2012年 06月 16日
キノコの力で英雄になろう~有毒植物と人間の関わりに少し触れる~
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日本のコンピュータゲームを代表する作品の一つに、『スーパーマリオブラザーズ』があります。改めて説明する必要はないかと思いますが、キノコ王国がクッパ大王率いるカメ王国に滅ぼされ、キノコ王国の王女・ピーチ姫(なぜキノコ王国の姫が「桃」なのかは知りませんが)が囚われたためマリオが救出に向かうという筋書きです。
さて、マリオはキノコや花といった隠れアイテムによってパワーアップするわけですが、それに関してうがった見解もあるようです。
要は、マリオはキノコや花によって薬物中毒状態になって興奮し幻覚を見ていたんじゃないかという話ですね。そう言われてみれば、確かにアイテムのキノコは傘に斑点があって毒キノコにしか見えません。しかし一方で、あんな模様のキノコは子供時代の絵本でおなじみだった気がします。
結論から申しますと、ゲームに登場するキノコのような、白い斑点があるキノコとして有名なものにベニテングタケというのがあります。ベニテングタケはマツタケ目テングタケ科の毒キノコで、ハエがなめると倒れるためアカハエトリとも呼ばれているとか。真紅の傘の表面に白い疣がたくさん載った模様が特徴的で、高さが10~20cm・傘の径は10~15cm程度。あの疣は幼菌を包んだ外皮膜がちぎれた名残なんだとか。北半球の温帯においてシラカバやダケカンバの林に秋に生える事が多いそうです。
このキノコが内蔵する毒は複雑です。ムスカリン(アルカロイドの一種で脈拍減少・縮瞳などを起こす)が含まれているのは有名ですが、ムスカリンは寧ろ少量でイボテン酸やムッシモールといった成分が主であるとされています。食べると15~30分で中毒症状が出現し、興奮・筋肉痙攣・錯乱・幻覚・めまいが引き起こされるのです。毒性の強さについては色々話もありますが、致死性があるという話もあったりしますから食べるのはお勧めできないかと思います。
こうした特性から、ベニテングタケは特徴的な利用のされ方をしていました。中世ヨーロッパで北海沿岸を荒らしまわった海賊バイキングは、出撃前にこのキノコを食べて瞬発的な戦闘力を高めていたといわれています。また、アメリカの民俗学者G・ワッソンによるとアメリカ高地民族の酋長が部族間戦争前にベニテングタケを食べ、その尿を次の位の人が飲み、更に下の人がその尿を飲む儀式を繰り返す事で戦士全員にキノコの毒がいきわたって興奮状態になったそうです。キノコの生えるシラカバの林は神聖視され、酋長以外の出入りは禁じられたとか。
また、ワッソンは古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に記された聖植物「ソーマ」の正体はこのベニテングダケだったのではないかと仮説を述べて話題を呼んでいます。インドで苦行が流行るのはベニテングタケが手に入らなくなったためトリップするための代替手段を求めたからだという説もあるようですね。
更にシベリアの先住民といわれるコリヤーク人はベニテングタケを崇め珍重しましたが、これも同様な理由だと思います。そして現代でもマジックマッシュルームとして気分高揚・幻覚を求める人々が濫用していると言われています。
要するにキノコを食べて大きく強くなったような気分になり、実際に戦いで通常以上の力を発揮するために長らく用いられてきたわけですね。まさしく彼らにとってはスーパーなキノコ。
また西欧では、幸福を象徴する赤色を背景に星のような模様がついた傘を持っていることから幸福をもたらすキノコとして親しまれています。
そのメルヘンチックな外見と毒性から長らく珍重されてきたベニテングタケ。マリオがアイテムとして手に入れていたキノコも類似した外見をしていますから、キノコによる幻覚という説も一概には否定できないのかもしれません。
さて、ベニテングタケ以外にもその毒性ゆえに珍重されてきた植物は存在します。類例を挙げますとメキシコではサボテンを干物にして宗教儀式に利用していたそうで、やはり陶酔作用をもたらしたといわれています。そしてマヤ文明ではテオナアカトルというキノコを同様に使用していたという話も。
