2011年 05月 16日
古代・中世中国における、とある風俗紊乱への懸念~宿屋は猥雑、廃止すべし~
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現在、旅行するには旅館・ホテルが欠かせない存在です。知らない土地で野宿する危険を考えると、そのありがたみが実感できると思います。これは昔においても変わる事はありませんでした。しかし、中国においては宿屋は風俗を乱すので廃止すべきだという意見が結構しばしば出ていたのをご存知でしょうか。
例えば戦国時代に秦を法治主義による改革で強国とした政治家・商鞅の思想をまとめた『商書』のうち巻二には
晋代でも同様な考え方があり
として廃止を求める提言が出ています。
隋の文帝時代にも蘇威が
として宿屋の大部分を帰農させ商業に従事したいものは登録した上で宿を壊すよう上表。結局、旅人の利益となるという点から採用されませんでした。以降は、流通の活性化もあり宿屋の必要性を認めざるを得なかったのか宿屋廃止論は出なくなりました。
これらの宿屋廃止論は、一見すると農本主義に拘りすぎた机上の空論のように思えます。しかし、当時の為政者たちが宿屋を危険視した事自体に関しては必ずしも根拠がないとはいえないようです。南宋の説話集『夷堅志』には「黒店」と通称される、盗賊が経営し宿泊する旅人を殺害して金品を奪う宿屋の話が数多く掲載されています。そうした中には殺した旅人の肉を不良たちに売っていた事例も記されています。現実に宿屋が治安問題になっていたわけですね。『水滸伝』で客を毒薬で盛りつぶして金品を奪いその肉を食用にしてしまう人肉茶店の逸話が多数採用されているのは、そうした事実を反映していたものでしょうか。そして、これは決して過去の話ではないようで、改革開放政策が導入された以降の1988年にすらそうした宿屋で起こった殺人事件のニュースが報道されています。中国の用心棒は現在でも新しく開業した宿屋、主人が変わった店、女を置いている店は危険であるとして原則的に宿泊しないとか。
現実問題として治安・風俗の点で問題があっても不可欠で廃止できないものは多いです。例えば今回見たように宿屋は実際問題として問題が大きかったにも関わらず、後世になると廃止は考える事すらできない存在になりました。風俗上問題があるから即取り締まり、というのは現実的ではない事も多いようです。ましてや問題の有無に議論の余地がある場合には、慎重な議論が必要となるでしょうね。
【参考文献】
橋と異人 境界の中国中世史 相田洋著 研文出版
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「中国食人文化入門 ~中国的合理主義と、中国人であることおよび中国人があることの不幸について~」
「古代人「文字を使うとバカになる」 ~新興メディア叩き in 古代ギリシア~」
「エロと品性と規制と失政の話」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「中国民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
隋の文帝(楊堅)に関しては、社会評論社『ダメ人間の世界史』でも取り上げていますので、よろしければそちらもご参照ください。
(「楊堅 嫁が恐くて家出して、職務放棄を臣下に叱られたヘタレ皇帝」収録)
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当ブログ内紹介記事
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例えば戦国時代に秦を法治主義による改革で強国とした政治家・商鞅の思想をまとめた『商書』のうち巻二には
「宿屋(逆旅)を廃止すれば、邪悪な連中や軽はずみな連中、勝手に外の勢力と結びついた連中、農業を妨害する連中が、遠出しなくなる。そうすれば、宿屋の経営者も食っていけなくなり、農業に精を出すようになる。農業に精を出すようになれば、草地も必ず開墾されよう。」(相田洋『橋と異人 境界の中国中世史』研文出版 43頁)との意見があったことが記されています。
晋代でも同様な考え方があり
「宿屋(逆旅)は、末業を追い、本業たる農業を捨て、悪人や無頼の徒(姦法亡命)が、根拠としていることが多く、法律を乱している」(同書 43頁)
として廃止を求める提言が出ています。
隋の文帝時代にも蘇威が
「道ぞいの宿屋(臨道店舎)は、いたずらに利益ばかりを追求する輩で、仕事も猥雑で、真面目に精を出すべき本業ではないと考えた」(同書 44頁)
として宿屋の大部分を帰農させ商業に従事したいものは登録した上で宿を壊すよう上表。結局、旅人の利益となるという点から採用されませんでした。以降は、流通の活性化もあり宿屋の必要性を認めざるを得なかったのか宿屋廃止論は出なくなりました。
これらの宿屋廃止論は、一見すると農本主義に拘りすぎた机上の空論のように思えます。しかし、当時の為政者たちが宿屋を危険視した事自体に関しては必ずしも根拠がないとはいえないようです。南宋の説話集『夷堅志』には「黒店」と通称される、盗賊が経営し宿泊する旅人を殺害して金品を奪う宿屋の話が数多く掲載されています。そうした中には殺した旅人の肉を不良たちに売っていた事例も記されています。現実に宿屋が治安問題になっていたわけですね。『水滸伝』で客を毒薬で盛りつぶして金品を奪いその肉を食用にしてしまう人肉茶店の逸話が多数採用されているのは、そうした事実を反映していたものでしょうか。そして、これは決して過去の話ではないようで、改革開放政策が導入された以降の1988年にすらそうした宿屋で起こった殺人事件のニュースが報道されています。中国の用心棒は現在でも新しく開業した宿屋、主人が変わった店、女を置いている店は危険であるとして原則的に宿泊しないとか。
現実問題として治安・風俗の点で問題があっても不可欠で廃止できないものは多いです。例えば今回見たように宿屋は実際問題として問題が大きかったにも関わらず、後世になると廃止は考える事すらできない存在になりました。風俗上問題があるから即取り締まり、というのは現実的ではない事も多いようです。ましてや問題の有無に議論の余地がある場合には、慎重な議論が必要となるでしょうね。
【参考文献】
橋と異人 境界の中国中世史 相田洋著 研文出版
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「中国食人文化入門 ~中国的合理主義と、中国人であることおよび中国人があることの不幸について~」
「古代人「文字を使うとバカになる」 ~新興メディア叩き in 古代ギリシア~」
「エロと品性と規制と失政の話」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「中国民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/020607.html)
隋の文帝(楊堅)に関しては、社会評論社『ダメ人間の世界史』でも取り上げていますので、よろしければそちらもご参照ください。
(「楊堅 嫁が恐くて家出して、職務放棄を臣下に叱られたヘタレ皇帝」収録)
Amazon :『ダメ人間の世界史』(ダメ人間の歴史vol 1)楽天ブックス:『ダメ人間の世界史』(ダメ人間の歴史vol 1)
当ブログ内紹介記事
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by trushbasket
| 2011-05-16 02:15
| NF








