2014年 05月 06日
ゴキブリと人間~「これはこれは…… お久しぶりです… 師匠…」~
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定期更新がすっかり遅れまして、申し訳ありません。連休中、すっかり風邪をひきこんでしまいました。
さて、板垣恵介先生による人気格闘漫画『刃牙』シリーズが、『刃牙道』として連載再開し話題を呼んでいるらしいですね。
さてこの主人公である範馬刃牙、かつて刃牙が素早い動きを身に着ける上でゴキブリを「師匠」として仰いだという話は一部で知られています。
とはいえ、世間一般で言えばゴキブリは人々から嫌われているといって差し支えありません。見た目だけの問題ではなく、様々な病原体を保有している事が知られており、感染症を媒介するという話もあったりしますものね。それだけに直接言及するのも嫌な人も少なくないらしく、「ゴッキー」「イニシャルG」といった隠語で呼ぶ人すら存在します。刃牙のようにゴキブリに敬意を持って接するのは例外的な現象のようですね。
近代の思想家で禅研究家である鈴木大拙もゴキブリは嫌いだったようで秘書・西谷啓治氏の証言によれば
といった具合だったとか。他の虫なら人間の都合で部屋から追い出しはするものの殺生は避けていたようですが、ゴキブリには容赦なかったわけですね。
戦後に活動した歌人・斎藤史も
と同情しつつも容赦ありません。
このようにゴキブリを嫌悪する向きは昔から存在したようで、日本では古い傘を置いておくとその油紙を好んで集まるのでそれを利用して捨てる方法が取られていたそうです。日本以外でも、アイルランドでは魔女が疫病をもたらす際に化けた姿だとか、キリストが隠れている場所を暴いたとかいった伝説があり忌み嫌われる事が多いようです。西洋では聖金曜日に外へ掃き出す、針に刺して見せしめにするといった風習があったところもあるとか。またアメリカやイギリスでは、リンゴの匂いでゴキブリが駆逐されるという俗説があったそうです。
しかし意外にも、全ての時代や地域で嫌悪されていたわけでもないようです。一例を挙げるとロシアやフランスではゴキブリを家に幸運をもたらす守護霊とみなしていたとか。また日本でも十八世紀後半の横井也有『鶉衣』にはゴキブリが当時は必ずしも憎まれたわけでないと思われる記述があるそうで。
とはいえ、同時代の日本においては人から物をたかる人物をゴキブリにちなみ「油虫」と呼んでいたそうですから一般的に好意的な視線は向けられてなかったんじゃないでしょうか。
また熱帯地域やイギリスなどでゴキブリを食用としていた例もあったといいますから驚きです。食用以外にも、中国・ペルー・ジャマイカなど薬品としていた事例も多々ありました。日本でも、霜焼け・雪焼け・驚風(小児の脳膜炎)・風邪・胃腸薬などに用いる地域があったようで。他にもロシアでは水腫の薬として使われた時期があったといわれています。
以上のように嫌悪するにしろ好むにしろ、人間はゴキブリとは古くからの付き合いを余儀なくされ、なおかつ無視する事のできない存在だったようですね。
なお「ゴキブリ」という名称が定着したのは比較的新しいようです。平安期には「阿久多牟之(あくたむし)」「都乃牟之(つのむし)」と呼ばれ、徳川期には「御器(椀)」をかじる事から「ゴキカブリムシ」と呼ぶようになったそうです。地方によっては「ゴキクライムシ」と呼びましたし、「油虫」と呼ばれたこともあったとか。近代に松村松年が『日本昆虫学』(1898)で「ゴキカブリムシ」を「ゴキブリ」と誤記した事が契機になって現在の名称が広まったのだそうです。
【参考文献】
名文どろぼう 竹内政明 文春新書
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
範馬刃牙 板垣恵介 秋田書店
関連記事:
今回、ぴったり関連する話題は難しいので、民俗学っぽい話題で全世界レベルを概観した記事をいくつか。
「「邪気眼を持たぬ者にはわからんだろう…」~魔力を有する視線「邪視」について~」
「キノコの力で英雄になろう~有毒植物と人間の関わりに少し触れる~」
「ウタマロの国・日本~各地の春画は男根をどう描いてきたか~」
関連サイト:
「ゴキブリ対策」(http://cockroach.hajime123.net/)
「それにつけても金のほしさよ」(http://snudge.blog38.fc2.com/)より
「やる夫と学ぶゴキブリ」(http://snudge.blog38.fc2.com/blog-entry-824.html)
※2014/5/10 リンクが切れている箇所があったので修正しました。
さて、板垣恵介先生による人気格闘漫画『刃牙』シリーズが、『刃牙道』として連載再開し話題を呼んでいるらしいですね。
関連サイト:
「刃牙道 B-DAY 3.20」(http://baki.akitashoten.co.jp/)
さてこの主人公である範馬刃牙、かつて刃牙が素早い動きを身に着ける上でゴキブリを「師匠」として仰いだという話は一部で知られています。
関連サイト:
「稲穂スタジオ」(http://www.inahostudio.com/)より
「範馬刃牙 第210話 液化現象」(http://www.inahostudio.com/baki/hanmabaki210.htm)
「梁山泊」(http://www.geocities.jp/daikichimaster21/)より
「範馬刃牙 第210話 液化現象」(http://home.catv.ne.jp/pp/daikichi/hanma210.html)
とはいえ、世間一般で言えばゴキブリは人々から嫌われているといって差し支えありません。見た目だけの問題ではなく、様々な病原体を保有している事が知られており、感染症を媒介するという話もあったりしますものね。それだけに直接言及するのも嫌な人も少なくないらしく、「ゴッキー」「イニシャルG」といった隠語で呼ぶ人すら存在します。刃牙のようにゴキブリに敬意を持って接するのは例外的な現象のようですね。
近代の思想家で禅研究家である鈴木大拙もゴキブリは嫌いだったようで秘書・西谷啓治氏の証言によれば
大拙先生は家の中でゲジゲジやその他の虫を見ると、「君たちはこんな所にいるよりは外にいるほうがいいんだ」と言い聞かせながら、窓をあけ、火箸などを使って外につまみ出したものです。ところが、ゴキブリになると事は別、先生は目の色を変え、すばやくスリッパの片方をぬぎ、振り上げながら右に左にバタバタと
(竹内政明『名文どろぼう』文春新書 179頁)
といった具合だったとか。他の虫なら人間の都合で部屋から追い出しはするものの殺生は避けていたようですが、ゴキブリには容赦なかったわけですね。
戦後に活動した歌人・斎藤史も
佳き声をもし持つならば愛さるる虫かと言ひてごきぶり叩く
と同情しつつも容赦ありません。
このようにゴキブリを嫌悪する向きは昔から存在したようで、日本では古い傘を置いておくとその油紙を好んで集まるのでそれを利用して捨てる方法が取られていたそうです。日本以外でも、アイルランドでは魔女が疫病をもたらす際に化けた姿だとか、キリストが隠れている場所を暴いたとかいった伝説があり忌み嫌われる事が多いようです。西洋では聖金曜日に外へ掃き出す、針に刺して見せしめにするといった風習があったところもあるとか。またアメリカやイギリスでは、リンゴの匂いでゴキブリが駆逐されるという俗説があったそうです。
しかし意外にも、全ての時代や地域で嫌悪されていたわけでもないようです。一例を挙げるとロシアやフランスではゴキブリを家に幸運をもたらす守護霊とみなしていたとか。また日本でも十八世紀後半の横井也有『鶉衣』にはゴキブリが当時は必ずしも憎まれたわけでないと思われる記述があるそうで。
とはいえ、同時代の日本においては人から物をたかる人物をゴキブリにちなみ「油虫」と呼んでいたそうですから一般的に好意的な視線は向けられてなかったんじゃないでしょうか。
また熱帯地域やイギリスなどでゴキブリを食用としていた例もあったといいますから驚きです。食用以外にも、中国・ペルー・ジャマイカなど薬品としていた事例も多々ありました。日本でも、霜焼け・雪焼け・驚風(小児の脳膜炎)・風邪・胃腸薬などに用いる地域があったようで。他にもロシアでは水腫の薬として使われた時期があったといわれています。
以上のように嫌悪するにしろ好むにしろ、人間はゴキブリとは古くからの付き合いを余儀なくされ、なおかつ無視する事のできない存在だったようですね。
なお「ゴキブリ」という名称が定着したのは比較的新しいようです。平安期には「阿久多牟之(あくたむし)」「都乃牟之(つのむし)」と呼ばれ、徳川期には「御器(椀)」をかじる事から「ゴキカブリムシ」と呼ぶようになったそうです。地方によっては「ゴキクライムシ」と呼びましたし、「油虫」と呼ばれたこともあったとか。近代に松村松年が『日本昆虫学』(1898)で「ゴキカブリムシ」を「ゴキブリ」と誤記した事が契機になって現在の名称が広まったのだそうです。
【参考文献】
名文どろぼう 竹内政明 文春新書
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
範馬刃牙 板垣恵介 秋田書店
関連記事:
今回、ぴったり関連する話題は難しいので、民俗学っぽい話題で全世界レベルを概観した記事をいくつか。
「「邪気眼を持たぬ者にはわからんだろう…」~魔力を有する視線「邪視」について~」
「キノコの力で英雄になろう~有毒植物と人間の関わりに少し触れる~」
「ウタマロの国・日本~各地の春画は男根をどう描いてきたか~」
関連サイト:
「ゴキブリ対策」(http://cockroach.hajime123.net/)
「それにつけても金のほしさよ」(http://snudge.blog38.fc2.com/)より
「やる夫と学ぶゴキブリ」(http://snudge.blog38.fc2.com/blog-entry-824.html)
※2014/5/10 リンクが切れている箇所があったので修正しました。
by trushbasket
| 2014-05-06 18:43
| NF