宗教儀式以外にも有毒植物が民間療法に利用された事例もあります。ドクニンジンやマンダラゲ、ベラドンナは幻覚作用を持つ有毒植物ですが、その一方で鎮痛剤としても有用だったそうです。また、魔女の薬として知られるマンドラゴラはマンダラゲがモデルらしく、催眠剤に用いられたり根が媚薬にされたりしたとか。ライ麦に麦角菌が付着して出来た「麦角」も幻覚作用があったり(LSDの原料となります)手足にただれや痛みを生じた反面で、止血剤や陣痛促進作用をもたらす薬剤として使用されていました。こうした有毒植物を用いていたのは民間治療に長じた女性たちが多く、医学が発達する以前には寧ろ彼女達の調合する薬剤が医者よりも頼りにされたようです。もっとも近世に入るとこうした女性たちは魔女として排斥されていきますが。
民間療法の女性だけでなく、貴族女性にもこうした有毒植物の調合に長じていた人は多かったといわれています。例えばベラドンナは眸を大きくして目を美しく見せるために用いられていました(「ベラドンナ」という名前自体が美女という意味を持つ)し、媚薬調合のため様々な植物が用いられたとか。美しさを追求するためには、女性たちは手段を選ばなかったのですね。
その延長上かどうかは知りませんが、毒薬使いとして知られる女性が西洋史には時々出現するようです。有名なところではフランス国王アンリ2世の王妃であったカトリーヌ・ド・メディシスやアンリ4世の後妻であったマリ・ド・メディシスは毒を操ったとして悪評を立てられています。また、ローマの伝説的建国者であるロムルスが立てたとされる法にも夫に毒をもった妻は追い出して構わないという内容の条文があったそうで。
マリオをパワーアップさせるキノコや花を国民として統べるのが姫というのも、西洋で植物を使うのに長じていたのが女性という伝統を考えるとおかしなことではないですね。
以上のように、幻覚作用のある有毒植物とも人間は古来から上手く付き合っていました。キノコや花の成分によって強くなって戦いに臨んだマリオはそうした戦士たちの紛れもない末裔だと思います。
【参考文献】
おとぎ話の生物学 蓮実香祐 PHP
きのこブック 写真・伊沢正名 平凡社
ローマ教皇検死録 小長谷正明著 中公新書
歴史を変えた毒 山崎幹夫 角川書店
中華文人食物語 南條竹則 集英社新書
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「房中術におけるロリコン及び男性の徳について」
ここでは記しませんでしたが、房中術も怪しげな薬を用います。
「おとなのおもちゃ in 江戸~『四つ目屋』の店先を覗いて見よう~」
媚薬の話。
「世界は『男性』の大きさを歴史的にどう見てきたか」
自然界の毒を用いて逸物を大きくする話もあります。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「古代インドにおけるヒンドゥーイズムの展開」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1997/970718.html)
「引きこもりニート列伝その2 竹林の七賢」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet02.html)
いけないお薬な話に少し触れています。
関連サイト:
「WEB SEEK」(http://f19.aaa.livedoor.jp/~webseek/)より
「スーパーマリオブラザーズ攻略メモ」
(http://f19.aaa.livedoor.jp/~webseek/mariobrother/)
パワーグローブでスーパーマリオブラザーズをクリア/Mario with the Power Glove
マリオ関連で、京大歴研でなされた奇特なプレイを紹介。
「写真で見る有毒植物」
(http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/poisoning/plants/index.html)
いけないおクスリに関する話題がある偉人については、興味のある方は社会評論社『ダメ人間の世界史』より「何晏 自然回帰の大思想家の自然に反した快楽追求の日々 ~女装癖と麻薬と~」「ジャハーンギール 怠惰を極めて臣下に食事を口まで運んで貰った王様 ~酒と薬でラリってしまって食事するのもめんどくさい~」あたりをご覧ください。
Amazon :『ダメ人間の世界史』(ダメ人間の歴史vol 1)
楽天ブックス:『ダメ人間の世界史』(ダメ人間の歴史vol 1)
当ブログ内紹介記事
楽天ブックス: ダメ人間の世界史 - ダメ人間の歴史vol 1 -
