2011年 11月 20日
古典文学でのとあるSF的発想~透明人間とエロ妄想の話~
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もしも自分の姿を人から見えなくすることが出来たなら…。そんな夢想に駆られる人間は少なくありません。かつてアイドルグループ「ピンクレディー」が『透明人間』という人気曲を出していたり、その歌詞をもじった『透明人間あらわるあらわる』という題名のエロゲーが出たりしているのはその一つの表れと言えそうです。また、SFの父と言われるH.G.ウエルズも『透明人間』を書き、透明人間になって悪事を働こうとする人物の話を書いています。こうした願望は決して最近になって始まったものではなかったようで、昔話にも天狗から隠れ蓑を奪って好きなように振舞う内容のものがあったりします。また、以前の記事によれば『有明の別』の主人公が隠形の術を使う事により周囲の人間の色欲模様を覗き見していたりしていたようです。他、平安期には『隠れ蓑の中将』なる物語も存在したようですが、散逸しており現在では内容を知る事が出来ないのは残念な事です。澁澤龍彦氏は『隠れ蓑の中将』について恐らく姿を見えなくしてエロい事に利用するという筋書きなのではないか、と推定していますし同じ王朝物語である『有明の別』の事例からも恐らくそうであろうと思われます。とはいえ、もう少し推定を補強する材料が欲しいところです。
というわけで、以下では昔の透明人間関連の話題について少し見ていきます。インドの『ラーマーヤナ』では魔王の子インドラジッドが姿を消して戦い主人公達を苦しめるという逸話があります。またギリシア神話では、英雄ペルセウスがゴルゴンを倒す際に魔法の帽子で姿を隠しています。これら海外の例では敵と戦うときにアドバンテージを手に入れるため姿を隠すと言うパターンが目立ちます。しかし、宮中の恋愛ばかりを扱っている印象のある王朝物語における題材としてはそぐわない気がします。
一方、我が国や中国・インドの逸話を集めた『今昔物語集』にはこんな話があります。龍樹菩薩といえば大乗仏教大成者として知られる傑僧ですが、若いときに隠形の術を用いたというのです。ヤドリギを細かく切って三百日間陰干しにしたものを髪の毛にさすと姿が見えなくなった。そこで龍樹は二人の仲間と共に姿を消して王宮に忍び込み、王妃を始めとした後宮の美女達を次々に犯したのだとか。女達が事態を飲み込めないながらも不気味がって国王に訴えたため、国王は一計を案じて床に灰をまき龍樹一味の足跡が付いたのを手がかりにして二人を殺害。龍樹は命からがら逃げ出したのだそうです。それにしても、仏教史に大きな足跡を残した巨人にとんでもない逸話が残ったものですね。
似たような話が平賀源内著『風流志道軒伝』にもあり、志道軒が風来仙人から得た羽扇を背に挿して姿を消し清王乾隆帝の後宮に忍び込み美女を犯していましたが床に砂をまかれ足跡が残ったところに松明を投げつけられ羽扇が燃え姿が現れてしまったとか。
徳川期の春本でも透明人間ネタは利用されました。例えば元禄六年(1693)に刊行された『浮世榮花一代男』では浅草観音に色事の上達を祈った男が姿が見えなくなる花笠を授かり、全国の色事を見学して回るという内容でしたし、元禄八年(1695)の桃林堂蝶麿『好色赤烏帽子』でも色事の末に落剥した男が業平天神に祈ったところ姿を隠せる赤烏帽子を授かり諸国の情事を覗きまわる話でした。透明人間ではないですが同様の趣向として、元禄八年『好色年男』では五条天神から夢で女体化(ただし男性器はそのまま)する丸薬を授けられ、各地の武家や商家に奉公してそこの女性たちを好きなようにするというものがありました。また、豆粒ほどの小さな人間になり情事を覗き放題という「豆男もの」も春画では多数見られ、有名なところでは正徳二年(1712)『魂膽色遊懐男』や明和七年(1770)の鈴木春信『風流艶色真似ゑもん』があげられます。
以上のように、我が国の文化作品に登場する透明人間話は、大半が(題材は海外でも)エロい事に利用するという内容でした。さすがは日本、hentaiの本場として期待は裏切りません。
実のところ、姿を見られないように出来るならその力でこっそりエロい事をしてやれ、というのは我が国だけでないようで、例えば上述の「豆男もの」は中国のエロ小説で変身して情事を覗くという内容の『燈草奇縁』から着想を得たといわれていますし、西洋でも『フェルマータ』という小説は時間を止める能力を持つ男がその力を用いて気づかれないように気になる女性を脱がせて裸体を観察し自慰をするという話でした。…やれやれ、そんな能力があったら、それこそ世界征服を含めもっと大それた事もできそうなものですが。
以上から考えると、やはり『隠れ蓑の中将』は恐らく姿を見えなくしてエロい事に利用するという筋書きなのではないかと考えるのがしっくりきそうですね。何と言っても、人間を突き動かす大きな原動力はエロだということですね。まあ、王朝物語だけにどの程度直接的な描写があるかは疑問ですけど。人間と言うのは全くもって成長しない生き物ですな。
【参考文献】
東西不思議物語 澁澤龍彦 河出文庫
透明人間 H.G.ウエルズ 橋本槇矩訳 岩波文庫
世界文学全集Ⅲ-2ラーマーヤナ 阿部知二訳 河出書房新社
日本古典文学大系今昔物語集1-5 岩波書店
日本古典文学大系風来山人集 岩波書店
江戸枕絵の謎 林美一 河出書房
フェルマータ ニコルソン・ベイカー著 岸本佐知子訳 白泉Uブックス
関連記事:
「HENTAIとヘタレが咲き乱れる日本の文学的至宝・物語文学案内 『2/2 鎌倉編』上 注目作は超ラノベ」
「そろそろ『とりかへばや物語』の男の娘があんまり娘っぽくないことをしっかり示しておこうと思います」
男が女性に化けて入り込み女性をやってしまう逸話が。
「エロ絵で勝ち取る逆転裁判 ~裁判官の心をわしづかんだ鎌倉時代のエロマンガの話~」
覗き趣味的な心情が裁判を動かした話?
