2016年 02月 24日
<読書案内>『摘録 断腸亭日乗』(上)(下)
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近代の作家・永井荷風は長年にわたり日記をつけていました。それが、『断腸亭日乗』。42年間にわたって書き続けていたものですから、全てを読もうと思ったら大変です。そこで、見落としてはいけない部分を抽出し編纂したのが、今回ご紹介する永井荷風著『摘録 断腸亭日乗』(上)(下) 磯田光一編(岩波文庫)。摘録を経て、文庫で手軽に読める分量になったといえますが、それでも結構なボリュームです。上巻は書き出した大正六年(1917)9月16日から昭和十一年(1936)まで。下巻は昭和十二年(1937)から昭和三十四年(1959)4月29日(死去する前日)まで。
世の流れに背を向け、失われつつある江戸風情緒を愛し、自らの世界を守りつつひっそりと生きようとしていた荷風。しかし時代の大波はそんな彼の眼にも入ってきますし、戦争という形で容赦なく彼の暮らしをも飲み込んでいきます。それだけに、この日記は、大正から戦後までのリアルタイムな証言としても重要な史料。西洋文学から漢籍に至るまで学識深い荷風だけに、その愚痴にも含蓄あるものが見られたりもします。日記中の読書遍歴からも、古今東西の古典名著が色々とうかがい知れます。
文壇から距離を置いていた荷風ですが、同時代作家の逸話を(大概は批判的文脈で)記録していたりするのも面白いところ。一部では有名な話らしいですが、こんな記述もありました。昭和四年(1929)4月5日の欄より。
…なんだか、どこかで聞いたような話ですね。人間のやることは、そう変わらないものかもしれません。
話を戻しましょう。本書は日記ですから、強烈な個性を放つ荷風の日常を映し出しているのはむろんのこと。それだけでなく、流麗な擬古文で記された文章は読んでいるこちらを引き込むものがあり魅力的。荷風の最高傑作、なんて言われるのもわかる気がします。
上巻には、明治期における洋行時代の日記をまとめた『西遊日誌抄』が附録として収載されています。
【参考文献】
永井荷風著『摘録 断腸亭日乗』(上)(下) 磯田光一編 岩波文庫
関連サイト:
「断腸亭日乗Wiki」
(http://yonosuke.net/kafu/)
※2016/2/24 一部修正しました。
世の流れに背を向け、失われつつある江戸風情緒を愛し、自らの世界を守りつつひっそりと生きようとしていた荷風。しかし時代の大波はそんな彼の眼にも入ってきますし、戦争という形で容赦なく彼の暮らしをも飲み込んでいきます。それだけに、この日記は、大正から戦後までのリアルタイムな証言としても重要な史料。西洋文学から漢籍に至るまで学識深い荷風だけに、その愚痴にも含蓄あるものが見られたりもします。日記中の読書遍歴からも、古今東西の古典名著が色々とうかがい知れます。
文壇から距離を置いていた荷風ですが、同時代作家の逸話を(大概は批判的文脈で)記録していたりするのも面白いところ。一部では有名な話らしいですが、こんな記述もありました。昭和四年(1929)4月5日の欄より。
酒館の女給美人投票の催ありて両三日前投票〆切となれり。投票は麦酒(ビール)一壜を以て一票となしたれば、一票を投ずるに金六拾銭を要するなり。菊池寛某女のために百五拾票を投ぜし故麦酒百五拾壜(びん)を購(あがな)ひ、投票〆切の翌日これを自動車に積みその家に持帰りしといふ。(永井荷風著『摘録 断腸亭日乗』(上) 磯田光一編 岩波文庫 196頁)
…なんだか、どこかで聞いたような話ですね。人間のやることは、そう変わらないものかもしれません。
話を戻しましょう。本書は日記ですから、強烈な個性を放つ荷風の日常を映し出しているのはむろんのこと。それだけでなく、流麗な擬古文で記された文章は読んでいるこちらを引き込むものがあり魅力的。荷風の最高傑作、なんて言われるのもわかる気がします。
上巻には、明治期における洋行時代の日記をまとめた『西遊日誌抄』が附録として収載されています。
【参考文献】
永井荷風著『摘録 断腸亭日乗』(上)(下) 磯田光一編 岩波文庫
関連サイト:
「断腸亭日乗Wiki」
(http://yonosuke.net/kafu/)
※2016/2/24 一部修正しました。
by trushbasket
| 2016-02-24 20:23
| NF








