2016年 04月 09日
「なぜ結婚しないの?」と尋ねられた時、どう返す?~鴎外・荷風 近代文豪二人の場合~
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あえて結婚しない「非婚」が世上の口に上るようになって久しいように思います。それでも、独身の男女に対し「どうして結婚しないのか?」と問いかけるケースはまだまま見られるようです。で、独身の側としては答えに困る事も少なくないとか。余計なお世話だと思うのですけれどねえ…。なぜ、他人の直接実害もないライフスタイルに口を出したがる人が多いのやら。
正直に自らの考えを言うにしても、向こうは「負け惜しみ」としか取ってくれないかもしれない。独身者側の悩みとしては、しばしばこんなことを聞きます。確かに、「結婚して当たり前」という価値観の人を相手にすると、その可能性は高いでしょうね。一方、結婚や異性の欠点を声高に述べ立てて結婚しない理由とするのも、あまり潔いものではありません。自分以外の非をあげつらい、己の位置を相対的に上げよう、という心根は、感心できるものとは決して言えますまい。…それでは、どのように対処すればよいのでしょうか?
実のところ、独身者にそうした問いかけをするのは、今に始まったことではありません。昔の方が「結婚して当たり前」という価値観は強かったわけですから、独身者への風当たりは今日以上だったのは想像に難くありません。という訳で、今回はそうした問いかけをされた近代文豪二人の事例を、ご紹介しようかと思います。参考になると良いのですが。
森鴎外は、一度結婚に失敗しており、軍医として小倉へ赴任した際は独身の身でした。どうやらそのせいで、周囲から色々言われたらしく、短編小説『独身』でそのあたりの事情を題材にしています。それによれば、主人公の「独身生活は小倉で名高いものになっていて、随って度々問題に上る」状況だったそうです(森鴎外『独身』より)。親しい人間もなぜ結婚しないのか、女っ気は本当にないのかと色々口をはさんできます。で、本人はこれに対し、
という対応をするのみです。その後も独身に関しては何を言われても、「無頓着(むとんじゃく)らしい顔」で「微笑の影が消えない」という態度を崩していません(同書より)。何を言っても、言い訳にしかとられないと諦観したものでしょうか?それなら、正面から取り合わず受け流すに如くはない、と判断したのかもしれません。さて、独身生活を云々されたらしき鴎外ですが、小倉赴任中に再婚。彼女との間に多くの子をもうけました。なお、再婚相手である志げ夫人も、夫のすすめで作家としての事跡を残しています。代表作は『波瀾』。
閑話休題。個人的には、「なぜ結婚しないのか」という問いかけに対する答えとして、良いと思ったのは永井荷風のそれでした。昭和十二年(1937)の随筆『西瓜』中において、荷風は
と述べているのです。なお、荷風はこれまで二度の離婚を経験しており、その思い出をふまえて
とも述懐。結婚そのものも、自らの結婚可能性についても決して否定せず、かといって結婚せずに終わるならそれもそれでよし、と受け流す感じが好感が持てます。
まあ、この後で荷風は、子供が期待通りに育たなかったら目も当てられないとか、結婚先との親戚付き合いに耐えられないだろうとか、色々言っています。なので、本音としては結婚拒否派だったのは察せされるかと。事実、荷風は生涯にわたり三度目の結婚はせず、独身生活を貫いています。
二人とも、結婚しない理由を声高に弁じ立てる、という対処ではなかったのが印象的でした(荷風は、実は微妙ですが)。現代における非婚の人々にとって、今回ご紹介した文豪たちの事例は、参考になるかどうか。考える材料になれば幸いです。結婚する人もそうでない人も、その人生が悔いのないものである事も併せて願いつつ、今回はここまでといたします。
【参考文献】
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「森鴎外 独身」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/3614_12062.html)
「永井荷風 西瓜」(http://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/49647_39420.html)
『日本大百科全書』小学館
『日本人名大辞典』講談社
関連記事:
「歴史を手がかりに「非婚」化の原因を考えてみる~異性不信、経済的自立、不安感~」
「結婚に関する歴史の一真理 ~モテない男は悟りを開く~ 歴史上に見る「結婚しなくても平気になった人々」」
「「※ただしイケメンに限る」は明治時代から男の悩み?~文豪ですら逃れられない劣等感~」
なお、鴎外先生、若い頃に見合いを勧められた際には、ちょっとどうかと思う答えを返した可能性が。
結婚するしないでもめたり、結婚で苦労したりした偉人もいます。興味のある方は、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』をご参照ください。
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※2016/4/17 引用元の誤りを修正しました。
正直に自らの考えを言うにしても、向こうは「負け惜しみ」としか取ってくれないかもしれない。独身者側の悩みとしては、しばしばこんなことを聞きます。確かに、「結婚して当たり前」という価値観の人を相手にすると、その可能性は高いでしょうね。一方、結婚や異性の欠点を声高に述べ立てて結婚しない理由とするのも、あまり潔いものではありません。自分以外の非をあげつらい、己の位置を相対的に上げよう、という心根は、感心できるものとは決して言えますまい。…それでは、どのように対処すればよいのでしょうか?
