2011年 01月 17日
C.W.C.Oman『中世における戦争術 378~1515』 山田昌弘訳 新装版 訳者解説・序・目次
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当ブログにおける外国書翻訳について
訳者解説
C.W.C.Oman(1860-1946)の『THE ART OF WAR IN THE MIDDLE AGES A.D.378-1515』(1885)の日本語訳です。既に時代遅れかもしれませんが、手頃な分量で幅広い時代を扱っている、年代順に記述されており軍事的発展の全体像が把握しやすい、といった長所があり、中世とその前後の時期の戦争術の概要を知るための入門書として、なお有益であろうと考え、訳出することとしました。
外国語表記に際しては、アクセント記号などの文字に付する記号は省略します。
逐語訳ではありません。また訳者の英語力は相当低いため訳文の質はあまり保証できません。さらにギリシア語やラテン語、フランス語等が時折使われており、それらも、文章の理解に必要かつ訳者に可能な範囲で、日本語化しましたが、訳者はこのうちギリシア語は文字すら理解できませんし、他の言語も全く理解できないも同然なので、形の似た図形を探すような感覚で辞書を眺めながら、それっぽく見える一部の単語の意味を無理矢理つなげる以上のことはできておらず、この観点からも訳文の質は保証しかねます。正確さを求める方は原文に当たってください。ただ、それでも、個々の文はともかくとして、文章全体としてはどうにか読めるものになっており、読む価値もゼロではないと思います。
資料の名称に関しては、さらなる検索の便宜を考え、日本語化していません。資料の著者の名に関しても、本文中に出てくる場合を除いては、原則として日本語化していません。
1953年の改訂版を元に翻訳しましたが、改訂に際し編者のJohn H. Beelerによって多くの箇所が改変されています。改変された箇所は編者の手で[]付する形で、明示されています。改訂に際して付された、まえがきや編者による序文は省略します。
なお、ブログに合わせて章を分割している箇所があります。
序
戦争術は非常に簡単に「指揮官が敵対する軍隊を負かすことを可能にする技術」と定義されている。それゆえ戦争術は、戦略および戦術という二大事項の他、極めて多岐に渡る事項と関連性を有している。「指揮官に適した年齢」や「歩兵が達成すべき標準的な能力」(1)についての論述で始まる書物を著した中世の作家は、戦争術に関して純粋な戦術的要素に限って考察を行っている。だが現代では規律、組織、装備に加えて、軍隊の物的・精神的能力の向上のために有益な、全ての要素を研究する必要がある。
考察対象となる事項の複雑な性質から言って、 研究する各時代の社会史および政治史の概要を理解することが、その当時の「戦争術」の状態の解明のためには不可欠であろう。二人の人間の肉体が紛争を力ずくで解決するために最初にいきり立って向かい合ったとき以来、 戦争術は原始的な形で存在していた。その後、いくつかの時代においては、軍事と社会の歴史が非常に密接に結びつくことになった。そこでは国家組織全体が常態化した戦争に備えるのを見ることができる。具体的に言えば、スパルタや古代ドイツの国家組織を見ることは軍事組織を見るに等しい。逆にこれらの勢力の軍事学を語るには、しばしば政治組織へと言及せざるを得ない。
そしてこのような状態は、現代に直接繋がる時代において、最も顕著である。封建制はその発生および発展過程において、政治的性格と同等の軍事的性格を有しており、その衰退は軍事的要素の影響を大いに受けている。封建制の歴史を「戦争の主力としての重騎兵の勃興と君臨および衰退」として描き出すことも可能である。この過程の追跡が我々の研究の対象と言っても間違いではない。ここに中世軍事史から全体的な歴史へと連なる筋道を見出すことができる。アドリアノープル(378)に始まり、マリニャーノ(1515)に終わる、中世の騎馬戦士の栄光の時代こそが、我々がこれから描き出す科学的な戦争史の各章を構成するだろう。
(1)Flavius Vegetius Renatus, Military Institution of the Romans,tr.John Clark (Harrisburg, Penna.,1944),p.15; Maurice,Artia militiaris, ed.J.Scheffer (Upsala, 1664).
