2016年 09月 25日
近代文豪の筆名を分類する~雅号、本名、ペンネーム…~
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この頃、近代文豪が注目を浴びているようです。『文豪ストレイドッグス』なる作品がアニメになったり、夏目漱石没後百年だったりで。
関連サイト:
「アニメ『文豪ストレイドッグス』公式サイト」(http://bungo-stray-dogs.jp/)
「岩波書店」(http://www.iwanami.co.jp/)より
「2016年はどんな年? 夏目漱石没後100年」(http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/donna16/top6.html)
ところで、文豪の筆名について、興味深い話を目にした事があります。永井荷風曰く、「文士が雅号を用いることを好まなくなったのもまた明治大正の交(こう)から始った事である。」(永井荷風『葛飾土産』より)と。同様に、山本夏彦も大正について「文士はもう雅号をやめた時代です。志賀直哉、有島武郎みんな本名になった」(山本夏彦『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』文春新書 63頁)と証言しています。
そこで、近代文豪と言われる人々の筆名を分類してみました。対象として、文豪と評されているのを個人的に目にした事がある人々になります。人数が膨大になりましたので、取りこぼしがあるかもしれませんが、御容赦を。全てを網羅する事は無理そうです。分類は、Aが「本姓+筆名」、Bが「姓名とも筆名」、Cが「そのまま本名」となります。
A:本姓+筆名 雅号を使用しているケースは、いずれもこちらになります。
坪内逍遥 本名は雄蔵 1859-1935
代表作:『小説神髄』(小説論)、『当世書生気質』、『桐一葉』(脚本)
シェークスピア作品の翻訳でも知られる。
広津柳浪 本名は直人 1861-1928
代表作:『黒蜥蜴』、『今戸心中』など
子は広津和郎。
森鴎外 本名は林太郎 1862-1922
代表作:『舞姫』、『即興詩人』(翻訳)、『阿部一族』、『渋江抽斎』(史伝)など
子に森茉莉らがいる。
徳富蘇峰 本名は猪一郎 1863-1957
代表作:『将来之日本』(論説)、『近世日本国民史』(歴史学)
尾崎紅葉 本名は徳太郎 1867-1903
代表作:『二人比丘尼色懺悔』、『金色夜叉』など
幸田露伴 本名は成行 1867-1947
代表作:『風流仏』、『五重塔』、『運命』(史伝)など
娘は幸田文。
正岡子規 本名は昇 1867-1902
代表作:『寒山落木』(句集)、『竹乃里歌』(歌集)、『歌よみに与ふる書』(歌論)など
夏目漱石 本名は金之助 1867-1916
代表作:『吾輩は猫である』、『坊っちゃん』、『三四郎』、『こころ』など
徳冨蘆花 本名は健次郎 1868-1927
代表作:『不如帰』、『自然と人生』(随筆)
内田魯庵 本名は貢 1868-1929
代表作:『くれの廿八日』、『社会百面相』、『罪と罰』(翻訳)、『復活』(翻訳)
国木田独歩 本名は哲夫 1871-1908
代表作:『武蔵野』、『牛肉と馬鈴薯』など
田山花袋 本名は録弥 1871-1930
代表作:『蒲団』、『田舎教師』など
土井晩翠 本名は林吉 1871-1952
代表作:『天地有情』(詩集)、『荒城の月』(作詞)
徳田秋声 本名は末雄 1871-1943
代表作:『黴』、『あらくれ』、『仮装人物』など
樋口一葉 本名はなつ 1872-1896
代表作:『たけくらべ』、『にごりえ』、『わかれ道』など
島崎藤村 本名は春樹 1872-1943
代表作:『若菜集』(詩集)、『破戒』、『夜明け前』など
泉鏡花 本名は鏡太郎 1873-1939
代表作:『高野聖』、『歌行灯』、『婦系図』など
与謝野鉄幹 本名は寛 1873-1935
代表作:『鉄幹子』(詩歌集)、『相聞』(歌集)など
与謝野晶子 本名は志よう 1878-1942
代表作:『みだれ髪』(歌集)、「君死に給ふことなかれ」(長詩)など
永井荷風 本名は壮吉 1879-1959
代表作:『断腸亭日乗』(日記)、『すみだ川』、『つゆのあとさき』、『濹(※)東綺譚』など
※はさんずいに墨
中里介山 本名は弥之助 1885-1944
代表作:『大菩薩峠』、『黒谷夜話』など
石川啄木 本名は一 1886-1912
代表作:『一握の砂』(歌集)、『悲しき玩具』(歌集)、『時代閉塞の現状』(評論)など
室生犀星 本名は照道 1889-1962
代表作:『抒情小曲集』(詩集)、『愛の詩集』(詩集)、『性に目覚める頃』など
雅号らしさを感じるペンネームはこのあたりまででしょうか。
岡本かの子 本名はカノ 1889-1939
代表作:『かろきねたみ』(歌集)、『愛のなやみ』(歌集)、『鶴は病みき』など
夫は漫画家・岡本一平、子は岡本太郎
吉川英治 本名は英次 1892-1962
代表作:『鳴門秘帖』、『宮本武蔵』、『新書太閤記』、『三国志』など
井伏鱒二 本名は満寿二 1898-1993
代表作:『山椒魚』、『黒い雨』など
小栗虫太郎 本名は栄次郎 1901-1946
代表作:『黒死館殺人事件』など
坂口安吾 本名は炳五 1906-1955
代表作:『黒谷村』、『堕落論』(随筆)など
B:姓名とも変名
二葉亭四迷 本名は長谷川辰之助 1864-1909
代表作:『浮雲』、『其面影』、『平凡』など
ツルゲーネフなどロシア文学の翻訳でも知られる。
