2015年 07月 20日
平安・鎌倉期における「黄金の島ジパング」の舞台裏~少し、後発文明の悲しさも垣間見えます~
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日本において、戦国期に金山・銀山の開発が急速に進み、石見銀山を筆頭に世界で流通する銀の三分の一を算出していた事は知られています。
更に、それ以前にも十三世紀に中国を訪れたイタリア商人マルコ・ポーロが著書で我が国を「黄金の島ジパング」と紹介した事は広く知られています。何でも「金銀で建物の屋根を葺く」といった類の伝聞があったとか。元のフビライが二度にわたり日本に軍勢を差し向けた目的の一つにも、日本で産出される豊かな金銀を手に入れることがあったのではないかという話もあったりしますよね。
早くも唐代には中国において日本は産金・産銀国と認識されていたようで、奥州の黄金や対馬の白銀に関して言及した記録があるようです。九世紀に遣唐使船で留学した円仁の『入唐求法巡礼行記』にも朝廷が費用を奥州産の砂金で支払っていた事が記されています。こうした事から、日本は金銀を多量に産出すると考えられるようになったのでしょう。
この時期の日本における産金地域は何といっても奥州(東北地方)であり、現在の宮城県遠田郡湧谷町黄金迫や同じく宮城県の栗原市・本吉郡本吉町津谷、岩手県気仙郡住田町世田米・和賀郡西和賀町あたりで金が取れたと考えられています。
もっとも、東洋史学・愛宕松男氏の説によればこの「黄金の島」には少々しょんぼりな裏事情が絡んでもいたらしいのです。一言で言えば、金銀のほかに貿易で支払うものがなかったからだとか。つまり日本は大陸と貿易するに当って、輸出品や支払いに困る事になったというのです。少なくともこの時点において、日本は産業レベルは中国に及ばない後進勢力であり、また南国のように特殊な現地産物があるわけでもない。そこで、支払手段が金しかなくそれでも輸入超過の傾向があったという話です。やがては日本刀や扇など工業製品を輸出するようにもなりますが。まあ、日本がしょんぼりというより、相手である唐やら南宋やらが世界トップクラスの文明国だったわけで、仕方ないといえば仕方ありません。それにしても、貿易で何とか支払できるレベルの金銀を産出していたのは充分大したものではありそうな。
という訳で、当時の宋との貿易にはこの奥州の金が大きな役割を果たし、それが中国からすれば日本からの輸入品が常に金であるため我が国に無尽蔵の金があるといった感じの認識をされるようになったのだとか。そして、この頃の宋王朝は中国北部を遊牧民族系の金王朝に占領されてた関係で有力な産金地帯を領有していなかったため日本産の金は珍重されていたそうです。そのイメージが増幅し、「黄金の島」伝説が出来上がってモンゴル人や色目人(西域出身者で、経済に長じていたため財政を司った)の強い関心を引く事になったのでしょう。
だとすると、我が国が(平和的にしろ武力征服にしろ)元の隷属化に入っていた場合には過剰なイメージを基とした金銀の供出が行われていた可能性も否定はできません。もしそうなら、それこそ大きな負担・打撃となった危険も考えられますね。思えば隣国の高麗も、当初は契丹との戦いでの共同作戦を呼びかけられ兄弟国となることを提案されるという友好的な形でモンゴルとの関係が始まったにもかかわらず、すぐに莫大な貢物を相次いで求められるようになり、やがて使者が高麗国内で殺害された事件を契機に軍事侵攻を受けて最終的に厳しい支配下におかれたものでした。我が国へのモンゴルの最初の働きかけも友好的なものではありましたが、高麗の前例を考えると上述の心配はありえた話といえます。そう考えると鎌倉政権の選択は充分に理解できるものですし、我が国を訪れた幸運な結末に感謝を抱かずにいられません。支配下に入る事による様々な問題は回避でき、一方で交易を通じて「大モンゴル」の恩恵にはあずかれたわけですしね。
【参考文献】
愛宕松男『世界の歴史11アジアの征服王朝』 河出書房新社
竹内理三『日本の歴史6武士の登場』 中公文庫
小島毅『義経の東アジア』 勉誠出版
村井章介『中世日本の内と外』 筑摩書房
『日本大百科全書』 小学館
関連記事:
「外交において「名を捨て実を取ろう」とした際の名目関係の問題~義満以降の日明貿易について~」
「『あの国のあの法則』 ~50年前の碩学の言葉と地政学的証明~」
「神国日本のしょんぼりナショナリズムと鬼子・第六天魔王信長」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「世界史序説 ~歴史を理解したふりをするための文明論略説~」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/preface.html)
「足利義満」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/yoshimitsu.html)
