2014年 11月 23日
南北朝関連の律詩を鑑賞する~藤田東湖『楠公五百忌辰之詩』~
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これまで何度か、南北朝関連の漢詩を見てきました。
関連記事:
「「芳野三絶」~南北朝関連の作品を題材に漢詩を見る~」
「南北朝歴史人物の漢詩を鑑賞する~細川頼之『海南行』と絶海中津『応制賦三山』~」
「「南北朝歴史人物の漢詩」外伝~後花園天皇、義政を諌める~」
これらはいずれも七言絶句でしたが、今回は律詩を見てみましょう。題材は藤田東湖『楠公五百忌辰之詩』。藤田東湖(1806-1855)は幕末期の水戸学における中心人物です。水戸藩主徳川斉昭から信任を受け、斉昭が幕政に参加した際にはその下で幕府海防掛にもなっています。
なお、○●は平仄を表し○が平、●が仄。◎は押韻の字を表します。平仄や漢詩の大雑把な規則については、以前の記事を御参照いただければ。取り上げる作品世界が国粋主義的なのが気に障る方もおられるかもしれませんが、その辺りについては南北朝を題材に後世の人間が作った作品、という事で「御了承ください」と申し上げるしか。なお、この作品をチョイスした理由は、南北朝関連の律詩の中で説明に使いやすそうだったのがこれだった、という一点に尽きます。意外に、律詩となると少ないのですよ。絶句や古詩は結構見つかるのですが。
楠公五百忌辰之詩 藤田東湖
●●○○●●◎
大廈誰知一木支 大廈誰か知らん 一木の支え
○○○●●○◎
中興成否繋南枝 中興の成否 南枝に繋る
○○●●○○●
勤王義結金剛壘 勤王義を結ぶ 金剛の壘
●●●○●●◎
逆賊膽寒菊水旗 逆賊膽は寒し 菊水の旗
○●●○○●●
還闕復當豺虎徑 闕に還るも 復た當たる 豺虎の徑
●○●●●○◎
鞠躬無奈廟堂機 躬を鞠(かが)むも 奈(いかん)とも無し 廟堂の機
○○●●○○●
空餘一片精忠気 空しく餘す 一片の 精忠の気
●●○○●●◎
凛冽長為百世師 凛冽にして 長えに為る 百世の師
<現代語訳>
大きな家のような天下のうちで、誰が知っていただろうか。ある「木」が支えていた事を。
後醍醐天皇による中興事業の成否は 南の木すなわち「楠」にかかっていたのだ。
皇室に尽くす義盟が結ばれたのは 正成が籠る金剛山の砦において。
逆賊・北条氏が肝を冷やしたのは 楠木氏が掲げる菊水の旗だった。
その働きで天皇が宮廷に戻ったが、正成は再び当たらねばならなかった。山犬や虎のような敵軍が押し寄せる道へ。
その身をかがめるかのような懸命の働きにもかかわらず、どうにもできなかった。朝廷での議論を。
残念ながら大事はならず、正成の忠心は思いを残す。
その心はすさまじく、永遠に後世の見本となっている。
二字目・四字目・六字目はそれぞれ●○○●、○●●○、●○○●を二度繰り返しているのが分かるかと思います。絶句を二度繰り返している形ですね。押韻となっているのは一行目と偶数行目。韻を踏んでいない行の末尾は平仄が韻字の逆、すなわち仄となっています。
律詩の場合、注目する必要があるのはその構成です。最初の二行が首聯、三行目・四行目が頷聯、五行目・六行目が頸聯、七行目・八行目が尾聯。それぞれ、絶句での起句・承句・転句・結句に相当し役割も似たようなものと言えます。ここで、頷聯・頸聯は「対句」になっている必要があります。すなわち、一方の句で使われている言葉に従って、もう片方の句も品詞などが平衡が取れるように組み立てられるのです。例えば頷聯では「勤王」と「逆賊」、「金剛の壘」「菊水の旗」が対になっています。「勤王」と「逆賊」は意味が反対同士なのも面白いですよね。頸聯では「闕に還る」「躬を鞠む」、「豺虎の徑」「廟堂の機」といった具合。首聯・尾聯が対になってないのと比べてみてください。
【参考文献】
土橋真吉著『楠公精神の研究』大日本皇道奉賛会
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
『新字源』角川書店
『大辞泉』小学館
関連記事:
上記を御参照下さい。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「楠木正成」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2000/001201.html)
