2015年 02月 11日
<読書案内>横山光輝『マーズ』
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今回は、昔の漫画作品を取り上げてみようかと。横山光輝先生といえば、言うまでもなく手塚治虫先生らと並ぶ大御所漫画家。昨年が生誕80周年だったそうです(そして没後10年でもありました)。世に知られた作品だけでも、『鉄人28号』『伊賀の影丸』『魔法使いサリー』『バビル2世』『三国志』といった具合に多数挙がります。その中で、知る人ぞ知るといった扱いをされている中編作品が今回扱う『マーズ』(秋田書店)。文庫版だと全3巻になります。
話のあらすじは以下の通り。
海底火山の噴火で誕生した「秋の島新島」を取材中の新聞記者が、島の上に正体不明の少年が全裸で立っているのを発見します。その少年は通常の人間と異なる部分も多く、当初は言葉も話せない状態でしたが、入院先の院長に引き取られ短期間に言葉や人間社会のあれこれを習得。ある時、少年の元へ謎の男が訪問します。彼が少年に語るには、こうでした。
太古のこと、地球を訪問した宇宙人は、地球人を見て脅威を感じました。その知能の高さ、そして残忍さと好戦性。いずれは宇宙にとって危険な存在になるに違いない。そう考えた宇宙人は、地球人が進歩し宇宙に進出する段階になった際に地球を破壊すべく備えを行いました。すなわち、大陸を吹き飛ばせるほどの「神体」たちと地球人類への監視者たち、そして地球を爆破できるロボット「ガイアー」とその命令者「マーズ」。実は訪問した男は監視者の一人で、秋の島新島の少年こそマーズだというのです。そして監視者・マーズとも宇宙人によって作られた人造人間なんだとか。
マーズは、火山活動の影響で予定より一世紀ほど早く目覚めてしまったのですが、人間の進歩も当初の予測より早く危険性はもはや無視できないレベルになっているとのこと。監視者によってプログラム通り地球を破壊するよう促されたマーズですが、予定外の覚醒で元来の記憶が失われている事、見る限り地球人が滅ぼさねばならぬほど邪悪で危険とは思えなかった事からそれを躊躇します。結局、マーズは地球人を守るため監視者や彼らが操る神体と闘う決意をするのです。
しかし、記憶が戻らず相手に関する情報がないままの戦いで苦戦を強いられ、また戦いが進むごとにガイアーの爆破装置が様々な条件で発動しうることなどが判明。マーズや地球人たちは苦境に追い込まれ、地球人たちも精神的な余裕を失っていきます。そして、果たして戦いの行方は…。
さて、この作品では、人類の本性はいかなるものか、というのがテーマの一つになっています。監視者の一人は、マーズにこう説いています。
一方で、作中には、こうした発言も。
発言だけでなく、行動においても岩倉記者のように立派な人間だって少なくとも個人レベルでは登場しました。
はてさて、いずれが是でいずれが非なのか。人類は宇宙の平和のためには滅びるべき存在なのか、それともそうした危険さをも克服できる存在なのか。この物語で下された最終結論は果たして。
横山先生らしく描写が淡々としているだけに、追い詰められ疑心暗鬼・パニックに陥った人々の振る舞いも個人的にはリアリティを感じました。自分がその場にいても、残念ながら同様な行動をしてしまうかもなあ、と思わされるものが。そして戦いの末に迎えた結末は、長らく語り草となっています。一見唐突なようで、実はちゃんと伏線が張られている辺りは流石というべきでしょうか。最後に示された結論には、是々非々がありうるでしょう。それでも、当否・賛否はともかくとして物語の中でそうした流れに収束した点については個人的に納得はいきました。まあ、地球人に対してとった手段を考えるに、マーズらを設置した宇宙人は地球人を裁ける資格があるほど御立派なのか、というそもそもの部分に疑問が生じたりはしましたけど。
この『マーズ』、これまでに三度のアニメ化がされているそうですが、大幅に内容が変化したり(例:『六神合体ゴッドマーズ』)途中で断念を余儀なくされているとかいう話も。そのままの内容で放送するのはためらわれる反面、それでも何度も映像化されるだけの魅力があるということなんでしょうね。
それにしても、横山先生生誕80周年の前後に、一昨年末から続く西之島新島の拡大、大雪などの異常気象と『マーズ』を連想させる要素が散見されるのは何かの因縁なんでしょうか。そして、昨今の世界を見たとしたら監視者たちは何を思うのか、もしマーズが現在に覚醒したとしたら監視者の説得にどう応じるのか、もしそうなった場合に我々はどう振る舞うのか…などと要らぬ事も頭をよぎったりよぎらなかったり。
まあ、そうした埒もない空想はさておき。古い作品ではありますが、世界情勢が色々と騒がしい今こそ、改めて手に取ってみる値打ちのある作品かもしれない、とは思います。
【参考文献】
横山光輝『マーズ』1-3 秋田文庫
※2015/2/12 敬称が不ぞろいだったので修正。
話のあらすじは以下の通り。