目次
◆第一章
ローマ帝国から中世へ(378~582)
レギオンの消滅─コンスタンティヌスによる再組織─ゲルマン諸族─アドリアノープルの戦い─敗戦を踏まえたテオドシウスによる改革─ウェゲティウスと4世紀末の軍隊─ゴート族とフン族─東帝国の軍隊─騎兵の圧倒的な重要性
◆第二章
初期中世(476~1066-1081)
この時代の資料の乏しさについて─6世紀のフランク族─トゥールの戦い─カール大帝の軍隊─フランク軍の騎兵軍への変容─ノルマン人とマジャール人─封建制の成立─アングロ・サクソン人とその戦争─デーン人と民兵団─直臣の軍事的価値─親衛隊の成立─ヘイスティングスの戦い─デュラッキオンの戦い
第三章
ビザンツとその敵たち(582~1071)
◆・ビザンツの戦略の特性
ビザンツ帝国軍の優秀性─戦争術の科学的研究─レオンのTactica─フランク族との戦争─トルコ人との戦争─スラヴ人との戦争─アラブ人との戦争─キリスト教圏とイスラーム圏の境界紛争─騎士とは異なる職業軍人としてのビザンツ軍士官
◆・ビザンツ軍の武器、組織、戦法
マウリキウスによる東帝国軍の改革─東帝国軍の構成─600年~1000年頃の騎兵の装備─歩兵の武装─騎兵の戦法─レオンの戦闘隊形─軍事的な機械装置とその価値
第四章
封建騎兵の絶頂期(1066~1346)
◆封建戦争の非科学的性質─軽率な突撃の結末─戦術─戦術の原始的な性質─戦略の欠如─弱体な歩兵─規律を導入する試み─傭兵の台頭─◆要塞の高い重要性─防御側の優越─中世の攻囲戦─要塞攻防技術の発展─戦争の一般的な性質─十字軍
第五章
スイス人 (1315~1515)
◆・特性、武器、組織
スイス人と古代ローマ人─優れた将帥ではなく優れた組織が重要性を持つ─槍兵密集部隊─ハルバート兵─スイス軍の迅速な移動能力─防具─スイス軍の性質
・戦術と戦略
スイス同盟軍の隊長達─三部隊による梯形編成─くさび形隊形とハリネズミ隊形
・スイス人の軍事的優位の確立
◆モルガルテンの戦い─ラウペンの戦い─ゼンパッハの戦い─アルベドの戦い─◆士気に関するスイス軍の優位─グランソンの戦い─ムルテンの戦い─15世紀末の諸戦争
◆・スイス人の優越の喪失原因
スイス人の戦法の硬直化─ドイツ傭兵(Landsknechte)とスイス兵の競合関係─スペイン歩兵と短剣─ラヴェンナの戦い─陣地の要塞化─ビコッカの戦い─砲兵の使用の増大─マリニャーノの戦い─スイス軍の規律の衰えとその帰結
第六章
イングランド軍とその敵たち
◆長弓の起源はノルマン人ではなくウェールズ人─長弓と弩の競合関係─エドワード1世とフォールカークの戦い─弓と槍─バノックバーンの戦いとその教訓─◆フランス騎士とイングランド弓兵─クレーシーの戦い─ポワティエの戦い─デュ・ゲクランとイングランド支配の後退─◆アジャンクールの戦い─1415年~1453年のフランスの戦い─フォルミニーの戦い─◆バラ戦争─エドワード4世とその用兵─バーネットの戦いとテュークスベリーの戦い─タウトンの戦い
◆第七章
結び
ジシュカとフス教徒軍─車城とそれを用いた戦法─フス教徒軍の勝利と敗北─リパンの戦い─オスマン軍─イェニチェリの組織と装備─封建(timariot)騎兵─ヨーロッパの他の国々─結語
以上
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訳者解説
C.W.C.Oman(1860-1946)の『THE ART OF WAR IN THE MIDDLE AGES A.D.378-1515』(1885)の日本語訳です。既に時代遅れかもしれませんが、手頃な分量で幅広い時代を扱っている、年代順に記述されており軍事的発展の全体像が把握しやすい、といった長所があり、中世とその前後の時期の戦争術の概要を知るための入門書として、なお有益であろうと考え、訳出することとしました。
