィア文庫 377頁)呼ばわりされてますし、熊楠から菌類の標本を献上されたときには感嘆から「フハッ」(同書 386頁)と叫び声をお上げになり水木ワールドの住人になりきっておられます。また、面会の際に熊楠が天皇に礼をするのを見て天皇も礼を返され、それを見た熊楠がまた礼をし、それに対し天皇が(以下略)、というのがしばらく続き
と熊楠が大感激したという逸話も同作には描かれています。
やはり、水木先生としては
という辺りが天皇に関する結論になるようです。歴史的に見ても、水木先生の視点からも、天皇は(上述した意味での)「神国日本」(もしくは水木ワールド)の''主''として見守る存在というのが相応しいという事ですね。
【参考文献】
妖怪天国 水木しげる 筑摩書房
水木しげるの戦記選集 宙出版
猫楠 水木しげる 角川ソフィア文庫
関連記事:
「「神国日本」について考える」
「「あっちが神ならこっちは女神だ」~日本の王権について民俗学的に考える~」
「神道思想史概説」
歴史的に見ると、天皇はHENTAIの国日本を温かく見守られ、時には下々の先頭に立ってHENTAIの模範をお示しになる事すら辞さない存在だったりします。そうした天皇の御姿については、よろしければ社会評論社『ダメ人間の日本史』を御参照ください。
(「仁徳天皇 女房恐い、でも女漁りはやめられない ~古代国家の名君の、何ともヘタレな憂鬱の種~」
「醍醐天皇 藤原伊尹 木曽義仲 恋の時代の平安朝の歪んだ恋の虜たち ~平安ロリコン英雄伝~」
「花山天皇 華やかな王朝時代の若き帝王は政治行為も性行為もフリーダム」
「白河天皇 可愛さ余って(義理だけど)我が子に手出し ~好色専制君主の過剰な愛情~」
「後白河法皇 エロマンガ大王 ~天皇家の権威よりエロマンガ趣味を優先する背徳異形の天皇家首領~」
「後醍醐天皇 幼女誘拐・セックス宗教 どんとこい 政治工作のためだもの ~理由が何だろうがダメなものはダメ~」
「後水尾天皇 徳川家光 江戸時代の政治体制を固めた朝廷と幕府の女装の最高指導者たち ~女装者の魂の共鳴で朝幕融和天下泰平~」などを収録)
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関連サイト:
「連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』」(http://www9.nhk.or.jp/gegege/)
「映画『ゲゲゲの女房』公式サイト」(http://www.gegege-eiga.com/)
大概の方は御存知だと思いますが、この『ゲゲゲの女房』の原作は漫画家・水木しげる先生の奥様・武良布枝さんによる自伝です。それにしても、水木先生が現在もなお御健在なのは我が国の漫画文化の上でも非常にありがたいことだと思います。いつまでも、御夫婦ともども御元気で過ごしていただきたいものです。
さて、水木先生といえば、大分前になりますがこのブログで「神国日本」の姿を最も正解に近く描き出しているのは水木ワールドじゃないかという内容の記事を書いた覚えがあります。本居宣長『古事記伝』によれば日本における「神」は人間であれ自然物であれ、良いものであれ悪いものであれ、尋常でなく常識離れしたものすべて、と定義されており、「神国」とはそうした神を祀り付き合いながらこれまでやってきた国、という意味らしいという内容の記事でした。これに関してですが、水木先生の著書によれば
昔から、妖怪と霊(かみ)の区別はつきにくいものだが、それは妖怪と幽霊の区別がむずかしいのと同じことで''ある種の霊''なのであろう。
我々は、あまり感じないけれども、そうした祖先の時からいる霊々(かみがみ)に守られているのだ。
(共に水木しげる『妖怪天国』筑摩書房 52頁)
妖怪も神も悪魔も不可知な世界のものなのだが、目にはみえにくいけれどもあるものなのだ。あるいはあるかもしれないものなのだ。
そういうものは人類が生まれてからなんとなく人間と共存しているもののようである。
(同書 58頁)
幽霊と妖怪の境界線は、どこでもハッキリしないが、妖怪とカミサマの境界線もハッキリしない。
そうした妖怪ともカミサマともつかぬものが、どうやら四、五百はある、いやもっといるのかもしれない。
(同書 64頁)
とあり、日本の「神」には水木先生の描く妖怪世界に出没していてもおかしくない存在も多々いるという事みたいです。やはり「神国日本」の本来の姿に一番近いのは水木ワールドのようです。
ところで、「神国日本」という言葉からは天皇関連を連想される方も多いと思います。ついでにここで水木先生が天皇についてどのように考えておられるのかを見てみると、まず戦中を回想して
その頃は、なんでも「天皇陛下」という名でいじめられた。
(同書 230頁)
と語る一方で
戦後になって''人間天皇''になられ、ぼくはよかったと思う。