海底火山の噴火で誕生した「秋の島新島」を取材中の新聞記者が、島の上に正体不明の少年が全裸で立っているのを発見します。その少年は通常の人間と異なる部分も多く、当初は言葉も話せない状態でしたが、入院先の院長に引き取られ短期間に言葉や人間社会のあれこれを習得。ある時、少年の元へ謎の男が訪問します。彼が少年に語るには、こうでした。
太古のこと、地球を訪問した宇宙人は、地球人を見て脅威を感じました。その知能の高さ、そして残忍さと好戦性。いずれは宇宙にとって危険な存在になるに違いない。そう考えた宇宙人は、地球人が進歩し宇宙に進出する段階になった際に地球を破壊すべく備えを行いました。すなわち、大陸を吹き飛ばせるほどの「神体」たちと地球人類への監視者たち、そして地球を爆破できるロボット「ガイアー」とその命令者「マーズ」。実は訪問した男は監視者の一人で、秋の島新島の少年こそマーズだというのです。そして監視者・マーズとも宇宙人によって作られた人造人間なんだとか。
マーズは、火山活動の影響で予定より一世紀ほど早く目覚めてしまったのですが、人間の進歩も当初の予測より早く危険性はもはや無視できないレベルになっているとのこと。監視者によってプログラム通り地球を破壊するよう促されたマーズですが、予定外の覚醒で元来の記憶が失われている事、見る限り地球人が滅ぼさねばならぬほど邪悪で危険とは思えなかった事からそれを躊躇します。結局、マーズは地球人を守るため監視者や彼らが操る神体と闘う決意をするのです。
しかし、記憶が戻らず相手に関する情報がないままの戦いで苦戦を強いられ、また戦いが進むごとにガイアーの爆破装置が様々な条件で発動しうることなどが判明。マーズや地球人たちは苦境に追い込まれ、地球人たちも精神的な余裕を失っていきます。そして、果たして戦いの行方は…。
さて、この作品では、人類の本性はいかなるものか、というのがテーマの一つになっています。監視者の一人は、マーズにこう説いています。
「同じ地球の人間を皆殺しにしてもなんとも思わぬ感覚……… いや その兵器を争って作る感覚……… この感覚を恐ろしいとは思わんか」(横山光輝『マーズ』1 秋田文庫 108頁)
「地球人は場所や環境によって悪鬼に早変わりするんだ」(同書 148頁)
「地球人の残忍行為は数えればきりがないほどあるんだ それが一度国に帰ると良き市民となり良き父親に早変わりしてしまうんだ マーズ しっかりしろ!! 上辺だけでだまされるな!!」(同書 149頁)
一方で、作中には、こうした発言も。
「そうね 昔は戦争ばかりしてたようね でもそれは昔の話 今は違うわ 戦争というものがどれほどおろかな行為かみんな知ってるわ」(同書 198頁)
「平気でやったのじゃなくその人たちが考えちがいしてたのよ だからそれがわかった時こうして非難をこめて書き記されているのよ」(同書 同頁、発言は人類の残虐行為について)
発言だけでなく、行動においても岩倉記者のように立派な人間だって少なくとも個人レベルでは登場しました。
はてさて、いずれが是でいずれが非なのか。人類は宇宙の平和のためには滅びるべき存在なのか、それともそうした危険さをも克服できる存在なのか。この物語で下された最終結論は果たして。
横山先生らしく描写が淡々としているだけに、追い詰められ疑心暗鬼・パニックに陥った人々の振る舞いも個人的にはリアリティを感じました。自分がその場にいても、残念ながら同様な行動をしてしまうかもなあ、と思わされるものが。そして戦いの末に迎えた結末は、長らく語り草となっています。一見唐突なようで、実はちゃんと伏線が張られている辺りは流石というべきでしょうか。最後に示された結論には、是々非々がありうるでしょう。それでも、当否・賛否はともかくとして物語の中でそうした流れに収束した点については個人的に納得はいきました。まあ、地球人に対してとった手段を考えるに、マーズらを設置した宇宙人は地球人を裁ける資格があるほど御立派なのか、というそもそもの部分に疑問が生じたりはしましたけど。
この『マーズ』、これまでに三度のアニメ化がされているそうですが、大幅に内容が変化したり(例:『六神合体ゴッドマーズ』)途中で断念を余儀なくされているとかいう話も。そのままの内容で放送するのはためらわれる反面、それでも何度も映像化されるだけの魅力があるということなんでしょうね。
それにしても、横山先生生誕80周年の前後に、一昨年末から続く西之島新島の拡大、大雪などの異常気象と『マーズ』を連想させる要素が散見されるのは何かの因縁なんでしょうか。そして、昨今の世界を見たとしたら監視者たちは何を思うのか、もしマーズが現在に覚醒したとしたら監視者の説得にどう応じるのか、もしそうなった場合に我々はどう振る舞うのか…などと要らぬ事も頭をよぎったりよぎらなかったり。
まあ、そうした埒もない空想はさておき。古い作品ではありますが、世界情勢が色々と騒がしい今こそ、改めて手に取ってみる値打ちのある作品かもしれない、とは思います。
【参考文献】
横山光輝『マーズ』1-3 秋田文庫
※2015/2/12 敬称が不ぞろいだったので修正。
by trushbasket
| 2015-02-11 22:43
| NF