外国語表記に際しては、アクセント記号などの文字に付する記号は省略します。
逐語訳ではありません。また訳者の英語力は相当低いため訳文の質はあまり保証できません。さらにギリシア語やラテン語、フランス語等が時折使われており、それらも、文章の理解に必要かつ訳者に可能な範囲で、日本語化しましたが、訳者はこのうちギリシア語は文字すら理解できませんし、他の言語も全く理解できないも同然なので、形の似た図形を探すような感覚で辞書を眺めながら、それっぽく見える一部の単語の意味を無理矢理つなげる以上のことはできておらず、この観点からも訳文の質は保証しかねます。正確さを求める方は原文に当たってください。ただ、それでも、個々の文はともかくとして、文章全体としてはどうにか読めるものになっており、読む価値もゼロではないと思います。
資料の名称に関しては、さらなる検索の便宜を考え、日本語化していません。資料の著者の名に関しても、本文中に出てくる場合を除いては、原則として日本語化していません。
1953年の改訂版を元に翻訳しましたが、改訂に際し編者のJohn H. Beelerによって多くの箇所が改変されています。改変された箇所は編者の手で[]付する形で、明示されています。改訂に際して付された、まえがきや編者による序文は省略します。
なお、ブログに合わせて章を分割している箇所があります。
序
戦争術は非常に簡単に「指揮官が敵対する軍隊を負かすことを可能にする技術」と定義されている。それゆえ戦争術は、戦略および戦術という二大事項の他、極めて多岐に渡る事項と関連性を有している。「指揮官に適した年齢」や「歩兵が達成すべき標準的な能力」(1)についての論述で始まる書物を著した中世の作家は、戦争術に関して純粋な戦術的要素に限って考察を行っている。だが現代では規律、組織、装備に加えて、軍隊の物的・精神的能力の向上のために有益な、全ての要素を研究する必要がある。
考察対象となる事項の複雑な性質から言って、 研究する各時代の社会史および政治史の概要を理解することが、その当時の「戦争術」の状態の解明のためには不可欠であろう。二人の人間の肉体が紛争を力ずくで解決するために最初にいきり立って向かい合ったとき以来、 戦争術は原始的な形で存在していた。その後、いくつかの時代においては、軍事と社会の歴史が非常に密接に結びつくことになった。そこでは国家組織全体が常態化した戦争に備えるのを見ることができる。具体的に言えば、スパルタや古代ドイツの国家組織を見ることは軍事組織を見るに等しい。逆にこれらの勢力の軍事学を語るには、しばしば政治組織へと言及せざるを得ない。
そしてこのような状態は、現代に直接繋がる時代において、最も顕著である。封建制はその発生および発展過程において、政治的性格と同等の軍事的性格を有しており、その衰退は軍事的要素の影響を大いに受けている。封建制の歴史を「戦争の主力としての重騎兵の勃興と君臨および衰退」として描き出すことも可能である。この過程の追跡が我々の研究の対象と言っても間違いではない。ここに中世軍事史から全体的な歴史へと連なる筋道を見出すことができる。アドリアノープル(378)に始まり、マリニャーノ(1515)に終わる、中世の騎馬戦士の栄光の時代こそが、我々がこれから描き出す科学的な戦争史の各章を構成するだろう。
(1)Flavius Vegetius Renatus, Military Institution of the Romans,tr.John Clark (Harrisburg, Penna.,1944),p.15; Maurice,Artia militiaris, ed.J.Scheffer (Upsala, 1664).