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2002/021206.html)
「エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/s2004/050311.html)
関連サイト:
「今昔かたりぐさ」(http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/00_index.html)より
「天狗の隠れ蓑」(http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/1014.htm)
このように、エロネタじゃない透明人間ものも日本にもあることはあります。
「goo音楽」(http://music.goo.ne.jp/index.html)より
「透明人間」(http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND3220/index.html)
「FANDC.CO.JP Official Web Site」(http://fandc.co.jp/)より
「透明人間あらわるあらわる」(http://fandc.co.jp/app/catalog/item/372)
上記歌をもじったエロゲー。
「廃墟碑文~無名作品の発掘?~」(http://kiisu.s56.xrea.com/index.php)より
「透明人間あらわるあらわる」(http://kiisu.s56.xrea.com/main.php?key=toumei)
上記エロゲーのレビューです。
「a Black Leaf」(http://blog.livedoor.jp/textsite/)より
「カリスマエロマンガ「Oh!透明人間」」(http://blog.livedoor.jp/textsite/archives/18324963.html)
透明人間になってエロい事をする漫画。
「女装・女性化作品フォーラム」(http://em003.cside.jp/~s03219-1/bbs/)より
「水無月すう「そらのおとしもの」第11話:女湯!!」
(http://em003.cside.jp/~s03219-1/bbs/?category=hobby&genre=ts&area=88696)
女体化して女性相手に好き放題という話。
関連していなくもない話題として、社会評論社『ダメ人間の日本史』より「高師直 スケベで知られた権力者、思い焦がれた挙げ句に美女の風呂覗き」「柳田国男 これは研究だから、出歯亀じゃないから! ~猥褻排した民俗学の御大は女性の下着大好きムッツリスケベ~」を御参照ください。
Amazon :『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)
楽天ブックス:『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)
当ブログ内紹介記事
楽天ブックス: ダメ人間の日本史 - ダメ人間の歴史vol 2 -
というわけで、以下では昔の透明人間関連の話題について少し見ていきます。インドの『ラーマーヤナ』では魔王の子インドラジッドが姿を消して戦い主人公達を苦しめるという逸話があります。またギリシア神話では、英雄ペルセウスがゴルゴンを倒す際に魔法の帽子で姿を隠しています。これら海外の例では敵と戦うときにアドバンテージを手に入れるため姿を隠すと言うパターンが目立ちます。しかし、宮中の恋愛ばかりを扱っている印象のある王朝物語における題材としてはそぐわない気がします。
一方、我が国や中国・インドの逸話を集めた『今昔物語集』にはこんな話があります。龍樹菩薩といえば大乗仏教大成者として知られる傑僧ですが、若いときに隠形の術を用いたというのです。ヤドリギを細かく切って三百日間陰干しにしたものを髪の毛にさすと姿が見えなくなった。そこで龍樹は二人の仲間と共に姿を消して王宮に忍び込み、王妃を始めとした後宮の美女達を次々に犯したのだとか。女達が事態を飲み込めないながらも不気味がって国王に訴えたため、国王は一計を案じて床に灰をまき龍樹一味の足跡が付いたのを手がかりにして二人を殺害。龍樹は命からがら逃げ出したのだそうです。それにしても、仏教史に大きな足跡を残した巨人にとんでもない逸話が残ったものですね。
似たような話が平賀源内著『風流志道軒伝』にもあり、志道軒が風来仙人から得た羽扇を背に挿して姿を消し清王乾隆帝の後宮に忍び込み美女を犯していましたが床に砂をまかれ足跡が残ったところに松明を投げつけられ羽扇が燃え姿が現れてしまったとか。
徳川期の春本でも透明人間ネタは利用されました。例えば元禄六年(1693)に刊行された『浮世榮花一代男』では浅草観音に色事の上達を祈った男が姿が見えなくなる花笠を授かり、全国の色事を見学して回るという内容でしたし、元禄八年(1695)の桃林堂蝶麿『好色赤烏帽子』でも色事の末に落剥した男が業平天神に祈ったところ姿を隠せる赤烏帽子を授かり諸国の情事を覗きまわる話でした。透明人間ではないですが同様の趣向として、元禄八年『好色年男』では五条天神から夢で女体化(ただし男性器はそのまま)する丸薬を授けられ、各地の武家や商家に奉公してそこの女性たちを好きなようにするというものがありました。また、豆粒ほどの小さな人間になり情事を覗き放題という「豆男もの」も春画では多数見られ、有名なところでは正徳二年(1712)『魂膽色遊懐男』や明和七年(1770)の鈴木春信『風流艶色真似ゑもん』があげられます。