日本人自身が日本に黄金のイメージを持つ一因はこの人にありそうです。
関連サイト:
「世界遺産 石見銀山遺跡とその文化的景観」(http://ginzan.city.ohda.lg.jp/wh/jp/culture/index.html)
更に、それ以前にも十三世紀に中国を訪れたイタリア商人マルコ・ポーロが著書で我が国を「黄金の島ジパング」と紹介した事は広く知られています。何でも「金銀で建物の屋根を葺く」といった類の伝聞があったとか。元のフビライが二度にわたり日本に軍勢を差し向けた目的の一つにも、日本で産出される豊かな金銀を手に入れることがあったのではないかという話もあったりしますよね。
早くも唐代には中国において日本は産金・産銀国と認識されていたようで、奥州の黄金や対馬の白銀に関して言及した記録があるようです。九世紀に遣唐使船で留学した円仁の『入唐求法巡礼行記』にも朝廷が費用を奥州産の砂金で支払っていた事が記されています。こうした事から、日本は金銀を多量に産出すると考えられるようになったのでしょう。
この時期の日本における産金地域は何といっても奥州(東北地方)であり、現在の宮城県遠田郡湧谷町黄金迫や同じく宮城県の栗原市・本吉郡本吉町津谷、岩手県気仙郡住田町世田米・和賀郡西和賀町あたりで金が取れたと考えられています。
もっとも、東洋史学・愛宕松男氏の説によればこの「黄金の島」には少々しょんぼりな裏事情が絡んでもいたらしいのです。一言で言えば、金銀のほかに貿易で支払うものがなかったからだとか。つまり日本は大陸と貿易するに当って、輸出品や支払いに困る事になったというのです。少なくともこの時点において、日本は産業レベルは中国に及ばない後進勢力であり、また南国のように特殊な現地産物があるわけでもない。そこで、支払手段が金しかなくそれでも輸入超過の傾向があったという話です。やがては日本刀や扇など工業製品を輸出するようにもなりますが。まあ、日本がしょんぼりというより、相手である唐やら南宋やらが世界トップクラスの文明国だったわけで、仕方ないといえば仕方ありません。それにしても、貿易で何とか支払できるレベルの金銀を産出していたのは充分大したものではありそうな。
という訳で、当時の宋との貿易にはこの奥州の金が大きな役割を果たし、それが中国からすれば日本からの輸入品が常に金であるため我が国に無尽蔵の金があるといった感じの認識をされるようになったのだとか。そして、この頃の宋王朝は中国北部を遊牧民族系の金王朝に占領されてた関係で有力な産金地帯を領有していなかったため日本産の金は珍重されていたそうです。そのイメージが増幅し、「黄金の島」伝説が出来上がってモンゴル人や色目人(西域出身者で、経済に長じていたため財政を司った)の強い関心を引く事になったのでしょう。
だとすると、我が国が(平和的にしろ武力征服にしろ)元の隷属化に入っていた場合には過剰なイメージを基とした金銀の供出が行われていた可能性も否定はできません。もしそうなら、それこそ大きな負担・打撃となった危険も考えられますね。思えば隣国の高麗も、当初は契丹との戦いでの共同作戦を呼びかけられ兄弟国となることを提案されるという友好的な形でモンゴルとの関係が始まったにもかかわらず、すぐに莫大な貢物を相次いで求められるようになり、やがて使者が高麗国内で殺害された事件を契機に軍事侵攻を受けて最終的に厳しい支配下におかれたものでした。我が国へのモンゴルの最初の働きかけも友好的なものではありましたが、高麗の前例を考えると上述の心配はありえた話といえます。そう考えると鎌倉政権の選択は充分に理解できるものですし、我が国を訪れた幸運な結末に感謝を抱かずにいられません。支配下に入る事による様々な問題は回避でき、一方で交易を通じて「大モンゴル」の恩恵にはあずかれたわけですしね。
【参考文献】
愛宕松男『世界の歴史11アジアの征服王朝』 河出書房新社
竹内理三『日本の歴史6武士の登場』 中公文庫
小島毅『義経の東アジア』 勉誠出版
村井章介『中世日本の内と外』 筑摩書房
『日本大百科全書』 小学館
関連記事:
「外交において「名を捨て実を取ろう」とした際の名目関係の問題~義満以降の日明貿易について~」
「『あの国のあの法則』 ~50年前の碩学の言葉と地政学的証明~」
「神国日本のしょんぼりナショナリズムと鬼子・第六天魔王信長」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「世界史序説 ~歴史を理解したふりをするための文明論略説~」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/my/preface.html)
「足利義満」(http://www.geocities.jp/trushbasket/data/nf/yoshimitsu.html)
日本人自身が日本に黄金のイメージを持つ一因はこの人にありそうです。
by trushbasket
| 2015-07-20 10:45
| NF








