2015年 12月 27日
「人は、同じ過ちを繰り返す…全く…!」~米大統領選挙における二度の結果予測失敗、いずれも似た理由~
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「人は誰でも過ちを犯す。同じ間違いを繰り返さなければ良いのだ」とはしばしばいわれるところです。しかしながら、「同じ間違いを繰り返さない」というのも実のところ、結構ハードルが高いようです。という訳で、今回はプロフェッショナルの人々が二度にわたり同様なミスを大舞台でやらかしてしまった事例についてご紹介いたします。
さて、アメリカでは大統領選挙が近づいているようで、それに関連した話題がちらほらと我が国にも届いて来ています。この大統領選挙は、アメリカにおいて最大の政治的イベントの一つといって差し支えありますまい。世界最大の民主主義国における最大級の政治的イベントたるこの選挙においては、世論調査・結果予測もそれだけに大きな意味を持つと言えます。ところが、過去においてこの結果予測が大チョンボを招いた事例が二例、近い年代において存在するのです。
1936年の大統領選挙のことです。現職大統領であったフランクリン・ルーズベルトは再選をかけて民主党から立候補。これに対抗し、共和党から立ったのはカンザス州知事であったランドンという人物でした。
この時、リテラリー・ダイジェスト誌は非常に大規模な世論調査(対象人数は参照する文献によってばらつきがあり、237万人とも約216万とも約37万人ともいわれる)を行い、ランドンの勝利を予想しました。ランドン支持が57%に上ったのに対し、ルーズベルト支持は43%にとどまったというのです。ルーズベルト、危うし。しかしいざ選挙結果の蓋を開けてみれば、あにはからんやルーズベルトの圧勝。獲得した選挙人でいえばルーズベルト523人に対しランドン8人という大差だったのです。1916年以降、優秀な予測的中の実績を誇ってきたリテラリー・ダイジェスト誌ですが、ここで味噌をつけてしまいました。どうしてこんなことになったんでしょう?
実は調査対象の選び方に問題があったようです。この時、リテラリー・ダイジェスト誌は同誌読者や電話帳、自動車登録名簿にある人々を対象に意見を引き出していました。しかし考えてみれば、この時代に同誌を購読したり電話・自動車を所有しているような人々は、限られた富裕層。これでは、一部階層の意見しか拾い上げる事はできません。偏った調査結果になったのは、無理もないところでした。
一方、リテラリー・ダイジェスト誌と対照的に予測的中に成功したのがギャロップ社。その調査対象人数は2万人程度でしたが、調査対象に偏りが出にくいよう考慮し、性別や年齢などの属性によって対象を分類しそれぞれの集団の大きさに応じた割り当てを行ったようです。かくして、ギャロップ社は有力な世論調査会社へと成長を遂げたのです。
上述の選挙から少し経った1948年。ルーズベルトは第二次大戦終結を目の前にして在職中に急死し、副大統領であったハリー・トルーマンが昇格していました。という訳で、この時の大統領選挙において民主党の候補は再選を目指す現職トルーマン。一方で共和党からはトマス・E・デューイという人物が出馬し代表候補となります。この時、ギャロップ社を始め多くの新聞や世論調査はデューイの勝利を予測。中でもシカゴ・デイリー・トリビューン紙は選挙直後にデューイ勝利を告げる大見出しを掲載しました。ところが、勝利したのはトルーマンです。シカゴ・デイリー・トリビューン紙はとんだ赤っ恥。この時の結果予測はなぜ間違ったのでしょう?
一説によると、調査のほとんどは電話で行われていたそうです。この時期に電話を所有しているような人々は(以下略)。…どうやら、これが事実だとすれば、1936年の教訓は十分に活かされなかったという事でしょうか。人間、なかなか成長するのは難しいようです。
さて、1936年に殊勲を挙げたギャロップ社ですが、この時には残念ながら予測失敗。その背景に関して、ギャラップ社の調査員は割当の際に労働者階級を避ける傾向があったため、民主党支持者が多い彼らの意見を反映できなかったのではないか、という分析を東京新聞の小山栄三という人物がしていたそうです。
この分析が当たっているのかどうかは、存じません。ただ、「同じミスを繰り返す」だけでなく「以前に敵手がした、そしてそのおかげで自分が救われたのと同じミスをする」という事すらありうる、という可能性も読み取れる話ではありますね。ちなみに、これを契機に、割当法でなく無作為抽出が良いという結論が定着していったと言われています。
プロフェッショナルな人々ですら、こうしたミスの繰り返しをしてしまうようです。人間、「失敗しない」というのが無理なのはもちろん、「同じ失敗を繰り返さない」、という事すら相当に難しい事が分かりますね。それでも、失敗を通じて何らかの成長をできるようにはしたいと思ってはいます。選挙予測が失敗しながらも模索し改善してきたのと同様に。難しいことではありますけどね。
【参考文献】
中山健夫『京大医学部の最先端授業!「合理的思考」の教科書』すばる舎
安藤明之『社会調査入門』三恵社
ドナルド・トンプソン著『普通の人たちを予言者に変える 「予測市場」という新戦略』千葉敏生訳 ダイヤモンド社
『日本大百科全書』小学館
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「宮本百合子 現代史の蝶つがい」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3467_12373.html)
「宮本百合子 新しい潮」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3465_12371.html)
関連記事:
「『被害者を捜せ!』から見るアメリカの戦中生活~物的・精神的余裕が段違い~」
「茶人の逸話から見る失敗時の心得~やらかしは誰でもする、大事なのはリカバリー~」
「「妖怪のせい」?「ダイモンの仕業」?~やらかした時の言い草は古今共通~」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「ベンジャミン・フランクリン」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/1999/991203.html)
アメリカの偉人、という繋がりしかないですが。
「人は過ちをおかす存在、偉人といえども例外ではない」といった感じの逸話は、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』にも収載しているかも。興味のある方は御参照下さい。
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さて、アメリカでは大統領選挙が近づいているようで、それに関連した話題がちらほらと我が国にも届いて来ています。この大統領選挙は、アメリカにおいて最大の政治的イベントの一つといって差し支えありますまい。世界最大の民主主義国における最大級の政治的イベントたるこの選挙においては、世論調査・結果予測もそれだけに大きな意味を持つと言えます。ところが、過去においてこの結果予測が大チョンボを招いた事例が二例、近い年代において存在するのです。
1936年の大統領選挙のことです。現職大統領であったフランクリン・ルーズベルトは再選をかけて民主党から立候補。これに対抗し、共和党から立ったのはカンザス州知事であったランドンという人物でした。
この時、リテラリー・ダイジェスト誌は非常に大規模な世論調査(対象人数は参照する文献によってばらつきがあり、237万人とも約216万とも約37万人ともいわれる)を行い、ランドンの勝利を予想しました。ランドン支持が57%に上ったのに対し、ルーズベルト支持は43%にとどまったというのです。ルーズベルト、危うし。しかしいざ選挙結果の蓋を開けてみれば、あにはからんやルーズベルトの圧勝。獲得した選挙人でいえばルーズベルト523人に対しランドン8人という大差だったのです。1916年以降、優秀な予測的中の実績を誇ってきたリテラリー・ダイジェスト誌ですが、ここで味噌をつけてしまいました。どうしてこんなことになったんでしょう?
