2012年 05月 21日
「敗戦処理首脳」の難易度別について少し考えてみる
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もはや祖国の敗北は免れない、そんな中で君主なり宰相なり大統領なりに押し上げられた人々を扱ったのが『敗戦処理首脳列伝』です。
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そこに登場する人物が課せられた責務は、結構多様性がありました。「戦勝国と交渉して敗れし祖国を救おうとする」という任務は同じでも、祖国の状況によって難易度は大きく異なってきます。そこで、今回は「敗戦処理首脳」たちを難易度で分類してみます。
・自国が敵国より遥かに大国な場合:難易度 低
自国の滅亡はまず心配ない。それどころか、戦場が敵国内で自国は無傷な事も。問題は、いかに大国としての威信をたもって戦争から手をひけるか、という点に絞られる事がほとんど。それとても決して容易な任務ではないが、他の「敗戦処理」と比較すると難易度は低め。反乱軍に手を焼いた末に「君主が逆臣の罪を特別に赦免する」という形式で和睦する事例もこのタイプ。本書では、デカン戦争でのサイイド(ムガル帝国)、ベトナム戦争のニクソン(アメリカ)、第二次長州出兵時点の徳川慶喜(徳川政権)、クリミア戦争でのアレクサンドル2世(ロシア)、アルジェリア独立戦争でのド・ゴール(フランス)など。土木の変における于謙(明)もこの範疇であろうか。敵の目的は中国征服ではなくあくまで朝貢貿易額の増大でしかなかったのだから。
・自国と敵陣営の国力に極端な差がなく、滅亡の心配はない場合:難易度 やや低い
敵側に自国を併合する余力はない事がほとんど。その中で、いかに和平条件をましなものにするか、という点が焦点に。ある意味、腕の見せ所なケースか。代表的なものとしてはナポレオン戦争でのタレイラン(フランス)、普仏戦争でのティエール(フランス)など。特殊な事例としてはカイドゥの乱後のドゥア(カイドゥ・ウルス)やナポレオン百日天下時のジョゼフ・フーシェ(フランス)のように和平を通じて自らの権益を確保したちゃっかりした人物もいる。
・敵陣営の力が自国より大きい。祖国が滅亡する可能性も否定できない:難易度 結構高い
敵陣営によって圧倒され、完全敗北に直面。しかし、必ずしも敵の目的が自国の滅亡ではない。交渉次第では祖国の存続は可能だが、一つ間違えば国を滅ぼす可能性は否定できない。代表的なものとしては、二つの世界大戦における敗戦処理首脳たちが挙げられよう。失敗して国を滅ぼした事例としては、靖康の変における欽宗(北宗)がこれにあたる。
この亜流として、首脳自身が敵国の傀儡として死命を握られ、祖国存続のためには敵の言いなりになる以外に選択肢がないケースもある。第二次アフガン戦争のヤークーブ・ハーン(アフガニスタン)、パラグアイ戦争のマキシモ・ヘレス(パラグアイ)などがそれである。
このパターンに陥ってもおかしくなかったが、軍事的奮闘で跳ね返した事例としては、第一次大戦後のケマル・アタチュルク(トルコ)や第二次大戦でのマンネルヘイム(フィンランド)がいる。
・敵陣営の力が自国より遥かに大きく、しかも敵の戦争目的が自国の征服にある:難易度 非常に高い(というか無理)
敵が自国を滅亡させるために戦争を行なっており、そもそも相手を交渉のテーブルにつく気にさせるためには戦局を膠着させる必要がある。そして、敗色濃厚でそれが不可能に近い状況にある。そのため、敗戦によって祖国と運命をともにするケースも多い。また、いかにして犠牲を少なく祖国の有終の美を飾るかしか選択肢がない場合すら珍しくない。その場合も、首脳の一命を差し出すことで自国の人々を救うという結末になることが。最も割に合わず、悲劇的結果を産みやすいパターンである。ただし、敵の情を受け一命を保って余生を送るケースもそれなりにあるが。秦の子嬰、呉の張悌、南宋の文天祥、ビザンツ帝国のコンスタンティノス11世は祖国滅亡に殉じて散った事例。自身の生命は全うできた事例としては、南北朝動乱の後亀山天皇、メリナ帝国のラナバロナ3世、ボーア戦争におけるバーガー(トランスバール共和国)やデ・ウェット(オレンジ自由国)、ベトナム戦争におけるズオン・バン・ミンら(北ベトナム)、ビアフラ共和国のエフィオングなどがある。
【参考文献】
敗戦処理首脳列伝 麓直浩 社会評論社
関連記事:
「『敗戦処理首脳列伝』宣伝企画 敗戦処理首脳あれこれベスト5」
「『敗戦処理首脳列伝』宣伝企画その2~武名を挙げた人々~」
「とある終戦処理の失敗例~ナポレオン3世と敗戦時の対処から「王の死」作戦を考える~」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史」
