2012年 08月 15日
ノストラダムスのお料理地獄~大予言者はいかにしてフランス宮廷に近付いたか~
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大変長らく更新をさぼってしまい申し訳ありません。ネタが見つからない上、何も書き出せない状況が続いてました。ようやくネタらしきものが出てきたので、少々お話をば。
いつかも同じ予言で書き出した気がしますが、これは言うまでもなくノストラダムスの良く知られた大予言。何事もなく該当時期が過ぎ去ってほっとしたようながっかりしたような心持を味わって、早いもので既に十年以上が経っています。
ノストラダムスは本名をミシェル・ド・ノートルダムといい1503年にサン・レミ・ド・プロヴァンスで生まれました。ユダヤ系の家系でしたが祖父の代にカトリックに改宗しています。アヴィニョンで古典、トゥールーズで法学を修めた他にモンペリエ大学で医学博士となっており、1526年にラングドック地方、1540年代後半にエクスやリヨンで消毒法を活用してペスト防疫に貢献したとされています。その後もフランス各地を移動し医術指導目的でエジプトに赴いたとか。
一方、彼の名を高めたのは占星術師としての顔でした。1555年に『諸世紀』を著したのを契機に、ノストラダムスはその名声を確かなものとしました。「ノストラダムスの予言」が取りざたされる際はこの『諸世紀』にある詩であることが多いのですが、当時における占星術は世界の事象を象徴的に知るための科学とみなされており、必ずしも未来の予言だけを意味するものではなかったそうです。さてノストラダムスはやがてアンリ2世の王妃でありフランス宮廷を牛耳っていたカトリーヌ・ド・メディシスの信任を得てシャルル9世の侍医となり、莫大な財産を残し六十三歳で亡くなっています。彼は同時代において既に神秘的な能力を持つ人物とみなされていたようで、詩人ロンサールにも題材として取り上げられたほか、没して数十年後に書かれたジャン・エメ・ド・シャヴエー『ノストラダムス伝要説』でもそういったイメージが反映されているそうです。そして後の時代にも偽の予言詩が追加される事がしばしばであり、例えばルイ14世時代の初期に宰相を務めたマザランを誹謗したり擁護したりする目的で彼の名に託した詩が捏造されたとか。
現在でも、彼の予言はアンリ2世の事故死に始まりフランス革命、ナポレオンの栄光と没落、第一次世界大戦、ロシア革命、フランコ将軍の反乱、ヒトラーの死に至るまで的中させたと評価する向きがあり、我が国でも一時期ブームになった事は皆様良くご存知かと思います。まあ、予言というのは概して解釈の余地が広く作られていますし、ノストラダムスの予言も読んだ限りではその例に漏れない印象でしたから、どの程度真に受けてよいかは分かりませんけどね。澁澤龍彦氏は、人間が神秘的な予言や占いを好むのは古今東西変わらない事を指摘した上で、ノストラダムスが「そうした人間の弱みをちゃんと見抜いていて、思うように彼らを操っていた老獪な人物だった」のではないかと類推し「もっぱら他人を煙にまくことによって、彼は危険な陰謀や異端迫害の時代を巧みに生き抜いた」(括弧内は澁澤龍彦『妖人奇人伝』河出文庫 99頁)のだと述べています。
さて、そんなノストラダムスがフランス宮廷に受け入れられたきっかけに関しては、一つ面白い説があるようです。一般的にはノストラダムスの予言詩がアンリ2世の死を正確に予見していた事から注目されたのが契機とされていますが、一説によれば彼が書いたある論文がカトリーヌの目に留まった事によるという話も。その論文の題名は『美味なる料理を知るべき人に欠くべからざるいと有用にしてすぐれた小論』といい、フルーツゼリーとジャムの製造法について記していたので美食家として知られたカトリーヌが心引かれたのだそうです。…数百年後にまで名を轟かせた神秘的大予言者としては世俗的な話ですね。人間、いつの時代でも予言もさる事ながら美味しい食べ物に関する情報も同じくらいかそれ以上に大好きだという事でしょうね。
【参考文献】
図説ラルース世界史人物百科Ⅱ フランソワ・トレモリエール、カトリーヌ・リシ編 樺山紘一・日本語版監修 原書房
悪食大全 ロミ著 高遠弘美訳 作品社
妖人奇人館 澁澤龍彦 河出文庫
日本大百科全書 小学館
ノストラダムス大予言原典諸世紀仏和対訳 ミカエル・ノストラダムス著 ヘンリー・C・ロバーツ編 大乗和子訳 内田秀男監修 たま出版(冒頭の予言を引用するのに使用)
関連記事:
「聖徳太子未来記と野馬台詩~『話は聞かせてもらったぞ!日の本は滅亡する!』『な、なんだってー!』」
「覇者の胃袋 ~粗食、偏食、暴飲暴食の帝王たち~」
「偉大なるダメ人間シリーズ番外その5 ブルボン朝フランスの女装の勇士たち」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「フランス史概説」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050204.html)
「食卓越しの政治史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2007/070622.html)
関連サイト:
「セントラルリサーチセンター」(http://www.crc-japan.com/index.html)より
「ノストラダムスの予言」(http://www.crc-japan.com/research/n-prediction/index.html)