夢野久作 本名は杉山泰道 1889-1936
代表作:『ドグラ・マグラ』、『押絵の奇蹟』など
直木三十五 本名は植村宗一 1891-1934
代表作:『南国太平記』など
弟は東洋史学者・植村清二。
江戸川乱歩 本名は平井太郎 1894-1965
代表作:『二銭銅貨』、『D坂の殺人事件』、『屋根裏の散歩者』、『怪人二十面相』など
山本周五郎 本名は清水三十六 1903-1967
代表作:『樅の木は残った』、『赤ひげ診療譚』など
太宰治 本名は津島修治 1909-1948
代表作:『走れメロス』、『富岳百景』、『人間失格』、『斜陽』など
三島由紀夫 本名は平岡公威 1925-1970
代表作:『潮騒』、『金閣寺』、『豊穣の海』、『鹿鳴館』(脚本)など
北杜夫 本名は斎藤宗吉 1927-2011
代表作:『どくとるマンボウ航海記』(随筆)、『楡家の人びと』など
父は斎藤茂吉。
C:本名
福沢諭吉 1834-1901
代表作:『西洋事情』(海外事情紹介)、『学問ノススメ』(論説)、『文明論之概略』(論説)、『福翁自伝』(伝記)など
小泉八雲 元来の名はラフカディオ・ハーン 1850-1904
代表作:『怪談』、『東の国から』(評論)
柳田国男 1875-1962
代表作:『遠野物語』(民俗学)、『先祖の話』(民俗学)、『海上の道』(民俗学)など
有島武郎 1878-1923
代表作:『カインの末裔』、『生れ出づる悩み』、『惜みなく愛は奪ふ』(評論)など
斎藤茂吉 1882-1953
代表作:『赤光』(歌集)、『あらたま』(歌集)など
子に北杜夫がいる。
志賀直哉 1883-1971
代表作:『網走まで』、『小僧の神様』、『城の崎にて』、『暗夜行路』など
武者小路実篤 1885-1976
代表作:『お目出たき人』、『友情』など
萩原朔太郎 1886-1942
代表作:『月に吠える』(詩集)、『青猫』(詩集)、『氷島』(詩集)など
谷崎潤一郎 1886-1965
代表作:『刺青』、『春琴抄』、『細雪』、『陰翳礼讃』(随筆)など
菊池寛 1888-1948 ただし読み方は「ひろし」
代表作:『忠直卿行状記』、『恩讐の彼方に』、『真珠夫人』、『父帰る』(脚本)
広津和郎 1891-1968
代表作:『神経病時代』、『風雨強かるべし』
父は広津柳浪。
芥川龍之介 1892-1927
代表作:『芋粥』、『鼻』、『戯作三昧』、『河童』、『或阿呆の一生』など
宮沢賢治 1896-1933
代表作:『銀河鉄道の夜』、『風の又三郎』、『春と修羅』(詩集)など
横光利一 1898-1947
代表作:『蝿』、『日輪』など
今東光 1898-1977 天台宗僧侶としての法名は「春聴」
代表作:『お吟さま』など
川端康成 1899-1972
代表作:『伊豆の踊子』、『雪国』など
梶井基次郎 1901-1932
代表作:『檸檬』、『桜の樹の下には』など
横溝正史 1902-1981
代表作:『鬼火』、『本陣殺人事件』、『獄門島』など
小林多喜二 1903-1933
代表作:『蟹工船』、『一九二八年三月十五日』、『党生活者』など
森茉莉 1903-1987
代表作:『恋人たちの森』、『父の帽子』(随筆)など
父は森鴎外。
幸田文 1904-1990
代表作:『ちぎれ雲』、『流れる』など
父は幸田露伴。
堀辰雄 1904-1953
代表作:『風立ちぬ』、『美しい村』など
原民喜 1905-1951
代表作:『夏の花』、『鎮魂歌』、『原民喜詩集』(詩集)など
中島敦 1909-1942
代表作:『山月記』、『文字禍』、『弟子』、『李陵』など
中原中也 1907-1937
代表作:『山羊の歌』(詩集)、『在りし日の歌』(詩集)など
織田作之助 1913-1947
代表作:『夫婦善哉』、『木の都』など
立原道造 1914-1939
代表作:『萱草に寄す』(詩集)、『暁と夕の詩』(詩集)など
こうしてみると、文豪と称される人は、小説家は勿論として歌人・詩人に評論家や民俗学者まで幅広いものです。あと、確かに前近代の文人風な雅号を用いる人は、大正期以降にデビューした人にはほとんど見ません。以後は本名やペンネームといった事例が主になるようです。一方、早い時代でも本名やペンネームの人はある程度存在します。親子で作家となっている例も散見されますが、親が雅号で子が本名とか、親が本名で子がペンネームといったケースもあって時代の変遷を思わせ興味深いですね。
※2019/10/26 今回、触れていない文豪について言及した「その二」はこちら。
【参考文献】
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
山本夏彦『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』文春新書
速川和男『小泉八雲の世界』笠間書院
『大辞林』三省堂
『大辞泉』小学館
『日本大百科全書』小学館
『日本人名大辞典』講談社
『世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社
関連記事:
明治期に雅号風の筆名な文豪が目立つのは、この時期の名残かと。
関連サイト:
「コミック アース・スター」(http://comic-earthstar.jp/)より
「こころ オブ・ザ・デッド~スーパー漱石大戦~」(http://comic-earthstar.jp/detail/kokoro/)
これも、漱石没後百年の企画らしいです。
by trushbasket
| 2016-09-25 22:12
| NF








