昔、奈良は「大阪」だった~『消滅した国々』ならぬ「消滅した自治体」の一例~
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関連サイト:
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「吉田一郎『消滅した国々』発売です!」(http://hamazakikaku.blog136.fc2.com/blog-entry-322.html)
著者・吉田氏が政治活動に乗り出された根底には、旧大宮市が旧浦和市と合併し「さいたま市」となった事で行政サービス・インフラが旧浦和に偏っていく事への怒り・反発があるとの事。『消滅した国々』執筆も、そうした政治目標の延長上にあるようです。
関連サイト;
「やっぱり大宮市民の会」(http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/9297/)
吉田氏の公式サイトです。
これに関連してなくもない話題として、日本国内において自治体合併において吸収された側が不便を強いられ「再独立」を果たした事例として、関西人である筆者にとって比較的身近な事例を一つ余談として話しておこうと思います。
奈良県はかつての「大和国」全域に相当。大阪府の東・京都府の南にあり、古都である奈良や飛鳥、更に斑鳩や吉野など歴史の古い観光地である事は御存じの方も多いかと存じます。ひょっとすると、「せんとくん」の県と申し上げた方が通りが良いかもしれません。ですがこの奈良県、一時的に「大阪府」の一部であった事は、どの程度知られているでしょうか。
明治初期、廃藩置県に伴い大名統治が撤廃されて中央集権が打ち出された1871年、大和国全体を統括する「奈良県」が設置されます。しかし県の統廃合が進められる中で、1876年に「奈良県」は「堺県」に統合され更に1881年には「堺県」もろとも「大阪府」に合併されました。
その結果、地方行政の中心地という地位を失った奈良の町は衰退。また行政的な重点は大都市大阪を擁し瀬戸内海を控えた摂河泉地域(摂津・河内・和泉。要は大阪平野周辺)におかれ、治水・道路建設・医療・教育などにおいて旧大和地域のインフラ整備はなおざりにされる傾向がありました。そのせいもあり、府会では地方税の配分を巡って摂河泉代表と大和代表の間で意見が常に対立。大和地域の代表者数は少なく、意見が通りにくかったといいます(大阪市20人、摂津11人、河内16人、和泉8人、大和17人)。大和地域の住民にとっては、摂河泉に搾取されているという印象が高まり、反発が募っていきました。また単純に、役所が遠方の大阪にあるのが不便なのも大きかったようです。
そうした中で、自由民権運動による全国的な政治的関心の高まりに乗じて奈良県再設置を求める運動が盛んになりました。彼らは内務省や太政官、更に元老院への請願を繰り返し、結実したのが1887年です。この年に大和地域が地租軽減を認められなかった件を大和の代表団が大蔵大臣松方正義に陳情。地租軽減は認められなかったものの、その代償として再び大和地域は奈良県として分離を認められ現在に至っています。
奈良と大阪の合併は、少なくとも当時としては無理のあるものだったと言えます。互いの距離が近く昔から互交流が盛んだった摂河泉と異なり、大和地域は大阪平野との間に生駒山地や金剛山地があり、往来は不便。現在なら奈良市から近鉄奈良線やJR大和路線で30分程度で大阪の中心部に出られますが、当時は鉄道がまだまだ普及していない時代ですからね。歴史的に見ても、大阪が瀬戸内海との交通の要所である事から商業都市として発展した一方、大和は興福寺の支配が長らく続くなど別個の流れを持っていましたから文化的相違もバカにはなりません。大阪と奈良では、それぞれのアイデンティティーも既に異なっていたと思われます。
また、当時は西欧列強に対抗するため富国強兵・殖産興業が唱えられました。大阪府が殊更に大和地域を軽視した訳では無論ないでしょうが、時代の要請にこたえるため大和より摂河泉が優先されたのはやむを得ない事でした。その意味でも、合併により大和地域が受けるメリットはなかったといえるでしょう。
余談ながら、奈良だけでなく、徳島・鳥取・富山・佐賀・宮崎なども同様な経緯で県の再設置を勝ち取った歴史を持っているようです。
現在、東京一極集中への対応策として、地方別で大同団結させる「道州制」を唱える声も少なからずみられます。地方の活性化を目指す上で効果が期待できる方針ではあります。とはいえ、その過程で従来の自治体の権限をどう扱うかは重要な問題です。新たな「一極集中」を「大同団結」の中で起こさないように留意されてしかるべき、という教訓は胸に刻まれるべきでしょう。中々に頭の痛い問題ですね。
【参考文献】
消滅した国々 吉田一郎 社会評論社
青山四方にめぐれる国 奈良県誕生物語 奈良県
日本大百科全書 小学館
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この際、出版社が、大挙、大阪に引っ越せば良いのに。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「南北朝における大阪」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/osaka.html)
関連サイト:
「kamarinトップページ」(http://www.kamarin.com/)より
「特集 奈良県誕生物語」(http://www.kamarin.com/special_edition/index_0.htm)
奈良県の廃止・再設置にまつわる歴史は、このサイトが詳しいです。この記事でもかなり参考にさせていただきました。