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これらはいずれも七言絶句でしたが、今回は律詩を見てみましょう。題材は藤田東湖『楠公五百忌辰之詩』。藤田東湖(1806-1855)は幕末期の水戸学における中心人物です。水戸藩主徳川斉昭から信任を受け、斉昭が幕政に参加した際にはその下で幕府海防掛にもなっています。
なお、○●は平仄を表し○が平、●が仄。◎は押韻の字を表します。平仄や漢詩の大雑把な規則については、以前の記事を御参照いただければ。取り上げる作品世界が国粋主義的なのが気に障る方もおられるかもしれませんが、その辺りについては南北朝を題材に後世の人間が作った作品、という事で「御了承ください」と申し上げるしか。なお、この作品をチョイスした理由は、南北朝関連の律詩の中で説明に使いやすそうだったのがこれだった、という一点に尽きます。意外に、律詩となると少ないのですよ。絶句や古詩は結構見つかるのですが。
楠公五百忌辰之詩 藤田東湖
●●○○●●◎
大廈誰知一木支 大廈誰か知らん 一木の支え
○○○●●○◎
中興成否繋南枝 中興の成否 南枝に繋る
○○●●○○●
勤王義結金剛壘 勤王義を結ぶ 金剛の壘
●●●○●●◎
逆賊膽寒菊水旗 逆賊膽は寒し 菊水の旗
○●●○○●●
還闕復當豺虎徑 闕に還るも 復た當たる 豺虎の徑
●○●●●○◎
鞠躬無奈廟堂機 躬を鞠(かが)むも 奈(いかん)とも無し 廟堂の機
○○●●○○●
空餘一片精忠気 空しく餘す 一片の 精忠の気
●●○○●●◎
凛冽長為百世師 凛冽にして 長えに為る 百世の師
<現代語訳>
大きな家のような天下のうちで、誰が知っていただろうか。ある「木」が支えていた事を。
後醍醐天皇による中興事業の成否は 南の木すなわち「楠」にかかっていたのだ。
皇室に尽くす義盟が結ばれたのは 正成が籠る金剛山の砦において。
逆賊・北条氏が肝を冷やしたのは 楠木氏が掲げる菊水の旗だった。
その働きで天皇が宮廷に戻ったが、正成は再び当たらねばならなかった。山犬や虎のような敵軍が押し寄せる道へ。
その身をかがめるかのような懸命の働きにもかかわらず、どうにもできなかった。朝廷での議論を。
残念ながら大事はならず、正成の忠心は思いを残す。
その心はすさまじく、永遠に後世の見本となっている。
二字目・四字目・六字目はそれぞれ●○○●、○●●○、●○○●を二度繰り返しているのが分かるかと思います。絶句を二度繰り返している形ですね。押韻となっているのは一行目と偶数行目。韻を踏んでいない行の末尾は平仄が韻字の逆、すなわち仄となっています。
律詩の場合、注目する必要があるのはその構成です。最初の二行が首聯、三行目・四行目が頷聯、五行目・六行目が頸聯、七行目・八行目が尾聯。それぞれ、絶句での起句・承句・転句・結句に相当し役割も似たようなものと言えます。ここで、頷聯・頸聯は「対句」になっている必要があります。すなわち、一方の句で使われている言葉に従って、もう片方の句も品詞などが平衡が取れるように組み立てられるのです。例えば頷聯では「勤王」と「逆賊」、「金剛の壘」「菊水の旗」が対になっています。「勤王」と「逆賊」は意味が反対同士なのも面白いですよね。頸聯では「闕に還る」「躬を鞠む」、「豺虎の徑」「廟堂の機」といった具合。首聯・尾聯が対になってないのと比べてみてください。
【参考文献】
土橋真吉著『楠公精神の研究』大日本皇道奉賛会
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
『新字源』角川書店
『大辞泉』小学館
関連記事:
上記を御参照下さい。
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「楠木正成」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/2000/001201.html)
by trushbasket
| 2014-11-23 10:55
| NF








