2011年 03月 28日
中国人のチームワークは形だけ? ~軍事史から見る中国人のチームワーク~
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以前、中国や西洋(アメリカ)との戦争という異文化との接触によって、日本人がチームワークを苦手としていることが見えてくる、という話をしましたが、
今日は、日本と比べてチームワークに優れていると思しき中国のチームワークが歴史的、軍事史的に見て、どんなものであったのか、見てみましょう。
16世紀の秀吉の大陸遠征を研究して、日本と中国の戦争術を比較研究した江戸時代の兵学研究者、荻生徂徠は、
組織的な戦術に長け、大兵力を神変のように自由に取廻す中国軍を相手に、
兵士の個人的力量に依存して非組織的な戦いを行う日本軍は敗北したとして、日本の戦争術を厳しく批判しています。
日本人から見て、中国の軍隊は、圧倒的にチームワークに優れた恐るべき敵に見えたと言うことです。
とはいえ、実際のところ、日本軍は戦術的には、勝利を収めることが多く優位に立っており、徂徠が思っているほどダメっぷりをさらしていたわけではありませんでした。
つまり、中国軍は、組織性、チームワークという側面で圧倒的に優れた力を持ちながら、個人的武勇に頼った極東の島国の「蛮族」の群れごときを相手に、戦術的に劣位であった、ということになります。それでは中国の戦争術は、秀吉軍との戦いで、いったいどうして、こんな残念な結果を生じてしまったのでしょうか?
これについては、中国文学者の高島俊男氏の以下の文章が参考になるのではないかと、思います。
この文章は、少々言い過ぎなところがあり、かなり割引いて聞くべき物だと思われますが、しかし、そういった誇張された極論であるが故に、中国の戦争術の駆使するチームワークの特徴、傾向を、分かりやすく浮かび上がらせてくれてもいます。
すなわち、
軍事史から中国のチームワークの全体的な傾向を、一種の理念型的なものとして抽出するならば、
中国人は、チームワークが得意だが、ただしそのチームワークはしばしば形骸的であり、理屈倒れ、見かけ倒しになりがちであった
ということ。
戦国時代の世紀末状態の中で鍛え上げられた日本の蛮族がヒャッハーと襲いかかってくれば、そりゃあ負けますわな。
とはいえ、中国は北の遊牧民やら南の海賊やらを相手に割と恒常的に緊張状態にあり、平和ボケしてたはずはなく、それにも関わらず、こうなってしまうのは、何とも残念なこと。
日本は日本で根の深い問題点を持っていましたが、中国もたいがいのようです。
おまけとして、軍事文化から透けて見える、日本人の組織と中国人の組織のチームワークの特徴を誇張して対比しておくと、
日本人の組織は、下の我が強すぎて、現場が全体的な構想・統制を押しつぶし、グダグダになる傾向があり、
ちょうど逆に、
中国の組織は、上の我が強すぎて、全体的な構想・統制が現場を押しつぶし、スカスカになる傾向がある、
とでも言えるでしょうか?
参考資料
高島俊男『三国志 きらめく群像』ちくま文庫
野口武彦『江戸の兵学思想』中公文庫
関連記事
日本人はチームワークが苦手です ~1300年の戦史が語る日本人の国民性~
軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史
豊臣秀吉は猿顔じゃない? ~さるはさるに似ざるの説 VS さるはどう見てもさるでござるの説~
今回取り上げた時代の明軍や、荻生徂徠に大きな影響を与えた明の名将・軍事理論家である戚継光、秀吉については、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』でも取り上げていますので、よろしければそちらもご参照ください。
(「戚継光 あらゆる外敵に打ち勝った勇将も、内では異常な恐妻家、妻が恐くて逆らえず仕方ないから部下に八つ当たり」収録)
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(「豊臣秀吉 おね 戦国美女と野獣 ~猿顔のロリコン武将とその美少女嫁の話~」収録)
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当ブログ内紹介記事
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
明朝衰亡・上
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2000/000519.html
『明史』 袁崇煥伝(翻訳)
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/ensukan.html
『明史』 孫承宗伝(付、孫鉁伝等)(翻訳)
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/sonshoso.html
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今日は、日本と比べてチームワークに優れていると思しき中国のチームワークが歴史的、軍事史的に見て、どんなものであったのか、見てみましょう。
16世紀の秀吉の大陸遠征を研究して、日本と中国の戦争術を比較研究した江戸時代の兵学研究者、荻生徂徠は、
組織的な戦術に長け、大兵力を神変のように自由に取廻す中国軍を相手に、
兵士の個人的力量に依存して非組織的な戦いを行う日本軍は敗北したとして、日本の戦争術を厳しく批判しています。
日本人から見て、中国の軍隊は、圧倒的にチームワークに優れた恐るべき敵に見えたと言うことです。
とはいえ、実際のところ、日本軍は戦術的には、勝利を収めることが多く優位に立っており、徂徠が思っているほどダメっぷりをさらしていたわけではありませんでした。
つまり、中国軍は、組織性、チームワークという側面で圧倒的に優れた力を持ちながら、個人的武勇に頼った極東の島国の「蛮族」の群れごときを相手に、戦術的に劣位であった、ということになります。それでは中国の戦争術は、秀吉軍との戦いで、いったいどうして、こんな残念な結果を生じてしまったのでしょうか?
