<読書案内>亀田俊和『高師直 室町新秩序の創造者』
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本書では、残された文書などを丹念にたどる事で、師直やその一族の実像を明らかにしようとしています。高一族の来歴から始まり、そこから見えてくる特色、更に意外な保守性・弱点も読み解いています。なお、何ゆえに「こうのもろなお」であって「こうもろなお」でないのかも予測がつくのではないかと。
そして、師直が足利政権の政治史において果たした大きな役割とは何か、建武政権から学んだものは何か。
師直に関する悪評は、どの程度信頼に値するのか。信頼できるとして、どの程度の悪行と言えるのか。
師直らの権限は、実際の所どのようなものだったのか。有名な「分捕切棄の法」は事実としてどの程度師直が絡んでいたのか。
師直と直義が対立した本当の原因は何か。
そうした点を丁寧にたどり、師直一族の実像を描き出した一品です。南北朝に興味のある方にとって必読の書がまた増えたというべきでしょう。
以下、余談。師直の悪名の一つである合戦時の寺社焼討に関して。「合戦の際に寺社を破壊した武将は、師直が唯一でもなければ初めてでもない」(亀田俊和『高師直 室町新秩序の創造者』吉川弘文館 89頁)とあります。実際、南北朝動乱の中で師直に先立って有名寺社を焼き払う結果となった有名武将が存在しますので一人紹介しましょう。
尊氏が関東から新田軍を破った勢いで京に攻め上った時の事。これを防ごうとする朝廷軍のうち、宇治方面を防衛したのが『太平記』によれば楠木正成でした。正成は足利軍の渡河を防ぐべく防衛体制を敷く中で、敵の防衛陣地敷設を困難にすべく周辺の民家を焼き払います。その際、炎が平等院に波及し仏閣法蔵の大部分が焼けて失われたと言われています。
正成は観心寺・金剛寺などと関係を有したともいわれ、一般的には信仰心深い武将とされています。少なくとも、仏法破壊的なイメージを持たれた人物ではありません。そうした正成ですらも必要に迫られた場合にはこうした事態を招いている事を考えると、寺社を破壊する事と信仰心の有無とは必ずしも直接関係するものではない、という事はできそうです。
【参考文献】
亀田俊和『高師直 室町新秩序の創造者』吉川弘文館
植村清二『楠木正成』中公文庫