さて、マリオはキノコや花といった隠れアイテムによってパワーアップするわけですが、それに関してうがった見解もあるようです。
「とっぽい。」(http://toppoi.blog54.fc2.com/)より
「さよならを教えて マリオはジャンキー説」(http://toppoi.blog54.fc2.com/blog-entry-477.html)
元ネタは『さよならを教えて』というエロゲーだそうですが、色々と人を選ぶゲームらしいです。
要は、マリオはキノコや花によって薬物中毒状態になって興奮し幻覚を見ていたんじゃないかという話ですね。そう言われてみれば、確かにアイテムのキノコは傘に斑点があって毒キノコにしか見えません。しかし一方で、あんな模様のキノコは子供時代の絵本でおなじみだった気がします。
結論から申しますと、ゲームに登場するキノコのような、白い斑点があるキノコとして有名なものにベニテングタケというのがあります。ベニテングタケはマツタケ目テングタケ科の毒キノコで、ハエがなめると倒れるためアカハエトリとも呼ばれているとか。真紅の傘の表面に白い疣がたくさん載った模様が特徴的で、高さが10~20cm・傘の径は10~15cm程度。あの疣は幼菌を包んだ外皮膜がちぎれた名残なんだとか。北半球の温帯においてシラカバやダケカンバの林に秋に生える事が多いそうです。
このキノコが内蔵する毒は複雑です。ムスカリン(アルカロイドの一種で脈拍減少・縮瞳などを起こす)が含まれているのは有名ですが、ムスカリンは寧ろ少量でイボテン酸やムッシモールといった成分が主であるとされています。食べると15~30分で中毒症状が出現し、興奮・筋肉痙攣・錯乱・幻覚・めまいが引き起こされるのです。毒性の強さについては色々話もありますが、致死性があるという話もあったりしますから食べるのはお勧めできないかと思います。
こうした特性から、ベニテングタケは特徴的な利用のされ方をしていました。中世ヨーロッパで北海沿岸を荒らしまわった海賊バイキングは、出撃前にこのキノコを食べて瞬発的な戦闘力を高めていたといわれています。また、アメリカの民俗学者G・ワッソンによるとアメリカ高地民族の酋長が部族間戦争前にベニテングタケを食べ、その尿を次の位の人が飲み、更に下の人がその尿を飲む儀式を繰り返す事で戦士全員にキノコの毒がいきわたって興奮状態になったそうです。キノコの生えるシラカバの林は神聖視され、酋長以外の出入りは禁じられたとか。
また、ワッソンは古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に記された聖植物「ソーマ」の正体はこのベニテングダケだったのではないかと仮説を述べて話題を呼んでいます。インドで苦行が流行るのはベニテングタケが手に入らなくなったためトリップするための代替手段を求めたからだという説もあるようですね。
更にシベリアの先住民といわれるコリヤーク人はベニテングタケを崇め珍重しましたが、これも同様な理由だと思います。そして現代でもマジックマッシュルームとして気分高揚・幻覚を求める人々が濫用していると言われています。
要するにキノコを食べて大きく強くなったような気分になり、実際に戦いで通常以上の力を発揮するために長らく用いられてきたわけですね。まさしく彼らにとってはスーパーなキノコ。
また西欧では、幸福を象徴する赤色を背景に星のような模様がついた傘を持っていることから幸福をもたらすキノコとして親しまれています。
そのメルヘンチックな外見と毒性から長らく珍重されてきたベニテングタケ。マリオがアイテムとして手に入れていたキノコも類似した外見をしていますから、キノコによる幻覚という説も一概には否定できないのかもしれません。
さて、ベニテングタケ以外にもその毒性ゆえに珍重されてきた植物は存在します。類例を挙げますとメキシコではサボテンを干物にして宗教儀式に利用していたそうで、やはり陶酔作用をもたらしたといわれています。そしてマヤ文明ではテオナアカトルというキノコを同様に使用していたという話も。
宗教儀式以外にも有毒植物が民間療法に利用された事例もあります。ドクニンジンやマンダラゲ、ベラドンナは幻覚作用を持つ有毒植物ですが、その一方で鎮痛剤としても有用だったそうです。また、魔女の薬として知られるマンドラゴラはマンダラゲがモデルらしく、催眠剤に用いられたり根が媚薬にされたりしたとか。ライ麦に麦角菌が付着して出来た「麦角」も幻覚作用があったり(LSDの原料となります)手足にただれや痛みを生じた反面で、止血剤や陣痛促進作用をもたらす薬剤として使用されていました。こうした有毒植物を用いていたのは民間治療に長じた女性たちが多く、医学が発達する以前には寧ろ彼女達の調合する薬剤が医者よりも頼りにされたようです。もっとも近世に入るとこうした女性たちは魔女として排斥されていきますが。