これについては、中国文学者の高島俊男氏の以下の文章が参考になるのではないかと、思います。
豊太閤の軍が朝鮮半島で明軍と戦った時、双方がとまどったという。明軍は、陣法、すなわち一部隊全体の組織的な動きで戦い、日本軍は個人の勇力で戦う方式だったからである。戦闘についての観念がまるでちがっていたわけだ。
日本軍から見ると明軍は気味のわるいものである。全体がまるでヘビかミミズみたいにぐにゅぐにゅと動く。右の方が出てくるとともに左のほうがひっこんだり、正面がからっぽになって左右がのびて来たりする。マスゲームみたいなものである。どこかでだれかが人形をあやつるように動かしているのだろうが、よくわからない。
……
そんなふうに中国の軍隊は、昔から統一的な指揮のもとに有機的に動くのを特徴としていた。……
……
大将が全体を手足のごとく組織的有機的に動かして戦う中国式戦法が、それでは強かったかといえば、歴史上、北方や西方の異民族が侵入してくるとたいてい負けているところを見れば、あまり強かったとは思えない。それだのにこうした陣法が重視せられたのは、中国は伝統的に、極端な文尊武卑(文官が尊敬され地位が高く、武官は蔑視され地位が低い)の国だったからであろう。
……
……
むかしの中国では、優秀な青年はみな学問をやるにきまっている。つまり古典籍を読むことに全精力をそそぐ。そして高級官僚になると、あたえられた職種によって軍のトップの地位につき一軍を指揮することになるのである。……
……。こんにち只今の現実とかかわりのない古い書物を読んで知性をかたちづくった人間だから、どうしても理論や観念が先に立つ。それが曹操のように、あぶない戦争をしょっちゅう実地にやっていれば、いきおい考えかたもやりかたも実戦的になるだろうが、そうでないばあいは、机上の空論、ひとりよがり、あるいは遊戯的になってしまう。……
馬謖のばあいがまさにそうだったにちがいない。わかくて、頭がよくて、軍事理論が好き。古今の戦史、戦略戦術を語り出したら滔々としてつきるところがない。馬謖にとっての戦争指揮は、いまの日本の少年のテレビゲームに似たものだったのであろう。……
(『三国志 きらめく群像』ちくま文庫 419~422頁)
この文章は、少々言い過ぎなところがあり、かなり割引いて聞くべき物だと思われますが、しかし、そういった誇張された極論であるが故に、中国の戦争術の駆使するチームワークの特徴、傾向を、分かりやすく浮かび上がらせてくれてもいます。
すなわち、
軍事史から中国のチームワークの全体的な傾向を、一種の理念型的なものとして抽出するならば、
中国人は、チームワークが得意だが、ただしそのチームワークはしばしば形骸的であり、理屈倒れ、見かけ倒しになりがちであった
ということ。
戦国時代の世紀末状態の中で鍛え上げられた日本の蛮族がヒャッハーと襲いかかってくれば、そりゃあ負けますわな。
とはいえ、中国は北の遊牧民やら南の海賊やらを相手に割と恒常的に緊張状態にあり、平和ボケしてたはずはなく、それにも関わらず、こうなってしまうのは、何とも残念なこと。
日本は日本で根の深い問題点を持っていましたが、中国もたいがいのようです。
おまけとして、軍事文化から透けて見える、日本人の組織と中国人の組織のチームワークの特徴を誇張して対比しておくと、
日本人の組織は、下の我が強すぎて、現場が全体的な構想・統制を押しつぶし、グダグダになる傾向があり、
ちょうど逆に、
中国の組織は、上の我が強すぎて、全体的な構想・統制が現場を押しつぶし、スカスカになる傾向がある、
とでも言えるでしょうか?
参考資料
高島俊男『三国志 きらめく群像』ちくま文庫
野口武彦『江戸の兵学思想』中公文庫
関連記事
日本人はチームワークが苦手です ~1300年の戦史が語る日本人の国民性~
軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史
豊臣秀吉は猿顔じゃない? ~さるはさるに似ざるの説 VS さるはどう見てもさるでござるの説~
今回取り上げた時代の明軍や、荻生徂徠に大きな影響を与えた明の名将・軍事理論家である戚継光、秀吉については、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』でも取り上げていますので、よろしければそちらもご参照ください。
(「戚継光 あらゆる外敵に打ち勝った勇将も、内では異常な恐妻家、妻が恐くて逆らえず仕方ないから部下に八つ当たり」収録)
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当ブログ内紹介記事
(「豊臣秀吉 おね 戦国美女と野獣 ~猿顔のロリコン武将とその美少女嫁の話~」収録)
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当ブログ内紹介記事
れきけん・とらっしゅばすけっと/京都大学歴史研究会関連発表
明朝衰亡・上
http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2000/000519.html
『明史』 袁崇煥伝(翻訳)
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/ensukan.html
『明史』 孫承宗伝(付、孫鉁伝等)(翻訳)
http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/sonshoso.html
楽天ブックス: ダメ人間の世界史 - ダメ人間の歴史vol 1 -
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by trushbasket
| 2011-03-28 20:38
| My(山田昌弘)