2011年 03月 07日
東洋の武人は草食系?~女性に淡白な武将たち~
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以前にも取り上げた事のある人気娯楽小説『銀河英雄伝説』には様々な個性を持つ指揮官が登場しますが、その中には異性に対し淡白な人物も結構いるようです。
まずは作中最高レベルの名将で自由惑星同盟陣営における主人公、ヤン・ウェンリーの場合ですが
といった具合で興味はないわけじゃないけど優先順位は高くないという様子です。そして、彼の養子で文武両道の才を持つユリアン・ミンツ少年もヤンの気質から影響を受けたのか、容姿端麗なキャラのはずなんですが
なんて事を日記に書き付けている始末。二人して恋愛に消極的な「草食系男子」を地で行ってます。
そして銀河帝国陣営も負けていません。帝国側の主人公、ラインハルト・フォン・ローエングラムは政戦両略の天才で絶世の美男子なんだそうですが、やはり基本的に女性や恋愛に無関心であり言い寄ってくる女性に関して
と言い放っています。要するに文字通り「スイーツ(笑)」(恋愛やら流行やらに過剰に踊らされている女性を揶揄するネットスラング。『銀河英雄伝説』よりかなり後になって生まれた用法なのを考えると、面白い偶然ではあります)だったと言いたい訳ですね、分かります。そして友人にして第一の忠臣であるキルヒアイスとの会話でも
などと頓珍漢な遣り取りをした挙句、好みの異性を聞かれた際には
と「ごく抽象的で、しかも贅沢な」(共に同書同頁)事を言ってます。
更に、ラインハルトの配下でやはり作中最強クラスの名将であるロイエンタール元帥もなかなかの曲者。彼は若くして栄達し、更に相当な美貌の持ち主である事から言い寄る女性が後を絶たず漁色家として名を流しています。しかし一方で、幼少時の記憶から心の奥底に深刻な女性不信を抱いており
と酒の席で友人にこぼす人物でもあります。そして多くの女性と交わった割に女心を良く分かってないらしく、
といった具合で友人と妙な論争をしたりしています。何で、超絶イケメンだったりヤリチンだったりするくせに魂から非モテ臭をプンプンさせてるんでしょうか、この二人は。
そして彼らほど極端ではないにしろ、作中の提督には異性に淡白な人間がやけに多めな印象で彼らは女性より僚友と共にいる事の方を好んでいるように思えます。どうやら、あの銀河の歴史には草食系男子やら非モテやらが跋扈しているようです。
そういえば、実際の歴史でも、以前の記事によれば童貞を貫いた(と思しき)西洋史の名将が結構いるようですね。そこで、今回はそれに加えて東洋についても同様の題材で見てみましょう。我が国でも上杉謙信や細川政元といった生涯女色と縁がなかったとされる武将が存在する事は知られていますが、彼らのような大物以外でも、武将の中には女色を絶つ事例が少なくなかったようです。南方熊楠によれば「武功を励むのあまり、女を断ちし人多く」(『南方熊楠コレクションⅢ浄のセクソロジー』河出文庫)見られたそうで、例えば松永家に仕えた中村新九郎は武名を立てるため自らを一代男と称し、妻帯せず少年と陣中に帯同し共に戦死したと「南海通記」にはあるとか。また、美女も思いのままであるはずの大名にも妻を持たず男色を嗜んだため後継者が得られなかった事も多々あったらしく、浅野幸長や市橋長勝もそうした例であったそうで。
このように、武名を上げるためとはいえ女性を近づけない事で後継者が得られないというのは家を存続させるためには大問題であり、家臣の中にはそのために苦労した人もいたようです。有名なのは上杉家の直江兼続であり、真偽の程は不明ですが『奥羽永慶軍記』によれば上杉景勝も養父謙信と同様に女色を好まなかったため兼続は十六歳の美女を男装させて近づけ関係を持たせる事に成功したとかいう伝承が残されています。因みに、彼女は定勝を産んだものの、彼女が女性である事を知った景勝は二度と近づけなかったそうです。