一九九九年の七カ月
天から驚くほど強い恐ろしい王がやってきて
アンゴルモアの大王をよみがえらせ
その前後火星はほどよく統治するだろう
いつかも同じ予言で書き出した気がしますが、これは言うまでもなくノストラダムスの良く知られた大予言。何事もなく該当時期が過ぎ去ってほっとしたようながっかりしたような心持を味わって、早いもので既に十年以上が経っています。
ノストラダムスは本名をミシェル・ド・ノートルダムといい1503年にサン・レミ・ド・プロヴァンスで生まれました。ユダヤ系の家系でしたが祖父の代にカトリックに改宗しています。アヴィニョンで古典、トゥールーズで法学を修めた他にモンペリエ大学で医学博士となっており、1526年にラングドック地方、1540年代後半にエクスやリヨンで消毒法を活用してペスト防疫に貢献したとされています。その後もフランス各地を移動し医術指導目的でエジプトに赴いたとか。
一方、彼の名を高めたのは占星術師としての顔でした。1555年に『諸世紀』を著したのを契機に、ノストラダムスはその名声を確かなものとしました。「ノストラダムスの予言」が取りざたされる際はこの『諸世紀』にある詩であることが多いのですが、当時における占星術は世界の事象を象徴的に知るための科学とみなされており、必ずしも未来の予言だけを意味するものではなかったそうです。さてノストラダムスはやがてアンリ2世の王妃でありフランス宮廷を牛耳っていたカトリーヌ・ド・メディシスの信任を得てシャルル9世の侍医となり、莫大な財産を残し六十三歳で亡くなっています。彼は同時代において既に神秘的な能力を持つ人物とみなされていたようで、詩人ロンサールにも題材として取り上げられたほか、没して数十年後に書かれたジャン・エメ・ド・シャヴエー『ノストラダムス伝要説』でもそういったイメージが反映されているそうです。そして後の時代にも偽の予言詩が追加される事がしばしばであり、例えばルイ14世時代の初期に宰相を務めたマザランを誹謗したり擁護したりする目的で彼の名に託した詩が捏造されたとか。
現在でも、彼の予言はアンリ2世の事故死に始まりフランス革命、ナポレオンの栄光と没落、第一次世界大戦、ロシア革命、フランコ将軍の反乱、ヒトラーの死に至るまで的中させたと評価する向きがあり、我が国でも一時期ブームになった事は皆様良くご存知かと思います。まあ、予言というのは概して解釈の余地が広く作られていますし、ノストラダムスの予言も読んだ限りではその例に漏れない印象でしたから、どの程度真に受けてよいかは分かりませんけどね。澁澤龍彦氏は、人間が神秘的な予言や占いを好むのは古今東西変わらない事を指摘した上で、ノストラダムスが「そうした人間の弱みをちゃんと見抜いていて、思うように彼らを操っていた老獪な人物だった」のではないかと類推し「もっぱら他人を煙にまくことによって、彼は危険な陰謀や異端迫害の時代を巧みに生き抜いた」(括弧内は澁澤龍彦『妖人奇人伝』河出文庫 99頁)のだと述べています。
さて、そんなノストラダムスがフランス宮廷に受け入れられたきっかけに関しては、一つ面白い説があるようです。一般的にはノストラダムスの予言詩がアンリ2世の死を正確に予見していた事から注目されたのが契機とされていますが、一説によれば彼が書いたある論文がカトリーヌの目に留まった事によるという話も。その論文の題名は『美味なる料理を知るべき人に欠くべからざるいと有用にしてすぐれた小論』といい、フルーツゼリーとジャムの製造法について記していたので美食家として知られたカトリーヌが心引かれたのだそうです。…数百年後にまで名を轟かせた神秘的大予言者としては世俗的な話ですね。人間、いつの時代でも予言もさる事ながら美味しい食べ物に関する情報も同じくらいかそれ以上に大好きだという事でしょうね。
【参考文献】
図説ラルース世界史人物百科Ⅱ フランソワ・トレモリエール、カトリーヌ・リシ編 樺山紘一・日本語版監修 原書房
悪食大全 ロミ著 高遠弘美訳 作品社
妖人奇人館 澁澤龍彦 河出文庫
日本大百科全書 小学館
ノストラダムス大予言原典諸世紀仏和対訳 ミカエル・ノストラダムス著 ヘンリー・C・ロバーツ編 大乗和子訳 内田秀男監修 たま出版(冒頭の予言を引用するのに使用)
関連記事:
「聖徳太子未来記と野馬台詩~『話は聞かせてもらったぞ!日の本は滅亡する!』『な、なんだってー!』」
「覇者の胃袋 ~粗食、偏食、暴飲暴食の帝王たち~」
「偉大なるダメ人間シリーズ番外その5 ブルボン朝フランスの女装の勇士たち」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「フランス史概説」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/s2004/050204.html)
「食卓越しの政治史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/data/2007/070622.html)
関連サイト:
「セントラルリサーチセンター」(http://www.crc-japan.com/index.html)より
「ノストラダムスの予言」(http://www.crc-japan.com/research/n-prediction/index.html)
by trushbasket
| 2012-08-15 00:14
| NF








