ポンパドール夫人の伝説を検討する~彼女は「パイズリ」の元祖か?~
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「パイズリはフランス国王ルイ十五世の愛人ポンパドール夫人に由来する」
そんな俗説があるらしいことは、以前の記事でお話したかと存じます。「パイズリ」というのは御存じの方もおられるかと思いますが、二つの乳房の間に相手の男根を挟み、刺激することで男性に快楽を与える方法の事をさします。昔、この俗説の真偽について、『図説乳房全書』なる本を参照して調査したのですが、はっきりしたことはわからなかったのです。しかし、記事のネタに困ったせいもあって最近に『図説乳房全書』を再読してみますと、どうやら答えらしきものがありました。恥ずかしながら前回は見落としてしまったその結論について、今回はお話させていただきたいと思います。
そもそもまず、ポンパドール夫人がどのような乳をしていたか、それ自体がどうやら論争の種になっているようです(それより先に論じるべきものは沢山あるんじゃないかとは思いますが)。その胸が彼女の並外れた白さを示すものとして「宮廷のもっとも貴重な華」なんていわれたそうですが、一部の歴史家は「すばらしい肉体だが乳房はなかった」と主張している一方で、「うっとりするような歯並び、中肉中背、手の美しさも申し分なし」であり「非のうちどころのない乳房」だと賞賛する人もありました。ちなみにルイ十五世時代は巨乳が好まれたようで、この論争には彼女の乳が大きかったか否かというのも含まれているんじゃないかと思われます。要は、パイズリができるだけの大きさを有していたかどうかがまずは不明なようですね。
しかし実のところ、ポンパドール夫人が巨乳であったか否かには関係なく、彼女はパイズリの元祖たりえないようです。十五世紀の詩人シャルル・ドルレアンは、その作中で女性にこう言わせています。
私の乳房の間にそれをそっと入れた。それが欲することを私にさせるために
(マルタン・モネスティエ著『図説乳房全書』大塚宏子訳 原書房 128頁)
そしてルイ十四世の皇太子(1711年に死亡)は愛人レザン夫人を相手にパイズリをするのを好んでいたとか。王室厩舎の管理人であったポワ・ジュルダンによると、
王太子様のお気に入りのやり方は、女の気配りある技巧によって、生殖の喜びの代わりにレザン夫人のすばらしい乳房でもっと刺激的なことをしてもらうことだった(同書 128頁)
ということです。ちなみにこの皇太子はルイ十五世より二世代前の人物です。以上を考えると、十五世紀には既にパイズリを好む男性が存在しており、更に宮廷においても十七世紀後半から十八世紀初頭には見られていたことになります。
というわけで、結論。ポンパドール夫人がパイズリの元祖であるという話は、彼女がパイズリをしたかどうかに関係なく残念ながら謬説である、と言わざるを得ません。
最後に余談になりますが、フランスではパイズリを「公証人のネクタイ」「小さなガチョウ」「スペイン式愛撫」「土塁の上のナポレオン」など様々な隠語で言い表していたそうです。
【参考文献】
図説乳房全書 マルタン・モネスティエ著 大塚宏子訳 原書房
かなりHな博学知識 博学こだわり倶楽部 河出書房新社
日本大百科全書 小学館
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わが国でも、徳川期には既にパイズリが存在していました。
「「おっぱい!おっぱい!」~日本人と乳について通史的に考える~」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「フランス史概説」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/s2004/050204.html)
「エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/s2004/050311.html)
「ジュブナイルポルノの歴史に関する覚え書きとささやかな考現学」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/mito/juvenile.html)
フランス宮廷が誇るHentaiについて興味のある方は、社会評論社『ダメ人間の世界史』より「デオン 王弟フィリップ オイゲン公子 誰よりも男らしい戦士たちの女らしい私生活を見よ ~ブルボン朝フランスが生んだ男の娘戦士たち~」を、乳好きな話に興味のある方は同『ダメ人間の日本史』より「太宰治 昭和屈指の大作家は、少女を顔より乳で認識するおっぱい星人」を御参照ください。
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