そして、武功を重んじるがゆえに女性を近づけないという考え方は日本や西洋だけではなく、子孫を残す事を重んじるはずの中国にも存在したようです。
中国の代表的な古典娯楽小説『水滸伝』は、アウトローな豪傑たちがアジトである梁山泊に集結して大暴れする話ですが、梁山泊の好漢たちにも女性に淡白だったり女性の扱いが苦手な人物が多いようです。例えば主人公の宋江を始め副首領・蘆俊義、楊雄あたりは妻や妾を粗略にした結果裏切られて窮地に陥った人物といえます。更に武松・雷横のように女性絡みで罪人にあった人物が結構いますしね。しかも、中国では子孫を残し家を絶やさない事を非常に重んじるはずなのですが、豪農出身の晁蓋や名門貴族出の柴進といった人物は、豪傑との交際や食客の扶養に力を注ぐ一方で妻を迎え子を儲けようとした様子がありません。という訳で梁山泊では王英や周通といった好色な好漢の方が寧ろ例外的な印象だったりします。実際には妻子もちの頭領も結構いるんですけどね…。『水滸伝』は架空の物語ではありますが、アウトローな豪傑に関してはそうしたありようがよしとされたという事は読み取ってもよいのではないかと思います。
という訳で、儒教の影響で妻子を持つ事が他地域以上に重んじられてそうな中国でさえ、武侠的な世界では女性を遠ざける傾向があるようです。
以上より、武人が女性を遠ざけ場合によっては童貞を貫くのは世界的に見てそう珍しい事ではないようです。その中には男色を好んだ事例もあり、その場合は愛する少年と共に戦場に身を置く事が多いようですね。こうした話はテーバイの愛する者と愛される者とで編成された「神聖部隊」を連想させます。そのほかの事例でも同志との絆を重んじる傾向があるといえます。武人が女性と関わらない場合、それは自らを純粋に戦士たちの間に置きたいという思いからという結論になりそうです。まあ、(『銀英伝』の一部提督たちみたいに)個人的に女性が苦手とかいう事例もあったでしょうから、全てとは言いませんが。
【参考文献】
南方熊楠コレクションⅢ浄のセクソロジー 河出文庫
水滸伝(上)(中)(下) 駒田信二訳 平凡社
水滸伝天導一〇八星好漢FILE シブサワ・コウ編 KOEI
日本大百科全書 小学館
銀河英雄伝説 田中芳樹 徳間ノベルス
関連記事:
「貫かないを貫き通した漢達 ~童貞達の西洋軍事史名将伝~」
「大革命家は「史上最強の童貞」?~「私は 童貞だ」の真偽に迫る~」
「『ダメ人間の世界史&日本史』ブログ版(試し読み用)(07) 少年愛帝国の提唱者 プラトン」
関連サイト:
「銀河英雄伝説 on the web」(http://www.ginei.jp/)
まずは作中最高レベルの名将で自由惑星同盟陣営における主人公、ヤン・ウェンリーの場合ですが
ヤンは聖人君子ではないから、できれば女性にもてたいな、と思ってはいるが、そのために努力しようという意欲までは生じさせなかった。そんなエネルギーや時間があったら、本を読んでいるほうがよかったのだ。
(田中芳樹『銀河英雄伝説外伝4』徳間ノベルス 27頁)
といった具合で興味はないわけじゃないけど優先順位は高くないという様子です。そして、彼の養子で文武両道の才を持つユリアン・ミンツ少年もヤンの気質から影響を受けたのか、容姿端麗なキャラのはずなんですが
女の子のことは、ぼくにはよくわからない。もしかしたら人間の女より異星人(エイリアン)の男のほうが話が通じるかもしれない。
(田中芳樹『銀河英雄伝説外伝2』徳間ノベルス 27頁)
なんて事を日記に書き付けている始末。二人して恋愛に消極的な「草食系男子」を地で行ってます。
そして銀河帝国陣営も負けていません。帝国側の主人公、ラインハルト・フォン・ローエングラムは政戦両略の天才で絶世の美男子なんだそうですが、やはり基本的に女性や恋愛に無関心であり言い寄ってくる女性に関して
