2015年 08月 01日
『韓非子』から人への道徳的な接し方を考える~無礼な態度はとるな、他人に勝手な期待をするな~
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これまで、損得勘定から見ても、誰に対しても顔向けできる生き方が良さそうという話を何度かしたことがあります(末尾の関連記事参照)。それに関連して、今回は『韓非子』から人と接する上での「道徳的な」心がけを考えてみたいと思います。御存じかと思いますが、『韓非子』は冷徹な損得勘定を考えの基盤に置いて法治主義を説いた一冊。そこから「道徳」を引き出すのは妙な感じもしますが、決して無駄ではないのじゃないかと思います。何しろ、道徳単体で相手に説いても、前提となる価値観を共有できていないと向こうには響かない。そして、価値観は人によって様々です。一方、どんな人であれ多かれ少なかれ生存本能・利害計算はあるもの。なら、それを根拠に道徳を説いた方が(薄っぺらくなる危険はあるにせよ)万人向けの教訓が引き出せる可能性が期待できるように思います。というわけで、早速見ていきましょう。
まずは説林下より。
どんな相手であれ、礼を失した態度はとるべきでないという話ですね。相手が立派ならその態度は不当ですし、相手がDQN(思考・行動が粗暴で自己中心的な人物を意味するネットスラング)なら我が身が危険。どっちにしてもアウト、という事です。大概の場合、相手が立派でないにしてもDQNでもないからついやってしまいますし、やってしまっても問題が表面化しないというところでしょう。しかし、それは裏を返せば「状況によってはどちらに転ぶか分からない相手」という事。相手に予想外な大人の態度で返されると恥をかくのはこちらですし、逆に何らかの理由で向こうの虫の居所が悪かったりしたら色々と面倒なことになりかねません。
相手の面子を顧みない態度は、一件剛直なようではありますが、実のところ「相手の度量に期待し甘えつつ相手を辱める」というアレな行為と見られても致し方ないのかも。心したいものです。
関連記事:
「にっくき相手にどのような言葉をかけるべきか~侮辱・罵声・恫喝は無益です~」
「中国古代史から学ぶ、異なる考えの人間(特に目上)に意見する際の心得~相手の面子を潰すのは論外~」
相手がDQNだった際の危険については↓の記事を。
「儒者・叔孫通から見る本物の暴君・暗君への接し方~諌めるだけ無駄、へたすりゃ死に損~」
次に、外儲説左上より。
下手に道徳的な価値観をさしはさむと、よほどできた人間でない限り相手にもそれを期待してしまいます。だったら、自分のためと徹して動いた方が、かえって相手に勝手な期待をせず負の感情を抱く事も少なくなるのかもしれません。危害を与えるな、法を侵すなといった最低限のラインを守っているならば、それ以上は自分にも相手にも過剰な期待はしない方が素直に相手の振る舞いに感謝できるようにも思います。最低限のルールは厳守した上で、こっちもむこうも我が身が一番かわいいというのを前提に動いた方が色々とトラブルも避けやすいのかもしれません。ブッダも「生きとし生けるものはすべて自分自身が最もいとおしい。だからこそ、我々は他人を傷つけてはならない」と述べているそうですしね。
以上、今回もどうやらそれっぽい教訓は引き出せたように思います。まあ、この手の話をする際には、自分の利己主義を自覚しながら、自分の正義を過信しないように気を付けつつ、なるべく普遍性が高そうな結論を出せるように心がけたいと考えてます。
【参考文献】
興文社編輯所編『韓非子講義』興文社
ひろさちや『新装版 なぜ人間には宗教が必要なのか』講談社
『世界大百科事典』平凡社
関連記事:
「「世の中、綺麗ごとだけじゃ済まない」からこそ、誠実・正直に生きる必要があるのかも、という話」
「「天知る地知る我知る子知る」の「我知る」を実際的に考える~人間、悪事を隠し通す事は困難です~」
「「道徳」の必要最低限ラインについて考えてみる~人に悪意を向けて動くな、という事に尽きそう~」
まずは説林下より。
衛将軍文子見曾子、曾子不起、而延於坐席、正身於奥、文子謂其御曰、曾子愚人也哉、以我為君子也、君子安可毋敬也、以我暴人也、暴人安可侮也、曾子不僇命也(興文社編輯所編『韓非子講義』興文社 238頁)
衛の将軍文子曾子を見る、曾子起たず、坐席に延(みちび)き、奥に身を正す。文子其の御に謂ひて曰はく、「曾子は愚人なるかな。我を以て君子と為さば、君子は安(いずくん)ぞ敬ふなかる可けんや。我を以て暴人と為さば、暴人は安ぞ侮るべけんや。曾子の僇せられざるは命なり」と。
【現代語訳】