以上のように、我が国の文化作品に登場する透明人間話は、大半が(題材は海外でも)エロい事に利用するという内容でした。さすがは日本、hentaiの本場として期待は裏切りません。
実のところ、姿を見られないように出来るならその力でこっそりエロい事をしてやれ、というのは我が国だけでないようで、例えば上述の「豆男もの」は中国のエロ小説で変身して情事を覗くという内容の『燈草奇縁』から着想を得たといわれていますし、西洋でも『フェルマータ』という小説は時間を止める能力を持つ男がその力を用いて気づかれないように気になる女性を脱がせて裸体を観察し自慰をするという話でした。…やれやれ、そんな能力があったら、それこそ世界征服を含めもっと大それた事もできそうなものですが。
以上から考えると、やはり『隠れ蓑の中将』は恐らく姿を見えなくしてエロい事に利用するという筋書きなのではないかと考えるのがしっくりきそうですね。何と言っても、人間を突き動かす大きな原動力はエロだということですね。まあ、王朝物語だけにどの程度直接的な描写があるかは疑問ですけど。人間と言うのは全くもって成長しない生き物ですな。
【参考文献】
東西不思議物語 澁澤龍彦 河出文庫
透明人間 H.G.ウエルズ 橋本槇矩訳 岩波文庫
世界文学全集Ⅲ-2ラーマーヤナ 阿部知二訳 河出書房新社
日本古典文学大系今昔物語集1-5 岩波書店
日本古典文学大系風来山人集 岩波書店
江戸枕絵の謎 林美一 河出書房
フェルマータ ニコルソン・ベイカー著 岸本佐知子訳 白泉Uブックス
関連記事:
「HENTAIとヘタレが咲き乱れる日本の文学的至宝・物語文学案内 『2/2 鎌倉編』上 注目作は超ラノベ」
「そろそろ『とりかへばや物語』の男の娘があんまり娘っぽくないことをしっかり示しておこうと思います」
男が女性に化けて入り込み女性をやってしまう逸話が。
「エロ絵で勝ち取る逆転裁判 ~裁判官の心をわしづかんだ鎌倉時代のエロマンガの話~」
覗き趣味的な心情が裁判を動かした話?
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2002/021206.html)
「エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/s2004/050311.html)
関連サイト:
「今昔かたりぐさ」(http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/00_index.html)より
「天狗の隠れ蓑」(http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/1014.htm)
このように、エロネタじゃない透明人間ものも日本にもあることはあります。
「goo音楽」(http://music.goo.ne.jp/index.html)より
「透明人間」(http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND3220/index.html)
「FANDC.CO.JP Official Web Site」(http://fandc.co.jp/)より
「透明人間あらわるあらわる」(http://fandc.co.jp/app/catalog/item/372)
上記歌をもじったエロゲー。
「廃墟碑文~無名作品の発掘?~」(http://kiisu.s56.xrea.com/index.php)より
「透明人間あらわるあらわる」(http://kiisu.s56.xrea.com/main.php?key=toumei)
上記エロゲーのレビューです。
「a Black Leaf」(http://blog.livedoor.jp/textsite/)より
「カリスマエロマンガ「Oh!透明人間」」(http://blog.livedoor.jp/textsite/archives/18324963.html)
透明人間になってエロい事をする漫画。
「女装・女性化作品フォーラム」(http://em003.cside.jp/~s03219-1/bbs/)より
「水無月すう「そらのおとしもの」第11話:女湯!!」
(http://em003.cside.jp/~s03219-1/bbs/?category=hobby&genre=ts&area=88696)
女体化して女性相手に好き放題という話。
関連していなくもない話題として、社会評論社『ダメ人間の日本史』より「高師直 スケベで知られた権力者、思い焦がれた挙げ句に美女の風呂覗き」「柳田国男 これは研究だから、出歯亀じゃないから! ~猥褻排した民俗学の御大は女性の下着大好きムッツリスケベ~」を御参照ください。
Amazon :『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)楽天ブックス:『ダメ人間の日本史』(ダメ人間の歴史vol 2)
当ブログ内紹介記事
楽天ブックス: ダメ人間の日本史 - ダメ人間の歴史vol 2 -
by trushbasket
| 2011-11-20 23:55
| NF