「彼女たちは、皮膚の外側はまことに美しいが、頭蓋骨のなかみはクリームバターでできている。おれはケーキを相手に恋愛するつもりはない」
(田中芳樹『銀河英雄伝説10』徳間ノベルス 85頁)
と言い放っています。要するに文字通り「スイーツ(笑)」(恋愛やら流行やらに過剰に踊らされている女性を揶揄するネットスラング。『銀河英雄伝説』よりかなり後になって生まれた用法なのを考えると、面白い偶然ではあります)だったと言いたい訳ですね、分かります。そして友人にして第一の忠臣であるキルヒアイスとの会話でも
「ラインハルトさまなら、他の者にはむずかしい暇つぶしの方法もとれるでしょうに」
「たとえば?」
「恋をなさるとか」
むろん冗談とはいえ、あまりに意外な勧めように、ラインハルトが怒りだすかもしれない、と、キルヒアイスは思ったのだが、そうはならなかった。蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳に真剣な光をたたえて、議題を検討してみたようである。
「……やってみてもいいが、どうやって相手をさがす?」
キルヒアイスは、あやうくワイングラスをとりおとすところであった。正直なところ、ここまで、反応の角度がずれるとは思わなかったのだ。
「ラインハルトさま、まず恋をすることを決めてから相手をさがすというのは、順序が逆でしょう」
「順序などというものは、人それぞれのはずだ」
一般論としては、たしかにそのとおりであるかもしれないが、このような場合にこのような理屈をこねるのが、ラインハルトの奇妙な点であったかもしれない。
(田中芳樹『銀河英雄伝説外伝3』徳間ノベルス 119頁)
などと頓珍漢な遣り取りをした挙句、好みの異性を聞かれた際には
「べつに条件なんかない。そうだな、頭がよくて気だてがよければ充分だ」
と「ごく抽象的で、しかも贅沢な」(共に同書同頁)事を言ってます。
更に、ラインハルトの配下でやはり作中最強クラスの名将であるロイエンタール元帥もなかなかの曲者。彼は若くして栄達し、更に相当な美貌の持ち主である事から言い寄る女性が後を絶たず漁色家として名を流しています。しかし一方で、幼少時の記憶から心の奥底に深刻な女性不信を抱いており
「女という生物は男を裏切るために生を享けたんだぞ」
(田中芳樹『銀河英雄伝説3』徳間ノベルス 52頁)
と酒の席で友人にこぼす人物でもあります。そして多くの女性と交わった割に女心を良く分かってないらしく、
「女ってやつは、雷が鳴ったり風が荒れたりしたとき、何だって枕に抱きついたりするんだ?」
かつて、真剣な表情で問うたことがある。ミッターマイヤーならずとも返答に窮するところであった。
「そりゃ怖かったからだろう」
そう言うしかないのだが、ロイエンタールは納得しない。
「だったらおれに抱きつけばよかろうに、どうして枕に抱きつく。枕が助けてくれると思っているわけか、あれは?」
そのような現象に合理的な説明を求めても無益であろうのに、用兵と同様、金銀妖瞳の青年提督は合理性に固執するのである。
(田中芳樹『銀河英雄伝説4』徳間ノベルス 143-144頁)
といった具合で友人と妙な論争をしたりしています。何で、超絶イケメンだったりヤリチンだったりするくせに魂から非モテ臭をプンプンさせてるんでしょうか、この二人は。
そして彼らほど極端ではないにしろ、作中の提督には異性に淡白な人間がやけに多めな印象で彼らは女性より僚友と共にいる事の方を好んでいるように思えます。どうやら、あの銀河の歴史には草食系男子やら非モテやらが跋扈しているようです。