実は調査対象の選び方に問題があったようです。この時、リテラリー・ダイジェスト誌は同誌読者や電話帳、自動車登録名簿にある人々を対象に意見を引き出していました。しかし考えてみれば、この時代に同誌を購読したり電話・自動車を所有しているような人々は、限られた富裕層。これでは、一部階層の意見しか拾い上げる事はできません。偏った調査結果になったのは、無理もないところでした。
一方、リテラリー・ダイジェスト誌と対照的に予測的中に成功したのがギャロップ社。その調査対象人数は2万人程度でしたが、調査対象に偏りが出にくいよう考慮し、性別や年齢などの属性によって対象を分類しそれぞれの集団の大きさに応じた割り当てを行ったようです。かくして、ギャロップ社は有力な世論調査会社へと成長を遂げたのです。
上述の選挙から少し経った1948年。ルーズベルトは第二次大戦終結を目の前にして在職中に急死し、副大統領であったハリー・トルーマンが昇格していました。という訳で、この時の大統領選挙において民主党の候補は再選を目指す現職トルーマン。一方で共和党からはトマス・E・デューイという人物が出馬し代表候補となります。この時、ギャロップ社を始め多くの新聞や世論調査はデューイの勝利を予測。中でもシカゴ・デイリー・トリビューン紙は選挙直後にデューイ勝利を告げる大見出しを掲載しました。ところが、勝利したのはトルーマンです。シカゴ・デイリー・トリビューン紙はとんだ赤っ恥。この時の結果予測はなぜ間違ったのでしょう?
一説によると、調査のほとんどは電話で行われていたそうです。この時期に電話を所有しているような人々は(以下略)。…どうやら、これが事実だとすれば、1936年の教訓は十分に活かされなかったという事でしょうか。人間、なかなか成長するのは難しいようです。
さて、1936年に殊勲を挙げたギャロップ社ですが、この時には残念ながら予測失敗。その背景に関して、ギャラップ社の調査員は割当の際に労働者階級を避ける傾向があったため、民主党支持者が多い彼らの意見を反映できなかったのではないか、という分析を東京新聞の小山栄三という人物がしていたそうです。
この分析が当たっているのかどうかは、存じません。ただ、「同じミスを繰り返す」だけでなく「以前に敵手がした、そしてそのおかげで自分が救われたのと同じミスをする」という事すらありうる、という可能性も読み取れる話ではありますね。ちなみに、これを契機に、割当法でなく無作為抽出が良いという結論が定着していったと言われています。
プロフェッショナルな人々ですら、こうしたミスの繰り返しをしてしまうようです。人間、「失敗しない」というのが無理なのはもちろん、「同じ失敗を繰り返さない」、という事すら相当に難しい事が分かりますね。それでも、失敗を通じて何らかの成長をできるようにはしたいと思ってはいます。選挙予測が失敗しながらも模索し改善してきたのと同様に。難しいことではありますけどね。
【参考文献】
中山健夫『京大医学部の最先端授業!「合理的思考」の教科書』すばる舎
安藤明之『社会調査入門』三恵社
ドナルド・トンプソン著『普通の人たちを予言者に変える 「予測市場」という新戦略』千葉敏生訳 ダイヤモンド社
『日本大百科全書』小学館
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「宮本百合子 現代史の蝶つがい」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3467_12373.html)
「宮本百合子 新しい潮」
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3465_12371.html)
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「茶人の逸話から見る失敗時の心得~やらかしは誰でもする、大事なのはリカバリー~」
「「妖怪のせい」?「ダイモンの仕業」?~やらかした時の言い草は古今共通~」
歴史研究会・とらっしゅばすけっと関連発表:
「ベンジャミン・フランクリン」
(http://kurekiken.web.fc2.com/data/1999/991203.html)
アメリカの偉人、という繋がりしかないですが。
「人は過ちをおかす存在、偉人といえども例外ではない」といった感じの逸話は、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』にも収載しているかも。興味のある方は御参照下さい。
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by trushbasket
| 2015-12-27 11:25
| NF