実のところ、独身者にそうした問いかけをするのは、今に始まったことではありません。昔の方が「結婚して当たり前」という価値観は強かったわけですから、独身者への風当たりは今日以上だったのは想像に難くありません。という訳で、今回はそうした問いかけをされた近代文豪二人の事例を、ご紹介しようかと思います。参考になると良いのですが。
森鴎外は、一度結婚に失敗しており、軍医として小倉へ赴任した際は独身の身でした。どうやらそのせいで、周囲から色々言われたらしく、短編小説『独身』でそのあたりの事情を題材にしています。それによれば、主人公の「独身生活は小倉で名高いものになっていて、随って度々問題に上る」状況だったそうです(森鴎外『独身』より)。親しい人間もなぜ結婚しないのか、女っ気は本当にないのかと色々口をはさんできます。で、本人はこれに対し、
ただにやりにやり笑っている。(同書より)
という対応をするのみです。その後も独身に関しては何を言われても、「無頓着(むとんじゃく)らしい顔」で「微笑の影が消えない」という態度を崩していません(同書より)。何を言っても、言い訳にしかとられないと諦観したものでしょうか?それなら、正面から取り合わず受け流すに如くはない、と判断したのかもしれません。さて、独身生活を云々されたらしき鴎外ですが、小倉赴任中に再婚。彼女との間に多くの子をもうけました。なお、再婚相手である志げ夫人も、夫のすすめで作家としての事跡を残しています。代表作は『波瀾』。
閑話休題。個人的には、「なぜ結婚しないのか」という問いかけに対する答えとして、良いと思ったのは永井荷風のそれでした。昭和十二年(1937)の随筆『西瓜』中において、荷風は
わたくしはこれまでたびたび、どういうわけで妻帯をしないのかと問われた。わたくしは生涯独身でくらそうと決心したのでもなく、そうかといって、人を煩(わずらわ)してまで配偶者を探す気にもならなかった。来るものがあったら拒(こば)むまいと思いながら年を送る中(うち)、いつか四十を過ぎ、五十の坂を越して忽ち六十も目睫(もくしょう)の間(かん)に迫ってくるようになった。世には六十を越してから合巹(ごうきん)の式を挙げる人もままあると聞いているから、わたくしの将来については、わたくし自身にも明言することはできない。(永井荷風『西瓜』より)(※NF注:「ごうきん」の「きん」は「丞/犯のつくり」)
と述べているのです。なお、荷風はこれまで二度の離婚を経験しており、その思い出をふまえて
しずかに過去を顧(かえりみ)るに、わたくしは独身の生活を悲しんでいなかった。それと共に男女同棲の生活をも決して嫌っていたのではない。今日になってこれを憶(おも)えば、そのいずれにも懐しい記憶が残っている。わたくしはそのいずれを思返しても決して慚愧(ざんき)と悔恨(かいこん)とを感ずるようなことはない。さびしいのも好かったし、賑(にぎやか)なのもまたわるくはなかった。涙の夜も忘れがたく、笑の日もまた忘れがたいのである。(同書より)
とも述懐。結婚そのものも、自らの結婚可能性についても決して否定せず、かといって結婚せずに終わるならそれもそれでよし、と受け流す感じが好感が持てます。
まあ、この後で荷風は、子供が期待通りに育たなかったら目も当てられないとか、結婚先との親戚付き合いに耐えられないだろうとか、色々言っています。なので、本音としては結婚拒否派だったのは察せされるかと。事実、荷風は生涯にわたり三度目の結婚はせず、独身生活を貫いています。
二人とも、結婚しない理由を声高に弁じ立てる、という対処ではなかったのが印象的でした(荷風は、実は微妙ですが)。現代における非婚の人々にとって、今回ご紹介した文豪たちの事例は、参考になるかどうか。考える材料になれば幸いです。結婚する人もそうでない人も、その人生が悔いのないものである事も併せて願いつつ、今回はここまでといたします。
【参考文献】
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「森鴎外 独身」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/3614_12062.html)
「永井荷風 西瓜」(http://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/49647_39420.html)
『日本大百科全書』小学館
『日本人名大辞典』講談社
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「「※ただしイケメンに限る」は明治時代から男の悩み?~文豪ですら逃れられない劣等感~」
なお、鴎外先生、若い頃に見合いを勧められた際には、ちょっとどうかと思う答えを返した可能性が。
結婚するしないでもめたり、結婚で苦労したりした偉人もいます。興味のある方は、社会評論社『ダメ人間の世界史』『ダメ人間の日本史』をご参照ください。
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※2016/4/17 引用元の誤りを修正しました。
by trushbasket
| 2016-04-09 11:55
| NF