そういえば、実際の歴史でも、以前の記事によれば童貞を貫いた(と思しき)西洋史の名将が結構いるようですね。そこで、今回はそれに加えて東洋についても同様の題材で見てみましょう。我が国でも上杉謙信や細川政元といった生涯女色と縁がなかったとされる武将が存在する事は知られていますが、彼らのような大物以外でも、武将の中には女色を絶つ事例が少なくなかったようです。南方熊楠によれば「武功を励むのあまり、女を断ちし人多く」(『南方熊楠コレクションⅢ浄のセクソロジー』河出文庫)見られたそうで、例えば松永家に仕えた中村新九郎は武名を立てるため自らを一代男と称し、妻帯せず少年と陣中に帯同し共に戦死したと「南海通記」にはあるとか。また、美女も思いのままであるはずの大名にも妻を持たず男色を嗜んだため後継者が得られなかった事も多々あったらしく、浅野幸長や市橋長勝もそうした例であったそうで。
このように、武名を上げるためとはいえ女性を近づけない事で後継者が得られないというのは家を存続させるためには大問題であり、家臣の中にはそのために苦労した人もいたようです。有名なのは上杉家の直江兼続であり、真偽の程は不明ですが『奥羽永慶軍記』によれば上杉景勝も養父謙信と同様に女色を好まなかったため兼続は十六歳の美女を男装させて近づけ関係を持たせる事に成功したとかいう伝承が残されています。因みに、彼女は定勝を産んだものの、彼女が女性である事を知った景勝は二度と近づけなかったそうです。
そして、武功を重んじるがゆえに女性を近づけないという考え方は日本や西洋だけではなく、子孫を残す事を重んじるはずの中国にも存在したようです。
中国の代表的な古典娯楽小説『水滸伝』は、アウトローな豪傑たちがアジトである梁山泊に集結して大暴れする話ですが、梁山泊の好漢たちにも女性に淡白だったり女性の扱いが苦手な人物が多いようです。例えば主人公の宋江を始め副首領・蘆俊義、楊雄あたりは妻や妾を粗略にした結果裏切られて窮地に陥った人物といえます。更に武松・雷横のように女性絡みで罪人にあった人物が結構いますしね。しかも、中国では子孫を残し家を絶やさない事を非常に重んじるはずなのですが、豪農出身の晁蓋や名門貴族出の柴進といった人物は、豪傑との交際や食客の扶養に力を注ぐ一方で妻を迎え子を儲けようとした様子がありません。という訳で梁山泊では王英や周通といった好色な好漢の方が寧ろ例外的な印象だったりします。実際には妻子もちの頭領も結構いるんですけどね…。『水滸伝』は架空の物語ではありますが、アウトローな豪傑に関してはそうしたありようがよしとされたという事は読み取ってもよいのではないかと思います。
という訳で、儒教の影響で妻子を持つ事が他地域以上に重んじられてそうな中国でさえ、武侠的な世界では女性を遠ざける傾向があるようです。
以上より、武人が女性を遠ざけ場合によっては童貞を貫くのは世界的に見てそう珍しい事ではないようです。その中には男色を好んだ事例もあり、その場合は愛する少年と共に戦場に身を置く事が多いようですね。こうした話はテーバイの愛する者と愛される者とで編成された「神聖部隊」を連想させます。そのほかの事例でも同志との絆を重んじる傾向があるといえます。武人が女性と関わらない場合、それは自らを純粋に戦士たちの間に置きたいという思いからという結論になりそうです。まあ、(『銀英伝』の一部提督たちみたいに)個人的に女性が苦手とかいう事例もあったでしょうから、全てとは言いませんが。
【参考文献】
南方熊楠コレクションⅢ浄のセクソロジー 河出文庫
水滸伝(上)(中)(下) 駒田信二訳 平凡社
水滸伝天導一〇八星好漢FILE シブサワ・コウ編 KOEI
日本大百科全書 小学館
銀河英雄伝説 田中芳樹 徳間ノベルス
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「貫かないを貫き通した漢達 ~童貞達の西洋軍事史名将伝~」
「大革命家は「史上最強の童貞」?~「私は 童貞だ」の真偽に迫る~」
「『ダメ人間の世界史&日本史』ブログ版(試し読み用)(07) 少年愛帝国の提唱者 プラトン」
関連サイト:
「銀河英雄伝説 on the web」(http://www.ginei.jp/)
by trushbasket
| 2011-03-07 00:04
| NF