日本人は昔から''大国主''じゃないが、''池の主''とか''森の主''とかいって、なにか''主''という心のよりどころみたいなのが好きな国民だ。
そういう意味において、日本の一番古い家柄である''天皇家''が、''国の主''としてやさしく日本国民を見守って下さるというのは、決して悪い制度ではないと思う。
日本人の中心である''主''として天皇はかけがえのない存在であると思う。
(いずれも同書 231頁)
と戦後の象徴天皇については非常に肯定的な発言をされています。天皇は上述したような''カミ''たちの主としてこの国を見守り無事を祈る存在という事ですね。確かに、歴史的に見ても天皇は神々に祈りを捧げる「巫女」として「女性的」な一面も強い存在でした。
そういえば、水木先生の作品世界でも「昭和天皇」には二面性がありました。水木先生は戦中に南方の最前線へ送られそこで片腕を失っていますが、その際の体験を基にした戦記ものを多数描いておられます。そうした作品群では、「天皇陛下」という言葉には横暴な上官たちが兵士達を消耗品として無体な命令で死地へ追いやるための錦の御旗という性格が強く、上官が気に入らない兵に向かって
天皇に代わって征伐してくれるわッ
(『水木しげるの戦記選集』宙出版 117頁)
畏多くも天皇陛下からいただいた銃はどうしたんだ
万世一系の天皇陛下に何とお詫びするつもりなんだ
(共に同書 144頁)
などといたぶるための口実にされています。一方、南方熊楠の伝記漫画『猫楠』では昭和天皇本人が登場しますが、ここでは熊楠の理解者であり晩年の熊楠に大きな名誉と喜びをもたらした存在として肯定的に描かれています。例えば熊楠に「どうしてもお会いになるときかれない」というので作中の狂言回し的役割である猫に「面白い人」(水木しげる『猫楠』角川ソフィア文庫 377頁)呼ばわりされてますし、熊楠から菌類の標本を献上されたときには感嘆から「フハッ」(同書 386頁)と叫び声をお上げになり水木ワールドの住人になりきっておられます。また、面会の際に熊楠が天皇に礼をするのを見て天皇も礼を返され、それを見た熊楠がまた礼をし、それに対し天皇が(以下略)、というのがしばらく続き
やっぱり天皇陛下は違うのう わいのようなものにもあんなにきちんと頭を下げられる
(同書 384頁)
と熊楠が大感激したという逸話も同作には描かれています。
やはり、水木先生としては
あの''戦争中の主''は、ぼくにはおそろしかった。''カミサマ''であらせられるより、''人間''であらせられる方が、我々には好ましい。
(水木しげる『妖怪天国』筑摩書房 231頁)
という辺りが天皇に関する結論になるようです。歴史的に見ても、水木先生の視点からも、天皇は(上述した意味での)「神国日本」(もしくは水木ワールド)の''主''として見守る存在というのが相応しいという事ですね。
【参考文献】
妖怪天国 水木しげる 筑摩書房
水木しげるの戦記選集 宙出版
猫楠 水木しげる 角川ソフィア文庫
関連記事:
「「神国日本」について考える」
「「あっちが神ならこっちは女神だ」~日本の王権について民俗学的に考える~」
「神道思想史概説」
歴史的に見ると、天皇はHENTAIの国日本を温かく見守られ、時には下々の先頭に立ってHENTAIの模範をお示しになる事すら辞さない存在だったりします。そうした天皇の御姿については、よろしければ社会評論社『ダメ人間の日本史』を御参照ください。
(「仁徳天皇 女房恐い、でも女漁りはやめられない ~古代国家の名君の、何ともヘタレな憂鬱の種~」
「醍醐天皇 藤原伊尹 木曽義仲 恋の時代の平安朝の歪んだ恋の虜たち ~平安ロリコン英雄伝~」
「花山天皇 華やかな王朝時代の若き帝王は政治行為も性行為もフリーダム」
「白河天皇 可愛さ余って(義理だけど)我が子に手出し ~好色専制君主の過剰な愛情~」
「後白河法皇 エロマンガ大王 ~天皇家の権威よりエロマンガ趣味を優先する背徳異形の天皇家首領~」
「後醍醐天皇 幼女誘拐・セックス宗教 どんとこい 政治工作のためだもの ~理由が何だろうがダメなものはダメ~」
「後水尾天皇 徳川家光 江戸時代の政治体制を固めた朝廷と幕府の女装の最高指導者たち ~女装者の魂の共鳴で朝幕融和天下泰平~」などを収録)
Amazon :『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)楽天ブックス:『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)
当ブログ内紹介記事
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by trushbasket
| 2010-12-31 17:49
| NF