目次
◆第一章
ローマ帝国から中世へ(378~582)
レギオンの消滅─コンスタンティヌスによる再組織─ゲルマン諸族─アドリアノープルの戦い─敗戦を踏まえたテオドシウスによる改革─ウェゲティウスと4世紀末の軍隊─ゴート族とフン族─東帝国の軍隊─騎兵の圧倒的な重要性
◆第二章
初期中世(476~1066-1081)
この時代の資料の乏しさについて─6世紀のフランク族─トゥールの戦い─カール大帝の軍隊─フランク軍の騎兵軍への変容─ノルマン人とマジャール人─封建制の成立─アングロ・サクソン人とその戦争─デーン人と民兵団─直臣の軍事的価値─親衛隊の成立─ヘイスティングスの戦い─デュラッキオンの戦い
第三章
ビザンツとその敵たち(582~1071)
◆・ビザンツの戦略の特性
ビザンツ帝国軍の優秀性─戦争術の科学的研究─レオンのTactica─フランク族との戦争─トルコ人との戦争─スラヴ人との戦争─アラブ人との戦争─キリスト教圏とイスラーム圏の境界紛争─騎士とは異なる職業軍人としてのビザンツ軍士官
◆・ビザンツ軍の武器、組織、戦法
マウリキウスによる東帝国軍の改革─東帝国軍の構成─600年~1000年頃の騎兵の装備─歩兵の武装─騎兵の戦法─レオンの戦闘隊形─軍事的な機械装置とその価値
第四章
封建騎兵の絶頂期(1066~1346)
◆封建戦争の非科学的性質─軽率な突撃の結末─戦術─戦術の原始的な性質─戦略の欠如─弱体な歩兵─規律を導入する試み─傭兵の台頭─◆要塞の高い重要性─防御側の優越─中世の攻囲戦─要塞攻防技術の発展─戦争の一般的な性質─十字軍
第五章
スイス人 (1315~1515)
◆・特性、武器、組織
スイス人と古代ローマ人─優れた将帥ではなく優れた組織が重要性を持つ─槍兵密集部隊─ハルバート兵─スイス軍の迅速な移動能力─防具─スイス軍の性質
・戦術と戦略
スイス同盟軍の隊長達─三部隊による梯形編成─くさび形隊形とハリネズミ隊形
・スイス人の軍事的優位の確立
◆モルガルテンの戦い─ラウペンの戦い─ゼンパッハの戦い─アルベドの戦い─◆士気に関するスイス軍の優位─グランソンの戦い─ムルテンの戦い─15世紀末の諸戦争
◆・スイス人の優越の喪失原因
スイス人の戦法の硬直化─ドイツ傭兵(Landsknechte)とスイス兵の競合関係─スペイン歩兵と短剣─ラヴェンナの戦い─陣地の要塞化─ビコッカの戦い─砲兵の使用の増大─マリニャーノの戦い─スイス軍の規律の衰えとその帰結
第六章
イングランド軍とその敵たち
◆長弓の起源はノルマン人ではなくウェールズ人─長弓と弩の競合関係─エドワード1世とフォールカークの戦い─弓と槍─バノックバーンの戦いとその教訓─◆フランス騎士とイングランド弓兵─クレーシーの戦い─ポワティエの戦い─デュ・ゲクランとイングランド支配の後退─◆アジャンクールの戦い─1415年~1453年のフランスの戦い─フォルミニーの戦い─◆バラ戦争─エドワード4世とその用兵─バーネットの戦いとテュークスベリーの戦い─タウトンの戦い
◆第七章
結び
ジシュカとフス教徒軍─車城とそれを用いた戦法─フス教徒軍の勝利と敗北─リパンの戦い─オスマン軍─イェニチェリの組織と装備─封建(timariot)騎兵─ヨーロッパの他の国々─結語
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by trushbasket
| 2011-01-17 20:26
| My(山田昌弘)








