2016年 08月 13日
乱世の名宰相・馮道の漢詩『天道』を味わう~彼は言っている、世の中捨てたものじゃない、と~
|
中国の五代十国時代に、馮道という政治家がいました。字は可道といい、瀛州景城の人だそうです。馮道が歴史に登場したのは唐が滅亡して間もなくの頃。この時は後梁王朝が唐を継承する形で中原を占拠していましたが、それに服しない勢力も多数あった状況です。そうした敵対勢力の中でも有力だった晋において、まず取り立てられる事になります。宦官の張承業が彼の才を見いし、晋王李存勗(後の後唐・荘宗)に推挙。晋はやがて後梁王朝を打倒し後唐王朝を樹立。以降、馮道も中央政権の要人となるのです。明宗が即位すると宰相に抜擢されたのを契機に、三十年にわたり様々な君主・王朝に仕えました。うち、二十年は宰相を務めました。曰く、後周の世宗にいたるまで五王朝、八姓(当時、同一王朝内でも養子による継承もあったため皇帝の姓が変わる事がありました)、十一人の天子に奉仕したと。
そんな経歴から、無節操な不忠者として批判されたりもしましたが、馮道には馮道の言い分も信条もありました。不安定な王朝に殉じる事よりも、乱世に苦しむ人民の生活を安定させることの方がずっと大事だ。彼はそう考えていたようです。例えば、北方民族の契丹による王朝・遼が都を占拠した時の事。遼の兵士による庶民への乱暴が絶えなかった中、馮道は遼の皇帝に
このさいには、たとえ仏陀が再来されても百姓を救うことはできません。百姓を救うことができるのは、皇帝陛下、あなたお一人です。どうかこれ以上に百姓を殺すことはやめてください(礪波護『馮道 乱世の宰相』中公文庫 198頁)
と訴えた事は知られています。現在では、乱世において民生安定に貢献した名宰相として馮道を評価する向きが多いようです。
そんな馮道には、このような詩が残されています。
天道
窮達皆由命
何労発嘆声
但知行好事
莫要問前程
冬去氷須泮(※)
春来草自生
請君観此理
天道甚分明
(同書 220-221頁 ※はさんずいに「半」)
窮達は皆 命に由る
何ぞ嘆声を発するを労せんや
但だ好事を行ふを知り
前程を問ふを要する莫かれ
冬去れば氷須くとけ
春来れば草自ずから生ず
請ふ君 此の理を観よ
天道 甚だ分明なり
<現代語訳>
成功するか失敗するかは、みな天命によって決まる。
だから、いちいち嘆きため息をつく事はない。
ただ良いことを行うようにして、
先の事を気にして問うことはしないようにね。
冬が去れば氷は必ず溶けるし、
春が来たら自然に草は生えるものだ。
君よ、お願いだからこの道理を見ておくれ。
天の道は、このように非常にはっきりしているのだから。
平仄は以下の通り。漢詩の基本的な規則についてはこちらをご参照ください。○は平音、●は仄音、△は平仄両用、◎は押韻を表しています。五言律詩で、韻脚は「声、程、生、明」で分類は下平声八庚。
○●○○●
○○●△◎
●○○●●
●●●○◎
○●○○●
○○●●◎
●○○●●
○●●○◎
いささか楽観的に過ぎるようにも思える内容ですが、乱世の中をたたき上げで出世し地位を守りながら民生の安定を成し遂げた名宰相の言葉。そう考えると、なんだか説得力があるように感じてしまうのは単純に過ぎましょうか。今の世の中、うんざりする事は今後も多いでしょうけれど、この詩を頭の片隅においておけば、あるいは元気のたしになるやもしれません。
【参考文献】
礪波護『馮道 乱世の宰相』中公文庫
『世界大百科事典』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬舎ルネッサンス
関連記事:
張承業について触れています。
馮道本人は残念ながら出てきませんが、馮道のような「戦乱で荒廃した社会を再建しようとした国家指導者」や「リーダーを支えた名補佐役」に興味のある方は社会評論社『戦後復興首脳列伝』『世界ナンバー2列伝』を御参照ください。
Amazon :『戦後復興首脳列伝』
楽天ブックス:『戦後復興首脳列伝』
セブンネット :『戦後復興首脳列伝』
Amazon :『世界ナンバー2列伝』
楽天ブックス:『世界ナンバー2列伝』
セブンネット :『世界ナンバー2列伝』
by trushbasket
| 2016-08-13 12:54
| NF










