『敗戦処理首脳列伝』宣伝企画 敗戦処理首脳あれこれベスト5
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・大きな成果を出した人ベスト5
1.ケマル・アタチュルク【20世紀前半 第一次大戦 トルコ】
オスマン帝国の軍人であったが、オスマン帝国が敗北して結んだ屈辱的講和に反発して革命を起こし新政府の首脳となる。占領軍として入り込んでいたギリシア軍に勝利してこれを追い出し、より有利に緩和された条件で再講和に成功。事実上、「リターンマッチで勝利」な存在。その後も民族主義に悩まされたオスマン帝国を国民国家「トルコ」に変貌させ近代化に成功した。
2.シャルル・モーリス・ド・タレイラン・ペリゴール 【19世紀前半 ナポレオン戦争 フランス】
歴史上屈指の外交家。ナポレオン戦争の途中からナポレオン後も見据えて動き、敗戦後には臨時政府首脳に。本来ならフランスがヨーロッパ全体を敵にまわした敗戦国・戦犯として袋叩きにあうはずであったが、没落したナポレオンを悪役にする事で戦争の「被害者」扱いを得る事に成功、更に戦後秩序への発言権まで確保する離れ業を見せる。
3.フォキオンとデマデス 【前4世紀後半 対マケドニア戦争 アテナイ】
国内の主戦論を抑え、親マケドニア路線を貫いてアテナイの安全を守る。マケドニア王フィリッポス2世が暗殺された際には、テーバイが反乱して後継者アレクサンドロスにより壊滅させられた一方でフォキオンらは軽挙妄動を避け安全を確保。その後アテナイは経済的に黄金期を迎える。
4.ピエトロ・バドリオ 【20世紀半ば 第二次大戦 イタリア】
イタリアの軍人・政治家。ムッソリーニの下で敗色濃厚となると、国王の支持を得て無血クーデターで政権を握る。枢軸国の主要な一角だったはずが、降伏後に連合国側へ鞍替えし戦勝国の一員に飛び入りする事に成功してみせた。しかしその際に国土の北半分をドイツに占領され祖国分裂の憂き目を見ている。
5.東久邇宮稔彦 【20世紀半ば 第二次大戦 日本】
日本の皇族。日本が連合国に降伏を申し入れた直後に組閣し処理にあたる。軍部の中には降伏に反発し反乱を目論む分子も存在したが、皇室の権威を利用して暴発を最小限にすませ、大過なく武装解除を進展。無事に降伏文書調印まで漕ぎ着けた。これによって連合軍側からある程度の信頼を得たようで、軍政が敷かれそうになった際もそれを取り消させるのに成功している。
※番外
カール・グスタフ・マンネルヘイム 【20世紀半ば 第二次大戦 フィンランド】
フィンランドの軍人・政治家。圧倒的な国力を持つソ連を相手に善戦し、その威信を利用して後に大統領としてソ連相手に和平交渉を成功させる。領土の割譲や賠償、戦犯の処罰は課せられたが、国土占領を免れると共に戦犯裁判も国内法廷でとする事に成功。ただ、これは国家首脳というより指揮官としての貢献がものをいったと思われる。
アブドュルメジト 【19世紀前半 第二次エジプト・トルコ戦争 オスマン帝国】
オスマン帝国の皇帝。対エジプト戦争が敗色濃厚な中で即位し和平交渉に当たる。列強の介入を得て事実上敗北を帳消しにするに等しい条件で講和できた。ただし、有能な外相の補佐を受けており寧ろ彼の手柄と考えるべきかもしれない。
・業績の割に報いられなかった人ベスト5
1.フォキオン 【前4世紀後半 対マケドニア戦争 アテナイ】
寛大な条件での和平に成功し祖国を破滅から救うと共に平和と繁栄をもたらしたが、謀叛を疑われ処刑された。
2.于謙 【15世紀半ば 土木の変 明】
明の政治家。皇帝が北方異民族に捕われた緊急事態の中、皇弟を擁立して首都を守り抜いた。しかし敵も多く、捕虜から帰還した前皇帝を擁立するクーデターで処刑される。
3.ミゲル・デ・イグレシアス 【19世紀後半 太平洋戦争(南米) ペルー】
ペルーの軍人・政治家。ペルーが完全敗北に陥って分裂し、敵軍が国土深く侵入している中である程度の譲歩を引き出した上で和平に成功。国内の再統一も果す。しかし領土割譲に同意した事から売国奴として非難され、クーデターによって失脚。
4.フリードリヒ・エーベルト 【20世紀前半 第一次大戦 ドイツ】
大戦末期に革命で混乱したドイツの政権を引き継ぎ、連合国との降伏交渉も継続。何とか終戦に漕ぎ着ける。その後の戦後混乱も何とか切り抜け相対的安定期を迎えるが、右派から中傷を受け裁判中に失意の病没。