※2014/8/19 少し表現を変えています。
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そこに登場する人物が課せられた責務は、結構多様性がありました。「戦勝国と交渉して敗れし祖国を救おうとする」という任務は同じでも、祖国の状況によって難易度は大きく異なってきます。そこで、今回は「敗戦処理首脳」たちを難易度で分類してみます。
・自国が敵国より遥かに大国な場合:難易度 低
自国の滅亡はまず心配ない。それどころか、戦場が敵国内で自国は無傷な事も。問題は、いかに大国としての威信をたもって戦争から手をひけるか、という点に絞られる事がほとんど。それとても決して容易な任務ではないが、他の「敗戦処理」と比較すると難易度は低め。反乱軍に手を焼いた末に「君主が逆臣の罪を特別に赦免する」という形式で和睦する事例もこのタイプ。本書では、デカン戦争でのサイイド(ムガル帝国)、ベトナム戦争のニクソン(アメリカ)、第二次長州出兵時点の徳川慶喜(徳川政権)、クリミア戦争でのアレクサンドル2世(ロシア)、アルジェリア独立戦争でのド・ゴール(フランス)など。土木の変における于謙(明)もこの範疇であろうか。敵の目的は中国征服ではなくあくまで朝貢貿易額の増大でしかなかったのだから。
・自国と敵陣営の国力に極端な差がなく、滅亡の心配はない場合:難易度 やや低い
敵側に自国を併合する余力はない事がほとんど。その中で、いかに和平条件をましなものにするか、という点が焦点に。ある意味、腕の見せ所なケースか。代表的なものとしてはナポレオン戦争でのタレイラン(フランス)、普仏戦争でのティエール(フランス)など。特殊な事例としてはカイドゥの乱後のドゥア(カイドゥ・ウルス)やナポレオン百日天下時のジョゼフ・フーシェ(フランス)のように和平を通じて自らの権益を確保したちゃっかりした人物もいる。
・敵陣営の力が自国より大きい。祖国が滅亡する可能性も否定できない:難易度 結構高い
敵陣営によって圧倒され、完全敗北に直面。しかし、必ずしも敵の目的が自国の滅亡ではない。交渉次第では祖国の存続は可能だが、一つ間違えば国を滅ぼす可能性は否定できない。代表的なものとしては、二つの世界大戦における敗戦処理首脳たちが挙げられよう。失敗して国を滅ぼした事例としては、靖康の変における欽宗(北宗)がこれにあたる。
この亜流として、首脳自身が敵国の傀儡として死命を握られ、祖国存続のためには敵の言いなりになる以外に選択肢がないケースもある。第二次アフガン戦争のヤークーブ・ハーン(アフガニスタン)、パラグアイ戦争のマキシモ・ヘレス(パラグアイ)などがそれである。
このパターンに陥ってもおかしくなかったが、軍事的奮闘で跳ね返した事例としては、第一次大戦後のケマル・アタチュルク(トルコ)や第二次大戦でのマンネルヘイム(フィンランド)がいる。
・敵陣営の力が自国より遥かに大きく、しかも敵の戦争目的が自国の征服にある:難易度 非常に高い(というか無理)
敵が自国を滅亡させるために戦争を行なっており、そもそも相手を交渉のテーブルにつく気にさせるためには戦局を膠着させる必要がある。そして、敗色濃厚でそれが不可能に近い状況にある。そのため、敗戦によって祖国と運命をともにするケースも多い。また、いかにして犠牲を少なく祖国の有終の美を飾るかしか選択肢がない場合すら珍しくない。その場合も、首脳の一命を差し出すことで自国の人々を救うという結末になることが。最も割に合わず、悲劇的結果を産みやすいパターンである。ただし、敵の情を受け一命を保って余生を送るケースもそれなりにあるが。秦の子嬰、呉の張悌、南宋の文天祥、ビザンツ帝国のコンスタンティノス11世は祖国滅亡に殉じて散った事例。自身の生命は全うできた事例としては、南北朝動乱の後亀山天皇、メリナ帝国のラナバロナ3世、ボーア戦争におけるバーガー(トランスバール共和国)やデ・ウェット(オレンジ自由国)、ベトナム戦争におけるズオン・バン・ミンら(北ベトナム)、ビアフラ共和国のエフィオングなどがある。
【参考文献】
敗戦処理首脳列伝 麓直浩 社会評論社
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「とある終戦処理の失敗例~ナポレオン3世と敗戦時の対処から「王の死」作戦を考える~」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「軍事史概説 戦略と戦術の東西文明五千年史」
※2014/8/19 少し表現を変えています。
by trushbasket
| 2012-05-21 01:56