衛の国の将軍である文子が、曾子(孔子の弟子・曾参。『孝経』の作者と伝わる)と会見した。曾子は立ち上がって出迎えることもせず、座席に腰かけたままで文子を招き入れ、自分は上座についたままであった。文子は(立腹して)自分の御者にこういった。「曾子は愚か者だ。もし私を立派な人物と思っているのなら、敬意を表さねばならないだろうに。もし私を乱暴者と思っているのなら、(刺激して怒らせるとやっかいだから)侮ってはならないだろうに。曾子がこれまで相手を怒らせて辱めを受けなかったのは運が良かったにすぎまいよ」
どんな相手であれ、礼を失した態度はとるべきでないという話ですね。相手が立派ならその態度は不当ですし、相手がDQN(思考・行動が粗暴で自己中心的な人物を意味するネットスラング)なら我が身が危険。どっちにしてもアウト、という事です。大概の場合、相手が立派でないにしてもDQNでもないからついやってしまいますし、やってしまっても問題が表面化しないというところでしょう。しかし、それは裏を返せば「状況によってはどちらに転ぶか分からない相手」という事。相手に予想外な大人の態度で返されると恥をかくのはこちらですし、逆に何らかの理由で向こうの虫の居所が悪かったりしたら色々と面倒なことになりかねません。
相手の面子を顧みない態度は、一件剛直なようではありますが、実のところ「相手の度量に期待し甘えつつ相手を辱める」というアレな行為と見られても致し方ないのかも。心したいものです。
関連記事:
「にっくき相手にどのような言葉をかけるべきか~侮辱・罵声・恫喝は無益です~」
「中国古代史から学ぶ、異なる考えの人間(特に目上)に意見する際の心得~相手の面子を潰すのは論外~」
相手がDQNだった際の危険については↓の記事を。
「儒者・叔孫通から見る本物の暴君・暗君への接し方~諌めるだけ無駄、へたすりゃ死に損~」
次に、外儲説左上より。
夫挟相為則責望、自為則事行、故父子或怨譟、取庸作者、進美羹(同書 341頁)
夫れ相為めにするを挟めば則ち責望す。自ら為にすれば則ち事行はる。故に父子或は怨譟す。庸作を取る者、美羹を進む。
【現代語訳】
そもそも相手のためにこれだけやったのだから(向うもそれだけのことはしてくれてよいはずだ)という思いがあれば、相手を恨んだり責めたてたりする心がおこる。自分のためと徹してやっていればそうした事はおこらずはかどる。だから親子の間でも恨み罵る事がある一方で、日雇いが自分の食い扶持のために働いていれば、雇い主が(うまみを与える事でよりよく働くことを期待し)美味い吸い物をだしてくれたりする。
人為嬰児也、父母養之簡、子長而怨、子盛壮成人、其供養薄、父母怒而誚之、子父至親也、而或譙或怨者、皆挟相為、而不周於為也(同書 358頁)
人の嬰児たるや、父母之を養ふこと簡なれば、子長じて怨む。子盛壮にして人と成り、其の供養薄ければ、父母怒りて之を誚せん。子と父は至親なり、しかれども或は譙し或は怨むは、皆相為にするを挟みて、己の為にするを周(つく)さざればなり。
【現代語訳】
子供の時、父母がまともに養ってくれなかったら、子は成長してからそれを恨む。一方、子が立派に成長してから、親に対してろくに孝養を尽くさなければ、父母はこれを怒って責めたてる。親子というのはこの上なく親密な間柄であるにもかかわらず、責めたてたり恨んだりといった事がありうるのは、相手のためにこれだけやったのだから(向うもそれ相応にしてくれるべきだ)と思ってしまうからであり、自分のためにしているのだという考えに徹していないからである。
下手に道徳的な価値観をさしはさむと、よほどできた人間でない限り相手にもそれを期待してしまいます。だったら、自分のためと徹して動いた方が、かえって相手に勝手な期待をせず負の感情を抱く事も少なくなるのかもしれません。危害を与えるな、法を侵すなといった最低限のラインを守っているならば、それ以上は自分にも相手にも過剰な期待はしない方が素直に相手の振る舞いに感謝できるようにも思います。最低限のルールは厳守した上で、こっちもむこうも我が身が一番かわいいというのを前提に動いた方が色々とトラブルも避けやすいのかもしれません。ブッダも「生きとし生けるものはすべて自分自身が最もいとおしい。だからこそ、我々は他人を傷つけてはならない」と述べているそうですしね。
以上、今回もどうやらそれっぽい教訓は引き出せたように思います。まあ、この手の話をする際には、自分の利己主義を自覚しながら、自分の正義を過信しないように気を付けつつ、なるべく普遍性が高そうな結論を出せるように心がけたいと考えてます。
【参考文献】
興文社編輯所編『韓非子講義』興文社
ひろさちや『新装版 なぜ人間には宗教が必要なのか』講談社
『世界大百科事典』平凡社
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「「道徳」の必要最低限ラインについて考えてみる~人に悪意を向けて動くな、という事に尽きそう~」
by trushbasket
| 2015-08-01 11:18
| NF