5.テラメネス 【前5世紀後半 ペロポネソス戦争 アテナイ】
アテナイの軍人・政治家。スパルタを中心とするペロポネソス同盟相手に敗色濃厚となり国内の食糧供給もままならない状況で、国内の反対派を(少々強引な方法であったが)抑えて戦争終結をもたらす事に成功したが、戦後の専制体制の下で敵視され処刑された。
※番外
シリロ・アントニオ・リバロラ 【19世紀後半 三国同盟戦争(パラグアイ戦争) パラグアイ】
パラグアイの政治家。パラグアイがブラジル・アルゼンチン・ウルグアイ相手に破滅的な敗北を喫した後にブラジルによって擁立され終戦処理に当たる。何とか祖国の存続に成功したが、クーデターで失脚しその後暗殺された。
・うまく身を立てた人ベスト5
1.ケマル・アタチュルク 【20世紀前半 第一次大戦 トルコ】
一介の指揮官から、一国の指導者、そして近代化の父に。本人にとっても国にとっても劇的なサクセスストーリーといえる。
2.ドゥア 【14世紀初頭 カイドゥの乱 カイドゥ・ウルス】
モンゴル帝国内部の非フビライ勢力における副盟主。盟主であったカイドゥが戦死した後に実権を握り、元朝(フビライの王朝)と和平し自らの権益を確保した。モンゴル帝室としては日陰の存在であったチャガタイ家の出身であったが、カイドゥ死後に本領を発揮し中央ユーラシアに広大な勢力を築く。
3.鍋島直茂 【16世紀後半 沖田畷の戦い 龍造寺家】
龍造寺家の有力武将。龍造寺隆信が地方豪族から九州を三分する大勢力へと成長する過程で主力として貢献した。隆信が戦死して主柱を失った龍造寺家の実質的指導者として活動し、秀吉からも事実上の主君であるとみなされる。有力土豪連合であった龍造寺家の中心となることで、鍋島家が龍造寺家の家臣から大名へと格上げされる契機を作った。
4.ステファン・ラザレヴィッチ 【14世紀後半 コソボの戦い セルビア】
セルビアの君主。父がオスマン帝国に敗れた後、後継者としてオスマン帝国に服属し軍役を務めた。オスマン帝国がアンカラの戦いでティムールに敗北して一旦崩壊した際、その隙をつく形で独立を果たしている。
5.ジョゼフ・フーシェ 【19世紀前半 ナポレオン戦争(百日天下) フランス】
フランス革命期の政治家。その卓越した情報能力と陰謀能力で恐怖政治からナポレオン戦争時代までを巧みに生き延びた。タレイランと共に変節漢として名高い。ナポレオンがワーテルローで敗北した後、パリの臨時政府首班としてブルボン朝政府と交渉。ブルボン王家にとって彼はかつての国王死刑賛成派という許しがたい存在であり粛清される危険もあったが、パリ明け渡しと引き換えに自らの地位を保全した。
・敗戦処理終了後が本番だった人たちベスト5
1.ケマル・アタチュルク 【20世紀前半 第一次大戦 トルコ】
戦後、西欧化・教育・産業振興に力をいれ近代化に成功。衰亡しつつあった「世界帝国」を近代国民国家に変貌させた。
2.アレクサンドル2世 【19世紀半ば クリミア戦争 ロシア】
ロシア皇帝。クリミア戦争で敗色濃厚な中、即位した。戦後、国内の近代化に尽力。鉄道敷設を進め輸送力を拡大すると共に、農奴解放や教育改革、司法改革を行い成果を挙げた。
3.ステファン・ラザレヴィッチ 【14世紀後半 コソボの戦い セルビア】
オスマン帝国の属国として忍従し、オスマン帝国が一時的に崩壊すると独立を回復。勢力を拡大すると共にセルビア文化を振興する。
4.アブドゥルメジト 【19世紀前半 第二次エジプト・トルコ戦争 オスマン帝国】
近代化に努力しある程度の成果を挙げる。また近代化により西欧の好意を得る事で外交的介入を受け国を守る方針を採った。
5.フリードリヒ・エーベルト 【20世紀前半 第一次大戦 ドイツ】
戦後、空前の混乱期からの再建に尽力。
※番外
ゼナウィ 【20世紀末 エリトリア独立戦争 エチオピア】
エチオピア内戦を収束させ、国家再建中。
・しょんぼりな人ワースト5
1.クリスティーナ・ユレンシェルナ 【16世紀前半 スウェーデン独立戦争 スウェーデン】
スウェーデン独立派首領の妻。夫が戦死した後、ストックホルム篭城戦を経てデンマークに降伏。デンマーク王との会見で、王を威圧するため独立派同志のリストを見せ、それがデンマーク王による大粛清「ストックホルムの血浴」の契機となった。余計な事をしたとしかいいようがない。
2.マキシモ・ヘレス 【19世紀半ば ウィリアム・ウォーカー戦争 ニカラグア】