民間療法の女性だけでなく、貴族女性にもこうした有毒植物の調合に長じていた人は多かったといわれています。例えばベラドンナは眸を大きくして目を美しく見せるために用いられていました(「ベラドンナ」という名前自体が美女という意味を持つ)し、媚薬調合のため様々な植物が用いられたとか。美しさを追求するためには、女性たちは手段を選ばなかったのですね。
その延長上かどうかは知りませんが、毒薬使いとして知られる女性が西洋史には時々出現するようです。有名なところではフランス国王アンリ2世の王妃であったカトリーヌ・ド・メディシスやアンリ4世の後妻であったマリ・ド・メディシスは毒を操ったとして悪評を立てられています。また、ローマの伝説的建国者であるロムルスが立てたとされる法にも夫に毒をもった妻は追い出して構わないという内容の条文があったそうで。
マリオをパワーアップさせるキノコや花を国民として統べるのが姫というのも、西洋で植物を使うのに長じていたのが女性という伝統を考えるとおかしなことではないですね。
以上のように、幻覚作用のある有毒植物とも人間は古来から上手く付き合っていました。キノコや花の成分によって強くなって戦いに臨んだマリオはそうした戦士たちの紛れもない末裔だと思います。
【参考文献】
おとぎ話の生物学 蓮実香祐 PHP
きのこブック 写真・伊沢正名 平凡社
ローマ教皇検死録 小長谷正明著 中公新書
歴史を変えた毒 山崎幹夫 角川書店
中華文人食物語 南條竹則 集英社新書
日本大百科全書 小学館
関連記事:
「房中術におけるロリコン及び男性の徳について」
ここでは記しませんでしたが、房中術も怪しげな薬を用います。
「おとなのおもちゃ in 江戸~『四つ目屋』の店先を覗いて見よう~」
媚薬の話。
「世界は『男性』の大きさを歴史的にどう見てきたか」
自然界の毒を用いて逸物を大きくする話もあります。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「日本民衆文化史」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2002/021206.html)
「古代インドにおけるヒンドゥーイズムの展開」
(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/1997/970718.html)
「引きこもりニート列伝その2 竹林の七賢」
(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/neet02.html)
いけないお薬な話に少し触れています。
関連サイト:
「WEB SEEK」(http://f19.aaa.livedoor.jp/~webseek/)より
「スーパーマリオブラザーズ攻略メモ」
(http://f19.aaa.livedoor.jp/~webseek/mariobrother/)
パワーグローブでスーパーマリオブラザーズをクリア/Mario with the Power Glove
マリオ関連で、京大歴研でなされた奇特なプレイを紹介。
「写真で見る有毒植物」
(http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/poisoning/plants/index.html)
いけないおクスリに関する話題がある偉人については、興味のある方は社会評論社『ダメ人間の世界史』より「何晏 自然回帰の大思想家の自然に反した快楽追求の日々 ~女装癖と麻薬と~」「ジャハーンギール 怠惰を極めて臣下に食事を口まで運んで貰った王様 ~酒と薬でラリってしまって食事するのもめんどくさい~」あたりをご覧ください。
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当ブログ内紹介記事
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by trushbasket
| 2012-06-16 22:01
| NF








