2017年 02月 25日
自分より弱いとみなした相手でも、その怒りは侮るな~『戦国策』は語る~
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人間、他人を自分と引き比べて優劣をひそかにつけてしまいがちです。特に相手が自分より立場が弱いとみるや、侮った態度をとることもしばしば。しかし、そのような態度は非常に危ういものと言わざるを得ません。そこで今回は、中国の史書『戦国策』を対象に、そういった話をしようかと思います。
中国は戦国時代末期。秦が天下統一へ本格的に乗り出していた時代のこと。かつて強国の一つであった魏は、既に秦の手によって滅亡に追い込まれていました。しかしながら、魏の属領であった安陵は、小国ながらも存続していたのです。そこで、秦王は安陵の君主に、「十倍の領地を与えるので、その代わりに安陵を明け渡せ」と、命じました。安陵の君主は、この申し出に困惑。そこで、唐且という家臣を使者として派遣し、これを拒む返事をしたのです。
さて秦王は怒りました。破格の申し出をしたにもかかわらず、無碍にされ誇りを傷つけられた、といったところでしょうか。そこで秦王は、
公亦嘗聞天子之怒乎(『中国の思想第2巻 戦国策』守屋洋訳 徳間書店 230-231頁)
<超意訳>
貴公は天子の怒りを知らぬのか。
天子之怒、伏屍百万、流血千里(同書 231頁)
<超意訳>
天子が怒れば、百万の死者が出て、大地は千里にわたって血に染まるのだぞ。
と恫喝します。
これに対し、唐且は恐れる色もなく
大王嘗聞布衣之怒乎(同書 同頁)
<超意訳>
大王は、一人の士の怒りを御存じか。
と言い返しました。秦王は程もなげに
布衣之怒、亦免冠徒跣、以頭搶地爾(同書 同頁)
<超意訳>
士が一人怒ったからとて、冠を脱ぎ裸足になり、頭を地面にすりつけて詫びれば済む話だ。
と侮った答えを返します。そこで唐且は怒髪天を衝き、
若士必怒、伏屍二人、流血五歩、天下縞素(同書 同頁)
<超意訳>
もし士が怒れば、二人の死者が出て、五歩の距離にわたって地面は血に染まり、天下一同が白い喪服を着ることになる。すなわち、士は五歩の内に王を殺し己も命を捨てるということだ。
と答えたのです。秦王はその決死の覚悟に恐れをなし、詫びを入れたという事です。
たとえ相手が自分より立場が弱いとみなした時でも、相手の誇りや怒りを侮るべきではありません。そもそも、相手が自分より立場が弱い、という認識が正しい保証すらありません。それに、たとえ本当に相手が自分より弱い立場だったとしても、今回取り上げた話のように、相手に我が身を捨てさせるほどの怒りを抱かせたなら、思いもよらない結果を招きえます。
というわけで。人は、いかなる相手でも尊重し、辱めないよう、心しながら接しなければなりますまい。更に、知らず知らずのうちに相手を怒らせている事もありうる、という可能性にも意を致した方がよいのでしょう。今回引用した秦王にしても、当人としては好意で申し出たつもりだったでしょうしね。
【参考文献】
『中国の思想第2巻 戦国策』守屋洋訳 徳間書店
『中国の思想第2巻 戦国策』守屋洋訳 徳間書店
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「Books&Apps」(http://blog.tinect.jp/)より
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「Books&Apps」(http://blog.tinect.jp/)より
「これから新社会人になる「エリート意識を欠いたエリートたち」への餞別の言葉」(http://blog.tinect.jp/?p=36502)
無自覚のうちに周囲の人々を侮り見下してはいませんか、という戒めとして通じる物があるかも。
※2017/2/26 文章を一部校正。
by trushbasket
| 2017-02-25 11:37
| NF