ニカラグアの政治家。冒険家ウィリアム・ウォーカーがニカラグアの政権を乗っ取り、周辺諸国がそれに同盟して対抗する中で反ウォーカー軍に加わる。戦後、ニカラグアの政権を一時掌握。最終的に袂を分かったとはいえ、胡散臭い冒険家であるウォーカーを当初は自由主義者の救世主として歓迎しその政権に入閣したのは、近代の政治家としてどうかと思われる。
3.ピエロラ 【19世紀後半 太平洋戦争(南米) ペルー】
太平洋戦争で敗色濃厚となる中、クーデターで政権を奪取。しかし前線の足を引っ張り、また和平交渉に踏み切る事もできず混乱させるだけに終った。何をしに出てきたのか?と言われても仕方ない。
4.鈴木貫太郎 【20世紀半ば 第二次大戦 日本】
日本の軍人・政治家。主戦論を唱える陸軍との間で四苦八苦するが、最終的に昭和天皇の威信も用いる事で何とか戦争終結に持ち込むことに成功した。連合国側からの降伏勧告に対し、陸軍を抑えきれず反乱の可能性もある中で、明言できず国論を降伏に導くためあえて「ノー・コメント」という意味で「黙殺」と発言。その結果は余りにも重大だった。本土決戦という最悪の結果は避けるという大きな仕事はした点を評価してこの順位。
5.ジョゼフ・フーシェ 【19世紀前半 ナポレオン戦争(百年戦争) フランス】
彼が臨時政府首班となったのは、パリの明け渡しを自らの保身・地位保全の条件として利用するためのみであった。タレイランがフランスの国益保持のため奔走し豪腕を発揮していたのと比較するとしょんぼりなのは否めない(実際、フーシェの行った事は対抗馬のカルノーでも問題なく遂行できたと思われる)。そうまでして守った地位も、最終的には用済みになると切り捨てられてしまった。国王死刑に賛成した過去からブルボン王朝から相容れない存在とみなされるのは明らかであり、また王朝復活が少なからぬ国民から反発を招いている事から、雌伏して機会を待つ選択肢もあったはずだが…。地位に拘って晩節を汚した感がある。
※番外
小磯国昭 【20世紀半ば 第二次大戦 日本】
日本の軍人・政治家。対米開戦以来、政権を掌握していた東條英機が失脚したのを受け敗色濃厚な中で重臣達から擁立される。和平交渉を期待されたが、充分な成果を挙げられず退陣。彼が選ばれたのは消去法に過ぎなかった。国家存亡の危機に、「敬神家だから」という推薦理由が空しく響く。おまけに出身母体である陸軍からも軽んじられ協力を得られなかった。これではどうにもならない。本人のせいとばかりいえない面も大きいので番外。
東久邇宮稔彦 【20世紀半ば 第二次大戦 日本】
降伏受け入れ決定後、武装解除や降伏文書調印までを問題なくこなしノルマは達成。後に皇族を脱退して臣下となり様々な職を転々とするが、新興宗教の教祖に祭り上げられたのはなんだかなあである。
ペタン 【20世紀半ば 第二次大戦 フランス】
フランスの軍人・政治家。第二次大戦初頭にフランスがドイツ軍により圧倒された際、降伏交渉のため政府を組織。その後、ドイツの傀儡国としての「フランス国」(ヴィシー政府)の長となる。祖国の崩壊を目の当たりにして敗戦処理として泥を被ったまではよかったが、ヴィシー政府で個人崇拝に走ったのはいただけない。
デーニッツ 【20世紀半ば 第二次大戦 ドイツ】
ドイツの軍人。海軍の潜水艦戦で大きな成果を上げ、ヒトラーの信任を得て海軍司令長官に。大戦末期、ヒトラーが自殺した後は後継者に指名され連合軍への降伏を指導した。戦後は戦犯として拘禁され、出所時、かつて自らを国家首班に推薦した人物に「貴様が私を推薦したせいで犯罪者扱いだ。私の軍歴がめちゃくちゃだ」と恨み言を述べた。心情は察するが、悲惨な事態に対する自分たちの責任に頭がいかず自身の不遇のみを嘆く様が何だかみっともないのは否めない。
【参考文献】
『敗戦処理首脳列伝』の末尾記載を御参照ください。
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「軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史」
なお、ユレンシェルナやウォーカー戦争に参加したコスタリカの女傑に関しては社会評論社『世界各国女傑列伝』が詳しいですので、興味のある方はそちらも御参照ください。
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